1.義務教育教科書無償給与制度の趣旨
義務教育教科書無償給与制度は、憲法第26条に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現するものとして、我が国の将来を担う児童・生徒に対し、国民全体の期待をこめて、その負担によって実施されています。
教科書無償は、義務教育無償という理念のもとに広く世界中で行われていますが、殊に我が国においては、教科書の役割の重要性から、その使用義務が法律で定められており、就学義務と密接なかかわりのあるものとして、授業料の不徴収に準じて教科書を無償給与すべきことと考えられます。
また、この制度は、次代を担う児童・生徒の国民的自覚を深め、我が国の反映と福祉に貢献してほしいという国民全体の願いをこめて行われているものであり、同時に教育費の保護者負担を軽減するという効果をもっています。
2.義務教育教科書無償給与制度の実施の経緯
この制度は、「
義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年3月31日公布、同年4月1日施行)及び「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(昭和38年12月21日公布、同日施行)に基づき、昭和38年度に小学校第1学年について実施され、以後、学年進行方式によって毎年拡大され、昭和44年度に、小・中学校の全学年に無償給与が完成し、現在に至っています。
今日では、制度実施以来36年を経過し、国民の間に深く定着しています。
3.無償給与の対象
教科書無償給与の対象となるのは、国・公・私立の義務教育諸学校の全児童・生徒であり、その使用する全教科の教科書です。
また学年の中途で転学した児童・生徒については、転学後において使用する教科書が転学前と異なる場合に新たに教科書が給与されます。
4.諸外国における無償制度の状況
諸外国における教科書無償制度の状況をみると、先進諸国においてはもちろんのこと、その他の国々においても無償制とするものが大勢を占めています(
表7参照)。
ただし、無償制をとる国の中には、それぞれの国における教科書の在り方の違いなどから、貸与制をとる国と給与制をとる国がありますが、いずれにしても、保護者に教科書費用の負担を課していません。
無償制の国(20か国)
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有償制の国(4か国)
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アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、
イタリア、オーストリア、オランダ、
ギリシャ、スイス、スウェーデン、
デンマーク、ドイツ、ノルウェー、
フランス、ベルギー、ロシア連邦、
韓国、フィリピン、インド、
スリランカ、オーストラリア
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スペイン、中国、トルコ、ブラジル
(注)ただし、貧困家庭の児童に対する無償制をとる国がある。
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○「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年法律第60号)の提案理由(抄)
教育の目標は、わが国土と民族と文化に対する愛情をつちかい、高い人格と識見を身につけて、国際的にも信頼と敬愛をうけるような国民を育成することにあると思います。世の親に共通する願いも、意識すると否とにかかわらず、このような教育を通じて、わが子が健全に成長し、祖国の繁栄と人類の福祉に貢献してくれるようになることにあると思うのであります。この親の願いにこたえる最も身近な問題の一つとしてとりあげるところに、義務教育諸学校の教科書を無償とする意義があると信じます。
しかして義務教育諸学校の教科書は学校教育法の定めるところにより主要な教材としてその使用を義務づけられているものであります。
感じやすい学童の心に最も影響のあるこの教科書について、かつて各方面からいろいろの批判を受けましたことは御承知の通りでありますが、最近新しい学習指導要領が作られるに及び、日本人としての自覚を持たせるに足る教科書が刊行されるようになりました。
このように教科書は改善されつつありますが、政府は、昭和26年以降、小学校1年に入学した児童に対し、あるいは義務教育無償の理想の実現への一つの試みとして、あるいはまた、国民としての自覚を深め、その前途を祝う目的をもって、一部の教科書を無償給与したことがありますが、間もなく廃止されたことは御承知の通りであります。
今日では要保護、準要保護児童生徒合わせて120万人に対し無償交付が行われています。
そこで、このたび政府は、義務教育諸学校の教科書は無償とするとの方針を確立し、これを宣明することによって、日本国憲法第26条に掲げる義務教育無償の理想に向かって具体的に一歩を進めようとするものであります。
このことは、同時に父兄負担の軽減として最も普遍的な効果をもち、しかも児童生徒が将来の日本をになう国民的自覚を深めることにも、大いに役立つものであると信じます。又このことはわが国の教育史上、画期的なものであって、まさに後世に誇り得る教育施策の一つであると断言してはばかりません。
○「義務教育諸学校の教科用図書の無償給与制度に関する趣旨の徹底について」(文部省初等中等教育局長通知 文初管第106号 昭和58年1月21日 各都道府県知事・各都道府県教育委員会・義務教育諸学校を附置する各国立大学長・国立久里浜養護学校長あて)
義務教育諸学校の教科用図書の無償給与制度は、「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年法律第60号)及び「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(昭和38年法律第182号)に基づき、昭和38年度より行われているものであり、実施以来20年にわたり、我が国の学校教育を支える重要な施策として、その発展充実に大きな役割を果たしてきました。
しかしながら、最近、現下の厳しい財政状況等を背景に、義務教育諸学校の教科用図書の無償給与制度の趣旨、必要性など制度の基本にかかわる論議が行われ、その関連で、学校教育活動における教科用図書無償の意義の理解や教科用図書の取扱いについて種々の意見が出されております。
いうまでもなく、義務教育諸学校の教科用図書の無償給与制度の趣旨は、憲法第26条に定める義務教育無償の精神をより広く実現するものとして、我が国の将来を担う児童・生徒に対し、国民全体の期待をこめて、その負担によって実施しようとするものであります。
したがって、教科用図書の給与は、制度の趣旨を十分徹底させるため、入学式又は始業式の当日等において、校長がこの趣旨を説明して直接支給することが適切であるとされているのであります(「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律等の施行について」(昭和39年2月14日付け文部事務次官通達))。この際、改めてこの制度の趣旨に思いをいたし各学校においてはこのことを一層徹底し、児童・生徒に対する適切な指導が行われるようにするとともに、更に保護者に対してもこのような趣旨が理解されるような配慮が必要であります。 ついては、貴職におかれては、上記の点に留意の上、適切な教科用図書の取扱いについて、格段の配慮をお願いします。
また、貴管下の市町村教育委員会、学校法人理事長等に対し、この趣旨を徹底されるよう、併せて御配慮願います。
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