第3章 第2節 教育委員会の支援

  学校の児童虐待防止に向けた取組を充実させるには、教育委員会からの支援が重要となる。特に、教職員への啓発と研修、学校を側面から全面的に支援する体制の整備、児童虐待防止と児童虐待対応のための教職員研修の実施、広報用啓発資料の作成、地域ネットワークの活用などが必要となる。
  都道府県教育委員会においては、関係部局との連携のもとに児童虐待の発生予防から早期発見・早期対応、虐待を受けた児童生徒のケアまでを一貫して行うことが考えられる。
  また、市町村教育委員会においては、より学校に沿って、現場に即した学校のニーズに応える支援が必要であると考える。

1 教育委員会による教職員への啓発と研修

1.改正虐待防止法の周知

  法の周知は行政の責務であるが、調査結果から教育委員会による改正児童虐待防止法の趣旨の周知は、完全に成されていない。学校に対しては、僅かながら2都道府県、251市町村(約12パーセント)、教職員にはそれよりも多い6都道府県、583市町村(約29パーセント)が未実施である。
  教育委員会が、率先して法改正の趣旨を伝え、新たな課題を覚悟しながら「疑わしくは通告する義務」が課せられている学校への支援や指導等を行わなければならない。

2.研修の実施

  実施した都道府県は半数を少し超えているが、市町村では1割少しにすぎない。学校現場は多くの教育課題を抱えており、多種多様の研修が教育委員会により実施されているが、深刻な虐待事象の未然防止のためには、教育委員会として一層積極的な虐待に関する研修の実施が望まれる。

ア 管理職研修

  児童虐待の発生要因の複雑さ、子どもと保護者双方への支援、関係機関等との連携の必要性などから、学校では組織対応の体制確立が必要である。教職員の意見や子どもや家庭に関する重要な情報が確実に管理職に届くシステムを構築し、組織としての判断、対応が重要となる。そのために、管理職の児童虐待防止への認識を高め、強いリーダーシップを発揮して子どもの安全を守る実践力を高める研修が重要となる。
  具体的な研修内容の例としては、虐待防止法と学校の役割の重要性、児童虐待防止及び対応に生かす学校の機能、予防―発見・通告―介入―保護・支援の各段階における学校の役割、情報集約と迅速かつ的確な判断、組織対応の体制の確立、要保護児童地域対策協議会または虐待防止ネットワークにおける責務の遂行、地域や関係機関との具体的な連携の在り方、対応する各機関の機能や特性、異動時の引継ぎなど長期的・継続的対応を可能にするための方策などがあげられる。学級担任が虐待を疑った際、対応策について管理職に相談したときに、安易に対応を先延ばしにすることや、学校内の問題として処理しようとするようなことがあってはならない。
  管理職として、学校の責任者として児童虐待防止に関する認識と子どもの生命安全を守るという危機感が必要なことは言うまでもない。その意味でも管理職に対する研修は重要となろう。

イ 児童虐待対応の中核となる担当者の研修

  校内での情報集約、情報の共有と検討、取組方針の策定・明確化、共通認識、関係機関等との連携などの組織的対応を行うことなどの学校における児童虐待対応の中核となる教員を養成し、その対応能力を高める研修を実施する必要があろう。埼玉県教育委員会では、平成17年度から取り組み始めたが、研修内容の例としては、虐待理解の基礎知識、児童虐待の現状、虐待が子どもに与える影響、学校生活に現れる行動特性、学校における対応の原則、保護者への対応の在り方、連携する各機関の機能や特性、要保護児童対策地域協議会における学校の役割などが考えられる。
  また、実際に事例をもとに検討を行うことも重要である。

