新しい共同の形「乳幼児子育て支援研究プロジェクト」(京都市)

新しい共同の形「乳幼児子育て支援研究プロジェクト」

1  自治体・団体名: 京都市,子育て支援総合センターこどもみらい館

2  自治体・団体の概要
 《自治体》
 京都市は,山紫水明の自然に恵まれ,また,平安京造営以来の1,200年を超える歴史と伝統が息づくまちである。
 面積は828平方キロメートル,人口147万人の政令指定都市であり,世帯数は66万世帯。戦後一貫して増加し続けているが,世帯当たりの平均人員は減少し続け,平成16年(2004年)では2.27人となっている。世帯数と同様に核家族化も進んでおり,夫婦のみの世帯が平成2年(1990年)から平成12年(2000年)の間に約3割余り増加しているが,6歳未満の子どもがいる核家族世帯は逆に約2割減少し,夫婦・子ども・親を含む3世代家族も3割余り減少している。
 また,合計特殊出生率は東京都に次いで低く(平成16年(2004年)で1.12),これは,京都市の都市特性として,大学・短期大学数が政令指定都市中第1位であり,人口の約1割を学生が占めていることも要因の一つと言われている。
 《団体》
 「乳幼児子育て支援研究プロジェクト」は,子育て支援の中核施設である「京都市子育て支援総合センターこどもみらい館」の開館5周年を機に,平成16年(2004年)に立ち上げた3つの研究プロジェクト(子育て当事者や支援者の協働による「子育て支援研究」,公立・私立,保育所・幼稚園の垣根を越えて保育者が集う「就学前教育研究」,公立・私立の保育所,幼稚園等の各団体の代表者からなる「地域と結ばれた事例研究」)の一つである。
 乳幼児子育て支援研究プロジェクトは,発足以降,市内の子育て支援にかかわる6団体が実行委員会を組織し,子育て支援のまちづくりについて何ができるか,親同士の助け合いや学びあいの関係づくりをどう進めるかを探り,協働の取組を進めている。
 <実行委員会構成メンバー>
 NPO法人 京都子どもセンター,NPO法人 山科醍醐こどものひろば,京都子育てネットワーク,京都市子育て支援総合センターこどもみらい館,京都市私立幼稚園PTA連合会OB会「はのんの会」,社会福祉法人京都市社会福祉協議会(50音順)

3  地域の特徴
 京都市では,明治5年(1872年)の学制発布に先がけて,明治2年(1869年)に市民自らが64もの番組小学校を創設するなどの住民自治・人づくりの伝統を持っており,また,地蔵盆や各地域のお祭り,伝統行事などで,子どもを大切にする文化を今に受け継いでいる。
 子育て支援の取組としては,教育,福祉,保健医療が三位一体となった他都市に類のない施設「子育て支援総合センターこどもみらい館」を平成11年に開設。相談,研究,研修,情報発信の取組が進められている。また,90を超える団体が参画し,子どもたちのために大人として何をすべきかを共に考える「人づくり21世紀委員会」の活動をはじめ,新「京(みやこ)・子どもいきいきプラン」の策定や進捗状況の把握に携わる「京都子どもネットワーク連絡会議」の取組,さらには,今年度新たに「子どもを共に育む京都市民憲章」を制定するなど,社会全体,まち全体で子育てを支援する土壌づくりが進んでいる。

4  連携の取組状況
1 連携に至るまでの経緯等
 平成16年(2004年)1月に,子育てに関わる団体・NPOの指導者研修事業「子育てでつながろうin Kyoto(こども未来財団,厚生労働省主催)」がこどもみらい館を会場に実施された。この事業は,NPO法人京都子どもセンターが実行委員会を組織して実施したもので,子育てをテーマとする京都の団体や行政がつながる貴重な機会となった。
 2日間の事業が終了した後,実行委員にはこのつながりを次の取組に生かしたいとの思いが深まり,5月には実行委員の一員でもあったこどもみらい館の事業として「親育ち・子育ちと子育て支援-今,なぜ親支援が必要なのか-」と題する市民参加のワークショップを行うに至った。
 こうしたつながりをベースに,こどもみらい館では,研究事業の一環として新たに子育て支援のあるべき姿を共に考え,発信することを呼びかけ,平成16年6月に「乳幼児子育て支援研究プロジェクト」が発足した。

2 連携した取組の具体的内容・方法・実施状況
【1年目の取組 市の次世代育成支援行動計画へパブリックコメントを】
 平成16年度(2004年度)は,京都市の次世代育成支援行動計画である新「京(みやこ)・子どもいきいきプラン」の策定が進められていたことから,計画策定に向けて子育て支援の現状と課題を探るワークショップや意見交換の場づくりに取り組んだ。
 研究プロジェクトの構成メンバーの何人かがプラン策定委員会の委員となっていたこともあり,ここで話し合われた内容が策定委員会に反映されるというメリットもあった。
 なお,研究プロジェクトでは,最終的に計画の中間まとめに対するパブリックコメントとして意見をまとめ提出した。
 この年,研究プロジェクトでは市民参加のワークショップを8回,実行委員会を10回開催した。(コーディネーターは津止正敏立命館大学教授)

開催日時 テーマ
6月26日(土曜日)
 13時30分~15時30分
「はじめの一歩」のあつまり
 (課題の整理と進め方について)
7月17日(土曜日)
 13時25分~15時45分
「子育て家庭の支援」
 -子育て家庭は何に困っているか
8月28日(土曜日)
 14時~16時10分
「地域の子育て支援ネットワーク」
 -役割分担と連携
9月18日(土曜日)
 10時~12時10分
「働き方の見直し等」
 -社会全体で行う子育て支援
10月9日(土曜日)
 10時~12時
「子育てを共に支えあう家庭・職場・地域社会づくり」
12月11日(土曜日)
 10時~12時
新「京・子どもいきいきプラン」について
 <12月17日,プラン案への意見提出>
1月22日(土曜日)
 13時30分~15時30分
「子育て環境づくりのためのパートナーシップ」
 講師:子育て環境研究所・杉山千佳代表
3月26日(土曜日)
 14時~16時30分
「つながるワークショップと今後の取組」
 子どもをみんなで育もう-親も支援者も共に

【2年目の取組 自分たちで親支援の手作りリーフレットを】
 平成17年度(2005年度)は,これまでのワークショップで出された意見をもとに,親や支援者に伝えたい口コミ情報や実践例をリーフレットにまとめ発信することを計画。専門家からデザイン・レイアウトのアドバイスを受けながら,文章もイラストもデザインもすべて手作りのリーフレット「京都のママの声を集めて作ったリーフレット『ほっこり子育て』」の企画・作成に取り組んだ。リーフレットはA4版の三つ折で「授乳編」「0,1,2歳のあそび編(室内で)」「0,1,2歳のあそび編(お外で)」「トイレトレーニング編」「イライラしたとき編」の5種類。実行委員会の委員自らが大手のデパートなどと交渉し,設置していただくこととなった。
 なお,この年は,リーフレット作成のための市民参加のワークショップを3回,その打合わせ等を行う実行委員会を9回開催した(ワークショップでは,前年同様,津止正敏立命館大学教授にコーディネーターを務めていただいた)。

開催日時 テーマ
7月30日(土曜日)
 10時~12時
「みんなで作ろう 手に取って!みたい!リーフレット作り」-親と支援者の実践につながる情報を-
 テーマ別のワークショップ
11月12日(土曜日)
 13時30分~15時30分
「みんなで作ろう 手に取って!みたい!リーフレット作り」-乳幼児の保護者に必要な情報や実践例を-
 テーマ別のワークショップ
3月11日(土曜日)
 10時~12時
「京都のママの声を集めて作るリーフレット-ほっこり子育て-」
 文案等の最終確認(テーマ別),発表とコメント

【3年目の取組 手作りリーフレットを素材に気軽なトークを】
 平成18年度(2006年度)は,前年度作成した5種類のリーフレットを素材としたワークショップならぬ「トークショップ」を企画,実施した。リーフレットのテーマごとに実施(あそびは室内,戸外を1回にまとめた)。子育てをしている中で,心配なことや困っていること,また,体験談や失敗談などを子育て中の親や子育ての先輩にも加わっていただいて自由に話し合ってもらうことで,育児中の母親たちの肩の力を抜いてほっこりしてもらうことをねらいとした。
 この年,市民参加のトークショップを4回,実行委員会を11回開催した。また,トークショップには,津止正敏立命館大学教授のほか,浅野明美こどもみらい館館長,中村初美京都市特別社会教育指導員らがコメンテーターとして参加した。
リーフレット

開催日時 テーマ
8月28日(月曜日)
 10時~12時
トイレトレーニング
9月25日(月曜日)
 10時~12時
授乳
11月3日(金曜日)
 10時~12時
あそび
11月29日(水曜日)
 10時~12時
イライラ

