第2章 第2節 2.教育委員会における取組状況調査

(1)調査の目的

  児童虐待をめぐる教育委員会の対応の実態については、平成14年度に一度、全国調査がなされている(文部科学省科学研究費特別研究促進費研究班報告書、以下14年度調査と言う)。調査の実施後、児童虐待防止法や児童福祉法の改正が行われ、虐待対応の社会的な枠組みそのものが変化してきている。また、「平成の大合併」による市町村合併の進展に伴い、行政の枠組みもまた大きく変化していると考えられる。
  そこで、この数年の、教育行政における児童虐待対応の実態がどのように変化してきているのかを確認する目的で、再び全国の都道府県・政令市教育委員会ならびに市町村教育委員会を対象に、児童虐待への対応実態を調査することにした。

(2)調査の対象、方法及び内容

1.調査の対象

  全国の都道府県・政令市教育委員会及び市町村教育委員会

2.調査の方法及び内容

  巻末資料に示す調査票を郵送にて配付し、郵送にて回収した。
  (調査時期:平成17年6月~8月)

(3)都道府県・政令市教育委員会及び市町村教育委員会の対応状況

  1. 回収数
    都道府県教育委員会47 政令市教育委員会11 計58
      市町村教育委員会(特別区を含む。以下同じ) 2016
      回答のあった市町村教育委員会が管下に置く学校数は小学校が18,651校、中学校が8,862校である。児童生徒数は小学校児童が5,594,713名、中学校生徒が2,688,898名である。
  2. 質問項目ごとの単純集計結果を、調査目的に照らし、14年度調査で比較可能な項目の結果と比較しながら述べる。都道府県・政令市教育委員会と市町村教育委員会に共通する質問項目については、両者の比較結果も示す。

(4)調査結果

ア 市町村教育委員会の各種ネットワークへの参加状況

  文部科学省の推進する行動連携のための中学校区内ネットワークのモデル事業を実施している市町村は165箇所(8.2パーセント)である。市町村虐待防止ネットワークが設置されているのは874箇所(43.4パーセント)である。

虐待防止ネットワークへの教育委員会ごとの参加状況

  n(該当教委数) 単位:パーセント
教育委員会として代表者会議に参加 626 71.6
教育委員会として実務者会議等に参加 549 62.8
教育委員会として個別ケース会議に参加 527 60.3
現場職員が個別ケース会議に参加 451 51.6
スクールカウンセラーが会議に参加 123 14.1
スクールカウンセラーの代表が会議に参加 24 2.7
その他 45 5.1
不明 6 0.7
非該当 1,142  
全体 874 100

虐待防止ネットワークが設置されていない市町村における、虐待事例の検討会への教育委員会の参加状況

参加の有無 n(該当教委数) 単位:パーセント
あった 278 24.4
なかった 833 73.1
不明 28 2.5
非該当 877  
全体 1,139 100

  検討会への参加回数は平均で3.28回であるが、最も参加回数が多かった教育委員会では年間109回参加している例も見られた。
  これらの結果から、ネットワークが構築されている場合には、教育委員会は代表者・実務者・個別ケース会議のどの水準においても6割以上の参加率を示しているのに対して、ネットワークがない場合には具体的なケース対応の場に教育委員会が参加する比率は4分の1程度である。

イ 昨年度(平成16年度)の通告件数と教育委員会への報告状況

  昨年度中に学校現場からなされた通告の件数は、小学校が2,502件(平均1.45件)、中学校が979件(平均0.6件)、高等学校が76件(平均1.81件)、特殊教育諸学校が14件(平均0.35件)であった。
  14年度調査では、小学校に比べて中学校教員の虐待への感度が低くなる傾向が指摘されたが、子どもが中学校の年齢に達すると、被虐待の影響は非行系の現れをしてくることが多く、どうしても対応は表面的な生徒指導に傾きがちで、背後にある虐待の問題への感度が低下してしまうものと考えられる。

学校現場が虐待通告をした場合の教育委員会への報告の状況

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
事前または事後の報告を指導 5 8.6 856 42.5
校長判断だが報告が一般的 31 53.4 969 48.1
校長判断だが非報告が一般的 7 12.1 37 1.8
その他 8 13.8 60 3
不明 7 12.1 94 4.7
全体 58 100 2,016 100

学校現場が虐待通告をした場合の教育委員会への報告の状況

  報告の徹底に関しては市町村の方が都道府県・政令市よりも格段に進んでいると言える。現在の家庭・児童相談は一次機能を市町村に課しているため、これは当然の状況かもしれない。今後、都道府県・政令市におけるさらなる指導を求めたい。

