○3.で示した子どもたちの学力に関する各種の調査の結果は、いずれも知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等に課題があることを示している。今回の改訂においては、各学校で子どもたちの思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむために、まず、各教科の指導の中で、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述といったそれぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を充実させることを重視する必要がある。各教科におけるこのような取組があってこそ総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活動も充実するし、各教科の知識・技能の確実な定着にも結び付く。このように、各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は、決して一つの方向で進むだけではなく、例えば、知識・技能の活用や探究がその習得を促進するなど、相互に関連し合って力を伸ばしていくものである。
○現在の各教科の内容(※1)、PISA調査の読解力や数学的リテラシー、科学的リテラシーの評価の枠組み(※2)などを参考にしつつ、言語に関する専門家などの知見も得て検討した結果、知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには、例えば、以下のような学習活動が重要であると考えた。このような活動を各教科において行うことが、思考力・判断力・表現力等の育成にとって不可欠である。
○これらの学習活動の基盤となるものは、数式などを含む広い意味での言語であり、その中心となるのは国語である。しかし、だからといってすべてが国語科の役割というものではない。それぞれに例示した具体の学習活動から分かるとおり、理科の観察・実験レポートや社会科の社会見学レポートの作成や推敲、発表・討論などすべての教科で取り組まれるべきものであり、そのことによって子どもたちの言語に関する能力は高められ、思考力・判断力・表現力等の育成が効果的に図られる。
このため、学習指導要領上、各教科の教育内容として、これらの記録、要約、説明、論述といった学習活動に取り組む必要があることを明示すべきと考える。
○その際、生命やエネルギー、民主主義や法の支配といった各教科の基本的な概念などの理解は、これらの概念等に関する個々の知識を体系化することを可能とし、知識・技能を活用する活動にとって重要な意味をもつものであり、教育内容として重視すべきものとして、適切に位置付けていくことが必要である。
○思考力・判断力・表現力等の基盤となる言語の能力の育成に当たっても、発達の段階に応じた指導が重要である。幼児期から小・中・高等学校へと発達の段階が上がるにつれて、具体と抽象、感覚と論理、事実と意見、基礎と応用、習得と活用と探究など、認識や実践ができるものが変化してくる。
このため、小学校の低・中学年の国語科において、音読や漢字の読み書き、暗唱などにより基本的な国語の力を定着させるとともに、古典の暗唱などにより、言葉の美しさやリズムを体感させた上で、小・中・高等学校を通じ、国語科のみならず各教科等において、記録、要約、説明、論述といった言語活動を発達の段階に応じて行うことが重要である(※3)。
○各教科等における言語活動の充実は、今回の学習指導要領の改訂において各教科等を貫く重要な改善の視点である。
それぞれの教科等で具体的にどのような言語活動に取り組むかは8.で示しているが、国語をはじめとする言語は、知的活動(論理や思考)だけではなく、5.(7)の第一で示したとおり、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。
このため、国語科において、これらの言語の果たす役割に応じ、的確に理解し、論理的に思考し表現する能力、互いの立場や考えを尊重して伝え合う能力を育成することや我が国の言語文化に触れて感性や情緒をはぐくむことを重視する。具体的には、特に小学校の低・中学年において、漢字の読み書き、音読や暗唱、対話、発表などにより基本的な国語の力を定着させる。また、古典の暗唱などにより言葉の美しさやリズムを体感させるとともに、発達の段階に応じて、記録、要約、説明、論述といった言語活動を行う能力を培う必要がある。
○各教科等においては、このような国語科で培った能力を基本に、知的活動の基盤という言語の役割の観点からは、例えば、
など、それぞれの教科等の知識・技能を活用する学習活動を充実することが重要である。
また、コミュニケーションや感性・情緒の基盤という言語の役割に関しては、例えば、
などを重視する必要がある。
○5.(2)でも述べたとおり、各教科等におけるこのような言語活動の充実に当たっては、特に教科担任制の中・高等学校の国語科以外の教師が、その必要性を十分に理解することが重要である。そのためには、学校が各教科等の指導計画にこれらの言語活動を位置付け、各教科等の授業の構成や進め方自体を改善する必要がある。
○なお、このように各教科等における言語活動を行うに当たっては、これらの学習活動を支える条件として次のような点に特に留意する必要がある。
第一は、語彙を豊かにし、各教科等の知識・技能を活用する学習活動を各教科等で行うに当たっては、教科書において、このような学習に子どもたちが積極的に取り組み、言語に関する能力を高めていくための工夫が凝らされることが不可欠である。また、特に国語科においては、言語の果たしている役割に応じた適切な教材が取り上げられることが重要である。
第二に、読書活動の推進である。言語に関する能力をはぐくむに当たっては、読書活動が不可欠である。学校教育においては、例えば、国語科において、小学校では、児童が日常的に読書に親しむための指導内容を、中学校においては生徒の読書をより豊かなものにするための指導内容をそれぞれ位置付けるなど、各教科等において、発達の段階を踏まえた指導のねらいを明確にし、読書活動を推進することが重要である。もちろん、読書習慣の確立に当たっては家庭の役割が大きい。学校、家庭、地域を通じた読書活動の一層の充実が必要である。
第三は、学校図書館の活用や学校における言語環境の整備の重要性である。言語に関する能力の育成に当たっては、辞書、新聞の活用や図書館の利用などについて指導し、子どもたちがこれらを通して更に情報を得、思考を深めることが重要である。また、様々なメディアの働きを理解し、適切に利用する能力を高めることも必要である。
(※1)現行学習指導要領の小学校の理科は、第3学年は「比較」、第4学年は「関係付け」、第5学年は「条件制御」、第6学年は「多面 的な追究」などそれぞれの学年ではぐくむべき科学的な見方や考え方を明確にしている。
(※2)PISA調査では、それぞれの領域で、思考のプロセスを、
・読解力は、「情報の取り出し」、「テキストの解釈」、「熟考・評価」、
・科学的リテラシーは、「科学現象の描写、説明、予測」、「科学的調査の理解」、「科学的証拠と結論の解釈」、
・数学的リテラシーは、「再現クラスター」、「関連付けクラスター」、「熟考クラスター」、
に分けて測定している。
(※3)例えば、理科では、
・小学校中学年では、植物の観察などにおいて、問題意識や見通しをもちながら視点を明確にして、差異点や共通点をとらえ記録・表現する、
・小学校高学年では、ものの溶け方などにおいて、条件や規則性に着目して事象を説明する、
・中学校から高等学校の段階では、観察・実験の結果や状況により資料等を加え考察し、科学的な概念を理解し、実証性・再現性・客観性などの視点から評価、論述したり、討論する、
といった発達の段階に応じた言語活動が考えられる。
初等中等教育局教育課程課教育課程企画室
-- 登録:平成23年01月 --