大阪市では,平成11年に「教育懇話会」を設置し,その提言をうけて「21世紀にはばたくなにわっ子」の育成を目指した「大阪市教育改革プログラム」を平成14年2月に策定した。「豊かな心の育成」「社会の変化に対応する教育」「大阪らしさを活かした教育」を重点目標に各種施策の充実と,学校園への支援体制の整備に取り組んできた。
平成15年から実施している「大阪市学力等実態調査」の結果をふまえ,子どもの個性や能力を伸ばす教育の実現を目指して,習熟度別小人数指導に取り組むため,人員配置,条件整備等を行った。さらに,習熟度別指導を効果的に推進するため,教育委員会内に「大阪市学力向上推進委員会」を設置し,「確かな学力の定着の取組み」「教師力向上の取組み」「家庭との連携」「全国学力・学習状況調査の分析と活用」について4部会を設置し研究をすすめてきている。
平成19年は「検証改善委員会」を設置し,全国学力・学習状況調査の分析結果を踏まえ,以下の5点を中心に学校改善支援プランをまとめた。そして,12月26日「学力向上シンポジウム」を開催し,教職員への周知を図った。
さらに,就学援助率が30%以上の学校が,小学校は全国の6倍,中学校は全国の9倍であり,子どもたちの生活背景が厳しい状況にある。このような本市の実態を踏まえ,就学援助率の高いグループの学校でありながら,一定の成果を上げている学校の取組みの検証をすすめた。大学教授をアドバイザーに学力向上検証推進チームを設置し,ケーススタディを行った。検証結果の分析と今後の方向性については,次年度へと引き継いだ。
学校が,全国学力・学習状況調査の結果を活用し,学校改善をすすめるための支援のあり方を検討し,1.返却された調査結果を簡単な操作で,児童生徒の学力・特徴が視覚的に把握できる「大阪市分析ソフト」を作成すること,2.学力を伸ばす効果的な取組みを検証し,広く周知することを重点的に取組むことにした。効果的な取組みの検証のために,昨年度ケーススタディの対象となった6校を調査活用協力校に指定するとともに,平成19年度と20年度の正答率を比較し,伸びが著しかった学校,及び全国学力・学習状況調査の結果を活かした学校改善システムの研究を行う「研究支援事業」に応募した学校を調査の対象とした。学力向上検証推進チームは,学校の視察(授業・行事),校長をはじめ,中心となる教員からの聞き取り,返却された全国学力・学習状況調査の分析を行った。
大阪市検証改善委員会(学力向上推進委員会)は,大阪市教育委員会指導部教育次長を代表者として,学識経験者,大阪市教育委員会,大阪市教育センターの指導主事,行政関係者の26名で構成している。
本委員会の他に,「大阪市分析ソフト」の作成や調査活用協力校を対象に学力を向上させる効果のある学校の取組みのケーススタディを行うために,大阪教育大学米川教授,滋賀大学川村光特任講師をアドバイザーとして,教育委員会,教育センターの指導主事を中心とした学力向上検証推進チームを編成した。
2名の大学教授と指導のもとに,教科別のレーダーチャートと,生徒質問紙を8つのカテゴリー(1.学力テストの取組み方,2.生活習慣,3.自己イメージ,4.時間管理,5.家庭学習,6.自己外部への関心,7.規範意識,8.教科内容理解)に分類したレーダーチャートを作成した。
学力向上推進チームによるケーススタディの結果を分類し,学力を向上させる要因を調査活用協力校に共通してみられた8つの特徴として以下のように整理した。
1.学ぶ姿勢や学び方に秩序を作り出す。
外的な働きかけ以上に,内的な動機によって学習に秩序をつくることに成功している。“考える”取組みや,“思いやり”のある人間関係が,秩序を支えている。
2.基礎学力の定着をめざした授業の工夫。
魅力ある授業にするための教材・教具,学習集団のグループ編成など,多様な工夫を実施。また,目標を高めに設定し徹底した指導のもと「努力すればできる」というわかる喜びや達成感を感じさせることに成功している。
3.放課後等の時間に基礎学力の定着の取組みを実施。
朝の始業前の時間や昼休み,放課後を有効に活用している。過度な負担を感じず,子どもたちが進んで取組める工夫に成功している。「できた喜び」を感じ,「わかりたい」という気持ちを育んでいる。
4.表現力を伸ばす場を積極的に作る。
授業や行事など,表現する場を作り出すことに成功している。表現することは,子どもの思考を高める働きがある。加えて,表現活動は他者からの賞賛を得ることにつながり,子どもたちの自己効力感を高め,より質の高い表現活動へとつながる。
5.子どもの主体的な活動を重視。
子どもたちが自分で考え,行動していく過程を教職員が上手にサポートしている。なかまがいきいきと活躍する姿を見て,自分もそうなりたいという気持ちを育てることに成功している。
6.地域や保護者等の力を活用。
教職員と保護者や地域の方が,子どもの状況を共有し,おとな同士が信頼できる関係をもち,教育活動を一緒に創りだすことに成功している。そうした信頼関係による子どもを見守る目が,子どもの安心感を育んでいる。
7.ていねいな指導をねばり強く継続。
