学習指導要領「生きる力」

「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について【中央教育審議会答申】」(平成20年1月17日)(抄)

5.学習指導要領改訂の基本的な考え方

(4)思考力・判断力・表現力等の育成

○3.で示した子どもたちの学力に関する各種の調査の結果は、いずれも知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等に課題があることを示している。今回の改訂においては、各学校で子どもたちの思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむために、まず、各教科の指導の中で、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述といったそれぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を充実させることを重視する必要がある。各教科におけるこのような取組があってこそ総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活動も充実するし、各教科の知識・技能の確実な定着にも結び付く。このように、各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は、決して一つの方向で進むだけではなく、例えば、知識・技能の活用や探究がその習得を促進するなど、相互に関連し合って力を伸ばしていくものである。

○現在の各教科の内容(※1)、PISA調査の読解力や数学的リテラシー、科学的リテラシーの評価の枠組み(※2)などを参考にしつつ、言語に関する専門家などの知見も得て検討した結果、知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには、例えば、以下のような学習活動が重要であると考えた。このような活動を各教科において行うことが、思考力・判断力・表現力等の育成にとって不可欠である。

  1. 体験から感じ取ったことを表現する
    (例)・日常生活や体験的な学習活動の中で感じ取ったことを言葉や歌、絵、身体などを用いて表現する
  2. 事実を正確に理解し伝達する
    (例)・身近な動植物の観察や地域の公共施設等の見学の結果を記述・報告する
  3. 概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする
    (例)・需要、供給などの概念で価格の変動をとらえて生産活動や消費活動に生かす
       ・衣食住や健康・安全に関する知識を活用して自分の生活を管理する
  4. 情報を分析・評価し、論述する
    (例)・学習や生活上の課題について、事柄を比較する、分類する、関連付けるなど考えるための技法を活用し、課題を整理する
       ・文章や資料を読んだ上で、自分の知識や経験に照らし合わせて、自分なりの考えをまとめて、A4・1枚(1000字程度)といった所与の条件の中で表現する
       ・自然事象や社会的事象に関する様々な情報や意見をグラフや図表などから読み取ったり、これらを用いて分かりやすく表現したりする
       ・自国や他国の歴史・文化・社会などについて調べ、分析したことを論述する
  5. 課題について、構想を立て実践し、評価・改善する
    (例)・理科の調査研究において、仮説を立てて、観察・実験を行い、その結果を整理し、考察し、まとめ、表現したり改善したりする
       ・芸術表現やものづくり等において、構想を練り、創作活動を行い、その結果を評価し、工夫・改善する
  6. 互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる
    (例)・予想や仮説の検証方法を考察する場面で、予想や仮説と検証方法を討論しながら考えを深め合う
       ・将来の予測に関する問題などにおいて、問答やディベートの形式を用いて議論を深め、より高次の解決策に至る経験をさせる

○これらの学習活動の基盤となるものは、数式などを含む広い意味での言語であり、その中心となるのは国語である。しかし、だからといってすべてが国語科の役割というものではない。それぞれに例示した具体の学習活動から分かるとおり、理科の観察・実験レポートや社会科の社会見学レポートの作成や推敲、発表・討論などすべての教科で取り組まれるべきものであり、そのことによって子どもたちの言語に関する能力は高められ、思考力・判断力・表現力等の育成が効果的に図られる。
  このため、学習指導要領上、各教科の教育内容として、これらの記録、要約、説明、論述といった学習活動に取り組む必要があることを明示すべきと考える。

○その際、生命やエネルギー、民主主義や法の支配といった各教科の基本的な概念などの理解は、これらの概念等に関する個々の知識を体系化することを可能とし、知識・技能を活用する活動にとって重要な意味をもつものであり、教育内容として重視すべきものとして、適切に位置付けていくことが必要である。

○思考力・判断力・表現力等の基盤となる言語の能力の育成に当たっても、発達の段階に応じた指導が重要である。幼児期から小・中・高等学校へと発達の段階が上がるにつれて、具体と抽象、感覚と論理、事実と意見、基礎と応用、習得と活用と探究など、認識や実践ができるものが変化してくる。
  このため、小学校の低・中学年の国語科において、音読や漢字の読み書き、暗唱などにより基本的な国語の力を定着させるとともに、古典の暗唱などにより、言葉の美しさやリズムを体感させた上で、小・中・高等学校を通じ、国語科のみならず各教科等において、記録、要約、説明、論述といった言語活動を発達の段階に応じて行うことが重要である(※3)。