 今後は,子育てサークルが「トークショップ」を自前で展開できるよう開催手順,進行上の留意点などをまとめ,身近な場所で「トークショップ ほっこり子育て」の集まりが持たれれば,親の育児に対する不安感や負担感が少しでも軽減され,仲間づくりにも役立つのではないかと考えている。(サークル支援講座を開催予定)
 また,プロジェクトでは他の資金援助(京都市社会福祉協議会「子育て支援 推進モデル事業」助成金)を受け,京都で子育てをしている外国籍の人たちにも応援する気持ちを伝えようと,先に作成したリーフレットの翻訳(4ヶ国語)にも取り組んでいる。

3 連携した取組に至る過程での課題や工夫した点・対処法
 「プロジェクト」は行政主導ではなくメンバーの一人として,同じ立場で係わることとし,事業等を行う時は実行委員として対等であることを互いに確認し合った。ワークショップなど事業の内容,進行等は実行委員会で検討し,分担して行った。それに伴う事務作業は,それぞれの所属しているサークル,NPOや団体の体制,効率もあり,事務局はみらい館が受け持っている。

4 連携した取組の成果
 ワークショップ,トークショップなどの参加者からは,現在の自分自身の気持ちや考えを話すことができて良かった,身近にもこのような場がもっとあれば良い等の感想が寄せられ,ライブ感のある催しとして受け止められた。また,初めて合う人達とも共感し合えたことで,他の催しやサークルへ積極的に参加するきっかけづくりにもなった。
 リーフレットは,各区保健所・子ども支援センター,図書館,デパートなど子育て中の親子が多く利用する施設に配架している。「トイレトレーニングについて」「イライラについて」などテーマ別になっているため,手に取りやすくまた新聞などでも紹介されたため,子育て中の親はもとより,祖父母,支援者にも広く読まれている。「京都のママの声を集めて作った」とあるように,育児の先輩や現在子育て中の親,また支援者からの声や意見を集めたものをまとめ,情報として発信していく方法は,子育て支援の一つの有効なスタイルとして根づいてきていると思われる。
 また,リーフレットが共感をもって手にとられているという手応えに,言葉が通じにくく,より孤独感があるかもしれない京都で暮らす外国籍の人たちにも,子育てを応援する気持ちを伝えたいとの強い思いがメンバーの中に生まれた。生活様式や子育てに対する考え方は異なるかも知れないが,「リーフレットの翻訳版」を届けたいという意見にメンバー全員が賛同,作成のための資金調達に,助成金の申請や寄付依頼,翻訳作業の手配・交渉,協力依頼など,実現に向けてメンバーの委員自らが奔走した。現在,今年度中の発行に向けて最終作業を行っている。この例は,「連携した取組」というよりも,プロジェクトが発展的に事業展開した例として紹介したい。
 これらの取組は,それぞれ単独では,アイデア,スタッフ,資金などのどれが欠けても実現が困難だったと思われる。互いの「出来る」もので手をつなぎ,力を出し合うことが今求められている支援に応えられる早道かもしれない。

5 連携した取組の課題
 継続していくための経費の調達,取組の広がりに対するプロジェクトの限界の判断,メンバー欠席時の代理参加,事務局を行政で持つことのプラスとマイナス面など継続的な話し合いが必要である。
 また,プロジェクトの取組みのなかで,行政の様々な制度を現実に即して柔軟に対応していけるより良いものにしていくためには,当事者,民間の支援者の意見やアイデアを拾い上げられる体制づくりが必要だと感じられる。

5  今後の方向性や展望
 子育てを支援するという同じ目的を持ったサークル・NPOや団体との交流を積極的にしていくことは,「力を合わせてする」という私たちが失いかけている社会の凝集力を回復させる一面もあると思われる。今後は,リーフレットづくりなど培ってきたものの充実と展開を互いに継続して取り組んで行くとともに,イコールパートナーとして,プロジェクトの活動のための財源の確保・管理,事務局の交替制なども視野に入れ考えて行きたい。メンバーには,行動する子育て支援研究団体として,それぞれのサークル・NPOや団体が主体になり,地域のサークル支援などの活動をとおして仲間の輪を一層広げてもらえればと考えている。

6  担当者連絡先
  京都市子育て支援総合センターこどもみらい館事業課 鍋谷一美(なべたに かずみ)
  TEL (075)254-5001
FAX (075)212-9909
E-mail nabetani@kodomomirai.or.jp

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