本市では,本調査が悉皆で行われた意義を大切にし,結果を一人一人の学力向上のために活用することを目指している。
この2年間,学識経験者や保護者代表,学校関係者等で「はままつの学びネットワーク」を組織し,調査結果を真摯に受け止め,以下の点を中心に子どもたちの学力向上を目指す各学校の取組を支援してきた。
・身に付けた知識・技能を活用する「分かる授業・楽しい授業」を行うための授業改善の具体策を示す。
・学校・家庭・地域が連携して子どもたちの「心・よい習慣・社会性」をはぐくむための具体的な支援の仕方を提言する。
◇小学校国語
目的や課題に応じて複数の資料から情報を選び出し,情報を整理したり,条件に即して書き換えたり,自分の考えを明確にして書いたりすることなどに課題がある。
◇小学校算数
重さ1kgや面積150cm2がどの程度の量なのかを的確に指摘することができないなど,量の感覚については十分に身に付いているとはいえない。また,具体的な事象を数学的にとらえた上で考察し,言葉や式を用いて説明することに課題がある。
◇中学校国語
論理の展開に着目して文章の内容を読み取ったり,書き方を評価したりすること,読み取った内容を条件にあった表現に直してまとめたり,複数の資料から必要な情報を選び,根拠を明らかにして自分の考えを書くことなどに課題がある。
◇中学校数学
n角形の内角の和を表す式180°×(n‐2)において,(n‐2)が表すものを的確に指摘できないなど,式が表すことがらを読み取ったり,数量の関係を式で表したりすることについては十分に身に付いているとはいえない。また,具体的な事象を数学的に解釈し,数学的な表現を用いて説明することに課題がある。
◇児童生徒質問紙
好ましい学習習慣が身に付いていない子どもの学力が伸びていない現状が明らかになり,身に付けている子どもとの二極化の表れが見られる。学校における授業や家庭での生活・学習習慣の改善に向けて手を入れていく必要がある。
「調査活用協力校」は,自校の課題を積極的に改善していく取組が期待できる学校として6校を指定し,各学校相互の緊密な連携を図り,効果的に本事業を実施した。さらに,各学校で得られた本事業の成果等について,他の学校における教育活動の参考となるよう取り組んだ。
「ワーキンググループ」では,浜松市の調査結果分析資料作成,調査活用協力校の結果分析や授業改善への協力などを行った。
○調査活用協力校においては,学校全体で子どもたちの「学力向上」のための手だてを積極的に研究し,成果を上げることができた。
○浜松市として必要な授業改善の視点を明確にすることができた。
○家庭において特に心掛けてほしい重要な視点を確認することができた。
○授業改善の視点については「浜松市の結果と今後の学習指導」にまとめ,全校に配付し,活用を推進した。
○家庭において心掛けてほしい視点については「保護者用リーフレットすこやかなはぐくみPart2.」にまとめ,新小学1年生も含めた全保護者に配付し,学校教育説明会や学年・学級懇談会等においての活用を推進した。
○協力校の取組をまとめた「学力向上推進資料」を作成し,全校に配付するとともに,調査活用協力校実践内容発表会を開催し,取組の成果を全校に広めた。
2年間の取組をとおして明らかになった授業改善の視点について,指導主事の学校訪問の際に具体的に指導し,「確かな学力」の育成を目指した授業改善を推進していきたい。また,各学校において,実態に応じた家庭・地域との連携の具体策を検討するよう働き掛け,その実施に向けて支援していきたい。
学力を向上させるためには,学習意欲の向上はもちろん,生活・学習習慣を定着させることや自己肯定感を高めることなど,心を育てることが不可欠である。来年度以降も,調査結果を一人一人の学力向上に生かす手だてを積極的に検討していくとともに,「知・徳・体の調和のとれた浜松の人づくり」を目指していきたいと考えている。
本校の生徒は,進んで授業に取り組み,教師の説明に真剣に耳を傾け,課題に対して粘り強く取り組む姿勢が見られる。しかし,考えたり話し合ったりする場面では,積極的な意見交換ができる生徒がいる一方,発表の内容が未熟であったり,話し合いの輪に入れなかったりする生徒もいる。形成的・総括的評価テスト等の結果を見ても,到達度が十分である生徒とそうでない生徒との差が大きく開いている課題もある。