7.教育内容に関する主な改善事項

(1)言語活動の充実

○各教科等における言語活動の充実は、今回の学習指導要領の改訂において各教科等を貫く重要な改善の視点である。
  それぞれの教科等で具体的にどのような言語活動に取り組むかは8.で示しているが、国語をはじめとする言語は、知的活動(論理や思考)だけではなく、5.(7)の第一で示したとおり、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。
  このため、国語科において、これらの言語の果たす役割に応じ、的確に理解し、論理的に思考し表現する能力、互いの立場や考えを尊重して伝え合う能力を育成することや我が国の言語文化に触れて感性や情緒をはぐくむことを重視する。具体的には、特に小学校の低・中学年において、漢字の読み書き、音読や暗唱、対話、発表などにより基本的な国語の力を定着させる。また、古典の暗唱などにより言葉の美しさやリズムを体感させるとともに、発達の段階に応じて、記録、要約、説明、論述といった言語活動を行う能力を培う必要がある。

○各教科等においては、このような国語科で培った能力を基本に、知的活動の基盤という言語の役割の観点からは、例えば、

  • 観察・実験や社会見学のレポートにおいて、視点を明確にして、観察したり見学したりした事象の差異点や共通点をとらえて記録・報告する(理科、社会等)
  • 比較や分類、関連付けといった考えるための技法、帰納的な考え方や演繹的な考え方などを活用して説明する(算数・数学、理科等)
  • 仮説を立てて観察・実験を行い、その結果を評価し、まとめて表現する(理科等)

など、それぞれの教科等の知識・技能を活用する学習活動を充実することが重要である。

  また、コミュニケーションや感性・情緒の基盤という言語の役割に関しては、例えば、

  • 体験から感じ取ったことを言葉や歌、絵、身体などを使って表現する(音楽、図画工作、美術、体育等)
  • 体験活動を振り返り、そこから学んだことを記述する(生活、特別活動等)
  • 合唱や合奏、球技やダンスなどの集団的活動や身体表現などを通じて他者と伝え合ったり、共感したりする(音楽、体育等)
  • 体験したことや調べたことをまとめ、発表し合う(家庭、技術・家庭、特別活動、総合的な学習の時間等)
  • 討論・討議などにより意見の異なる人を説得したり、協同的に議論して集団としての意見をまとめたりする(道徳、特別活動等)

  などを重視する必要がある。

○5.(2)でも述べたとおり、各教科等におけるこのような言語活動の充実に当たっては、特に教科担任制の中・高等学校の国語科以外の教師が、その必要性を十分に理解することが重要である。そのためには、学校が各教科等の指導計画にこれらの言語活動を位置付け、各教科等の授業の構成や進め方自体を改善する必要がある。

○なお、このように各教科等における言語活動を行うに当たっては、これらの学習活動を支える条件として次のような点に特に留意する必要がある。
  第一は、語彙を豊かにし、各教科等の知識・技能を活用する学習活動を各教科等で行うに当たっては、教科書において、このような学習に子どもたちが積極的に取り組み、言語に関する能力を高めていくための工夫が凝らされることが不可欠である。また、特に国語科においては、言語の果たしている役割に応じた適切な教材が取り上げられることが重要である。
  第二に、読書活動の推進である。言語に関する能力をはぐくむに当たっては、読書活動が不可欠である。学校教育においては、例えば、国語科において、小学校では、児童が日常的に読書に親しむための指導内容を、中学校においては生徒の読書をより豊かなものにするための指導内容をそれぞれ位置付けるなど、各教科等において、発達の段階を踏まえた指導のねらいを明確にし、読書活動を推進することが重要である。もちろん、読書習慣の確立に当たっては家庭の役割が大きい。学校、家庭、地域を通じた読書活動の一層の充実が必要である。
  第三は、学校図書館の活用や学校における言語環境の整備の重要性である。言語に関する能力の育成に当たっては、辞書、新聞の活用や図書館の利用などについて指導し、子どもたちがこれらを通して更に情報を得、思考を深めることが重要である。また、様々なメディアの働きを理解し、適切に利用する能力を高めることも必要である。


(※1)現行学習指導要領の小学校の理科は、第3学年は「比較」、第4学年は「関係付け」、第5学年は「条件制御」、第6学年は「多面 的な追究」などそれぞれの学年ではぐくむべき科学的な見方や考え方を明確にしている。
(※2)PISA調査では、それぞれの領域で、思考のプロセスを、
 ・読解力は、「情報の取り出し」、「テキストの解釈」、「熟考・評価」、
 ・科学的リテラシーは、「科学現象の描写、説明、予測」、「科学的調査の理解」、「科学的証拠と結論の解釈」、
 ・数学的リテラシーは、「再現クラスター」、「関連付けクラスター」、「熟考クラスター」、
に分けて測定している。
(※3)例えば、理科では、
 ・小学校中学年では、植物の観察などにおいて、問題意識や見通しをもちながら視点を明確にして、差異点や共通点をとらえ記録・表現する、
 ・小学校高学年では、ものの溶け方などにおいて、条件や規則性に着目して事象を説明する、
 ・中学校から高等学校の段階では、観察・実験の結果や状況により資料等を加え考察し、科学的な概念を理解し、実証性・再現性・客観性などの視点から評価、論述したり、討論する、
といった発達の段階に応じた言語活動が考えられる。

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-- 登録:平成23年01月 --