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女性 |
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女性の人権に関しては、昭和54年(1979年)12月、第34回国連総会で「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」が採択され、近年の国際会議においてもその重要性が大きく取り上げられている。
平成5年(1993年)6月にウィーンで開催された世界人権会議で採択された「ウィーン宣言及び行動計画」において、男女の平等な地位及び女性の人権、特に女性に対する暴力の根絶が打ち出され、同年12月には第48回国連総会において、「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」が採択された。さらに、国連環境開発会議や国際人口・開発会議、社会開発サミットでも女性の人権の重要性が強調された。
平成7年(1995年)9月に北京で開催された第4回世界女性会議で採択された「北京宣言」において「女性の権利は人権である」と謳われ、「行動綱領」では、「女性と健康」、「女性に対する暴力」、「女性の人権」、「女性とメディア」、「女児」等12の重大問題領域が設定され、具体的な行動が提案された。
国内的には、平成8年(1996年)7月、男女共同参画審議会から「男女共同参画ビジョン-21世紀の新たな価値の創造-」が答申され、同年12月には、男女共同参画推進本部において、「男女共同参画2000年プラン-男女共同参画社会の形成の促進に関する平成12年(西暦2000年)度までの国内行動計画-」が策定された。
これらの動向及び「男女共同参画2000年プラン」を踏まえ、以下の取組を進める。 |
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男女共同参画推進本部を中心に、男女共同参画社会の形成に向けて政府一体となった取組の一層の推進を図る。 |
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政策・方針決定過程への女性の参画を拡大するため、政府が率先垂範して取組を進めるとともに、企業、各種団体等に対し協力要請を行い、社会的気運の醸成を図る。 |
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男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革を図るため、人権週間、婦人週間等多様な機会、多様な媒体を通じ、国民的広がりを持った啓発・広報活動を展開する。また、女性の権利に関連の深い国内法令や、女子差別撤廃条約、第4回世界女性会議「行動綱領」等の国際文書の内容の周知に努める。 |
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雇用における男女の均等な機会と待遇の確保等のため、啓発等を行うとともに、働くことを中心に女性の社会参加を積極的に支援するための事業やその拠点施設の整備を実施する。 |
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農山漁村の女性が農林漁業・農山漁村の発展に対し、男性とともに積極的に参画できる社会を実現するため、農林漁業や農山漁村社会でのパートナーである男性を含めた家庭及び地域社会において農山漁村の女性の地位向上・方針決定への参画促進のための啓発等を実施する。 |
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性犯罪、売買春、家庭内暴力等女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けて、厳正な取締りはもとより、被害女性の人権を守る観点から、事情聴取等を被害者の希望に応じた性別の警察官が行えるようにするなど、必要な体制を整備するとともに、事情聴取、相談等に携わる職員の教育訓練を充実する。 |
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外国人女性の人権を守る観点から、入国管理等に携わる職員に対する人権教育の充実を図る。 |
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性の商品化や暴力表現が女性の人権を侵害している現状を改善し、女性の人権を尊重した表現を行うよう、また、方針決定の場に女性を積極的に登用するよう、メディアの自主的取組を促す。 |
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家庭、学校、地域など社会のあらゆる分野における男女平等を推進する教育・学習を充実させる。また、女性の学習・実践活動を通じた社会参加を促進する。 |
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我が国のイニシアティブにより国連婦人開発基金(UNIFEM)内に設置された「女性に対する暴力撤廃のための信託基金」に対して協力する。 |
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女性に対する人権侵害の発生を防止するため、人権尊重の意識の普及・高揚を図るための啓発活動を充実・強化するとともに、人権相談体制を充実させる。
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子ども |
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基本的人権の尊重を基本理念に掲げる日本国憲法及びこれに基づく教育基本法、児童福祉法等の法令並びに国際人権規約、児童の権利に関する条約等の国際条約の趣旨に沿って、政府のみならず、地方公共団体、民間団体、学校、家庭等、社会全体が一体となって相互に連携を図りながら幼児児童生徒の人権の尊重及び保護に向けた取組を推進する。
特に、以下の諸施策を積極的に推進する。 |
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学校教育において、幼児児童生徒の人権に十分配慮し、一人一人を大切にした教育指導や学校運営が行われるよう、児童の権利に関する条約の趣旨・内容を周知する。また、社会教育においても、同条約の内容・理念が広く理解され、定着されるよう、公民館等における各種学級・講座等を開設し、学習機会を充実させる。 |
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いじめは、児童生徒の人権に関わる重大な問題であり、その解決のための真剣な取組を一層推進する。また、児童生徒一人一人を大切にした個性を生かす教育、教員に対する研修の充実、教育相談体制の整備、家庭・学校・地域社会の連携、学校外の様々な体験活動の促進など各種施策を推進する。 |