“あたりまえのこと”を工夫しながらていねいに指導している。気持ちよくほめながら,子どもとの信頼関係を築き,安心感やがんばろうという意欲を育んでいる。
8.教職員のチームワークを重視している。
学校の教育課題を共有することや,子どもたちの活動を他の教職員が理解し,気持ちよくほめることに成功している。“ぶれない”指導や子ども理解が,子どもの安心感や信頼感,自己受容感を育んでいる。
9月26日付けで,各学校に「大阪市分析ソフト」(CD/ROM)と「大阪市分析ソフト」操作・活用の手引きを送付した。
また,9月18日,全市の小学校・中学校の校長に対して,滋賀大学川村特任講師から「大阪市分析ソフトの活用について」と題して講演を行い,有効な活用方法の周知を行った。
平成20年12月6日に「大阪市教育改革フォーラム2008」を実施した。学力向上検証推進チームを中心に効果のある学校の検証結果をまとめ,大阪教育大学米川教授が全市の教職員に報告を行った。
また,検証してきた8つの共通する取組みを記載したリーフレット「学力を伸ばす“効果のある学校”の取組み~ActionPlan&MyPlan」を作成した。(図参照)
平成21年2月27日に,全市の校長を対象に「学力を伸ばす“効果のある学校”」と題して,滋賀大学の川村特任講師が講演し,校長のリーダーシップのもとに学力向上を目指して,学校改善をすすめる方策について研修を実施した。リーフレットは平成21年4月1日に,全市の小学校・中学校教員すべてに配布した。
平成20年度全国学力・学習状況調査における大阪市の結果から課題を6つに整理した。
これらの課題を踏まえて,「大阪市学力向上強化戦略」として平成21年度は以下の施策を推進することを決定した。
今後「大阪市学力向上強化戦略」における施策の有効活用を促進し,「学力を伸ばす“効果のある学校”の取組み~ActionPlan&MyPlan」の具体化を検証していくことが課題である。
1.習熟度別小人数授業の拡大
2.言語力の育成
3.学習の場や教材の提供
4.教師力の向上
5.家庭・地域と一体となった取組み
6.学力向上アクションプランの策定
図:リーフレット
「学力を伸ばす“効果のある学校”の取組み」
~Action Plan & My Plan~
花乃井中学校では,平成14年度に文部科学省の「学力向上フロンティアスクール」及び,大阪市教育委員会「個性が輝く学校づくり推進事業研究校」に指定されたことを機に,2学期制の導入,学校行事の見直しによる授業時数の確保や,少人数授業・習熟度別授業の導入など授業方法の研究を通して,「子どもが意欲・関心を持って学ぶ学校づくり」の研究を行った。また,平成18年度からは「学校評価」にも取り組み,PDCAサイクルによる評価活動を実施し,教育活動や学校運営についての改善をすすめてきた。
花乃井中学校では,平成19年度,20年度の「全国学力・学習状況調査」の結果を受けて,生徒の学力の向上を図るために,「教師の授業力の強化」と「生徒の学習力の強化」という2つの側面から学力の向上に取り組んだ。
大学教授や専門家を指導者に招き,授業作りについての指導を受けたり,実際に授業を見せていただいたりすることで,「教師の授業力の強化」を図った。数学科では大阪教育大学の橋本是浩教授の指導を受け,「小学校と中学校の指導のなめらかな接続」,「自分が考え判断したことを数学的な表現を用いて,自分なりに説明し伝えることができる活動」と「習熟度別少人数授業」の研究をすすめた。理科では,大阪ガスや大阪科学技術センターと連携しエネルギー教室を開催した。社会科では,大阪教育大学の木下百合子教授の指導を受け,ユビキタスネットワークやICT活用による授業実践をすすめた。
また,若手教員の指導力向上のために,きめ細かなミーティングや研究授業を定期的に実施するFTM(Fresh
Teachers Meeting)制度を整備したり,生徒による各教科の授業評価を実施したりすることで,教員それぞれが自己の授業を振り返り,授業の質の向上に取り組んだ。
習熟度別少人数授業の様子
「生徒の学習力の強化」を図るためには,「チャイムが鳴り終わるまでに着席する」など8項目からなる「授業の心構え」を作成し,全生徒が確認できるようにするとともに,生徒全員による授業の自己評価を実施した。授業「シラバス」を公開し,学習のねらいと進め方がわかるようにした。これらの取組を通して,生徒に授業を意欲的に受けようとする姿勢が育ちつつある。
また,生徒に想像力に富んだ豊かな心を育むために,「朝読書」にも取組み,読み終えた生徒の思いは「しおりの葉」に綴られ,玄関横の「読書の木」を豊かに繁らせている。
No | 評価項目 | |
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1 | あなたはチャイムがなり終わるまでに着 席していますか。 | |
2 | あなたは教科の忘れ物をしませんでしたか。 | |
3 | あなたは授業の初め,前の授業の内容を 思い出していましたか。 | |
4 | あなたは先生の話を顔を上げてしっかり聞きましたか。 | |
5 | あなたは先生の質問に,全員に聞こえる 大きな声で答えましたか。 | |
6 | あなたは黒板に書かれた事をすべてノートに書いていますか。 | |
7 | あなたは授業中勝手な私語をしませんでしたか。 | |
8 | あなたは授業終了まで授業に集中しましたか。 |
生徒による授業自己評価項目
先生の「授業力」と,生徒の「学習力」という2方向からの「学力向上」の取組を通して,教師の中に授業を工夫しようとする姿勢が多く芽生え,職員室で熱心に授業作りについて議論する先生の姿が多く見られるようになった。生徒たちも,「授業の心構え」や「授業の自己評価」を通じて,学習する好ましい環境についての意識を高め,落ち着いた環境の中で学習が進められるようになった。
また,数学科における習熟度別少人数授業の取組からは,実施単元をしぼることで,学力向上に一定の成果を見ることはできた。
今年度の様々な取組を通して,少しずつ,生徒や先生に学力向上にかかわる成果が見られるようになったが,まだ十分とはいえない。「全国・学力学習状況調査」の結果からも明らかなように,「学習習慣」の確立が大きな課題であると感じられる。新たな取組として,英語・数学の基礎・基本の確実な定着をねらいとする「Skill Time(放課後全員補習)」や,大学生のボランティアを募り3年生を中心に実施する「土曜スクール」の内容を充実し,自学自習の支援を行う。また,「家庭」での学習習慣の確立についても,保護者との連携を図りながら,新たな取組を進めようと計画している。今後は,これらの取組と「学力向上」との関係について研究をすすめていきたい。
菅北小学校は,大正11年に開校した87年の歴史ある学校である。校区には,日本一長い天神橋筋商店街があり,また,JR,地下鉄等交通の便がよく,商業の盛んな活気あふれる地域である。地域の学校教育への関心は高く,学校・家庭・地域が力を合わせて「一人一人を生かす教育」を進め,その方針は学校の教育目標となっている。
平成17年度より2年間,国語科の「読むこと」に重点をおいた研究を進め,教材から読み取ったことを生かして,音読等の表現方法を工夫したことにより「読む力」を育てることができた。
平成19・20年度は文部科学省「国語力向上モデル事業」の研究指定校を受け,平成20年11月28日には最終報告会を開催した。
平成19年度・20年度は,17・18年度の課題をふまえ「読む力」に加えて,「考える力」を中心に「読む力」と「書く力」を総合的に高めていくことが大切であると考え,研究主題を「自ら学び,考え,表現できる子どもの育成」~生きてはたらく書く力を育てるために~と設定した。
平成19年度は,児童が書くことの手順を,自ら学ぶことができるようにし,国語科の説明的な文章の教材から,文章の順序や組み立てを見つけ,それを,文章を書くときに生かすことができるようにワークシートを工夫した。平成20年度は,全国学力・学習状況調査の結果をふまえ,さらに,新学習指導要領の改訂のポイントの1つである「言語活動の充実」を取り上げ,国語で身につけた力を,いろいろな教科・領域で生かすことができる活動や活動の場を考え,実践を進めていった。「菅北タイム」という,教科や単元にとらわれずに書くことの量を確保し,質を高めるための時間も設けるようにした。
児童の実態と学校教育目標をふまえ,研究主題を決定し,学習指導要領の分析等から,めざす子ども像を次のようにとらえて研究を進めた。
○書くための手順を身につける指導法の工夫
教育活動全体で「書く力」の育成を行い,生きてはたらく書く力の育成を図るために「自ら学ぶ単元の構想」(表1)を考え,授業研究を中心に実践指導を行った。
また,各教科等の目標を達成し,また,課題を解決するため,国語科で培った能力をもとに,言語活動(記録・要約・説明・報告・感想等)を手段や方法として,機能することができるように各学年,次のような手順(図1)で年間計画を立て,言語活動の充実を図った。
(表1)
(図1)
○書くことが役に立つ場の設定
表1の第2次の書く活動が第3.次で役に立つように単元を構築し,児童が習得した各教科等の能力を活用できる場を設定した。例えば,第6学年の社会科の学習において,「これを読めばよく分かる日本のあゆみ説明文‐信長・秀吉・家康と天下統一編‐」をまとめる実践を行った。児童が社会科のまとめの学習を通して,社会科の目標を確かなものにするとともに,国語科の「事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書く」という「書くこと」の能力を確実に身に付けることができるようにした。
○書くことの日常化
週に1時間程度(低学年は国語,中・高学年は総合的な学習の時間で時数計上)書くことの量と質を高めることができる「菅北タイム」を設定した。
児童が目標をもって読書し,日常的に読書に親しむようにするため,次のように継続した読書指導の在り方を工夫した。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --