本市においては,全国学力・学習状況調査を実施要領に則り,序列化や過度の競争に結び付けることなく適切に実施してきた。即ち,教育委員会が全国的な状況との関係において,自らの結果を把握し,改善を図ることと,各学校が,児童生徒の学力・学習状況を把握し,教育指導や学習の改善等に役立てることをめざした。
結果の公表については慎重を期するとともに,自校の課題を把握し,授業改善を核としたカリキュラム編成や学習意欲の向上,学習習慣の確立等に活用するよう各学校に求めてきた。
また,新しい学習指導要領の周知に重ね,これから求められる学力(身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容,知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力などにかかわる内容等)を教育委員会として示してきた。
川崎市総合教育センターカリキュラムセンターに学力・学習状況調査プロジェクトを設置し,学力調査に関する計画,実施,利活用に関する業務を推進した。
全国学力・学習状況調査については,4月22日全国・学力学習状況調査実施6月16日検証改善についての説明会実施
(参加167校)趣旨:全国学力・学習状況調査における自校の結果を分析し,授業改善を行うことの周知及び本市検証改善プランの説明と各学校のPDCAサイクルの構築とアンケートの実施依頼。
8月27日 結果の返却市の分析開始
9月18日 結果の公表(インターネット・文書)
3月3日 活用についての説明会実施
(参加167校)趣旨:平成21年度の実施の解説及び平成20年度の全国学力・学習状況調査における本市の授業改善の状況を説明し,各学校のPDCAに役立てる。
学力調査プロジェクト(カリキュラムセンター主幹・指導主事4名)を中心に,カリキュラムセンター室長・指導主事,教育相談センター指導主事,情報視聴覚センター指導主事,学校教育部区・教育担当主幹・指導主事18名体制を取り,これに前年度検証改善委員1名が加わり合計19名体制。
調査活用協力校については,全市立小・中学校を対象としたためアンケート実施に伴い行った資料収集で特色ある取組を行った学校の事例をこれに充てる。
各学校は6月の説明会を受け,自校のPDCAサイクルを構築し,授業改善に努める。教育委員会は拡大要請訪問や校内研究等の助言,経験者研修の教科指導,教科研修等の場で全国学力・学習状況調査の活用を周知する。
12月上旬にアンケートを実施(167校),回収(1月上旬)し,集計結果から全市レベルでの成果と課題を抽出し,第2回の説明会で授業改善についての報告を行う。
(1)挨拶カリキュラムセンター室長
(2)平成21年度全国学力・学習状況調査
実施マニュアルに係る説明
質疑応答 担当指導主事
(3)平成20年度 川崎市の結果について(国語)(算数・数学)(児童生徒質問紙)
担当指導主事
(3)平成20年度授業改善の状況
担当指導主事
休憩
(5)講演「授業こそ学校の核であり教師の仕事の中心である」
講師前川崎市検証改善委員会委員
(6)お礼の言葉・まとめ
カリキュラムセンター 主幹
授業改善プラン(平成20年4月配付より)
市として全国学力・学習状況調査の結果を分析し,授業改善の構想を支援することが求められる。これには,新しい学習指導要領の趣旨やこれまでの川崎の実践の継承も盛り込んでいくことが大切である。その上で授業改善の方向は,教科・領域ごとに以下のような力をはぐくむことが必要であると考えた。
「話す聞く学習を通して,相手や目的に応じて聞き取り,筋道を立てて自分の考えを発信できる力」
「書く学習を通して,必要感や目的に応じて情報を活用し,内容を的確にとらえて,自分の考えを表現できる力」
「読む学習を通して,目的や課題を明確にし,論理的に考えて,自分なりの考えや意見を発信できる力」
「言語文化としての古典に親しむ態度及び,表現や理解の基盤としての言葉や文字の学習を通して,日常生活の中で適切な言葉遣いや漢字の読み書きができる力」
以上の方向を踏まえ,今回の全国学力・学習状況調査を足がかりに,授業改善プラン作成のための授業の構想を示す。これらの授業の構想は領域ごとの一例であり,各学校においては,児童生徒の実態に応じて活用しプランを作成していくことが望まれる。
このほかに,児童生徒質問紙から本市の子どもたちの学習や生活習慣等にかかわる傾向を解説した。
授業改善を構想する際に,調査の1問題,授業の1時間,1単元,1教科・領域を考えるだけでなく,学校生活全体や家庭・地域とともに子どもたちの学習状況をとらえ,問題意識を共有することが大切であること,これまで各学校が進めてきた様々な教育活動に全国学力の結果を資料として活かしていくことなどを説明する。
さらにアンケートから導き出された
〇懇談,面談,たより等で保護者と学習習慣や学習意欲について連携
〇新しい学習指導要領の趣旨等を研修
〇基礎学力の定着を充実した取組
〇活用,探求型の学習を充実した取組
〇外部人材による学習サポートを実施についての取組例を紹介し,各学校のPDCAサイクルを拡充するための資料として提供した。
説明会講演趣旨
児童生徒質問紙で「自分にはよいところがある」「人の気持ちがわかる人になりたい」「学校で好きな授業がある」と答えている子の方が正答率が高いという傾向が見られる。学校で過ごす時間の大半を占める授業がどのような機会として組織されるかによって,子どもたちが経験することは大きく異なる。自分の発言が生かされる授業のなかで,はじめて子どもは肯定的な自己意識を形成できる。授業で他の考えに出会って自分の考えをふり返りながら互いに認め合い,思考を深めていくことで子どもたちのコミュニケーションが深まる。また,教師という大人が立ち会っている授業において,葛藤とそれを克服する経験をすることもできる。
授業において子どもたちは知的な成長を遂げ,仲間との関係を築き,自己を形成していくということからも授業は学校の核である。学校の特色づくりはこの上に成立する。ところが,学校に過剰な役割が求められ,逆に学校が本来果たすべき役割が疎かになるということが生じてはいないか。それに伴って教師にはさまざまな問題に対応することを求められるようになってきている。OECDの調査によると,日本の教師の勤務時間(実働時間)に占める授業時間の割合は,小学校で約30パーセント,中学校で約26パーセント,調査対象国の中でそれぞれ16位,15位。それだけ日本の教師は「授業どころでない」という状況に置かれているということができる。
授業は複雑な過程。その中で最も重要な役割を担っているのは教師。学ぶに値する主題を設定し,智恵を絞ってともに追求していく課題を整え,コミュニケーションを組織して,子どもたちが一歩ずつその本質に迫っていけるようなプロセスを準備しようとすれば,教師には高い専門性が求められる。教科の内容に関する深い知識と教育学的な教養を教室において実践的に統合し,子どもの学びを組織していく力量が教師には欠かせない。
授業の担い手である教師の専門性を磨いていくには,授業の事例研究のような実践的な研修が欠かせない。「授業研究」という言葉は海外でもそのまま日本語で通用する言葉。教師が互いの授業を見せあい,そこで起きる具体的な出来事を意味づけ,解釈しながら授業をふり返って学び合うことが教師の専門性を高め,教室から学校を変えていく最も有効な研修であるといえる。教室は教師にとっても学びの場。「子どもたちが熱意をもって勉強している」と回答している学校には,授業の事例研究など実践的な研修をしている割合が高い傾向が指摘されているのも納得ができる。また,授業の事例研究をしていると答えている学校の方が算数・数学で正答率が高いことも調査結果から言える。
ところが,授業研究を伴う校内研修を年に9回以上実施しているという学校は,小学校では4割,中学校では2割に留まっている。
県や全国に比べて若干の違いはあるにしても,9割を超える小学校,8割あまりの中学校が反復練習に力を入れていると回答。「反復練習」が活用する場面と切り離されてひたすら繰り返し練習することだとしたら,それには疑問がある。基礎・基本が身につくまで反復練習をするのでは「応用」にたどり着けない子どもが出てくる。それは,学力・学習状況調査のB問題で期待している「学力」において低下を招くことになる。
子どもたちは,新たな課題に共同して挑む中で,いまだ頼りない「基礎・基本」を活用しながら身につけていくことができる。「反復練習」は後続する学習場面で,使うことで身につけていくという意味にとらえ直す必要がある。
教育課程実施状況調査によると「算数,数学が好き」,「国語が好き」と答えた子どもが増加する傾向にあるが,従前より指摘されてきた「できるけれども嫌い」という問題が解消されたとはいえず,むしろ,「あきらめずに考え続ける」子どもが減少傾向にある。
新しい学習指導要領の説明やそれに応じた授業実践を支援していくことを通して全国学力・学習状況調査の結果から導かれた本市の課題を改善していきたいと考える。
具体的には6月,7月の市の教育課程研究会,研究推進校の中間報告会,各学校の校内研究などが活用できる。また,前年度同様,全国学力・学習状況調査に係る授業改善についての説明会を9月,3月に予定している。
1994年に菅生中学校区地域教育会議が発足。2000年以降,地域教育会議のあり方を根本的に見直そうと,住民の学校運営への参画をめぐって何度も話し合いがもたれた。2002年に規約改正が行われ,保護者,地域住民,教職員等の大人が,その実現方法を提示していく義務と責任があるという前文が付け加わる。
生涯学習委員会では,2004年から,3校の授業を地域住民として客観的に参観をすることを行う。当初,気持ちのすれ違いはあったものの,その後,生徒と保護者からの授業に対してのアンケートも行われるようになり,本音で意見を言い合う信頼関係を構築している。
同委員会では,ここ数年子どもたちの学力を向上させようと学習会を開催。一昨年は,地域と学校の協働について考え,昨年はさらに進んで学力を上げるために地域と学校が一緒にできることを具体化するための学習会を設定した。
上記の学習会の中で156件の提案がなされた。うち,学校への提案は59件,地域への提案は64件,家庭への提案は33件であった。
家庭への提案
〇教員からの提案(21件中から抜粋)
〇保護者・地域からの提案(12件中から抜粋)
この会議には当該中学校だけではなく,学区の小学校2校の教職員も参加している。また,会議のまとめとして「学力」をどのようにとらえるかについて意見交流を行い,小・中学校での基礎学力を付けるという観点に立ち,授業についていくことが困難になっている子どもが自信をもつことができるように,地域と学校が協力しあうことが大切であるということが確認された。実施にあたっては,放課後に地域の人が教育ボランティアという形で学校に出向き,補習など一歩ずつでも進めていくなどの具体的な意見が出された。
学校・家庭・地域が同じ場所に会して子どもたちの学力について語り合い,具現化をめざしているところが「活用」に値する。
これからは提案をもとに具現化を図り,それを継続して行くことが課題となる。
校内の評価委員会を学力向上に係わる窓口とするため,「学習指導・評価委員会」と名称を変更した。今回の取組についての検討及び職員会議等で提案を行った。
全国学力・学習状況調査の結果
〇書く能力
・「情報を的確に読み取り,正しく説明する」という読み取りも一緒に伴う問題には課題が残る。
〇読む能力
・「一文で書かれた内容を理解し,一文,二文の構成にして書き換える」「説明文の段落の内容を捉える」などの読み取りの力がやや弱い。
〇言語事項
・漢字の読み書き,接続語の選択など,基礎的な知識としての言語事項はほぼ理解している。
・指示語の役割を押さえ,文章における働きについてはよく理解している。
〇数と計算
・整数,小数,分数における加法・減法の計算は理解できている子どもが多い。
・整数と小数の乗法など混合した計算の理解についての理解がやや弱い。
〇量と測定
・三角形や円の面積の求め方を考える力が定着していない。
〇数量関係
・グラフの読み取りは良好な子どもが多い。
・応用的な問題には課題が残る。
〇全般的傾向
・基礎的な知識をはじめ,全体的にやや力の弱さが見受けられる。
・できる子とそうでない子の差が大きい
〇学力向上の取り組み
教科と校内研究の成果を関連付けてまとめる。
第3学年の成果(抜粋) | |
---|---|
国語科 | 読み取りについての指導では小見出し,短く内容を表す。「ちいちゃんのかげおくり」では言葉に着目させるために教師が教えてから子どもが読み取れるように指導した。スピーチコーナー,読書タイム,短作文の学習活動を設定 |
算数科 | 提示の仕方の工夫で苦手意識を軽減。具体的活動を多く取り入れた。具体的な教具を見たり,操作したりしながら学習を進めた。基礎をしっかりと考えさせる時間を設けた。図形やグラフなどでは基本に時間をかけた。 |
校内研究 | 話し合いの仕方が身について活発な話合いができるようになった。多くの友達の中で話したり聞いたりすることが上手になってきた。学級の雰囲気が友好的なものになり,教科にも学び合う雰囲気が出てきた。国語の話す・聞くと学級会がよい方向で影響し合っている。 |
これまで積み重ねてきた校内研究の成果と全国学力・学習状況調査の結果を有機的に活用して行くことをさらにすすめていく。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --