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課題実施の意義と背景
ここでは、学校教育における教職員、児童生徒及び保護者を利用者として取り上げ、学校教育における学習活動、読書活動や家庭での子育てに対する、適切な情報提供を想定している。
学校教育においては、児童生徒の学習活動と教職員による教材作成活動に大別できる。いずれの場合も、学習テーマ、読書活動の内容等は多岐にわたっているほか、同一テーマであっても、学習者の幅広い好奇心に対応した資料、情報提供が求められている。この点豊富な情報資産を保有する公共図書館の果たす役割は大きいと言える。例えば、教科学習や総合的な学習の時間において、地域の特産物である「りんご」について取り上げた場合、以下のような多岐にわたる個別学習テーマが想定される。
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食材としての「りんご」
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栄養価、加工食品、調理法、及び医者要らずとされる理由 |
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植物、商品作物としての「りんご」
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原産地、生産量・生産地域、栽培・生産方法、流通・販売ルート |
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日本におけるりんご栽培・生産の歴史やその背景 |
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外国産りんごとの比較(品種、色、形等) |
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歌謡曲や詩歌に歌われる「りんご」
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その他
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子育てに対する支援は、主として、乳幼児を抱えた親が対象となる。近年の都市化、核家族化及び少子化等家庭を取り巻く社会環境が変化するにつれ、子育ての状況、在り方等も変わってきており、育児経験の不足から生じる育児不安等に対応するため、公共図書館は子育てに必要な資料・情報の提供や、外部のボランティア団体と協力した相談会の開催といった役割が求められることが想定される。
以上のように、学校教育への支援や子育て支援については、公共図書館の特長を生かし、学校や家庭における教育力の向上に貢献できるテーマであると言える。
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詳細課題一覧
学校教育の支援や子育て支援については、例えば以下のような事項が挙げられる。
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児童生徒の学習活動支援
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教科学習や総合学習における学習テーマに応じた資料・情報の提供
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発達段階や各学習テーマに対応した図書及び地域資料・地域情報の提供 |
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視覚的訴求効果のある資料として、新聞や雑誌の記事に付随している掲載写真や附属図表、図版集・写真集等の提供 |
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他の社会教育施設(博物館、青少年教育施設、女性教育施設等)等が所蔵、保有する資料・作品の画像情報の提供 |
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過去の学習成果に関する目録情報の提供 |
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他の社会教育施設(博物館、青少年教育施設、女性教育施設等)等や外部専門機関(NPO法人、ボランティア団体等)と連携した講演会、相談会の実施 |
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他の社会教育施設(博物館、青少年教育施設、女性教育施設等)や公文書館等や外部専門機関(NPO法人、ボランティア団体等)と連携した体験学習の機会等の提供 |
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グループ・団体が活動するための環境の提供
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学習コーナー、作業コーナーの提供 |
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パソコンやプリンタ等の館内貸出 |
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教員向け教材作成支援
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教科学習や総合学習における学習テーマ別の所蔵資料目録の提供 |
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過去の教科学習や総合学習の実施記録や学習成果に関する情報の提供 |
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教材作成のためのレファレンス・サービス(過去の学習成果や他地域における取組状況に関する情報を提供) |
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子育て支援
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保護者に対する、発達段階に応じた育児に必要な資料・情報の提供 |
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子どもの発達段階に合わせた選書や読み聞かせの実施 |
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読み聞かせやブックスタートにおいて、公共図書館のみならず児童館等の施設との協力 |
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ボランティア活動団体への支援・協力 |
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主要詳細課題に関する具体的利用イメージ-教員教材作成支援
利用イメージの枠組(設定条件)
利用者: |
地域学習の一環として「祭」をテーマとした課題設定・追究を児童に取り組ませるにあたって、教材作成準備にとりかかっている小学校教員。 |
問い合わせ内容: |
京都に伝わる伝統的な祭(葵祭、祇園祭、時代祭等)の背景・歴史等について、学習教材として適切な資料や情報源を教えて欲しい。 |
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利用イメージの業務フロー
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利用者からの問い合わせ
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必要な資料や情報を収集するために、公共図書館のOPACを検索。 |
(イ) |
早急に広範囲な情報を把握したいため、電子メールにて司書に問い合わせ。 |
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問い合わせ内容の整理
(ア) |
電子メールを受信した司書は、電子メールの内容から、小学生でも理解しやすい内容の資料・情報を基にした情報提供が必要だと認識。 |
(イ) |
小学生の旺盛な好奇心を想定し、あらゆる分野にわたって幅広く資料・情報提供が必要であると判明。 |
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司書が司書用パソコン端末を用いて、過去のレファレンス事例を調査
(ア) |
レファレンス事例データベース内を検索したところ、有用なウェブサイトを紹介している近似事例があり、利用者にウェブサイトリストと各サイトの構成、特徴を電子メールで案内。これにより、教員は今回の教材作成において、教科書等の教材や自らの知識に加えて、どのような資料・情報を盛り込むべきか、概要を把握することが可能となる。 |
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所蔵資料データベースを基に個別の情報収集、また、行政窓口や外部の専門機関を紹介
(ア) |
レファレンス事例では、適切な所蔵資料を検索できなかったので、改めて、図書、定期刊行物、視聴覚資料、及び地域資料を対象に「葵祭、祇園祭、時代祭」等に関する所蔵資料を一括で検索。検索抽出された京都における祭事全般に関する資料や館内にあるパンフレット等の目録情報を電子メールにて紹介。これにより、教員は最新のトピックスや郷土ならではの情報を利用し、オリジナリティのある教材作成に取り掛かることが可能となる。 |
(イ) |
次に、調べ学習における地域内フィールド調査の重要性を踏まえ、「葵祭、祇園祭、時代祭」等に従事・関与している地域の専門家や調べ学習の相談機関を紹介。これにより、利用者である教員は、祭事を実際に運営している地域の専門家や調べ学習活動における経験やノウハウを有する相談機関の職員に対して、インタビューや電子メールによる問い合わせを行うことができる。 |
(ウ) |
更に、小学生の学習意欲向上を図るために、文化継承者による実演が望ましいと考え、外部専門機関・関係機関に学校や公共図書館での実演を依頼。 |
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本取組課題における留意点
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学校における資料・情報検索の問い合わせ先は、一次的には学校図書館である。従って、地域の公共図書館と学校図書館の、資料・情報、人・組織、情報の連携・協力が必要である。連携・協力にあたっては、子どものことをもっとも良く知る教員と学校図書館が、まず有機的な連携を図り、その上で不足する部分を学校図書館が公共図書館に協力依頼することが望ましい。学校図書館同士の横の連携を密にすることも大切である。これらは教育委員会の施策として位置づけることが望まれる。 |
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公共図書館の基本機能は資料・情報の提供にあり、児童生徒の学習内容等について、解答や解法等を示すものではない。 |
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「調べ学習」においては、児童生徒が「必要な資料、適切な資料を探し出す」ことも期待されており、相談や問い合わせに対しては、資料・情報の検索方法についてアドバイスすることが必要と考えられる。 |
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教員に対する教材作成支援においては、当該学校における学習環境や学習指導計画を事前に把握しておくことが望ましい。すなわち、行政機関における学校教育施策、指導指針、各学校が利用している教科書や副教材等に関する情報を把握した上で、各学校教育の現場で教員がどのような授業を行っているのか、具体的イメージを認識しておく必要がある。 |
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より円滑に学習活動を支援する観点から、公共図書館の司書と教員、司書教諭、学校司書等との間で定期的に情報交換を行うなどの連携・協力体制の整備が求められる。 |
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公共図書館の役割と効果
公共図書館が地域の教育力向上のために上記の形で学校教育のための支援を行うことによって、教職員は学習計画を円滑にたて、進めることが可能となり、それによって児童生徒は早期から資料・情報検索能力を獲得し、高度情報社会において情報格差による不利な立場に陥りにくくなると言える。更に、自発的学習活動を通じて自立心のある人的資産の基礎が形成され、市民社会形成に主体的に参画していく態度が育成される。
同様に、公共図書館が子育て支援を果たしていくことは、親と子の絆を強め、結果として、地域コミュニティ全体が安定していくことに貢献すると言える。 |