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課題実施の意義と背景
本報告で想定している「ビジネス支援」は、公共図書館として支援可能な地域の経済社会の活性化につながるあらゆる取組を想定している。したがって、本課題において想定される主要な利用者は、ビジネス活動や研究活動に従事する会社や団体に所属している勤労者だけではなく、むしろ、地域コミュニティを支える商工会や町内会を始め、地域において起業・創業を狙う学生や主婦から、事業展開・事業再構築に悩む中小企業経営者や個人商店の事業主までと幅広い層を対象とするものである。
特に、個人や、中小企業等は、ビジネス活動に必要な情報にアクセスする機会において弱者の立場にある。また、ビジネス活動において必要な情報は、事業計画やマネジメントの在り方、販売先や調達先等の取引先との連携、組織管理や人材育成等多種多様な情報を必要とする。そこで、公共図書館がハブとなり、地域における各種専門機関や行政機関、他地域の公共図書館等とをネットワークにより結ぶことによって、地域の公共図書館が、これらの利用者・利用機関に十分なビジネス機会を設けることが期待されている。
なお、公共図書館におけるビジネス支援サービスは、すでに幾つかの公共図書館において先進的な取組が始められている。但し、このような個々の事例は、それぞれの公共図書館が培ってきた独自の知識、ノウハウを活かしてビジネス関連の蔵書を集めたビジネス支援コーナーを設置する等のスタンドアローンの取組である。前述の品川区立大崎図書館のような本庁やNPO団体と連携しながら取り組む例は少なく、更にICTやネットワークを活用して、地域の情報資産を幅広く活用できるようにする取組は、今後の課題となっている。
以下では、ビジネス支援において想定される詳細課題を挙げるとともに、地域の利用者が、ビジネス支援において、課題解決型の図書館を利用する際の具体的イメージを説明する。
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詳細課題一覧
ビジネス支援として、取組可能な詳細課題は以下のとおり。
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起業・創業支援
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起業・創業支援に関連する法律、会計、税務、特許等の制度を解説した資料の提供 |
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起業・創業に関連する補助金・助成金の手続や関連行政窓口の案内及び申し込み手続資料の提供 |
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中小企業向けマネジメント支援
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国や地方公共団体等の補助金助成制度の内容・手続や関連行政窓口の案内 |
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新たな事業を展開するための法律、会計、税務、特許等に関連する資料の提供 |
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ビジネス情報提供
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広告宣伝、顧客管理、品質管理、経営計画等についての情報提供 |
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サービス業、製造業の業種別に分類された業界特性・景気動向や市場シェア・市場構造等を記載しているビジネス情報の提供 |
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ビジネス活動に関係する商用データベースの提供、紹介 |
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地域のビジネス資源及び地域の経済・市場情勢等に関する情報の提供
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地域における特産品、人材、販売チャネルの確保に関する情報の提供 |
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地域における市場調査結果、消費統計、事業者数等の情報提供 |
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行政や商工会議所等の主催するセミナー、相談会等の開催案内 |
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主要詳細課題に関する具体的利用イメージ-起業・創業支援
利用イメージの枠組(設定条件)
利用者: |
地場特産物(農産物)を活かして地域おこしの目玉とすることに取り組む地元の青年会議所、農協等からなりプロジェクトチームのメンバー。 |
問い合わせ内容: |
具体的なビジネスとして何をするか手がかりが欲しい。また、ビジネスに活用できる地元の資源について、資料や情報源を知りたい。 |
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利用イメージの業務フロー
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利用者からの問い合わせ
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必要な資料や情報を収集するために、近くにある公共図書館に来館し司書に相談。 |
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問い合わせ内容の整理
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司書は、利用者との会話の中から、特産物を活かしたレストランを始め、地域の観光資源としたいというアイディアはあるようだが、プロジェクトチームで提案するために、他の可能性も含め、浅く幅広い情報を必要としていると判断。 |
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公共図書館の情報資産による情報収集
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司書は、資料横断検索システムや外部データベースを用いて、関連する資料や記事を検索した。その結果、日経流通新聞と日本農業新聞における地域の農産物を活用したまちづくり、むらづくりに関する特集記事があることが判明したので、所蔵している新聞の該当部分をコピーして、情報の紹介を行った。これらの特集記事によると、さまざまな農産物が活用され、地域振興としてのアピール方法はさまざまであることがわかり、地場特産品(農産物)を地域おこしの目玉とするメンバーのアイディアが、有効なことがわかった。 |
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過去のレファレンス事例を調査
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レファレンス事例データベースを調べると、特産物を活用した地域おこしの相談事例があった。事例は、直売所の設置やフランスの原産地呼称統制法にならった地域特産物のブランド化の取組を行う等であった。これらの事例を踏まえ、メンバーはレストランの設置に検討の重点を置くこととした。 |
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レファレンス事例と有用情報源を基に個別の情報収集、また、外部専門家・専門機関を紹介
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レストランの起業・創業に関わる資料・情報をさまざまな角度から紹介。例えば、公共図書館内のインターネット端末から行政担当部署の連絡先ホームページに接続すると、産業振興担当部署が中小企業支援センターと連携して提供する融資制度等の支援策の手続資料をダウンロードできる。これにより、利用者は、人材確保、資金計画の組み方、宣伝方法等、レストランの立ち上げまでに欠かせない制度上の情報を獲得できる。 |
(イ) |
レストランの設置場所の候補となる地元周辺の観光地についての情報を紹介。町の観光課が作った調査資料により、どこの観光地に、どこからどういうタイプの観光客が訪れるのかについての情報等が得られる。これによる情報を基に、利用者は、レストランの設置場所等について具体的なビジネスプランを策定した。 |
(ウ) |
公共図書館併設の生涯学習センターが運営する生涯学習情報提供システムの指導者情報から、町内の施設で行われている料理教室の講師である郷土料理研究家を紹介。これにより、レストランで出す料理のレシピの参考となる情報が得られた。 |
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本取組課題における留意点
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本課題における公共図書館の機能は、あくまでも、起業・創業活動に必要な利用者の判断を支援するための資料・情報の提供であり、事業者の判断の先取りや、利用者の判断を誘導するような情報提供は行わない。 |
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本課題における利用者側が期待する問い合わせへの回答内容は、販売先の選択、マーケティングのコツ等ビジネスの上で目に付きやすい部分となることが多いと想定される。しかし、実際のビジネス遂行においては、会社内部の組織管理の在り方、税務・法務等の知識も必要となる。このような利用者側が気付きにくいものも含め網羅的に情報を提供する。 |
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利用者側の多種多様な問い合わせニーズに対応できるように、類縁機関、外部専門機関や地域の専門家とのネットワークの形成に普段から心掛けておくことは有効な情報提供手段となりうる。 |
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ビジネスは、当該自治体で完結することは少なく、むしろ、複数の自治体をまたがる場合が多いので、広域、県域、あるいは産業集積地域の情報も提供できる仕組を用意しておく必要がある。 |
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公共図書館の役割と効果
公共図書館が、個人の起業による個人の自立支援だけでなく、地域コミュニティに対してビジネス支援サービスを推進することは、まちづくり、むらづくりという地域の活性化に貢献する。また、分野を問わず幅広い資料・情報を取り揃え、体系的に提示することによって、来館者の知的好奇心が刺激され、アイディアが喚起されるとともに、同じような志を持つもの同士の連携のきっかけとなって、より大きな展開へとつながることも想定される。
公共図書館は年齢・性別、目的等を問わず多種多様な住民の来館を受け入れるとともに、このように幅広い分野の情報をネットワーク化し、提供することによって、地域ビジネスの芽をはぐくむこととなる。これにより、公共図書館が、地域における自立した個人の育成や、地域経済の発展に貢献することが期待される。 |