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いじめ問題、虐待の防止など児童の健全育成上重大な問題についての総合的な取組を推進するとともに、児童の権利に関する啓発活動を推進する。 |
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犯罪等の被害に遭った少年に対し、カウンセリング等による支援を行うとともに、少年の福祉を害する犯罪の取締りを推進し、被害少年の救出・保護を図る。 |
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児童買春、児童ポルノ、児童売買といった児童の商業的性的搾取の問題が国際社会の共通の課題となっており、我が国としても、児童の商業的性的搾取の防止等について、積極的に取り組む。 |
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子どもの人権を守るための「子どもの人権専門委員」制度を充実・強化するとともに、電話相談を含めた人権相談体制を充実させる。 |
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保育所保育指針における「人権を大切にする心を育てる」ため、この指針を参考として児童の心身の発達、家庭や地域の実情に応じた適切な保育を実施する。
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高齢者 |
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高齢者が安心して自立した生活を送れるよう支援するとともに、高齢者がそれぞれの経験と能力を生かし、高齢社会を支える重要な一員として各種の社会的な活動に積極的に参加できるための条件の整備を図る。 |
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学校教育においては、高齢化社会の進展を踏まえ、主に社会科や道徳、特別活動において福祉教育を推進する。 |
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高齢者の学習機会の体系的整備並びに高齢者の持つ優れた知識・経験等を生かして社会参加してもらうための条件整備を促進する。 |
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高齢者と他の世代との相互理解や連帯感を深めるため、世代間交流の機会を充実させる。 |
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「敬老の日」の行事を通じ、広く国民が高齢者の福祉について関心と理解を深める。 |
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高齢化が急速に進行している農山漁村において、高齢者が精神的、身体的、経済的、社会的な面において生涯現役を目指し、安心して住み続けられるよう支援する。 |
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高齢者が長年にわたり培ってきた知識、経験等を活用し、65歳まで現役として働くことができる社会を実現するため、60歳定年の完全定着、継続雇用の推進、多様な形態による雇用・就業機会の確保のための啓発活動に取り組む。 |
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虐待その他高齢者に対する人権侵害の発生を防止するため、人権尊重の意識の高揚を図るための啓発を行い、人権相談体制を充実させる。
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(4) |
障害者 |
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障害者のライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と、障害者が障害のない人と同等に生活し活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念の下に、特に次のような施策の推進を図る。 |
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障害者の自立と社会参加をより一層推進し、障害者の「完全参加と平等」の目標に向けて「ノーマライゼーション」の理念を実現するための啓発・広報活動を推進する(障害者の日及び週間を中心とする啓発・広報活動等)。 |
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障害のある子どもに対する理解と認識を促進するため、小・中学校等や地域における交流教育の実施及び講習会の開催、小・中学校の教員等のための指導資料の作成・配付、並びに学校教育関係者及び保護者等に対する啓発事業を推進する。 |
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精神障害者に対する差別、偏見の是正のため、地域精神保健福祉対策促進事業等に基づきノーマライゼーションの理念の普及・啓発活動を推進し、精神障害者の人権擁護のため、精神保健指定医、精神保健福祉相談員等に対する研修を実施する。 |
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障害者の社会参加と職業的自立を促進するため、障害者雇用促進月間を推進し、全国障害者雇用促進大会及び身体障害者技能競技大会を開催するとともに、情報誌の発行等事業主を始めとする国民全般に対する啓発活動を推進する。 |
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障害者に対する差別や偏見を解消するため、人権尊重の意識の普及・高揚を図るための啓発活動を充実・強化するとともに、人権相談体制を充実させる。
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同和問題 |
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同和問題に関する差別意識の解消を図るに当たっては、地域改善対策協議会意見具申(平成8年(1996年)5月17日)を尊重し、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果等を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発として発展的に再構築し、その中で同和問題を人権問題の重要な柱として捉え、今後とも、この問題に固有の経緯等を十分に認識しつつ、国際的な潮流とその取組を踏まえて以下の施策を積極的に推進する。
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同和問題に関する差別意識の解消に向けた教育及び啓発に関する事業については、「同和問題の早期解決に向けた今後の方策について(平成8年(1996年)7月26日閣議決定)」に基づき、次の人権教育・人権啓発の事業に再構成して推進する。特に教育に関する事業については、学校、家庭及び地域社会が一体となって進学意欲と学力の向上を促進する内容をも含むものとして推進する。 |
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ア |
人権問題啓発推進事業 |
イ |
小規模事業者等啓発事業 |
ウ |
雇用主に対する指導・啓発事業 |
エ |
教育総合推進地域事業 |
オ |
人権教育研究指定校事業 |
カ |
人権教育総合推進事業 |
キ |
人権思想の普及高揚事業 |
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隣保館において、地域改善対策協議会意見具申(平成8年(1996年)5月17日)に基づき、周辺地域を含めた地域社会全体の中で、福祉の向上や人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして、総合的な活動を推進する。 |
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今後の教育及び啓発の中で同和関係者の自立向上という目標を重視するとともに、えせ同和行為の排除を徹底する。また、同和問題についての自由な意見交換のできる環境づくりを推進する。さらに、教育の中立性を確保する。
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(6) |
アイヌの人々 |
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アイヌの人々に対する取組に当たっては、国民一般が、アイヌの人々の民族としての歴史、文化、伝統及び現状についての理解と認識を深め、その人権を尊重していくことが重要であり、その観点から特に以下の施策に取り組む。 |
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平成8年(1996年)4月の「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」報告書の趣旨を尊重して、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」に基づき、アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化(以下「アイヌの伝統等」という。)が置かれている状況等に鑑み、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施策を推進する。 |
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学校教育におけるアイヌの人々の人権についての教育は、社会科等において取り上げられており、今後とも引き続き、基本的人権尊重の観点に立った教育推進のための教員の研修を充実させる。 |
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各高等教育機関等におけるアイヌ語やアイヌ文化に関する教育研究について、取組に配慮する。 |
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生活館において、アイヌの人々の生活の改善向上・啓発等の活動を推進する。 |
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アイヌの人々に対する人権侵害の発生を防止するため、人権尊重の意識の普及・高揚を図るための啓発活動を充実・強化するとともに、人権相談体制を充実させる。
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外国人 |
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今日、我が国社会は、諸外国との人的・物的交流の増大に伴い、外国人をめぐって様々な人権問題が生じている。
そこで、外国人に対する偏見・差別を除去するため、特に以下の施策を推進する。 |
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外国人に対する人権問題の解決を図るため、外国人のための人権相談体制を充実させる。 |
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外国人に対する差別意識解消のための啓発活動を推進する。 |
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定住外国人に対する嫌がらせや差別事象の発生を根絶するための啓発活動を推進する。
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HIV感染者等 |
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HIV感染者 |
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ア |
世界エイズデーの開催や、エイズに関するパンフレットの配付、各種の広報活動等を通じて、エイズ患者やHIV感染者に対する偏見・差別を除去し、エイズ及びその感染者への理解を深めるための教育・啓発活動を推進する。 |
イ |
学校教育においては、発達段階に応じて正しい知識を身に付けさせることにより、エイズ患者やHIV感染者に対する偏見や差別をなくすため、エイズ教育を推進し、教材作成及び教職員の研修を充実させる。 |
ウ |
エイズ患者やHIV感染者に対する誤解・偏見や差別意識を持つことのないよう、エイズに関する理解の促進のための学習機会を充実させる。 |
エ |
職場におけるエイズ患者やHIV感染者に対する誤解等から生じる差別の除去等のためのエイズに関する正しい知識を普及する。 |
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ハンセン病
ハンセン病については、平成8年(1996年)に「らい予防法」が廃止されたところであるが、ハンセン病に対する差別や偏見の解消に向けて、ハンセン病資料館の運営、啓発資料の作成・配付等を通じて、ハンセン病に関する正しい知識の普及を推進する。
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刑を終えて出所した人 |
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刑を終えて出所した人に対する偏見・差別を除去し、これらの者の社会復帰に資するための啓発活動を実施する。
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その他 |
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以上のほか、人権に関するその他の課題についても引き続き、偏見・差別を除去し、人権が尊重されるための施策を推進する。 |