ウ 学校をサポートする教育委員会担当者の研修

  市町村教育委員会職員に対して研修を実施している都道府県は10都道府県のみであったが、学校からの相談や通告に迅速に対応し、学校に対する支援を行う市町村教育委員会担当者の実践力を高める研修を実施する必要もあると考える。
  具体的な研修内容の例としては、児童虐待防止における教育委員会の役割、ネットワークが必要とされる背景と学校のネットワーク化支援、機関連携に関する教員の意識、機関連携の実態と課題、校区内に児童養護施設を有する学校の児童生徒への指導、教育と福祉との連携、教員に対するメンタルケアなどが考えられる。

エ 校務分掌、職務と経験年数に応じた研修

  担任や学年主任は子どもの言動、養護教諭は心身の健康状態、教務主任や生徒指導主事は保護者の言動や他の教職員からの連絡など、虐待を疑う視点が異なり、複眼的な視点をもって対応する必要がある。そこで、校務分掌や職務による研修が効果的であると考える。
  また、経験年数に応じた研修も必要であり、特に初任者研修においては、虐待に関する基礎的知識の周知を図り、教員としての出発の時点で児童虐待防止について悉皆で研修を受けることの効果は大きいものと考える。
  具体的な研修内容の例としては、発達障害・非行等の現れから虐待を見極めていく視点(特別支援教育コーディネーター、生徒指導担当者、人権教育担当者、養護教諭を対象)、対応する各機関の機能や特性(生徒指導担当者、人権教育担当者を対象)、具体的な機関連携の在り方、校内連携の在り方、学校の機能を超える対応が必要な場合の判断(特別支援教育コーディネーター、生徒指導担当者、人権教育担当者、養護教諭を対象)などが考えられる。
  学校に対してスーパーバイズできる専門性を備えた指導者を養成する研修会を実施している教育委員会も見られる。対象は教員に限ることなく、市町村教育委員会職員、社会教育関係者等で、地域における指導者として活躍することを期待したものである。

オ 教育委員会として実施を促進する学校での校内研修

(ア)全体研修

  児童虐待対応マニュアルなどの資料を活用して、教職員全体の共通理解を図る。スーパービジョンを含めた研修が望ましい。
  研修内容の例としては、まずは児童虐待防止法の趣旨等についての周知の徹底を図ること、子どもの不自然さに気付く早期発見のポイント、早期発見チェックリストの活用、学校における虐待対応の流れ、子ども観察の複眼的視点などが考えられる。なお、児童生徒に対する具体的な対応の演習や保護者に対する具体的な対応の演習を行うことにより、適切な対応ができる力を付けることが望まれる。

(イ)児童虐待対応の中核となる担当者の研修の伝達

  児童虐待対応の中核となる担当者を養成する研修会の内容を全教職員に伝達し、共有化を図ることも重要である。

(ウ)ケース研究

  児童虐待防止に関する研修を受けると、自分がかつて関わった子どもの問題行動は、虐待を受けていたことによるものではなかろうかと思い当たることも多い。現実に虐待事案に直面している学校では、徹底的にケースワークを行うことが必要であり、スーパーバイズを受けることが望ましい。また、虐待事案に直面していない学校では、「自分の学校では関係ない」との認識ではなく、「虐待はどこの学校でも起こり得ることである」との危機感のもとに、児童虐待対応マニュアル等に記載されている事例をもとにケース研究を行い、具体的に自校で発生した場合を想定して対応フロー図に基づくシミュレーションを行い、実践的な対応能力を高めておくことが必要である。

(エ)日々のニーズに応じた自己研修

  教育委員会が主催する研修会、各学校での年間研修計画に基づく研修会のみでなく、日々の教育実践、子どもとの関わりの中で生じたニーズに応じた自己研修を行うことも望まれる。「学校における児童虐待への対応-最前線の先生方へ-CD-ROM」平成14年度・平成15年度文部科学省特別研究促進費「児童虐待に関する学校の対応についての調査研究(研究代表者 玉井邦夫)などの視聴覚教材は自己研修には有効である。
  「学校における児童虐待への対応-最前線の先生方へ-」などの視聴覚教材を活用できるような条件整備を行い、自己研修を促すことが求められる。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --