(平成17年1月28日)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課
文部科学省のホームページの「小・中・高校教育に関すること」という中に、「生徒指導等」ホームページ及び「進路指導・キャリア教育等」ホームページが開設しました。それぞれの行政課題について、その現状、施策の紹介だけでなく、主な通知や報告書、Q&A及び関係リンク集などにより構成されております。
これをご一読頂ければ、各学校現場にとって役に立つようなデータ等を満載しておりますので、是非、各関係機関においては、上記ホームページを積極的にご活用下さい。
昨年は、「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議」から、最終報告書(以下、「キャリア教育報告書」という。)が公表され(平成16年1月28日)、さらに、「専門高校等における『日本版デュアルシステム』に関する調査研究協力者会議」(平成16年2月20日)から、実務と教育が連結した新しい人材システムの推進のための政策提言が公表されるなど、進路指導にかかわる重要な提言が相次いで出された年となった。また、関係する4府省により策定された「若者自立・挑戦プラン」においても、その重要な柱として「キャリア教育」を位置付け、文部科学省において一層推進することとしている。
さて、「キャリア教育」という文言が、文部科学行政関連の審議会報告等で初めて登場したのは、中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年12月)(以下「接続答申」という。)である。ちなみに、旧文部省が出した、中学校・高等学校進路指導の手引き「体験的・探索的な学習を重視した進路指導‐啓発的経験編」(旧文部省昭和59年9月)には、特色ある啓発的経験の指導の試みとしてキャリア教育が紹介されているように、1970年代初頭からアメリカにおいてキャリア教育が推進されて以来、我が国の進路指導の充実・改善に影響を与えてきた。
接続答申の基本テーマは、学校種間における接続だけではなく、「学校教育と職業生活との接続」の改善も視野に入れたものであった。このため、学校教育において接続の改善を図るには、卒業後の職業生活を視野に入れた接続全体の在り方を検討する必要があったと考えられる。それは、既に、若者のいわゆるフリーターや無業者の増加、高水準で推移する、いわゆる「753」といわれる就職後の早期離職等、「学校から職業への移行」にかかる課題が深刻なものとなっていたからである。なお、現在、フリーターともならない、就職意欲がなく仕事に携わることさえしない「ニート」(NEET Not in Enployment,Education or Training 英国の労働政策の中から生まれた言葉)と呼ばれる若者たちの社会的な影響も懸念されており、約52万人と推計されている。
これらのことは、今日の経済状況や労働市場の変化と深くかかわっており、社会全体の動きとの関連を視野に入れ、複合的・多面的に見ていく必要がある。しかし、今指摘されている若者の課題は、今後、経済状況が好転することがあったとしても、若者の意識や資質の向上がないかぎり学校から職業への移行は困難と考えざる得ないであろう。キャリア教育が求められている所以である。
キャリア教育報告書には、「子どもたちは、自らの成長・発達を支える上で不可欠な『社会の現実』や異年齢者との多様で幅広い人間関係を得ることができず、モデルとすべき生き方を見つけにくい状況に置かれている。」とした上で、このことは不登校をはじめとする生徒指導上の様々な課題とも無縁ではないとしている。不登校については、児童生徒数約12万6千人(平成15年度)を数え、依然として憂慮すべき状況にある。このような中で「今後の不登校への対応の在り方について」(不登校問題に関する調査研究協力者会議報告平成15年3月)では、その基本的な考え方として、不登校は「こころの問題」としてのみならず「進路の問題」としてとらえ、将来の社会的自立に向けた支援の視点が重要であるとしていることに注目されたい。また、「進路の問題」としては、高等学校の中途退学者が依然として約8万2千人(平成15年度2.2%)という(年10万人から大幅に減少したが)憂慮する状況にあることも忘れてはならない。
中央教育審議会答申「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」(平成15年10月)では、「確かな学力」を育む上でも、子どもたちと実社会とのかかわりという観点から社会の仕組みと個人のかかわりに関する理解を深めさせ、勤労観、職業観を育成し、生き方、在り方を考えさせることが重要であるとしている。このことに関連しては、平成13年度から行われている教育課程実施状況調査等の結果を見ると、学ぶことへの関心や意欲の低下等についても様々な課題が指摘されている。例えば、平成14年度に実施された高等学校3年生の調査では、実に40%が「学校の授業以外に1日に勉強をまったく、または、ほとんどしない」のである。学ぶことに対して目的意識を持たない子どもたちの課題が現実の数字として表れている。各種報告等によると、日本の子どもたちは、将来に向けて、仕事と学ぶことのつながりが希薄であるということが指摘されている。まさに、「学ぶことの意義」という教育の根幹の部分で問われているのである。そして、このことは、最近公表されたPISAの調査結果等からも伺える。
接続答申では、キャリア教育を「望ましい職業観・勤労観及び職業観に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」とした上で、具体的に、小学校段階から発達段階に応じて実施する必要があると提言した。その後、国立教育政策研究所生徒指導研究センターでは、「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について」の調査研究を行い、平成14年11月に報告書をまとめている。この報告書では、職業観・勤労観の育成等に係る取組の現状と課題、各学校段階等において取り組むべき主要な課題についての分析・検討、小・中・高一貫した系統的学習プログラムの開発等を取り上げている。この中では、「職業観・勤労観」を定義し、子どもたちへの指導・援助の基本方向を検討するとともに、旧文部省の委託調査研究「職業教育・進路指導に関する基礎的研究」(平成8、9年度)等の成果を参考にして小・中・高一貫した系統的学習プログラム「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)‐職業的(進路)発達にかかわる諸能力の育成の視点から‐」を作成し、提案している。
このように、キャリア教育をめぐって、様々な動きがある中で、キャリア教育報告書が出されたのである。キャリア教育報告書は、キャリア教育を推進する観点から、子どもたちの成長・発達や進路を取り巻く今日の新たな状況を踏まえ、生涯にわたるキャリアを形成していく基盤を培う場として特に重要な意味を持つ、初等中等教育におけるキャリア教育の基本的な方向等について総合的に検討・審議しまとめられたものである。キャリア教育報告書の内容については、キャリア教育が求められる背景や意義を明らかにしながら、キャリア教育の多様な受け止め方や「進路指導」、「職業教育」との関係についても、できる限り整理するよう努めている。これは、今後、学校教育においてキャリア教育を推進していく際には、関係者がキャリア教育の目標や趣旨等について適切な意味付けや解釈を共有する必要があるからである。
今教育の場で重要なことは、子どもたちを取り巻く環境や子どもたち自身の姿から、改めてその発達課題を明らかにし、子どもたち一人一人がその課題の達成を通して、将来、社会人・職業人として自立していくために必要な能力や態度を身に付けるということではないだろうか。つまり、キャリア教育には、子どもたちが身に付けた能力や態度を、自己の現在及び将来の選択や生き方にどのように生かしていくかという、これまでの教育では視野に入れられることの少なかった視点に立って学校教育の在り方を改善していくことが求められているのである。これからを生きる子どもたちが「不安の時代」とどう向き合い、将来への希望を持つことができるか、ここにキャリア教育が求められる意味があるのではないだろうか。そして、このことは、子どもたちにとって最も身近な社会人・職業人である保護者や教員はもちろんのこと、すべての大人が自己の在り方生き方について問われているのである。いわば、社会全体が子どもたちとどのようにかかわっていくかということにかかっているのである。
本県は、平成7年に「いじめによる中学生自殺事件」、平成9年に「夏季休業中出校日の登校途中の児童誘拐殺傷事件」が発生したことを契機として、それまで以上に生徒指導の充実や児童生徒の安全確保等に関する取組を推進してきた。
その取組の充実に向けては、文部科学省の生徒指導推進事業を積極的に活用した取組を含め、生徒指導上の諸問題の解決に向けた次のような県独自の事業を展開してきた。
本県独自の不登校対応として平成14年度から「マンツーマン方式」を実施している。
これは、学校内の指導体制を整えた上、学級担任にこだわらず不登校児童生徒(不登校傾向の児童生徒を含む)と最も信頼関係できている教師が担当者となって、その子の状態に応じたきめ細やかな対応を組織的・継続的に行うものである。(下図参照)
この結果、「登校できるようになった」「登校には至らなかったが好ましい変化があった」の解消・改善率は、平成13年度の問題行動統制と指導上の諸問題に関する実態調査」時と比較し、下表のとおり年々高い数値を示している。
小学校 | 中学校 | |
---|---|---|
平成13年度 | 42.8% | 36.4% |
平成14年度 | 57.1% | 44.2% |
平成15年度 | 66.0% | 61.2% |
また、このマンツーマン方式と併用して平成15年度末からは、中1不登校問題の解決に向けて、小学校に対して4~6学年の欠席日数(病欠・事故欠を含む)・保健室等登校日数・遅刻早退日数等の資料を作成し、年度末の小・中連絡会時に中学校と情報交換することとしている。中学校に対しては「年度末までに行うこと」「小・中連絡会及び学年末休業中における対応」「新年度における対応」に分けて、具体的な対応方策を示し、中1不登校を生まない早期発見・早期対応のための適切な指導体制整備を指導している。
平成7年度からスクールカウンセラー(以下SC)の派遣事業が始まった。本県では、並行してSC配置校以外やSC配置校での集中的・継続的な緊急対応への対処のために、方策を整えてきた経過がある。
まず、平成11年度に各教育事務所に4時間×36回対応のスーパーバイザー(SCの指導的立場・SC兼任)を配置し、心の教室相談員や各機関の相談員関係者等の研修会・事例研究会等でも活用していった。
その後、事件・事故に伴う被害者・加害者にとどまらず、関係児童生徒・職員に対する緊急対応要請の増加に伴い、平成13年度から、週12時間活用のSCを各教育事務所に1人ずつ配置し、そのうちの4時間を緊急対応的活用としている。つまり、各教育事務所ごとに緊急対応的な活用も含めて4時間×35週分を確保してきた。
なお、その配当時間を年度中に活用してしまった後に緊急対応の必要が生じた場合は、市町村教育委員会の経費によるSC要請が可能になるよう支援体制の整備を行ってきた。
本県は昭和52年から改訂を繰り返しながら県独自の実態調査〔月例報告〕を継続し、各小中学校が市町村教育委員会・教育事務所を通じて、毎月報告するシステムを確立している。報告の内容は、文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導指導上の諸問題に関する実態調査」の「暴力行為」「いじめ」「不登校」の項目に、「薬物乱用」「性非行」「家出」「学級の荒れ(いわゆる学級崩壊)」を付加したものである。
このことにより、生徒指導上の幅広い視点での情報収集と学校・地域への迅速・適切な指導・支援が可能になるとともに、報告に関する効率化が図れた。
なお、不登校・いじめ・学級の荒れについては、各関係児童生徒及び各事案ごとに資料を作成し、その状況が解決するまで継続して報告するシステムを整えている。県としても毎月政令市・教育事務所ごとに集計をして実情を把握するとともに、毎月定例の生徒指導担当の指導主事連絡会議において適宜情報提供を行っている。
このことについては、人間関係づくりの取組を推進する「ピア・サポート活動推進事業」、学校に行かないタイプの不登校生徒に対する長期宿泊体験活動である「青少年の愛と夢を育む体験活動(L&D事業)」、年末年始を除く全日24時間(土日・祝祭日を含む)児童生徒の相談に応じる「子どもホットライン24」、中学校での校内適応指導教室の在り方を探る「サポート教室実践モデル校」などがある。
また、周知・推進・啓発を目途として作成・配布した冊子等としては、「いじめの早期発見・指導のための手引き」「積極的生徒指導Q&A」「望ましい学級経営の手引」「生徒指導・相談活動に生かす法律知識」などがあり、来年度の全中学校スクールカウンセラー配置に向けて、今年度末には「学校の教育相談機能を高めるスクールカウンセラーの効果的活用」を配布するようにしている。
現在、今後の生徒指導推進に関して県教育委員会が方向性を示し、その方策等を具体化するために検討を要する中期的課題を明確にして、その課題解決のためのスケジュールや推進のための仕組みを明確にした説明文・推進構想図を作成している。
本県県立高等学校における中途退学者の状況は、平成12年度に中途退学者数及び中退率ともに過去最高となり大変憂慮すべき状況にあったが、徐々に減少傾向に転じ平成15年度はより低い水準となっている。(平成12年:2,537人【2.63%】から平成15年:1,564人【1.78%】)
本県としては、中途退学をはじめさまざまな生徒指導上の諸課題に対応するため、各種の施策を講じているところであるが、特に効果のあった取組としては、次のような事業が挙げられる。