そこで平成19,20年度は,個のニーズに応じた指導,支援を通して,生徒の学ぶ意欲の向上を図るため,「基礎的・基本的な知識・技能」の定着と「思考力,判断力,表現力」の育成を目指す授業展開を研究し実践してきた。
また,個に応じた支援をより充実させるために,発達支援教育についての研修も進めてきた。支援が必要な生徒の個別の指導計画,支援計画をたてるとともに,発達支援教育の考えに基づいた指導が他の生徒への指導にも有効であると考え,全職員への共通理解を図った。
正答率は全国平均を上回っているが,個個の問題を見て,理解が十分でないと思われる内容は以下の通りである。
◇国語科
◇数学科
◇生徒質問紙から
これらの結果から,本校生徒は,よく言えば,温和でおとなしく,控え目な性格であるが,言葉をかえれば,消極的,受け身的であり,指示されたこと以外はあまり手を出さない等の傾向があると考えられる。また,自分の意見や考えを皆の前で表現する自信がないこともうかがえる。
一方,学習面においては,既習の知識や技能を「活用する」ことに対する慣れや意識が不十分であると考えられるので,授業で「活用」を扱っていく必要性を感じた。
本校は研究テーマを『「学ぶ意欲の向上を目指して」~一人一人のニーズに応じた指導方法の工夫~』と設定し,すべての生徒を大切にし,最適に学習できる場や機会を保障し,一人一人が自己を思う存分に発揮できる授業をめざしてきた。そしてさらに,「全国学力・学習状況調査」の分析結果から見られる,本校生徒の弱点である「文章表現力(国語)」や「資料判断能力(数学)」,「自分の意見や考えを人前で発表する力」を克服するために,「思考力,判断力,表現力の育成」も結びつけて授業改善に取り組んだ。
ア 発達支援が必要な生徒の個別の指導計 画や支援計画を作成する。
イ すべての生徒に対して,発達支援教育の考えに基づいた指導を実践する。
ウ 中学1年生が小学校6年時に行った「全 国学力・学習状況調査」の国語科,算数
科の結果を個々に分析し,授業での机間 指導,個別指導に生かす。
まず,「基礎的・基本的な知識および 技能」を確実に習得させ,『習得した「基 礎的・基本的な知識や技能」を使って,「考える」,「判断する」,「表現する」場 面を盛り込んだ授業』を「活用型授業」 と設定した。
ア 基礎的・基本的な知識・技能が習得できるような手だてを図る。(毎時間の漢字書き取り,ヒントカードなど)
イ 思考力,判断力,表現力の育成を図るため,授業の中で話し合いの場面や討論会を意図的に取り入れる。
・国語科での実践
資料の中から情報を取り出すだけでなく,その取り出した情報を評価し,複数の情報を読み比べることができるように,いくつかの資料を用いた。資料は,同じものを説明しているのだが,表現の仕方が違うもの(A
薬の外箱にある説明書き,Bパッケージの中にある薬の説明書,C薬のCM)を使う。そして,資料の情報をそのまますべて受け入れるのではなく,作成者のある意図のもとに表現されているという意識をもち,批判的に読むこと(クリティカル・リーディング)を経験させた。
また,T2の教師を中心として,自分の考えを相手に伝える力の弱い生徒や特別な支援を必要とする生徒に対して,「なぜ?」「どの資料からそう思ったのか?」というような問いかけをして思考を促したり,穴埋め式のプリントを渡して自分の考えを文章化できるようにしたりして支援をした。
・社会科での実践
ペリー来航の授業では,前時にペリーの恐ろしさを資料から読み取る活動を行い,本時の導入では,そのペリー艦隊が江戸湾に進入し上陸した時の様子を寸劇で表現する。
ペリー役のALTが,アメリカ大統領フィルモアの国書を原文のまま読む。聞いたことのない英語に触れ,何を要求されているのかすぐには読み取れなかった幕府役人の驚きや動揺,混乱を疑似体験させた。
その後,国書の内容を日本語で教師が紹介し,アメリカの要求を知識として習得する。そして,その要求を受け入れるべきか(開国)否か(鎖国)を個人で考える。支援が必要な生徒が表記しやすいようなワークシートを用意する。次にそれをもとにグループで話し合う。敢えてグループ内で意見を統一するように促し,グループ内で一つにまとめようとしても,まとまらないことを体験させる。そして,ペリー来航時の日本にも様々な考えがあり世の中が混乱したことを感じ取らせた。
最後に,自分としては,どのような対応をするか,理由を付けてノートに書き,発表することを本時の評価の場面とする。まとめとして実際に幕府は条約を結んだことを紹介し,条約の内容を次時に学びたいという意欲をもたせた。
(AよくあてはまるBややあてはまるCあまりあてはまらないDまったくあてはまらない)
「授業に意欲的に取り組んでいる」
「自分の考えや意見を表現している」
活用型の授業に取り組んできたことが,生徒の意欲や表現力の向上に反映したことを実感した。また,その生徒の姿は,保護者や地域の方々にも伝わっている。さらに,このような生徒の表れは,体育大会やコーラスコンクールなどの学校行事における開会式,閉会式での態度や,総合的な学習の時間の探究活動での取り組み方とその成果を発表する会などでも発揮できた。
教師の意識においても「発達支援教育の考えに基づいた指導の実践と定着」についての共通理解は向上したと考えられる。特に,授業開始時に本時の授業の流れを示すことや,今どの場面を学習しているかを生徒に随時確認することは,何をやればよいか戸惑う生徒を少なくし,効果的であった。また,中1生徒が小6のときのデータを分析したことは,生徒のニーズに応じた指導を意識する上で,有効であった。一人一人に合わせた学習プリントの作成のほかにも,思考場面でのつまずきに対して,的確な助言ができた。
今年度の取り組みは,「全国学力・学習状況調査」から,本校生徒の全体的な傾向としてとらえた課題を主に検証してきた。個々のデータを見てみると,さらに細かな分析ができるであろうし,一人一人に合った指導方法がわかってくるのではないかと思う。
そして,「活用型授業」については,新学習指導要領とも深く関連するため,今後もさらに,実践を積み研修を深めたい。教科間での意識の差や,授業展開のしかたに不安を抱えていることは確かである。今年度の取り組みをもとに,実践を積み重ねていきたい。
また,現在生徒会活動の中でも,発表態度の向上について話し合い,発表するときの姿勢や心構え等の意識を生徒自ら高めていく活動も進めている。こうした取り組みを通して,さらに発表マナーを伴った表現力の向上を期待している。
本校では,知識習得中心の授業から創造力,思考力,判断力,表現力などの能力をはぐくみ,学ぶ意欲や態度を重視する授業改善に取り組んでいる。また,夢や目標をもち,その夢に近づくための様々な力を身に付けることができる力を「人間力」とおさえ,その育成のための学校改善を試みている。
「人間力」を高めるために必要だとおさえた力は以下の3つの力である。
◇使う:基礎・基本,既習の知識・技術・技能等を問いや疑問の解決,生活や活動の向上のために使う力
◇認め・伝わる:自分と他の考えを比較・検討し,問いや疑問の解決に向かったり,時と場に応じた表現で伝えたり,表現の意味を受け止めたりする力
◇達する:いくつもの小さな夢を達成して,大きな夢の実現に近づけたり,社会の一員としての役割を見つけ,活動したりする力
また,「人間力」を育成するためには,授業の中で確かな学力を身に付けさせること,授業の中で身に付けた確かな学力を他教科・実生活へ転移させていくことが必要だと考えた。そして,これらを実現するために,「問い続け高め合う」学習の追究をしている。
◇国語科
◇算数科
これらから,「知識・技能」にかかわる基礎的な力は身に付いているが,その力を活用する力や様々な課題を解決していく探究力が弱いことが分かる。
◇学習状況調査と学力
生活習慣や学習習慣が身に付き,読書や体験を好み,社会や社会活動に興味をもち,夢や目標がある児童は,活用問題においても正答率が高い。
1.「問い続ける力」の育成
ア 「問い」をもたせるための単元の導入の工夫
「問い」(疑問や思いや願い,追究意欲などをもとに,学習の目的やねらいにまで高まった課題)を単元を貫く「問い」や学級共通の「問い」として,学習計画や授業構想に生かすために,学習対象との出会わせ方を工夫した。
イ 「問い」を生かす
子どもは,学習を進める中で友達と交流しながら,自分の考えを確かめたり,深めたり,発展させたりして,学習を高めると同時に,新たな「問い」をもつ。「問い」は,学びの原動力であるため,「問い」が連続的につながるように,教師が導く。
2.「高め合う力」の育成
ア 「問い」に対する自分の考えをもたせ る工夫
「問い」をもち,課題解決するうえで,自分の考えや思い,解決方法をもつことは,学習の第一歩である。どの子にも,自分の考えをもたせるために,自力解決の時間を確保する。
イ 「伝えるつなげる 練りあげる」話 し合い
3.「振り返る力」の育成
ア 学びの自覚
イ 学習や生活に生きる転移力
振り返りによって,子ども自身が身に 付けた力を自覚し,どの教科・教材でも
使うことができる力に一般化することが できる。そして,子どもたちが生活する
中で「問い」をとらえて,友達と協力し合いながら, 解決方法を見つけ出していくという生きる力となって発展し,生活の中でも生かされていく。そのために学校経営の児童参画,児童会活動,学級活動の充実を図った。
4.人間力を高める活動
授業の中で育成した力を他教科・実生活へ生かせるように,人間力を高めるためのプログラムを設定し,発達段階に応じて,全教育活動において効果的に配置した。「育ちを続ける」「育ちを広げる」「育ちを高める」「育ちをつなげる」の観点で学校経営プログラム,学年・学級経営プログラムに位置づけた。
◇国語科
1.「問い続ける力」
読み深めようとする必要感や期待感のある「問い」をもつことが,自分の考えをもって解決したいという意欲につながった。一人学びのノートには,「問い」の解決に向けて,自分なりに読み込もうとするあしあとが見られた。
2.「高め合う力」
一人一人が考えをもち,グループ交流 によって中心語句や中心文を明確化し,
全体での話し合いによって読みを深める という学習の流れが確立した。話し合い
では,自分の考えを分かりやすく伝え, 友達の考えと比べたりつなげたりするこ
とができた。また,よりよい考えにする ために,さまざまな考えのよさを取り上
げて練りあげていく姿が見られた。
3.「振り返る力」
自分の考えを修正したり,広げたりす ることのできた友達の考えを振り返るこ
とで,自分の考えの深まりを自覚できる ようになってきた。さらに,単元全体の
学習で学んだことを他教科や実生活で使 ってみようとする姿もしばしば見られる
ようになった。
◇ 算数科
1.「問い続ける力」
生活場面に近づけた課題を提示したことにより,子どもたちは,学習への必要感や関心を高め,「問い」をもつことができた。「問い」を解決するには,既習の何が使えるのかを考え,自分なりの方法を試したいという気持ちの高まりが見られた。また,自力解決では,考えの筋道を式や記号を使って,ノートに簡潔に書き表すことができるようになった。
2.「高め合う力」
考えのよりどころを明確にして伝え,友達の考えのよさとつなげて,よりよい考えに練りあげていこうとする姿勢が身に付いてきた。どんな既習を使っているかによって考えを分類したり,考えの筋道を言いかえたりする姿が見られた。また,自分の気付かなかった考え方や伝え方のよさに気付き,自分の考えを高めることができるようになった。
3.「振り返る力」
子ども自身が,明確にその時間の自分の学習の成果を実感でき,充実感を味わって,次時への学習意欲を継続できた。内容面と方法面の両面から自分の学びを振り返ることができるようになり,新たな「問い」を次時に必ず生かすようにしたことで,自ら学ぶという意識が高まってきた。
◇人間力を高める活動
1.使う力を育むプログラムでは,家庭学習と連動させ,一定時間机に向かい,進んで学ぼうとする学習習慣が身に付いてきている。
2.認め伝わる力を育むプログラムでは,友達のよさを認めたり,相手の立場に立って伝えたりすることの大切さに気付くことができた。
3.達する力をはぐくむプログラムでは,夢に近づこうとする意欲を持続させることができた。夢に近づくことのできる力をはぐくむ効果的な活動を開発できた。
1.「問い続け高め合う」学習の追究
2.家庭と連携した学習習慣の確立
3.人間力を高める活動
夢や目標をもち,その夢に近づくための様々な力を身に付けることができる力(人間力)を高めるため,より効果的な活動を年間を通して,かつ,系統的に全学年に位置づけたい。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --