行政と短大が連携し家庭教育を支援する人材の育成(長野県上田市)

行政と短大が連携し家庭教育を支援する人材の育成

1  自治体・団体名: 長野県上田市,上田市教育委員会

2  自治体の概要
 上田市は,平成18年3月6日に上田市,丸子町,真田町,武石村が新設合併して誕生した,人口16万4千人を擁する面積552平方キロメートルの長野県東部に位置する中核的都市です。
 「日本のまん中 人がまん中 生活快適都市 -水跳ね 緑かがやき 空 こころ 晴れわたるまち-」をキャッチフレーズに,「知恵集め,技術磨き,未来ひらく」,「支え合い,健やかに,女男いきいき」,「学び,育ち,人かがやく」などをテーマとしたまちづくりを目指しています。

上田城跡本丸東虎口櫓門

3  地域の特徴
 上田地域の歴史は古く,大和時代には国造(くにのみやつこイコール知事)がこの地に派遣され,奈良時代には国分寺,国分尼寺が建立されました。また,戦国時代(1583年)に上田城を築いた真田昌幸は,徳川軍の侵攻を二度にわたって退け,さらに,大阪冬・夏の陣での真田幸村らの活躍は,優れた智将として全国にその名を轟かせ,上田城は日本の歴史の要所として名を馳せております。
 一方,上田市の気候は年間を通して気温の較差が大きい典型的な内陸性気候で,年間降水量も900ミリメートル前後と少なく,全国でも有数の少雨乾燥地帯です。こうした気象条件を活かして,農業では水稲,果樹,花き,準高原野菜の栽培などが盛んで,また,工業では蚕都として栄え培われた技術的基盤や進取の精神は機械金属工業に受継がれ,現在では輸送関連機器や精密電気機器などを中心とする製造業が地域経済を牽引しています。

4  連携の取組状況
1 連携に至るまでの背景と経緯
 平成16年4月,『上田市の風土で育まれ,明日を担う心豊かな人づくり』を教育理念として,子どもの視点に立ち,就学前の幼児期から義務教育期までの人づくりの一元化を目指して,学校教育課を母体とした『子ども教育課』に組織を改正しました。
 子ども教育課には学校教育担当係に加え,就学前の子どもと保護者を対象とし,家庭教育力の向上と幼保小中の連携を主な業務とする幼児教育係と,放課後児童対策を担当する子育ち支援係が新設されました。
 家庭教育の必要性重要性については,近年における都市化,核家族化,少子化などの進展に伴い,家庭の教育力の低下として懸念されている現状を受け,子育てや躾に関する悩み,不安や孤独感を抱く保護者に対してきめ細かなアドバイスができたり,悩みごとの聞き役となれる支援者(伴走者)を養成していく事業として「子育てサポーター養成事業」を計画しました。
 また,支援者の養成事業にとどまらず,受講後の支援活動ができる場を提供し,実効性のある事業としていくことが本事業の目標です。
 さて本題である「子育てを支援できる人材の育成」については,現代の子育てにおける問題点や現状などを踏まえ,子育て支援に必要な基礎的な知識や技能を習得できる講座企画が必要です。
 この段階では養成講座の内容,回数,講師,会場などは白紙の状態であり,行政内だけで全講座の企画運営は困難なことから,幼児教育の分野において豊富な実績と専門の学科を設置している,市内の学校法人北野学園・上田女子短期大学(以下「短大」という。)に講座開設への協力を依頼しました。
  上田女子短期大学の沿革
1967  本州女子短期大学幼児教育科(現幼児教育学科)認可開学
1973  学校法人上田女子短期大学設置認可
1978  上田女子短期大学附属幼稚園認可開園
1983  国文科(現総合文化学科)認可開設
1987  法人名を北野学園に変更
2003  創立30周年

2 連携した取組の具体的内容・方法・実施状況
内容・方法
 本事業は前述のとおり,子育て支援者の養成事業にとどまらず,受講後の支援活動を視野に入れた事業であることから,活動開始時期を平成16年10月と設定し,遅くとも9月には全ての講座が終了することを前提に短大へ依頼しました。
 平成16年4月,同短大において第1回目の打合せ会議を開催し,本事業の趣旨や内容について具体的に提案し,短大が平成16年度から予定している「子どもと育つプロジェクト(仮称)」構想と短大公開講座の関係づけや,地元の短大と行政がタイアップした講座のあり方などを考慮し,講座開設に前向きに検討していきたい旨の回答をいただき,また,講座内容の原案は市側で提案し,講師と会場は短大にお願いすることとしました。
 初年度の講座案として市側が提案し,短大と協議した講座回数とテーマは以下の5講座。
かっこ ]内はかっこ担当講師・会場]を記載。(短イコール短大,市イコール上田市)

  1  なぜ今,子育て支援が必要なのか  かっこ短・短]
2  子育て相談の現状と内容  かっこ短・短]
3  親子が楽しめる遊びの創り方  かっこ短・短]
4  親子とかかわっていくための聴きカウンセリング,及び上田市の子育て支援事業について  かっこ市・短]
5  実践「親子とかかわっていくために」(地域子育て支援センターまたは短大「どんぐり広場」での実践研修)  かっこ市・市]

 養成講座の日程案については,市広報による募集期間を6月に行い,講座期間を7月から8月とする日程としました。

養成講座の様子(上田女子短期大学)

開始年度
 平成16年度
対象
 子育て支援に関心があり,ボランティアとして子育てサポーター活動をしていただける方で,市が開催する養成講座を受講できる方。(市広報により募集)
実施状況
年度 募集期間 養成講座 応募数 短大公開講座
平成16年度 6月1日~6月30日 7月8日~8月27日 25人 7月8日~8月30日
平成17年度 5月1日~5月27日 6月2日~7月7日 23人 7月28日~9月1日
平成18年度 6月1日~6月30日 7月13日~8月10日 25人 8月24日~9月7日

3 連携した取組に至る過程での課題や工夫した点・対処法
 行政と連携した講座開設について,短大側の理解協力が得られるかが大きな課題であり,学内とりわけ幼児教育学科の先生方を中心に,1学校施設を一般に開放することの是非,2講座及び託児用の空き教室と駐車場の確保調整,3必要な予算の確保などについて検討をいただきました。結果として,1・短大が例年開催している夏季公開講座のテーマを,同年は「子どもと育ち」としていくこととする。2・託児スタッフには短大生も参加する(夏休み期間のみ)。3・地域に根ざした短大として子育て支援事業に積極的に貢献するなど,学内の理解をいただきお決めいただきました。
 講座の運営に際しては,託児を受け入れるか否かの議論もありました。“子育て中の母親の支援をする者は,当然子育て経験者でなければならず,託児は根本的に不要だ”,という先入観がありました。しかし,短大との協議を進めていく中で,今,子育てをしている人でも充分に支援者になれる。むしろ,同世代である親近感や意識の共有も図れるなどの利点もあることから託児有りの講座とし,さらに,サポーターは女性に限る理由もなく男性でも可能であり,募集要領には細かな条件はほとんど設定しませんでした。
 また,短大幼児教育学科専任講師金山美和子先生が,当該調査機関「行政と子育て支援団体等が連携した家庭教育支援の取組に関する調査研究委員会」委員であり,多方面にわたりご指導いただいたことも付記させていただきます。

4 連携した取組の成果
(1) 幼児教育を専門とする短大を主会場として直に講義が受けられることは,受講者の子育て支援への意識を高めるとともに,受講後の意欲的な活動につながっていること。
(2) 現代の子育て事情や母親たちを取り巻く環境,母親自身の抱えている課題などが学術的統計的に示され,現状分析を踏まえた具体的な子育て支援のあり方について受講できたこと。
(3) 養成講座2年目が終了した段階(平成17年秋)で短大から提案があり,講師陣と講座修了者による懇談会を企画。趣旨は,より良い講座としていくために,
  ア: 講義内容が実際の子育て支援に有効であったか
イ: 子育て広場の現状把握(情報共有)
ウ: 今後の講座への要望
などについて意見交換し次年度以降の講座にフィードバックしてゆくこと。
(4) 講座3年目の春,サポーターが活動する子育て広場において,短大の体験学習(「保育と子育て支援」授業)として学生を受け入れ,未就園児や保護者とのふれあいなどを通して幼児教育者育成に協力でき,双方にメリットがあったこと。
(5) 子育てサポーター養成講座のほかに,短大独自で毎年企画している公開講座に受講者も積極的に出席いただき,フォローアップ講座として利用できたこと。
などの成果を上げることができました。

【参考:短大公開講座テーマ】
  平成16年度   「子どもと育ち」(全5回うち3回は養成講座と共催)
平成17年度 「子どもと環境」(全4回)
平成18年度 「子どもの視点」(全3回)

実践講座(神科第二保育園地域子育て支援センター)

5 連携した取組の課題
 養成講座は,短大講師の依頼並びに施設利用と全面的なご理解ご協力をいただき実施が可能となっていますので,短大の授業や校務を優先した日程調整が必要となります。一方で,講座終了後の支援活動を視野に入れ,早い時期での講座開催にも配慮した計画づくりが理想となります。
 過去の開催状況では,1年目、3年目は7月~8月,2年目は6月~7月を中心に講座を設定してきましたが,今後も短大の公開講座の時期や夏季休業の日程も考慮した計画づくりが重要となります。
 講座内容(テーマ)については,行政の視点だけでなく短大の専門分野からの視点も含め幅広い角度から,常に最新の子育て事情に対応した内容としていくこと。また,子育て支援の必要性を地域に発信していくことを短大とともに研究し,次世代の保育や子育て支援を担う学生の育ちの場としても活用してゆくことなどを考えています。

5  今後の方向性や展望
 安心して子どもを産み育てることのでき社会の実現に向けて,本事業は地域社会全体で子どもを育てる環境づくりの一翼を担う事業と受け止めています。少子高齢化の進展,生活様式の多様化や社会構造の変化,またそれらに伴う人間関係の希薄化など,今後の子育てを取り巻く様々な要因に対して,子育てに対する理解者,支援者を育成していくことの意義は計り知れないものがあります。子育てサポーター養成とともに,サポーターリーダー養成,サポーターネットワークづくりにも取り組みながら,子育て広場事業の拡充も併せた施策の展開が必要となります。
 行政の持つ公共性と短大の持つ専門性が,相乗的に活かされた形での支援者育成を推進し,地元の短大としての地域貢献に対しては,子育てサポーターらが活動している子育て広場等の社会体験の場を短大生に提供しながら継続実施とし,また,市町村合併により市域も広がったことから,地域性を考慮したサポーター養成や,3年目にして初となる男性応募者に続く支援者への期待も込め,子育て支援は誰にでもできる活動であることを,地域に発信していくことも必要と受け止めています。

  サポーター連絡会議を2か月に一度の割合で開催し,活動日程調整や支援活動での課題等の情報交換を行っています。
今後も養成事業を継続し,平成21年度末にはサポーター人員100人を目標としています。

  【子育てサポーターの主な活動場所】
1  地域つどいの広場(定期開催)
1 大星児童センター
2 神科児童センター
3 東塩田児童センター
4 清明こども館
 
2  地域子育て支援センター
1 神科第二保育園内
2 塩田中央保育園内
3 南部保育園内
 

6  担当者連絡先
 上田市教育委員会
 〒386-0025 上田市天神 2-4-74
 電話  0268-23-5100

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