ウ 関係機関との連携強化の実態

  PTA等の関係機関との連携強化を図っているかどうか、さらに、強化を図った相手先機関の内訳に関する問に対する回答は以下の通りである。

関係機関との連携の強化

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
はい 49 84.5 730 64.1
いいえ 8 13.8 388 34.1
不明 1 1.7 21 1.8
非該当 0 0 877 77
全体 58 100 1,139 100

  連携強化への取組は都道府県・政令市の方が市町村よりも積極的である。これはおそらく、教育行政における虐待対応がまだ始まったばかりのことであり、啓発や連携強化のための取組なども、当座は都道府県・政令市レベルで始めようとする構えがつよいと想定されること、並びに、福祉や警察等の関係機関が比較的都道府県・政令市レベルの機関であることが多いことなどが要因として考えられる。しかしながら、今後学校における対応力が実践的に問われてくれば、当然市町村教育委員会の主導的な取組がさらに要求されてくることになると思われる。

連携強化を図った相手先機関の内訳

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
児童相談所 48 98 444 60.8
福祉事務所 21 42.9 313 42.9
保健所 19 38.8 120 16.4
市町村保健センター 18 36.7 323 44.2
民生委員・児童委員 26 53.1 598 81.9
児童養護施設 12 24.5 43 5.9
情緒障害児短期治療施設 3 6.1 1 0.1
自立支援施設 15 30.6 23 3.2
警察 40 81.6 255 34.9
NPO法人 10 20.4 6 0.8
その他 22 44.9 128 17.5
不明 0   2  
非該当 9   1,286  
全体 49   730  

(注)複数回答のため各選択肢の回答比率の合計は100にはならない

  連携強化の相手機関として、都道府県・政令市の場合には児童相談所が98パーセントという高率で挙げられている。これは虐待対応の社会的システムを考えれば当然のことである。ついで、警察という回答が8割を超える。以下、民生委員・児童委員、福祉事務所、保健所、市町村保健センターがいずれも全体の三分の一以上の比率で選ばれている。対して市町村では、児童相談所という回答は確かに高いが60.8パーセントにとどまっている。圧倒的に高いのは民生委員・児童委員という回答の81.9パーセントであり、以下、福祉事務所と市町村保健センターが多く、都道府県・政令市で高い比率を示していた警察という回答は全体の三分の一にとどまる。連携強化の相手機関については、市町村教育委員会の場合には事例の発見や日常的な対応に軸足が置かれるため、より地域に身近な機関との連携が模索されるのに対して、都道府県・政令市ではより包括的な対応環境整備を求められるため、市町村に比べて多様な機関とまんべんなく連携するシステムの構築を目的としている様子が窺える。また、市町村教育委員会が連携強化を図ろうとする傾向の強い機関は児童相談所を除いていずれも市町村機関であり、機関連携はやはり設置者が同じ機関同士から始められている様子が示されているものと思われる。

エ 児童虐待防止法改正に伴う法の趣旨徹底や取組の変化

  児童虐待防止法の改正によって、各種の義務が教職員個人のみならず学校組織に課せられたり、適切な教育環境の確保や研修の義務が教育委員会に課せられている。こうした状況の変化に基づき、教育委員会が学校並びに教職員個人に対してどのような趣旨徹底を行っているかの実態を以下に示す。

学校に対する趣旨徹底 都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
した 56 96.6 1,735 86.1
しない 2 3.4 251 12.5
不明 0 0 30 1.5
全体 58 100 2,016 100
教職員に対する趣旨徹底 都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
した 49 84.5 1,365 67.7
しない 6 10.3 583 28.9
不明 3 5.2 68 3.4
全体 58 100 2,016 100

  趣旨徹底を教職員個人レベルで実施している比率は、学校単位の周知に比べて低下するものの、市町村で6割、都道府県・政令市では8割を超えている。ちなみに、14年度調査においては、学校単位の周知活動は市町村で75パーセント、都道府県・政令市で98パーセントであった。また、教職員レベルへの周知活動は、市町村が84パーセント、都道府県が86パーセントであった。今回の防止法の改正趣旨には学校現場の対応にとって重要な内容が含まれていることを考えると、今回調査の周知徹底率は低いと評価すべきではないかと思われる。児童虐待防止法は、教育行政に限らず、虐待対応の基本的な枠組みになる法規であり、常に確認され、周知され続けなければならない性質のものである。今回の改正によって学校や教育行政がどのように位置づけられたのかという点の徹底した啓発も必要であろうし、「去年したから」というような姿勢がもしも教育行政の現場にあるとしたら、強く問題視されなければならない。
  では、法改正によって、実際にどのような取組の変化が生じたのかを尋ねたのが以下の結果である。

法改正による取組の変化

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
学校現場からの通告事例数が増えた 13 22.4 167 8.3
教育委員会や学校からの相談が増加 12 20.7 406 20.1
研修の機会を増やした 19 32.8 139 6.9
研修の内容を変えた 14 24.1 73 3.6
特に変化は見られない 13 22.4 1,278 63.4
その他 9 15.5 111 5.5
不明 0 0 42 2.1
全体 58 100 2,016 100

法改正による取組の変化 

  グラフに記載されているパーセンテージの値が表中の値と一致しないのは、複数回答の処理に当たり、表中では都道府県・政令市および市町村の数を全体として、各回答数の比率を算出しているのに対し、グラフでは全回答数を母数として比率を算出しているためである。ちなみに回答数総計は都道府県・政令市で80、市町村で2,216となる。
  都道府県・政令市教育委員会が研修の回数や内容を変える対応をしているのに比べ、市町村教育委員会では現場からの相談の増加が目立つ。市町村の「特に変化は見られない」という回答の多さが何を意味しているのか(対応の立ち遅れなのか、現場に近いだけに実態にさほど変化がないということなのか)、この結果からだけでは判断ができない。ただ、この質問に関しても、前問の連携強化の取り組みと同様、都道府県・政令市レベルでは比較的まんべんない変化を感じている傾向が見られる。こうした傾向から考えれば、都道府県教育委員会と市町村教育委員会はそれぞれが管轄する学校があり、それぞれの管轄学校に対する指導をしていくことはもちろんであるが、都道府県教育委員会にはそれ以外にも啓発や連携強化のための全般的で、市町村較差を平準化するような機能も求められてくるのでないかと思われる。

オ 虐待防止に向けた広報活動や指導資料等の作成等について

  まず、広報誌等に虐待防止に向けた内容の啓発を行ったかどうかについては以下の通りである。

児童虐待防止に向けた内容の啓発の有無

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
平成15年度以前から継続して実施 17 29.3 283 14
平成16年度に初めて実施 6 10.3 180 8.9
平成15年度以前に実施したが平成16年度は未実施 1 1.7 67 3.3
未実施 32 55.2 1,440 71.4
不明 2 3.4 46 2.3
全体 58 100 2,016 100

児童虐待防止に向けた内容の啓発の有無

  14年度調査では、未実施回答が都道府県・政令市、市町村ともに6割強を占めていた。今回の調査結果では、平成15年度または平成16年度に実施したとする回答が都道府県では4割超、市町村でも4分の1を超えているものの、その一方で、「未実施」とする市町村は7割を超えていて、やや解釈に窮する。ただ、少なくとも都道府県・政令市レベルでは、広報活動は若干の進展を見せていることがわかる。

  次に、教職員に向けた指導資料等の作成、配付等に関する実態についてを以下に示す。
  まず、資料の作成状況と、作成している場合の主管部局については

教職員用指導資料等の作成・配付

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
平成15年度以前に作成 14 24.1 52 2.6
平成16年度に防止法改正を踏まえて作成 20 34.5 59 2.9
防止法改正後に以前のものを改訂 5 8.6 13 0.6
作成していない 18 31 1,877 93.1
不明 1 1.7 15 0.7
全体 58 100 2,016 100

  圧倒的に都道府県・政令市レベルの作成が多いという状況は14年度調査と同様である。ちなみに、14年度調査では都道府県・政令市のちょうど60パーセントが作成していると回答しており、児童虐待防止法改正などの動きを受けて、指導資料の作成作業はさらに進んでいるようである。くり返しになるが、指導資料の作成といった網羅的な業務は都道府県レベルで作業が進められていく方が現実的なのであろうと思われる。作成部局は以下の通りである。

指導資料等の作成担当部局

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
教育委員会 23 59 50 40.3
知事部局 11 28.2 39 31.5
教育委員会と知事部局が合同 5 12.8 16 12.9
検討委員会 1 2.6 4 3.2
外部機関 1 2.6 9 7.3
その他 1 2.6 9 7.3
不明 0 0 2 0.1
非該当 19   1,892  
全体 39   124  

(注)複数回答のため各選択肢の回答比率の合計は100にはならない

  市町村が作成しているという例は全体からすれば少なかったものの、作成している場合の担当部局が市町村と都道府県・政令市で特に異なる傾向を示すということはない。教育委員会が主導しているが、知事部局の参加する場合も多く、虐待対応については教育行政だけではなかなかノウハウの蓄積に乏しい現実が窺える。
  こうした指導資料が実際に活用されていくための仕掛けになる活動が重要になる。

周知に向けた活動の内訳

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
冊子にして各学校に配付 27 69.2 86 69.4
ホームページ上に掲載 7 17.9 6 4.8
会議において周知 11 28.2 58 46.8
研修会の場で周知 23 59 48 38.7
その他 2 5.1 4 3.2
不明 2   0  
非該当 19   1,892  
全体 39   124  

  どちらにおいても冊子として配付する形が標準になっているようである。ただし、冊子の活用度の低さは平成14年度の調査においても歴然としていたことであり、さらなる周知活動が必要である。この点で、都道府県・政令市ではホームページでの広報や研修の場での周知が多く、市町村では会議の場での周知が多い。後述の通り、現時点では虐待に関する研修の多くは都道府県・政令市レベルが開催していることが多く、そのような実態をあらわす分布であると思われる。また、市町村教育委員会では、小回りが利くという利点を活かして会議の場での周知を心がけている様子が窺われる。

カ 虐待防止・虐待対応に関する研修について

  研修の実施の有無については以下の通りである。

研修の実施の有無

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
いる 33 56.9 229 11.4
いない 25 43.1 1,660 82.3
不明 0 0 127 6.3
全体 58 100 2,016 100

  啓発活動、連携強化の取組、指導資料の作成といった設問に関するこれまでの結果とも共通していて、研修の取組は都道府県・政令市において進められている実態が示されている。14年度調査では「実施している」という回答が都道府県・政令市で41パーセント、市町村では9パーセントであった。都道府県・政令市を中心にしてではあるが、市町村においても、徐々に研修を具体化している様子が窺える。
  研修の実施主体を以下に示す。

研修の実施主体

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
教育委員会 29 87.9 133 58.1
知事部局 6 18.2 39 17
教育委員会と知事部局が合同 6 18.2 19 8.3
外部機関 1 3 16 7
その他 0 0 26 11.4
不明 0 0 5 2.2
非該当 25   1,787  
全体 33   229  

(注)複数回答のため各選択肢の回答比率の合計は100にはならない

  指導資料の作成担当部局についての設問と同じ選択肢であるが、研修の実施主体となるとより教育委員会が主導的になっている。特に都道府県・政令市では指導資料の周知活動も研修の場を活用している傾向が強いので、研修と指導資料が連結されて活用されていることも考えられる。これに対して、市町村における「その他」の回答の多さが興味深い。市町村はより対応現場に近いという考え方もできるため、研修を教育行政にのみ依存する傾向が少ないという可能性も考えられるからである。これは、今後、必要とされてくるであろう、福祉機関(児童福祉施設、子ども家庭支援センター等)との連携についての研修を考えれば、様々な可能性を見出すことのできる動きであるとも考えられる。
  研修会の実施回数、参加者、研修内容について以下に示す。

研修会の実施回数

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
年に1回 8 24.2 96 41.9
年に2回 4 12.1 34 14.8
それ以上 12 36.4 18 7.9
不定期 8 24.2 70 30.6
その他 0 0 5 2.2
不明 1 3 6 2.6
非該当 25   1,787  
全体 33 100 229 100

  実施回数に関しては、都道府県・政令市の方が密度の濃い日程を組んでいるようだが、都道府県レベルになれば研修内容が画一化することも当然考えられる。どのような内容の研修が組まれているのかが問題になる。
  研修の対象者については以下の通りである。

研修の対象者

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント n 単位:パーセント
校長 18 54.5 143 62.4
教頭 19 57.6 112 48.9
生徒指導主事 26 78.8 150 65.5
養護教諭 19 57.6 114 49.8
一般の教諭 28 84.8 121 52.8
市町村教育委員会教育長 4 12.1 0 0
市町村教育委員会職員 10 30.3 0 0
その他 7 21.2 53 23.1
不明 0 0 6 2.6
非該当 25   1,787  
全体 33   229  

研修の対象者

  このグラフにおいても、表中のパーセンテージとグラフのパーセンテージは一致しないが、理由は前述の通りである。研修の対象者には、都道府県・政令市と市町村で大差はない。
  次に示すのは研修の内容である。

研修の内容

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント N 単位:パーセント
児童虐待防止法等の法律的内容 28 84.8 131 57.2
関係機関との連携の在り方 30 90.9 182 79.5
被虐待児童生徒への配慮事項や指導上の配慮 29 87.9 167 72.9
校内における教育研修の在り方 10 30.3 36 15.7
市町村教育委員会における教育研修の在り方 2 6.1   0
その他 2 6.1 12 5.2
不明 0 0 10 4.4
非該当 25   1,787  
全体 33   229  

  研修内容についても大差はみられないが、都道府県・政令市のレベルでは、法の趣旨等も含めて全般的な研修を企画している様子が窺える。対して市町村では関係機関との連携の取り方や具体的な事例への対応法など、即応性を求められる課題に対応しようとしている傾向が窺える。

キ 虐待を背景要因とする生徒指導上の諸課題についての認識

  岸和田における児童虐待事件の教訓は、あらゆる生徒指導上の課題の背景には虐待が潜んでいる可能性が疑われるべきであることを示唆している。従来、非行に比べて虐待との関連は薄いと考えられていた不登校についても同様である(国立教育政策研究所 平成16年度生徒指導資料集)。また、厚生労働省研究班(犬塚峰子代表)が児童相談所の扱った非行ケースの背景を調査した結果では、その30パーセントにおいて被虐待の生育歴を持っていると指摘している。こうした見地から、不登校、非行の背景に虐待が疑われるケースを教育委員会がどの程度把握しているかについて質問している。
  その結果、不登校については市町村教育委員会で991例、都道府県・政令市教育委員会で149例という数が報告された。14年度調査ではそれぞれ390例、76例であったことと比較すれば件数が増加しているが、あるいはこの問題に関する教育現場・教育行政の関心が高まったために報告が増えたとも考えられる。非行については市町村教育委員会で529例、都道府県・政令市教育委員会で94例であった。参考までに、平成16年度版の「生徒指導上の諸課題の現状と課題」では、学校内外での暴力行為を起こした児童生徒は小学校から高等学校までで38,990名であり、中学3年生ではその33.4パーセントを占めると報告されている。児童相談所が扱う非行ケースと学校現場での暴力行為とはもちろん直結するものではないが、敢えて先述の「非行ケースの30パーセント 」という数値に乱暴を承知で当てはめれば、暴力行為を起こした児童生徒のうち11,697名が虐待を受けていたことになる。14年度調査では、特に非行の場合、子どもの学年が上がるに連れて、子どもの示す逸脱行動そのものが問題視されてしまいがちになることで、背景の虐待に気づきにくくなるのではないかという危険性が指摘されているが、今回の非行に関する報告数は不登校に比べても低く、やはりそうした危険性のあることを示しているとも考えられる。
  今回の調査において、障害のある児童生徒と虐待との関係についてもたずねたところ、市町村立学校の特殊学級の在籍児童生徒の中で虐待を受けている事例が288例、都道府県・政令市立の特殊教育諸学校の在籍児童生徒の中で虐待を受けている事例が8例あると報告された。
  今回の調査では、通常学級に在籍しているLD・ADHDなどの発達障害のある児童生徒への虐待については報告を行っていないが、教師が障害のある児童生徒に対し、個々の教育的ニーズに応じた特別支援教育を進める上で、このような可能性についても留意する必要がある。

ク 虐待防止・虐待対応に関する教職員向け相談窓口の設置について

  要保護児童対策地域協議会の設置など、教育行政の枠組みを超えたネットワーク構築が進められているものの、一方では教育行政内に一定のスーパービジョン機能が付与されることは学校現場支援にとって欠かせない要件であると考えられる。その意味で、教職員向けの相談窓口の設置状況と相談内容について調査した結果を示す。

教職員向け相談窓口設置状況

  都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント N 単位:パーセント
設置している 23 39.7 241 12
設置していない 35 60.3 1,713 85
不明 0 0 62 3.1
全体 58 100 2,016 100
相談内容 都道府県・政令市 市町村
n 単位:パーセント N 単位:パーセント
児童虐待防止法等の法律的内容 2 8.7 38 15.8
関係機関との連携の在り方 17 73.9 180 74.7
被虐待児童生徒への配慮事項や指導上の配慮 14 60.9 185 76.8
校内における教員研修の在り方 2 8.7 36 14.9
その他 2 8.7 13 5.4
不明 1 4.3 9 3.7
非該当 35   1,775  

  相談窓口の設置状況はまだまだ途上と思われるが、相談の内容は大半が実際的な対応に関わるものであることがわかる。ゆくゆくはこうした相談機能が教職員のメンタルケアについても配慮できるようになることが望まれる。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --