福岡県教育委員会 主体的な学力向上の取組を目指して‐福岡県学力向上新戦略の活用をとおして‐

はじめに

 福岡県検証改善委員会では,平成19年度全国学力・学習状況調査の分析結果に基づき,学校改善支援プランとして,県教育委員会,市町村教育委員会,学校に対しての提言を次のようにまとめた。

(1)県教育委員会への提言

1.学校・教育委員会の効果的な指導体制の整備
 ア 人的配置の効果的な活用
 イ 学校支援体制の構築
2.教員の実践的な指導力の向上
3.児童生徒の実態把握につながる調査と分析
 ア 継続的な学力調査の実施とデータの集積
 イ 学力実態調査検証システムの構築
4.調査研究事業の充実
5.基本的な生活習慣・規範意識・学ぶ意欲の育成のための取組強化

(2)市町村教育委員会への提言

  1. 各学校の課題の明確な把握
  2. 学校の条件整備
  3. 教員研修への指導・援助
  4. 家庭・地域と学校との連携の強化

(3)学校への提言

  1. 適正な学校評価の実施
  2. 授業力を高める校内研修
  3. 実態分析システムの整備
  4. 基本的な生活習慣・規範意識の育成
  5. 知識・技能の活用力を高める教育課程の編成・実施・評価
  6. 学ぶ意欲を生み出す教育活動の充実

 これらの提言を整理し,教育力向上福岡県民会議の第1次提言を踏まえ,福岡県教育委員会では,平成20年2月に「福岡県学力向上新戦略」を策定した。

1.福岡県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1)福岡県学力向上新戦略について

 福岡県教育委員会では,平成19年度全国学力・学習状況調査の分析結果に基づく課題解決に向けて,

○課題を抱える市町村・学校への支援
○学ぶ意欲や知識・技能等を活用する力を育てる学習指導の充実とそのための教員の指導力の更なる向上
○基本的な生活習慣,学習習慣や規範意識の育成

という基本的な方向性をまとめ,行政,学校,家庭,地域が連携・協力して取り組むための「五つの戦略」として福岡県学力向上新戦略(次ページ図1)をまとめた。

【ストラテジー1】市町村教育委員会・学校の体制整備

ア 学力向上支援チームの設置
イ 指導方法工夫改善教員等の効果的な配置
ウ 学力向上を必要とする学校への教員の重点的配置
エ 全国学力・学習状況調査の結果の分析と市町村,学校への結果分析の提供
オ 「福岡県学力実態調査」の実施
カ 学力向上校内コーディネーターの育成と配置
キ 学習支援のための外部人材の活用

図1 福岡県学力向上新戦略

図1 福岡県学力向上新戦略

【ストラテジー2】教員の実践的指導力の向上

ア 教育事務所における授業実践力アップ研修の実施
イ 校内授業研修の充実と授業評価の実施
ウ 優秀な学習指導案の収集と普及・啓発等
エ 実践的指導力を育成する教員研修の体系的整備

【ストラテジー3】学ぶ意欲の育成や体験活動の充実

ア 長期間の集団宿泊体験の実施
イ 職業体験の実施
ウ 家庭や地域と連携した学習意欲や生活習慣等の育成

【ストラテジー4】調査研究の充実

ア 学力向上に向けた強化市町村の指定
イ 活用力向上モデル学校の設置

【ストラテジー5】学力実態調査検証システムの整備

ア 分析ツール及び判定テストの提供
イ 学力分析研修会等の実施
ウ 学力向上プランの機能化

(2)本県における事業の概要

 学ぶ意欲の喚起による学力向上を図るため,市町村教育委員会の学力向上に向けた主体的な取組を支援し,各学校における学力向上の取組を充実させることを目的として本事業を実施した。
 事業内容としては,学力等に関する課題を明確にし,学力向上に主体的に取り組もうとする市町村を「学力向上推進強化市町村(以下強化市町村)」として指定するとともに,各強化市町村内に設けた調査活用協力校の学力向上の取組等に対し学力向上支援チーム(県内6教育事務所に配置)の重点的派遣を行いながら,強化市町村や調査活用協力校等の学力向上に向けた取組を支援した。

図2 ふくおか学力アップ推進事業

図2 ふくおか学力アップ推進事業

 強化市町村は,県事業である「ふくおか学力アップ推進事業」(図2)の学力向上推進強化市町村とし,調査活用協力校は,各強化市町村の推進校の中から,「全国学力・学習状況調査」の結果に関する課題を明らかにして改善に取り組もうとする学校を各市町1校ずつ,計14校選定した。
 調査活用協力校では,「全国学力・学習状況調査」の結果を分析し,自校の課題を明らかにするとともに,平成19年2月の福岡県検証改善委員会からの5つの提言に基づき,個に応じた指導の充実,学力向上コーディネーターの活用,R‐PDCAサイクルに基づく学力向上等に主体的に取り組んだ。
 調査活用校に対しては,各教育事務所(6教育事務所)ごとに地区学力向上推進会議を設置し,取組状況の検証等を行うとともに,学力向上支援チーム指導主事の重点的派遣や研修会の開催等を行った。また,6教育事務所の学校支援チームの連絡会議を年6回開催し,調査活用協力校や学力向上推進強化市町村における効果的な取組に関する情報交換等を行った。

(3)実施体制

次ページ図3のとおり

(4)研究成果

 調査活用校に対して,各教育事務所に配置した学力向上支援チームの指導主事を強化市町村や調査活用協力校等へ重点的に派遣し,その回数はのべ776回となった。

○強化市町村への主な支援

  • 市町村の学力向上検証委員会の体制づくりや運営内容等に対する助言
  • 市町村の学力向上推進プラン策定・実施に関する助言
  • 市町村教育委員会主催の学力向上を目的とした研修会(小中合同研修会,指導技術向上セミナー等)への支援 等

○調査活用協力校への主な支援

  • 福岡県学力実態調査検証システムを活用した学校の調査結果分析等に関する支援
  • 校内授業研究会等での指導助言
  • 学力向上推進プランの作成・実施に関する指導助言 等

 また,各調査活用協力校では,「全国学力・学習状況調査」の結果を分析して,自校の課題に基づいた学力向上策(個に応じた指導の充実,学力向上コーディネーターの活用,R‐PDCAサイクルに基づく学力向上等)に主体的に取り組むことにより,児童生徒の学習意欲や家庭学習の定着等の面で効果が見られた。

図3 事業の推進体制

図3 事業の推進体制

2.普及啓発と今後の取組について

 各地区(6教育事務所管内)に学力向上推進会議を設置し,学識経験者等による専門的な視野から調査活用協力校等の取組状況の検証を行った。
 また,調査活用協力校や強化市町村における,学習指導方法の充実や家庭学習の充実等の啓発事例など,効果的な取組の内容や方法を集約した。
 集約した取組については,平成21年度の県教育委員会主催の研修会等で各市町村教育委員会や各学校に情報提供し,学力向上に向けた取組の普及・啓発に努める予定である。

2.調査活用協力校における取組事例

取組事例1.「学習指導の充実」に重点をおい た取組 那珂川町立岩戸小学校

(1)全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

 平成19年度の全国学力・学習状況調査の結果に基づき,算数科の問題への期待感・効力感の向上という目標達成のため,学習指導や家庭・地域の連携等の面から,次のような取組を行った。
○比較の場(あてはめる,つくりかえる,ひろげる)を基本とした基礎力,活用力を高める授業づくり
○日常的な授業改善の評価をもとに,学力の向上の取り組みを検証できる校内検証改善委員会(学力向上委員会)の体制づくり
○個別の目標を持たせ,基礎的・基本的な内容を身に付ける,学力の基礎を培う活動としての繰り返しの場づくり
○指導方法工夫改善教員(非常勤講師含む)による少人数・TT指導の充実
○学校評価と地域,保護者,学校評議員への学力向上の取り組みの説明と,基本的生活習慣,学習習慣づくりの理解と連携協力

(2)比較の場(あてはめる,つくりかえる,ひろげる)を基本とした基礎力,活用力を高める授業づくりの例

○単元
 第4学年「どのように変わるかな」
○主眼(本時3/5))
・前時までのきまりとくらべながら,正三角形の数とその周りの長さの関係(差が一定)を調べ,見つけたきまりを用いて正三角形が25のときの周りの長さを求めることができる。

段階 学習活動 
つかむ 【あてはめる場】 1 既習と本時を比較して,本時学習の課題をつかむ。
正三角形を1つずつ増やしながら組み合わせてできる形の周りの長さはいくつですか?
前時
正三角形を1つずつ増やしながら組み合わせてできる形の周りの長さはいくつですか?
 
・前は増えれば減っていたけど,今日は増えているぞ。
・正三角形が1増えると,周りの長さも増える。増えれば増える関係だ。
前の学習で見つけたきまりが使えますか?
めあて…「正三角形の数とその周りの長さのきまりを調べよう。」 
みとおす 2 本時の活動の考え方や方法の見通しをもつ。
正三角形が7つの時の周りの長さは,何cmになりそうですか。 
○本時の活動の見通しについて確認する。
 結果の見通し…「増えれば増えるきまりがある。」
 方法の見通し…「 1.表に表す。2.答えを確かめる。3.きまりを見つける。」
たしかめる 【つくりかえる場】3 きまりを調べ,話し合う。
○正三角形を並べて調べ,表に表してきまりをみつける。
(横)・三角形の数が1増えると周りの長さも1増えている。
(縦)・正三角形+2=周りの長さ
○見つけたきまりについて話し合う。
正三角形を並べて調べ,表に表してきまりをみつける。
どんなきまりをみつけましたか。昨日とくらべて,どこが違いますか。 
きまり…「表をたてに見ると,ちがいが2」 「表を横に見ると,1ずつ増える」
ひろげる 【ひろげる場】4 同じきまりを使って,問題を解く。
問題
1.正三角形が25この時の周りの長さは?
2.周りの長さが50cmの時の正三角形の数は?
どうすれば,簡単に周りの長さや正三角形の数をみつけることができますか。
・25+2=27のように,きまりを使えば,簡単に計算でみつけることができる。 
まとめる 5 追求結果について話し合い,本時学習をまとめる。
 ○今日の数理をまとめる。
まとめ …「表を使ってきまりを見つけることができた。」「 三角形の数+2=周りの長さになる。」「 もっと,いろいろなきまりを見つけたい。」

○結果と考察

【あてはめる場】

 前時のきまりを本時の事象にあてはめた。あてはまらないことから,新たなきまりを見つけようという学習課題をとらえさせることができた。

【つくりかえる場】

 前時に用いた縦と横に着目できる「枠」で前時とのきまりの違いを考えさせた。前時との違い(和と差の違い)に着目させることで,増えれば増える関係の特徴に気づかせることができた。

【ひろげる場】

 正三角形の数が25,48の場合を考えさせた。言葉の式を用いればできそうだという見通しで調べさせることができた。しかし,なぜそのようなきまりになるかを事象の特徴から説明させるまでには至っていない。いつでも三角形の数+2=周りの長さとなる関係であることをとらえさせるには,三角形の数を少ない数から9,10 …と徐々に変化させ,周りの長さの増え方がいつも同じであることをとらえさせる場面があるとよい。
 以上のような3つの場を位置づけた学習指導の実施・評価・改善の日常化を図ったことが,基礎力(知識や技能),活用力(意欲,見方・考え方,学び方)を高めることにつながった。

(3)成果と来年度以降の課題について

 既習と本時の問題事象の数値や関係などを比べ,既習からの変化に気づかせる学習指導の日常化を図ったことで,事象を既習との共通点や差異点で見たり,考えたりする数学的な見方や考え方が高まってきた。全国学力・学習状況調査の19年度と20年度の算数の結果比較では,問題A問題Bとも4ポイント向上している。また,期待感や効力感に関する状況調査の結果も7ポイント向上している。しかし,学校独自の算数科学習への意欲に関する調査では,低学年や中学年で,十分な学習意欲の向上が見られていない。今後も,既習との変化から数理の変化がよりよくわかるきめ細かな比較の手だてを具体化していきたい。

取組事例2.小中連携による「家庭学習の定着」に重点をおいた取組 筑前町立東小田小学校

(1)全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

 平成19年度の全国学力・学習状況調査の結果に基づき,筑前町立東小田小学校では,「思考力・判断力・表現力」を主とした学力をつけるための授業改善をすすめるとともに,家庭と連携して意欲の向上を図るため,次のような取組を行った。

○学力向上プランの策定と推進
・育成する学力の共有
 「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学ぶ意欲」
・学習習慣,基本的生活習慣の形成
 学習サポーターと連携した基礎となる力の育成と家庭学習の習慣化
・学校間連携
 保幼小中間の連携

○授業公開による授業改善
・主題研修を中心とした授業改善
活用力を高める習得型授業,活用型授業のモデル化と実践

資料ちくぜんキッズ学びマップ

資料ちくぜんキッズ学びマップ

(2)「授業のすすめ方と家庭学習のすすめ」に関する啓発例

 上の資料は,夜須中学校区の小中学校が連携して作成した,9年間で育てるための学びの手引きである。
 この手引では,学校と家庭で取り組む学習について,子どもたちが具体的にどのように学習していけばよいか,基本的なことを提示していくことにした。
 そして,まず全職員が共通理解を図り,これにそって学校と家庭で取り組んでいくとともに,家庭との連携を十分に図って,家庭学習の習慣化を推進していった。
 また,基本的な生活習慣の定着のために,現在,PTAで取り組んでいる「早寝・早起き・朝ごはん」運動の更なる徹底と充実を図った。回数を重ねるたびに実践したと報告する家庭が増えてきており,関心が高まってきているのに加え,取り組んだ後の感想も「やってよかった」というものが増えている。これは,今後の学力向上の面からも意義ある取組であると考える。

(3)成果と来年度以降の課題について

 家庭学習や基本的な生活習慣の定着に関しては,手引等の配付や「早寝・早起き・朝ごはん」運動の充実により,学校・保護者とも意識が高まり,学力向上に関する児童への効果が期待できる状況にある。
 また,学校では,学習サポーターとして大学生を招聘して個人支援ができる体制もできつつある。学習サポーターには週に数度来てもらい,主に算数科において支援体制をつくっている。現在,高学年に2名(月曜1時限,水・木曜1時限)低学年に1名(月曜1時限)であり,学力向上を図る上で有効な方策であると考える。
 今後は,中学校区で連携して推進している学び方育てを徹底するとともに,学習指導の面でも連携しながら学力向上を図っていきたいと考える。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --