三重県図書館情報ネットワーク「MILAI」(三重県立図書館)

三重県図書館情報ネットワーク「MILAI」の成り立ちと今後の展望
三重県立図書館

1.三重県の地勢等 -細長い県土-

 三重県は、日本列島のほぼ中央、太平洋側に位置し、東西約80キロメートル、南北約170キロメートルの南北に細長い県土を持っており、総面積は全国25位にあたる5,777キロ平方メートルとなっている。細長い地勢のうえに、リアス式海岸の志摩半島もあれば、国内最大級の降雨量を誇る大台山系もあり、山海の食材に恵まれていることから、古来より「美し(うまし)国」と呼ばれ、京の都や、伊勢神宮などへの献上品が珍重されてきた。
 2004年10月1日現在の総人口は約187万人で、県全体としてはここ数年大きな増減は見られない。しかし、北中部には新しい工場やショッピングセンターの誘致が順調に進んでいることに対し、もともと農林水産業中心に産業構造が構築されていた南部地域、中山間地域においては急速に過疎化が進んでおり、今後も様々な点において南北間の格差の拡大が懸念される。交通アクセスについても、北中部は、名古屋まで1時間程度という利便性をもっているが、最南端にあたる紀南地区は東京からの時間距離が全国でも最も長いところであり、過疎化の一因ともなっている。なお、県内の市町村数は平成の大合併が落ち着く2006年3月時点で、従前の69市町村から29市町へと大幅に減少することとなる。

2.三重県の図書館状況 -三重県図書館情報ネットワーク「MILAI」の導入の動機-

 市町村数が半数以下になることから、見かけの上では図書館未設置自治体は減少する。しかし、現実には各地域の住民からの視点から見ると、身近なところに公共図書館がない地域はまだまだ多い。県立図書館の設置状況は、県中央部に位置する津市(津市も2006年1月に周辺9市町村と合併し、“新”津市となった。)に分館を持たず本館1館だけである。県立図書館の基本方針として『すべての図書館をすべての利用者に』ということ掲げ、図書館経営を進めてきたが、図書館未設置地域も多いうえ、県土が南北に細長く、交通の便も悪いため、従来の巡回車など人力に頼る手法では、基本方針を十分に達成することができなかった。そこで、人的、金銭的投資を重ねることで物理的に各地域をバックアップすることは困難なものと見切りをつけ、ネットワークシステムをフルに活用して、『すべての図書館をすべての利用者へ』という目標を達成すべく三重県図書館情報ネットワーク(以下、「MILAI」と表記)の構想が立ち上がったのである。

3.「MILAI」の黎明期 -横の連携形成期-

 「MILAI」は、今日ほどインターネットの普及が、各家庭や職場で進んでいなかった1999年3月に本格稼働を始めたものである。「MILAI」の文字は、MIe Library Advanced Information network systemをやや強引に「未来」とかけた略称名である。
 以下「MILAI」の概略について説明する。今日の視点で見ると、ほとんどの都道府県で既に類似のネットワークシステムが導入済みであるため、今さら新鮮さを感じてもらえないものと思われるが、一般的な最新OSがWindows95で、各家庭でのインターネット環境を通常のダイアルアップからISDNに移行しようかと悩んでいた時代背景を思い出してもらうと、「MILAI」開発の予算が認められた1996年度においては、まさしく先駆的(Advanced)取り組みであったことが理解してもらえるものと考える。
 「MILAI」の開発は、『すべての図書館をすべての利用者に』という県立図書館の基本コンセプトに基づいて進められており、県立図書館のサーバー上にTRCの全件MARCを用意し、県立図書館を含む県内各図書館から送られる所蔵データとを結合させることで、一般利用者が、家庭や職場のインターネット端末から、県内の所蔵データ提供館の所蔵情報をまとめて検索できるように設計された。1996年度当時から、三重県では大半の図書館がTRC MARCを採用していたため、送られてくる所蔵データは比較的容易に機械的な同定が行えた。
 所蔵データ提供館同士は、他館の蔵書検索のみならず、相互貸借の依頼の送信、応諾の返信も「MILAI」の上で行うことができる。また、相互貸借の依頼は複数館に同時に行うことができ、その依頼がどこかの館でとどまっていても、一定の時間が経過すると次の館へ自動的に依頼が流れていく仕組みも、その当時としては先進的に取り入れた。
 また、データ提供館以外でも、「MILAI」に加盟してもらった各図書館については、依頼先が県立図書館に限定されるものの、相互貸借の依頼が「MILAI」を利用して行えるようになった。そういう意味ではそれまで電話やFAXというツールで、人力頼りであった相互貸借の作業を、システム上でスムーズに行うことができるものに変え、図書館職員の省力化、相互貸借の活性化を促したといえる。また、ネットワーク加盟図書館から、県立図書館へのレファレンス依頼を「MILAI」上で行えることもできるフォームも装備されていたため、e-mailが今日ほど普及する前の情報伝達環境としては、図書館職員の利便性向上に相当寄与したものと考えられる。さらに「MILAI」の利便性が認知されるに従い、所蔵データ提供館、ネットワーク加盟図書館が次々と増加していき、所蔵データ提供館の所蔵数の増加も相まって、インターネット上の総合目録の中身が年を追うごとに充実していったのである。

4.「MILAI」の進化 -一般利用者へのサービス展開-

 「MILAI」が本格稼働を始めてから約3年経過した2002年12月現在には、所蔵データ提供館が県立図書館を含め39館(含む三重大学附属図書館)、ネットワーク加盟館が51館(大学、短大、高専含む)にまで増加し、検索可能な書誌タイトル数は約250万タイトル、所蔵冊数は約350万冊という規模に膨らんでいった。

MILAI加盟館の推移棒グラフ   書誌タイトル数、所蔵冊数の推移折線グラフ
図1 図2

 これ以降も上記グラフのとおり、「MILAI」の規模は年々大きくなり、中身も充実していくのだが、この時点では、一般利用者は「MILAI」を使って、あくまでも所蔵データ提供館の所蔵情報を検索することしかできなかった。そこで、2002年12月から県立図書館の利用者限定ではあるが、インターネット上から、蔵書検索した本を予約できるサービスを開始した。このサービスも今では多くの図書館で実施されているので、新鮮さは感じられないかも知れないが、サービスリリース当時は全国1、2位の早さで導入したものである。
 一般利用者が活用できるサービスは2種類ある。一つがオンライン予約配送サービス(通称名:e-Booking)で、自宅や職場のネット上から県立図書館の本を予約し受取場所を指定すると、最寄りの図書館や公民館、町村教育委員会などの、自分の生活圏内の施設で、資料が借受・返却できるものである。生活圏内の施設で借受・返却できる資料は、県立図書館所蔵のものに限定されているが、当時の県内69市町村のうち、大部分が受け取り場所として図書館、公民館等の施設を提供してくれたため、県立図書館の実利用者の範囲を全県的に拡げることができた。オンライン予約配送サービスを始めるにあたり、県立図書館の利用券の発行を郵送でも受け付けることも始めたため、県立図書館まで車で3時間もかかる地域に居住している利用者も、県立図書館に一度も足を運ぶことなくネット上の操作だけで簡便に県立図書館の資料を活用できるようになったのである。
 もう一つのサービスが、オンラインリクエストサービスである。このサービスは、相互貸借の依頼機能を一般利用者向けに拡張したものである。このサービスを提供する図書館(サービスリリース時には県立図書館のみ)を受取場所に指定すれば、「MILAI」へ所蔵データを提供している全ての図書館の資料が、ネット上で予約可能となり、県立図書館に足を運ぶことを厭わない利用者にとっては、まさに“すべての図書館を、あなたに”が実現したことになる。なお、このサービスは、「MILAI」へ所蔵データを提供している全ての図書館においても、初期費用なしで導入できる仕様となっている。以上2つの個人利用者向けサービスをリリースした結果、県立図書館はインターネット端末を利用できる県民にとっては借受・返却のツーストップのみで、直接来館利用者に対しては350万冊超の資料を提供でき、遠隔地に居住する利用者に対しても県立図書館が持つ70万冊超の資料を提供することができるという、バーチャルな大型図書館に変貌を遂げた。

5.個人利用者向けサービスの課題 -県内図書館との共生-

 前述のオンライン予約配送サービス(以下e-Bookingと表記。)には、図書館のない地域の住民にとっては身近な施設で70万冊強の蔵書を持つ県立図書館の資料が借受・返却できるという利点、身近に図書館がある住民にとっても市町村立図書館では所蔵し得ない専門性の高い図書等を、自らインターネットで最寄りの図書館に取り寄せることができる利点があり、2004年度には年間1万冊を超える利用実績があった。
 これは、フレックスタイム勤務の導入、深夜産業の振興等で余暇時間が夜間に限定される場合のように、個々人の生活スタイルが多様化し利用者が図書館開館時間に直接図書館を訪れて利用しづらいケースが増えたことに加えて、インターネットというツールが一般化しだしたこととあいまって、図書館の利用手段の選択肢が増え、結果的に新たな図書館利用者層の掘り起こしにつながったものとして一定の評価をするべきものであると考えられる。
 しかし、e-Bookingの統計上の貸出実績は、あくまでも県立図書館のものであり、e-Bookingの受取場所となっている市町村立図書館にとっては、単に受け渡し、返却事務が増えただけである。間接的には新たな利用者が増加したことも考えられるが、直接的に自館の蔵書が、地域住民に活用されることにつながったとまでは言い切れない。また、e-Bookingの所期の目的であった、図書館未設置地域の利用者の利便性を高めるということも必ずしも成功したとはいえない。
 このことはe-Bookingの周知不足が最大の一因であるが、本来のターゲット層であった図書館未設置地域の利用実績は、当初の想定ほどは伸びずにe-Bookingという制度を知りえた一部のヘビーユーザーが、生活圏内に図書館があるにもかかわらずその利便性ゆえにe-Bookingを多用し、地域の図書館を窓口に使っての相互貸借制度をあまり活用しなくなってしまったという、皮肉な結果につながったことを認めざるを得ない。
 オンラインリクエストサービスについても、物理的・時間的にサービス提供図書館に来ることができる利用者にとっては、非常に利便性の高いサービスではあるが、「MILAI」を活用して、このサービスを行っている図書館は、前述のとおり初期費用がかからないにもかかわらず、2004年度末現在県内では県立図書館を除けば、桑名市ふるさと多度文学館(県北部に所在)のみである。このように県内全ての住民に均質なサービスを提供できていないのが現状である。本来的には、県立図書館と市町村立図書館は共生・共存し、相互貸借を盛んに行い、有機的に結びつくことで、相互補完し初めて『すべての図書館をすべての利用者に』ということを実現できるのである。ところが、生活圏内に図書館があるにもかかわらず、専らe-Bookingの借受・返却場所として市町村図書館を利用する利用者などについては、市町村立図書館を単なる本の受け渡し場所として扱っていると言えなくもなく、県立図書館の利用促進のために市町村立図書館の多大な協力を受けている我々の立場としては、誠に申し訳ない気持ちになってしまう。
 そういう観点で見ると、e-Bookingは、生活圏内に図書館がない利用者にとっては、なくてはならない存在であるが、市町村図書館にとっては歯がゆさを感じながら手続きをとらねばならない“鬼っ子”的な存在であることは否めない。現在もなお、e-Bookingの受け渡し場所を設置していない市町に対し、受け渡し場所設置の要望をしている県立図書館としては矛盾した考えになってしまうが、そろそろe-Bookingのあり方についても、見直しを始める必要が出てきたとも考えられる。

6.韓国からのヒント -韓国図書館調査から見えてきたこと-

 2004年度秋県立図書館として韓国を訪問し、図書館を調査することができた。訪問先の中心はソウル特別市を囲む形で所在する京畿道(キョンギドウ)で、面積は約1万平方キロメートル(三重県の1.75倍)、人口約1,000万人(同5.34倍)で、首都であるソウル特別市は含まれていない。自治体の規模は日本の都道府県2~3県分に相当するものであった。京畿道の道庁所在地である水原(スオン)市に、道の中央図書館にあたる「京畿道サイバー図書館」が設置されているのだが、ここは蔵書を全く持たない図書館システムのサーバー管理だけを行う異色の図書館で水原市図書館内に設置されている。
 京畿道サイバー図書館は、蔵書を持たない代わりに道内の公立図書館の資料購入費のうち1/2を負担することでイニシアティブを保ち、専ら道内の公立図書館のネットワークを管理し、ネットワークを活用した相互貸借の促進に努めている。インターネット先進国である韓国において前述のオンラインリクエストサービスは当然のものとされている。訪問時70館あった京畿道内公共図書館のうち67館が、京畿道サイバー図書館の提供するネットワークでつながっており、それらの館全てでオンラインリクエストサービスの利用が可能となっていた。
 つまり、京畿道の住民でインターネット端末が使える状態にある者は、道内いずれかの図書館の利用券1枚を持つことで、道内ほとんど全ての図書館の蔵書に対し、インターネット上から予約をかけることができ、最寄りの図書館において借受・返却のツーストップのみで資料の活用ができるのである。
 京畿道サイバー図書館は、資料購入費により道内図書館に対して相当のイニシアティブを持っているため、各図書館に重点的に所蔵してほしい図書等の方向付けを行い、各図書館の役割分担を明確化したり、自館所蔵資料には相互貸借依頼をかけないというルールを徹底させたりしていた。その他、韓国では様々な先進的事例についての情報を得たが、それらの報告は別の機会に送ることとする。

7.これからの「MILAI」 -『すべての図書館をすべての利用者に』の実現に向けて-

 2005年度、三重県は都道府県別資料購入費が最下位となり、このことについて県立図書館利用者や県内公共図書館から強い風当たりもあった。館長始め職員一同、予算額の増額に向けて新しい取り組みを模索中であるが、県財政の厳しさを考えると急激な予算増加は見込めない。現有の人、モノ、金の行政資産を活用して、いかに、利用者の満足度を高めるかがわれわれ県立図書館職員の努めであると考える。
 そう考えたとき、われわれが他府県に劣らず維持している「MILAI」を活用しない手はない。「MILAI」には、先に述べたように県立図書館利用者用のオンラインリクエストサービス機能をシステムに搭載している。現在では全ての県内公共図書館についても、市町(平成の合併後は村はなくなる)の初期費用負担なしでこのシステムが使えるような仕様になっている。県内インターネット基盤の整備は、ケーブルテレビ網の発達に従い、着実に高まってきている。サービスの受け手である利用者のインターネット環境は加速度的に向上しているのである。「MILAI」の進化により、図書館同士の相互貸借が簡便なものとなり、サービス元である県内各図書館のハード環境も整備が進んだ。後はできるだけ多くの図書館でオンラインリクエストサービスを提供してもらうように働きかけ、少しずつサービス展開の範囲を拡大していくだけである。
 一般利用者が、自宅や職場からインターネットを使って「MILAI」を活用して気軽に蔵書検索し、全ての図書館の資料を予約し、生活圏内の図書館に取り寄せて借受・返却をする。そんなに遠くない“未来”に、『すべての図書館をすべての利用者に』という目標が実現できることを強く切望して、「MILAI」にかかる事例報告を締めくくることとしたい。



 

-- 登録:平成21年以前 --