また、中途退学者に対する進路支援については、各学校において、中退後1年間は、担任を中心として生徒の相談に応じるなどしているところですが、県教育委員会としても平成13年度から中途退学者に対する進路支援として、コース・アシスト・カード(葉書)を作成し、大検、入試、就職などの進路情報を提供している。
今後も、夢や希望を抱いて入学してきた生徒が、意欲的な高校生活を送ることができるよう、中途退学未然防止に効果のあった各学校の取組状況を紹介するなどして、各学校を指導していくこととしている。
なお、福岡県教育委員会教育振興部高校教育課では、独自のメールマガジンを実施しておりますので、紹介いたします。福岡県では、これを全県立高校に配信し、学校によっては全ての教員が情報共有を行っている状態です。
今日、少子高齢社会の到来や産業・経済の構造的変化、雇用形態の多様化・流動化などを背景として、将来への不透明さが増幅しており、就職・進学を問わず、子どもたちの進路を巡る環境は大きく変化しています。
また、その一方で、職業の選択や決定を先送りし、進路意識や目的意識が希薄なまま「とりあえず」進学したり、せっかく就職しても長続きせず、早期に離職したり、安易にフリーターを選択したりする若者が増加するなど、若者の勤労観、職業観の未熟さや社会人・職業人としての基礎的資質・能力の低下を指摘する声に加え、特に最近は、就労もせず、就学もせず、訓練を受けていない「ニート」(Not inEmployment,Education orTraining)と呼ばれる若者の存在も指摘されるようになっています。
こうした状況の下、今後の我が国を支えていく子どもたちが、激しい社会の変化に対応していく能力、主体的に自己の進路を選択・決定できる能力、明確な目的意識を持って日々の学業生活に取り組む姿勢、しっかりとした勤労観、職業観を身に付けられるよう、キャリア教育を充実することが今まさに求められています。
このことは、政府全体で取り組んでいくべき課題であるという観点から、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、経済財政政策担当大臣の関係4大臣により、教育・雇用・経済政策の一層の連携強化による総合的な人材育成対策として「若者自立・挑戦プラン」が平成15年6月に取りまとめられましたが、それを具体化するための施策として、文部科学省では平成16年度から「新キャリア教育プラン推進事業」を実施しています。その概要は以下のとおりです。
(1)「新キャリア教育プラン推進事業(PDF:183KB」)は1.インターンシップ連絡協議会、2.キャリア教育推進フォーラム、3.キャリア教育推進地域指定事業、の3つの内容から構成されています。
(2)平成16年度のキャリア教育推進フォーラムについては、平成16年11月13日に山口県で、12月18日に東京都でそれぞれ開催しました。山口会場においては、渡辺三枝子氏(筑波大学教授)による基調講演「キャリア教育が求められる背景とその意義について」に続いて、星野正義氏(富山県教育委員会学校教育課主任指導主事)から「社会に学ぶ『14歳の挑戦』事業」について、橋本雅子氏(京都教育大学附属京都中学校教頭)から「キャリア教育を中核にすえた小中一貫カリキュラム」についてそれぞれ事例発表をいただきました。その後、『各学校段階におけるキャリア教育の取組とその課題』と題したシンポジウムが行われました。(シンポジスト:大木至氏(山口県立高森高等学校教頭)、鹿嶋研之助氏(千葉商科大学教授)、阪野房義氏(桑名商工会議所事務局長)、白木みどり氏(松任市立北星中学校教諭)、三川俊樹氏(追手門学院大学教授))
また、東京会場においては、渡辺三枝子氏による基調講演に続き、西田健次郎氏(兵庫県教育委員会義務教育課指導主事)から、「地域に学ぶ『トライやる・ウィーク』」について、また、工藤榮一氏(沼津市立原東小学校長)から、「小学校におけるキャリア教育の実践 ‐実践の2年目‐」について、それぞれ事例発表をいただき、続いて、鹿嶋研之助氏(千葉商科大学教授)、高橋妃彩子氏(渋谷区立笹塚小学校長)、中村正子氏(厚生労働省職業安定局若年者雇用対策室室長補佐)、中許善弘氏(ジュニア・アチーブメント本部専任理事)、藤川喜久男氏(所沢市立所沢中学校教頭)によるシンポジウムが行われました。なお、東京会場の模様はビデオ録画されており、2月中旬頃を目途に、独立行政法人教員研修センターのホームページ上で視聴できる予定です。
(3)また、キャリア教育推進地域指定事業については、各都道府県の特定の地域において小学校・中学校・高等学校をそれぞれ3校程度ずつ、計9校程度を選定して、1.小学校、中学校、高等学校を通じた、組織的・系統的なキャリア教育を行うための指導方法・指導内容の開発、2.産業や雇用等の現実を学び、勤労観、職業観を身に付けさせるためのキャリア・アドバイザーの確保及びその活用の在り方、3.学校・産業界・関係行政機関等による職場体験活動推進のためのシステムづくり、4.キャリア教育の意義・必要性についての保護者・企業等への効果的な啓発の在り方等について実践研究に取り組んでもらうこととしています。指定期間は3年間で平成16年度は別表(平成16、17、18年度キャリア教育推進地域指定事業推進地域一覧)の地域が研究に取組んでいます。
文部科学省としては、これらの施策の実施を通じて、児童生徒の発達段階に応じたキャリア教育の推進に努めていきたいと考えています。
少年非行の現状については、平成15年に警察が検挙した刑法犯少年は前年並みですが、全刑法犯検挙人員に占める少年の割合はおよそ4割にも達しています。また、その内容も、凶悪犯がここ数年高水準で推移しているほか、国民の身近な犯罪である路上強盗やひったくりなどいわゆる街頭犯罪における検挙人員の約7割を少年が占めています。
また、平成15年7月には、沖縄県で中学生が加害者となった殺人事件、長崎県で中学生による幼児誘拐殺人事件が立て続けに発生し、平成16年6月には長崎県佐世保市において小学校6年生児童が学校内において同級生を殺害する事件が発生するなど、少年が加害者となる社会を震撼させる事件が続発し、少年の非行防止問題が大きな社会問題として取り上げられています。
その一方で、平成16年11月の奈良県少女誘拐殺人事件の発生をはじめ児童生徒を中心とする少年が被害者となった犯罪被害の認知件数も高水準で推移しており、特に凶悪犯や性犯罪、また、いわゆる出会い系サイトを利用した児童買春事犯などの少年の徳性を害する犯罪の被害に遭う少年の数が増加するなど、少年が被害者となる事件の多発も大きな社会問題となっています。
非行防止教室については、以上のような少年の問題行動の現状にかんがみ、少年の非行防止及び問題行動抑止を目的として、各学校、教育委員会、警察及び社会教育関係団体等の各関係者が連携しながら実施する教育・啓発活動であり、その必要性が高まっています。また、昨今、少年が加害者となるだけでなく被害者となる重大事件も多数発生していることから、非行防止教室に加え、学校及び警察等の関係機関が連携した、犯罪被害防止の取り組みもあわせて実施する必要性が高まっています。実際、各学校現場においては、非行防止教室を実施する際に、安全で安心できる学校環境の下で児童生徒が秩序を守りながら集団の中で切磋琢磨できるような規範意識の育成等を行うための教育・啓発活動を行うとともに、あわせて自分の身を自分で守る事ができるようなスキル等を身につけさせるために警察等の関係機関が連携した犯罪被害防止の取り組みを実施している事例も多く見受けられます。
また、政府においては、学校教育における規範意識を培う指導や、警察における少年サポートセンターを中心とした非行防止対策の推進などを図っているところですが、社会が一体となった一層の対策が求められる中、非行防止及び犯罪被害防止のための積極的な啓発活動を学校内外において展開する一層の取組が求められています。こうした状況を踏まえ、「青少年育成施策大綱(平成15年12月青少年育成推進本部決定)」や「犯罪に強い社会の実現のための行動計画‐「世界一安全な国、日本」の復活を目指して‐(平成15年12月犯罪対策閣僚会議決定)において、非行防止教室開催の推進等が明記されたところです。
非行防止教室等の効果としては、学校と警察等関係機関、保護者・地域との連携による非行防止教室等の推進により、子供の規範意識の向上、開かれた学校づくりの推進、学校と関係機関等との問題意識の共有化などが挙げられます。非行防止教室の実施状況としては、警察庁によれば、学校教育において平成15年に非行防止教室は14,719回実施されており、小学校で約22%、中学校で約40%が実施しているという状況です。上記のような非行防止教室の効果等を鑑みると、非行防止教室等の取組の一層の推進が重要であり、そのためには非行防止教室等に関する基本的なプログラムや留意事項等についての情報を積極的に発信していくことが求められます。
上記のような状況を踏まえ、文部科学省においては、警察庁と共同で「非行防止教室等プログラム事例集」を作成しました。本事例集は、学校と警察等の関係機関とが連携した非行防止教室の実施事例を紹介するとともに、その中で犯罪被害防止について取り扱っている事例も紹介することとしています。そして、子どもたちに社会のルールや自分の行動に責任を持つこと等の規範意識の醸成を図るとともに、犯罪に巻き込まれないようなスキル等を育成することを目的として、非行防止教室等に関わる先進的な取組事例を収集・紹介しながら、その実施の際の計画・指導上のポイント等をまとめたものであり、総論のほか、実践編と事例編に分かれています。
実践編は、実際に非行防止教室等を実施する際の指導・計画上のポイント等をまとめたものであり、学校においては教育課程への適切な位置づけや、警察等の関係機関との連携の方針、学校における指導体制などがあげられます。その他、教育委員会や警察等関係機関についてもポイントをまとめています。
事例編は、本事例集の実践編をより具体化するために、他校のモデルとなるような先進的な取組事例について収集・選択したものであす。事例のとりまとめにあたっては、児童生徒の非行防止教室への積極的な参画、学校・関係機関・家庭・地域の明確な役割分担、事前・事後指導との適切な関連付けなどが実施されているといった観点から事例を収集、整理し、それぞれの事例について取組のねらい、活動の流れの概要、教育課程への位置付け、実施までの経緯、事前の取組、非行防止教室等の開催、事後の取組などを内容として盛り込んでいます。事例編においては、児童生徒が非行を行うことを予防するための取組のほか、児童生徒が犯罪の被害者とならないために必要な知識やスキルを身に付けさせる取組、保護者への啓発を対象とした取組なども含まれています。
本事例集はあくまでも例示であるため、各学校や地域において非行防止教室等を実施する際にはそれぞれの実情や学校のねらいによって適切な内容を検討する必要がありますが、各教育委員会や学校において、本事例集を活用しつつ、関係機関と連携しながら学校内外で様々な非行防止教室等が開催されることが望ましいと考えております。
今回の事例集については、本日実施する「第2回都道府県・指定都市生徒指導担当指導主事連絡会議」において説明するとともに、文部科学省のホームページ上に掲載し、さらに、国・公・私立の全ての小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校・中等教育学校、都道府県及び市町村教育委員会、都道府県警察本部及び警察署、児童相談所や児童自立支援施設等関係機関に送付することを予定しております。今回の事例集の配布、説明及び活用等については、引き続き皆様のご協力を賜りたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
ピースメソッドは、生徒のストレスの要因となる人間関係や環境に焦点を当て、友人との関わりの場を教育活動全体の中で位置づけ、ストレスを減少させることによっていじめを防止することを狙いとする。プログラムの企画は、校長、教頭、教務主任、生徒指導主事、研究主任、学年主任、養護教諭、スクールカウンセラー等の教職員のほか、保護者代表や生徒代表も含め、「ピースメソッド委員会」を組織して行っている(2ヶ月に1回)。
なお、ピースメソッドと言う名称は、次の5つの段階(P、E、A、C、E)のプログラムから構成されている。
ピースメソッドは、一般化しずらい点もあるが、1.生徒や保護者等にアンケートを定期的に実施するなどして、生徒の状況をできるだけ把握し、その状況に応じた適切な指導を行うこと、2.アンケートの分析・対策の検討などを通じて教職員が共通認識を形成すること、3.スローガンの設定や成果発表会の実施等を通じて学校及び保護者にいじめ防止の意識を行き渡らせること、4.学校を楽しめる行事等を適宜実施するなどを通じて、生徒のストレスを軽減する工夫となりうること等評価できる点は多い。
※ 注:「ピース・メソッド」について
「ピース・メソッド」とは、オーストラリアのいじめ防止プログラムであるピース・パックを日本型に改良したもので、学校・学年を単位として1年~1年半をかけて、生徒指導上の諸問題に取り組む予防的な手法の一つとされる。
「ピース」とは、準備(Preparation)、教育(Education)、行動(Action)、対処(Coping)、評価(Evaluation)の5段階の頭文字をとったものである。
校長のリーダーシップの不足、担任による抱え込み、教職員の意識のマンネリ化、生徒指導上の課題に関する共有の不足などが指摘されていることから、これらの学校の問題を改善し、教職員が一致協力した生徒指導体制を構築するとともに、いじめの背景に子供たちのストレス状況が大きく関わっていることから、そのストレスの改善を通じ、いじめの減少を図ることをねらいとする。
(全てを記載しているわけではありませんので、必ず正式文書で確認をお願いします。)
今回は特になし。
初等中等教育局児童生徒課
-- 登録:平成21年以前 --