和歌山県教育委員会 「確かな学力」の育成を目指して‐「ことばの力」と活用する力の向上を図るために‐

はじめに

 和歌山県では,平成19年度に,県検証改善委員会が作成した「平成19年度全国学力・学習状況調査結果に基づく和歌山県の学校改善とその支援に係る提言」に基づき,平成20年度の取組を進めてきた。
 平成19年度には,指導改善資料として,リーフレット「知識や技能を活用する力を育成するために~授業改善へのアプローチ~」を作成し,小中学校の全教職員に配付,平成20年度には,リーフレット「和歌山県の子どもたちの状況(小学校版・中学校版)」を2種類作成し,県内の全教職員に配付した。これらの資料は教育センター学びの丘HPに掲載している。(URL:http://www.wakayama‐edc.big‐u.jp/zenkoku/zenkoku.html)
 また,平成20年3月には,本県の学力課題である「活用する力」を育成するために,小学校,中学校,高等学校の各教科の指導主事と教員とが共同して実践指導事例集「PISA型読解力向上のための実践指導資料集」を発行して,県内すべての学校に配付した。この資料は,県教育委員会HPに掲載している。(URL:http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/500200/pisa2007.pdf)

1.和歌山県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1)事業概要

 「平成19年度全国学力・学習状況調査結果に基づく和歌山県の学校改善とその支援に係る提言」を基に,平成20年度は調査結果の分析と課題克服の取組を進めた。
 本県の学力課題としては,国語科においては,要約する力,与えられた条件に即して書き換える力,正しく読み取る力,自分の考えを書く力などが挙げられる。算数・数学科においては,様々なグラフから情報を読み取り処理する力,筋道立てて考え課題を解決する力,言葉や式,文字などを使って説明する力などが挙げられる。
 県内9校を調査活用協力校として指定し,各学校が自校の課題を解決できるよう市町教育委員会と連携を取りながら支援を行った。各学校の要請に応じて,全国学力・学習状況調査の説明,研究体制についての指導助言,PISA型読解力についての解説等を行った。
 また,有識者,教育委員会関係者,調査活用協力校研究主任で構成する学校改善推進協議会を設置し,講師を招いての研修会を開催した。2月には実践報告会を開催,広く県内の小中学校に調査活用協力校の取組を広めた。そして,年度内に調査活用協力校の実践をまとめた報告書を作成し,各市町村教育委員会及び県内の小・中学校に配付するとともに,県教育センター学びの丘HP上に掲載した。

(2)実施体制

 調査活用協力校は,各市町教育委員会の意向を踏まえ,県内の各地方に配置するため小学校6校,中学校3校を選定した。
 下図のように,市町教育委員会に支援を行うと同時に学校改善推進協議会を開催し,調査活用協力校9校が学力向上に係る授業改善について情報を交換できる場を設定した。また,この学校改善推進協議会では外部講師を招聘し,学校改善に関する講演と,調査活用協力校の取組や市町村教育委員会,県教育委員会の取組に対する指導助言をいただき,さらなる改善に努めた。

実施体制

(3)研究成果

 まず,児童生徒の学力向上とともに,学習意欲の向上が挙げられる。
 次に,各研究協力校における授業改善が進んだことが挙げられる。授業改善のためのプランに則し,学習環境の整備,学習規律の確立,児童生徒の学習意欲を高めるための教材や教具の工夫,「思考する」「表現する」ことを意識した授業展開や形態の工夫など,当県の課題と各校における独自の課題を重ね合わせながら工夫した授業が行われるようになった。
 3点目に,自校の教育課題に取り組む管理職をはじめ教職員の意識の変容が挙げられる。授業改善はもとより,研究体制の見直し,研究協議での授業の振り返り法など,各校特色ある取組が進められるようになった。2月に開催した実践報告会には定員を超える参加申し込みがあり,県内教職員の課題意識の高まりが感じられた。
 学力向上に対する課題として,「(1)事業概要」に挙げた課題解決が十分であるとはいえない。平成20年10月に行った県学力診断テストの結果から明らかになった課題は,国語科では文章の内容を正しく読み取ったり,説明文で段落の関係を考えること,算数・数学科では文章や図,表などから情報を読み取り,言葉や式等を使って説明すること等であった。
 今後は,地域や家庭と連携しながら,児童生徒に書く習慣や読む習慣を身に付けさせること,学習したことを日常生活の様々な場面で活用できることを実感させること等に取り組む必要があると考える。

2.普及啓発と今後の取組について

(1)成果の普及啓発に関する取組

 9校の調査活用協力校のうち,5校が研究発表会を開催した。また,研究成果の自校HPへの掲載,研究紀要の作成,教育研究会等での実践報告など,市町教育委員会,調査活用協力校が連携して独自の成果の普及に努めた。
 2月に開催した実践報告会には,約200名の教職員が参加し,調査活用協力校の1年間の取組の成果を紹介した。
 調査活用協力校の実践のまとめを報告書として600部作成し,県内全小中学校及び市町村教育委員会に配付した。また,県教育センター学びの丘HPに掲載し,広く県民に取組の成果を広報している。

(2)来年度以降の取組

 本県の学力課題として明らかになった「ことばの力」向上のための「ことばの力総合推進事業」を行う。また,県教育センター学びの丘が中心となって学校の経営課題や学力課題を改善するため分析支援チームや授業改善支援チームを派遣する「学力向上推進支援事業」を行うこととしている。

調査活用協力校における取組事例1
学校名 海南市立第二中学校 学校長 福田 佳史 研究主任 池端 尚也
生徒数 132名 学級数 7学級
研究主題 わかる授業で基礎学力の定着を図る
1生徒の現状と課題

 生徒は,日方小学校からの同じ仲間で構成されているが,毎年,国立・私立の中学校へ進学する生徒がおり,平成20年度の3年生は43名(男子21名,女子22名),22名・21名の2クラスとなっていて少人数である。3年生の生徒は入学当初から,全体的に学習に対する意欲が低く,自ら課題意識を持ち,課題解決に向けて取り組む姿勢も弱かった。
 平成20年度全国学力・学習状況調査の結果から,全国(公立)平均正答率と比べて,国語Aはわずかに高く,国語Bは若干低く,数学A・Bは高い状況にある。平成18・19年度県学力診断テスト,平成20年度全国学力・学習状況調査推移〔表1〕から,第1学年時から第3学年時にかけて,国語・数学ともに向上していることが分かる。さらに,[国語B・数学B]問題形式区分別集計結果〔表2〕から,全国(公立)平均正答率と比べると記述式問題の正答率が高いことが分かる。また,[国語B・数学B]全国(公立)無解答率と本校無解答率の差集計結果〔表3〕から,無解答率も低いことが分かる。

〔表1〕平成18・19年度県学力診断テスト,平成20年度全国学力・学習状況調査推移

  第1学年時(H18) 第2学年時(H19) 第3学年時(H20) 第3学年時(H20)
テスト名 県学力診断テスト 県学力診断テスト 全国学力A問題 全国学力B問題
教科 二中 県差 二中 県差 二中 県差 二中 県差
国語 66.4 60.5 71.9 57.0
数学 64.1 67.7 64.3 48.8

*以後,平均正答率の単位は%である。

〔表2〕[国語B・数学B]問題形式区分別集計結果

  問題形式区分 対象設問数 平均正答率
本校 全国
国語B 選択式 6 67.4 70.3
短答式 0      
記述式 4 41.3 46.7
数学B 選択式 5 54.8 55.2
短答式 4 60.6 62.5
記述式 6 35.9 35.3

〔表3〕 [国語B・数学B]全国(公立)無解答率と本校無解答率の差集計結果

全国(公立)無解答率と本校無解答率の差 国語B 数学B
本校無解答率<全国(公立)無解答率-5%の設問数 2 4
全国(公立)無解答率-5% ≦ 本校無解答率 ≦ 全国(公立)無解答率の設問数 7 10
全国(公立)無解答率<本校無解答率 ≦ 全国(公立)無解答率+5%の設問数 1 1
全国(公立)無解答率+5% ≦ 本校無解答率の設問数 0 0

〔図1〕数学A正答数分布グラフ

 〔図1〕数学A正答数分布グラフ

 しかし,数学A正答数分布グラフ〔図1〕から,低学力の生徒がおり,全体として二極化している(学力差が(波線は全国基準)大きい)。その原因として,基本的な生活習慣や家庭学習習慣が定着していない状況〔図2〕にあり,基礎的・基本的な事項が身についていない生徒の多くは,学習に対する意欲が低いことがあげられる。
 以上のような実態を踏まえ,取組を進めていく。

〔図2〕生徒質問紙に見る全国基準と本校との比較(波線は全国基準)

〔図2〕生徒質問紙に見る全国基準と本校との比較

2本年度の学力向上に向けた取組の概要,具体的な内容

(1)調査結果等の分析
 全国学力・学習状況調査結果と県学力診断テスト結果(教科に関する調査結果)を多面的に分析し,指導上の課題等を明確にし,学習指導の工夫改善に取り組む。また,質問紙調査結果を分析し,成果と課題を明確にし,学校運営の改善に取り組む。

(2)少人数指導・少人数学級編制による指導の充実
 本年度は,少人数指導を1・3年生の3教科(国語・数学・英語)で実施する。学習集団の学力をほぼ等しくし(均質学習集団),生徒一人一人の特性や人間関係等を考慮し,2学級を3つの学習集団に編制し指導している。2年生では,1年時から37名を2学級(19名と18名)に分け,少人数学級編制を取り入れている。
 生徒一人一人の個性や能力を最大限に伸ばすため,単に少人数に分けた授業を行うことによる基礎的・基本的な学力の定着だけでなく,きめ細かな学習指導の充実による活用型の学力向上のため,指導方法(ペア学習やグループ学習等)の充実に努める。

(3)朝の読書
 本年度は,1・2年生で,毎朝8時30分から8時40分までの10分間で行う。朝の短学活から「朝の読書」終了時刻まで,担当学年全教員による体制で指導している。(昨年度までは,全学年で上記の取組を行っていた。)

(4)朝の学習
 自己学習力を高めるため,2年生の2月頃から卒業時まで,毎朝8時15分から8時25分までの10分間と8時30分から8時40分までの10分間,計20分間で家庭での課題学習の確認作業を行う。

(5)補充学習の充実
 昨年度までは,夏季休業中の自主学習のため,9時から11時まで図書室を開放してきた。本年度は,長期休業中に10日間,補充学習を1日2時間程度,発展学習を1日1時間程度実施した。また,定期テスト発表期間中に補充学習を実施した。

(6)教科センター方式
 昨年度に引き続き,空き教室を有効利用し,1・3年生での少人数指導では,国語は国語教室で数学は数学教室で,英語は英語教室で授業を行ってきた。その他の教科でも,社会は社会教室で,理科は理科室で,音楽は音楽室で,美術は美術室で,体育は運動場または体育館で,技術は技術室で,家庭は家庭室または調理室で授業を行い,休憩中に生徒が移動をし,教科の教室で授業を受けるという教科センター方式をとる。

(7)選択授業の工夫改善
 選択授業では,昨年度までは基礎的・基本的な内容の確実な定着を目的として行ってきたが,本年度は,基礎コースと発展コースを選択できるようにし,より個に応じた指導を行う。

(8)ALTとJTEによるTeamTeachingの充実
 ALTとJTEによるTT授業の指導方法について工夫改善を図り,コミュニケーション能力の育成に努める。

(9)活用型の学力向上
 昨年度は,ワークシート・発問を工夫することで,思考力・判断力・表現力等の育成に取り組んだ。本年度は,さらに既習事項や既有経験を活用して,解決できそうな新しいことを学習できる問題の提示や発問を工夫改善し,活用する力を育むための教材開発やテスト問題の作成に取り組む。

(10)指導と評価の一体化の充実
 ワークシート・ノートの指導・点検や小テストを行うなど,常に形成的評価を行い,つまずきを把握し,個に応じた指導の充実をさらに推進する。
 昨年度までは,定期テストで正答率を出し,正答率の低い問題は特に丁寧に解説し,その類題を補習するなど,苦手な問題を克服できるように指導した。本年度は,さらに定期テストに活用型問題を出題し,反応率等を分析することにより,今後の課題を検討し指導方法を研究する。

(11)ICT活用の推進
 コンピュータの正しい使い方や操作スキルを習得させるなど,ICT活用の能力の育成に努めるとともに,総合的な学習の時間では,調べ学習や発表,行事などにも積極的に活用する。また,「分かる授業」を実現するために効果的に活用し,さらにテレビ会議システムの活用を進める。

(12)小・中学校間の連携・交流の推進
 3年前から,英語科の教諭が小学校で英語活動の指導を行い,特別活動等でも小学校との連携を図ってきた。本年度は,さらに小中学校間での教科指導(英語,算数・数学)の連携や系統的な指導,生徒指導上の連携をさらに充実させる。

(13)家庭・地域と連携した指導の充実
 3年前から行ってきたキャリア教育(職場体験)により,地域との連携を図ることができてきたが,本年度はさらに工夫改善を行い,充実させる。
 また,学校行事に地域のお年寄りを招待し生徒と一緒に行事を行うなどしてきた。本年度はそれに加え,地域のゲストティーチャーによる講演会などを行い,地域から学ぶ機会をつくる。

3 成果

(1)生徒・地域の実態に応じた教育に対する教職員の共通理解
 ここ3年間で,1人を除いて転出入し,本年度は教壇教員9人(15人中)の転出入があった。転入してきた教職員が,この研修を通して,本校の特色や生徒・地域の実態を把握し,全教職員共通理解のもと,学力向上のため取り組んでいく体制づくりができた。

(2)授業での落ち着きと意欲の向上
 少人数指導を行うことで,教員が生徒と関わる機会と時間が増えたことにより,生徒は落ち着いた環境の中で学習することができるようになり,さらに意欲も向上した〔表4〕。また,「朝の読書」や「朝の学習」が定着し,1限目の授業が落ち着いた雰囲気で始められ,安心して学習に取り組むことができた。

(3)学力の向上
 指導方法や授業内容,授業形態などの工夫改善が進むとともに教員の指導力向上が図られ,個々の生徒に対応したきめ細かな指導ができ,学力が向上してきている。〔表2,表4,表5〕

〔表4〕平成20・19年度数学B問題の結果
(「平成19年度数学B問題」は平成21年1月9日に3年生で実施した。)

実施日 平成20年4月22日 平成21年1月9日
平成20年度 数学B問題 平成19年度 数学B問題
評価の観点 本校 全国 全国比 本校 全国 全国比
数学的な見方や考え方 47.0 67.8 56.5 + 11.3
数量や図形についての表現・処理 63.1 77.5 66.5 + 11.0
数量や図形についての知識・理解       97.7 91.8 + 4.7

〔表5〕平成20年度県学力診断テスト数学内容領域における県と本校の比較

1年生 本校 県比 2年生 本校 県比
小6年A 数と計算 64.1 55.9 - 8.3 中1年A 数と式 68.4 68.0 - 0.3
小6年B 量と測定 70.4 66.0 - 4.5 中1年B 図形 59.7 61.4 + 1.7
小6年C 図形 69.7 55.3 - 14.4 中1年C 数量関係 61.8 60.5 - 1.2
小6年D 数量関係 61.9 61.7 - 0.2 中2年A 数と式 64.4 66.4 + 2.1
中1年A 数と式 69.4 69.5 + 0.2 中2年C 数量関係 52.2 59.5 + 7.3
4 課題

(1)指導力の向上
 主として「知識」に関する問題は概ね良好だが,それに比べ,主として「活用」に関する問題は少し低いレベルとなっており〔表1〕,活用する力に結びついているとはいえない。そこで今後も,活用する力を伸ばすための教材開発やテスト問題の作成に取り組み,指導方法の工夫改善をより一層充実・進展させ,教員のさらなる指導力向上を図っていく必要がある。

(2)基本的な生活習慣・学習習慣の確立〔図2〕
 基本的な生活習慣や家庭学習習慣が定着していない状況にあり,さらに規範意識も低いため,今後も家庭と連携し,基本的な生活習慣と家庭学習習慣の定着に向けての取組を継続していく。

(3)継続的な取組
 今後も,継続的に全国学力・学習状況調査等の結果を分析していくことで,生徒の変容をとらえるなど指導上の課題等を明確にし,学校運営や学習指導等の改善に取り組むことで「確かな学力」を身に付けさせていく。

5 今後の計画,取組予定

(1)全国学力・学習状況調査等の結果を活用した取組を継続していく。
(2)各種研究会等への参加と職員研修を実施する。特に,活用型学習の研究・研修を行うなど,指導方法の工夫改善を一層充実・進展させ,教員のさらなる指導力向上に向けて取組を進める。

6 成果の普及について

(1)ホームページで普及を図る。
(2)実践記録を刊行する。
(3)学校だより,学年だより等による情報発信をする。
(4)その他

調査活用協力校における取組事例2
学校名 上富田町立 朝来小学校 学校長 小森弘二 教務主任 後藤俊次
児童数 463名 学級数  16学級
研究主題 『読み取る力』を身につける授業づくり
1.児童の現状と課題(全国学力・学習状況調査等の分析より)

【国語科における現状と課題】

▽全般的に,国語に関する「興味・関心」は高く,「文章を書く力」,「言語力(漢字含む)」に優れている。これは,日課に予定帳と「一言日記」による「書く」指導を取り入れていること,漢字のミニテストを実施し,基礎・基本の定着に努める等の継続した指導があったことが功を奏していると考察している。
▼「話すこと・聞くこと」についてやや課題がある。問題では,「話の要点を聞き取り,効率よくメモを取る」ことや「聞き手に分かりやすいスピーチにするために大切なことを理解すること」に弱い点があった。
▼正答率が低かったのが,「読む・書く能力」で48%。具体的には,一つの資料を読み,その情報の中から必要な事項を取り出し,新聞の一部に注意点として書き換えるもの,取り上げた事実がどのような理由で述べられているか的確に読み,その理由を要約するもので,大きな課題である。
▼上記の弱さは,まさにPISA調査における「読解力」の結果から明らかになった課題と共通している。国語科や各領域で身につけた知識や技能を,『実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるか評価』したものとして捉え,本年度の「読み取る力を付ける」授業改善に生かしていく。

【算数科における現状と課題】
▽教科担任制を5年生より取り入れ,専門的できめ細やかな指導を続けている。作業や体験を取り入れながら,基礎基本の理解と数学的考え方の育成に努めている。
▽基礎的・基本的な知識・理解は小プリントやドリルによる丁寧な繰り返し指導により確実に定着するようにしてきたため,「数と計算」領域においては高い正答率の問題が多かった。
▽「活用」に関する問題は,文章題や記述式の問題が多く,計算等の基礎基本の力だけでなく,なぜそういう考えに至ったのかという自分の考えを論理的に説明する力に弱さが見られた。
▼「知識」に関する問題では全国に比べて高い達成率が見られたが,特に正答率が低かったのが「210×0.6」の式で求められる問題選びで,49.4%の正答率であった。小数の乗法の意味理解ができていないという実態が表れている。計算はできるが,その意味理解ができていないことが実態として認識できた。
▼最も正答率が低かったのは,5(3)で11.1%である。(全国平均は17.9%)地図を観察して面積を比較するもので,内容的には難しくないと思われたが,記述式であったために正答率が下がっている。
▼対策としては様々な要因があるのでまとめにくいが,総合的に「読解力」を高めること,書かれた内容(問題)を自分なりに解釈できるようになること,考えを書く力を養成すること等が考えられる。問題について難しいと感じた児童はA問題で18.5%であるのに対し,B問題で75.3%あった。B問題に多く見られた文章を読んで,自分なりの解決方法を見出していく力を付けるためにも,本年度の「読み取る力を身につける授業づくり」で授業改善を目指していく。文意をイメージ化して読み取り,考え方を書き,まとめさせることで,数学的な見方や考え方を身につける授業づくりが課題となる。

2.本年度の学力向上に向けた取組の概要,具体的な内容

1.向上させたい学力の中身を明確にした授業改善について
 本年度は,「読み取る力」の向上に研究の重点を置き,取組を進めている。これは,昨年度,校内で行った全国・県学力テスト分析や,一年間の研究授業の取組,その後の協議の記録等をまとめたとき,本校の子どもたちにはより質の高い学力の向上が課題であると思われたからである。
 ここでいう「読み取る力」とは,文章を読み取る力(読解力)だけではなく,資料を読み取る,発言者の意図を読み取るなど,五感を使い,自分のまわりから情報を取り入れることと捉えている。よって,「読み取る力」の育成は,国語科だけではなく,各教科,総合的な学習の時間,道徳の時間,特別活動など,学校での教育活動すべての場面での工夫改善につながってくるものであると考えられる。本年度は,昨年度まで取り組んできた授業づくりの4つの学びの場(研究の視点)を活用しながら「読み取る力を身につける授業づくり」に重点的に取り組んでいきたいと考えた。
【具体的取組】
◇各学年で,学年テーマと研究教科を指定して,そこを切り込み口として研究を深めてきた。
◇4つの学びの場それぞれが大切であることを前提としながらも,より「質の高いものをめざすための活動」であると考える創造的な学びの場での児童の学び(活動)をさらに検証するために,体験的な活動の重視や具体物を使った活動を取り入れ,読み取る力を身につける学習に取り組んできた。
◇授業づくりの学びの場(活動設定の工夫)は以下の通りである。
 (1)創造的な学びの場(2)基礎的・基本的な学びの場(3)個に応じた学びの場(4)認め合える学びの場
◇主題に迫るための4つの視点(学びの場)の相関図

主題に迫るための4つの視点(学びの場)の相関図

2.学校経営の観点から学力向上を捉え,縦割り班活動で自己有用感を育てる学校改善について

☆縦割り班活動の効用
 本校では,平成14年度より「仲間づくりの充実」を目指し,全校で『縦割り班活動』に取り組んでいる。次の日記からは,本年度6年生になり,下の子のお世話をしながら自らしっかりがんばっていきたいという児童の責任と自覚,意欲が感じられる。

 ぼくが1年生の時、6年生が手をつないでくれたり、やさしくしてくれたことを思い出します。ぼくも6年生になったので、そういうことをあたりまえのようにしていきたいです。今の1年生と交流したり、学び合ったりしていきたいと思います。今の1年生もそんなことを受け継いでくれるとうれしいです。
1年生からは、6年生が大きな存在に見えるように、心からがんばっていきたいと思います。
(H.20.5月6年男子)

 縦割り班活動では,6年生を班長とする異学年集団で話し合い活動を取り入れたそうじ活動,仲間意識を高めるための「なかよし集会」等の体験活動を通し,自主性・主体性を育てている。また,6年生がリーダーとして活躍することで,【自己有用感】が育ち,学級においても「学級のために役に立ちたい」という意識が育ち,係活動や学級会活動においても積極的に学級,友達と関わろうとする意識が育っている。学習状況調査では,こうした意識が,「将来の夢や目標を持つ」「人の気持ちが分かる人間になりたいと思う」等に高いポイントとなって表れている。こうした高い意識が,児童の学級への所属感を強め,4つの学びの場の一つである「認め合える学びの場」が充実し,学力向上につながっているのではないかという考えに至っている。

☆魅力ある学級と学力向上の相関性
 「確かな学力の定着・向上」には,「読み,書き,計算」に代表される基礎基本の定着と平行して,文章題を読み取る力,自分の考えをまとめて書く力等の活用力を目指す学力とした授業改善が必要なことは明白のことである。しかし,どんなに魅力ある授業づくりを展開しても,所属している学級に対して,児童自身が魅力を感じなければ児童の心は動かないのではないだろうか。
 「この学級にいると,なんだか賢くなれそうだ。」「みんないろんな考えを持っているな。」「ぼくも,しっかりと自分を表現してもいいんだ。」「私の意見が役に立ってよかった。」といった学級に対する肯定的な考えが高学年に芽生えている様に感じられる。縦割り班での教師と子ども,子ども同士のふれあいが高学年には「責任と自覚」を,低学年には「協調性と思いやり」の心が育つ場となっている。こうした一人一人の意識が,学級においても高い学習規律と意欲を持った学習集団をも育てていることを私たちは意識し,学校改善に役立てるよう取組を進めてきた。

将来の夢や目標を持っていますか

3.成果と課題

◇4つの学びの場それぞれが大切であることを前提としながらも,「質の高いものを目指すための活動」であると考える創造的な学びの場とはどういうことかをさらに検証してきた。具体的方策として,「向上させたい学力の中身を明確にした」授業づくりを目指し,読み取る力を発揮させる場の工夫に取り組んできた。
◇体験的な活動や具体物を使った学習からいかに読み取る力を身につけさせていくかを考える中で,見る・聞く・考える・話す力の大切さ(例えば,話を聞こうとする意識や語彙数の多さの重要性,個々の力量やその差を縮めることの重要性),個々が読み取ったことを全体思考に生かすための学習集団づくりの重要性等も大いに感じられ,4つの学びの場が共に発展することが主題実現に向けて改めて必要だと感じた。

1.創造的な学びの場

取組の成果  今後の課題 〈他の視点との関わり〉
○「読み取り」の多様性が生まれてきた
(操作活動 五感を通した体験活動 学習 内容と生活場面の直結 学習方法の学び インタビュー活動 発表方法の工夫 考 えを書く活動 討論・議論の仕方を学ぶ 生活のふり返り)
○興味・関心が高まった
(課題の提示に物語性 変化のある練習方法 身近な教材の利用 保護者の協力  具体物の提示 量感を養う 視覚・聴覚の活用) ○課題解決力の向上につながった(操作活動)
○機器の利用度が高まった(パソコン プロジェクター ビデオ)
○体験活動の取り入れ方(教材研究)の充実
○主体的に取り組ませること(成就感を味わわせることから生まれてくる効果)の 大切さの再認識〈3との関わり〉
○学習の過程の重視 (暗記ではなく知識の獲得へつなげる)〈2との関わり〉
○発達段階を考慮した学習効果の上がるグループの形成 〈4との関わり〉

2.基礎的・基本的な学びの場

取組の成果  今後の課題 〈他の視点との関わり〉
○話し方・聞き方の指導の徹底(系統的な 話し方指導)
○多様な表現の場の工夫ができた
 ・書く活動の場の設定
 ・相手を意識した話し方の指導
○反復練習(スパイラル)による効用
 ・基礎・基本の定着
 ・忍耐力・集中力の高まり
○学習パターンが身についてきた
○話し合いの仕方が身についてきた
○授業計画(時数)の柔軟化を図った
○個人差(基礎的学力)を縮める取り組みの継続
・聞く力,聞き方のルールを身につける
・話す力,発表の仕方を身につける思いつきで終わらない意見を出させる
・書く力,ノートづくりを身につける〈3との関わり〉
○根気強さ,正確さ・丁寧さを身につけさせる
○興味・関心持続のための手だて,主体性を身につけるための手だてをする〈1との関わり〉
○反復練習ができる教材開発〈1、3との関わり〉

3.個に応じた学びの場

取組の成果  今後の課題 〈他の視点との関わり〉
○教材開発ができた
○学習形態の工夫をした
(ペア学習 少人数クラス編制 特別支援の体制づくり グループ学習 教科担任 制等)
○根気強さが育った
○意欲的に学習に取り組めるようになった
○理解度を高めるモデルを提示した
○安心感のある学習の場をつくった
○家庭との連携 (育) 交流学級との連携 (育)を図った
○さらなる教材開発〈1との関わり〉
○習熟できた子どもへの発展的内容の手立て〈2との関わり〉
○個別指導の時間確保〈2との関わり〉
○特別支援の体制の継続〈2との関わり〉
○習熟度別体制の研究〈2との関わり〉
○TTの活用方法の研究〈2との関わり〉
○肯定的評価ができる場づくり〈4との関わり〉
○保護者との連携〈基本的生活習慣の習得〉
○指導者間の連携の充実

4.認め合える学びの場

取組の成果  今後の課題 〈他の視点との関わり〉
○思いやりある言動が多く見られるようになった
○助け合うグループ活動ができた
○コミュニケーション活動(見る・聞く・話す・話し合う)ができるようになってきた
○肯定的雰囲気に努めた
○積極性が出てきた
○協力し楽しく取り組める学習活動の計画
○グループ学習の研究〈3との関わり〉
○一人ひとりがリーダーとなる自覚を促す〈3との関わり〉
○生活力の差を埋める配慮をする〈3との関わり〉
○配慮を要する子の情緒の安定を図る
4.今後の計画,取組予定

 本年度把握,検証した結果を,次年度の「改善・向上」の視点として取組を継続させていきたいと考えている。
*目指す学力を明らかにした授業づくりを行うこと。
*4つの学びの場の視点を明らかにした授業実践を行うこと。
「読み取る力を身につけるために」どのような学びの場の設定が必要か。また,事後研では,子どもの活動と指導者の指導・評価について積極的な研修を行っていくこと。
*指導体制を工夫していくこと。(少人数指導,教科担任等。習熟度別学習については現在研修中である。)
*子どもの学び方を工夫すること。

・国語科では,まずテキストの情報の取り出しによる理解だけでなく,低学年では登場人物の心情をより捉えるために動作化を取り入れた音読,高学年では,テキストの内容だけでなく,筆者の意図を解釈するために「考えて書く」ワークシートの利用等が研究された。今後も読み取る力を中核として「書く力」を付けていく。
・算数科では文章題を中心に,具体物,操作化を取り入れ,自分の考えを式と言葉で捉えられるような展開を工夫してきた。今後も意味を理解した知識の習得に取り組んでいく。
・社会科では,非連続型テキストの利用で,資料を読み取る力はもちろん,2つのグラフを比較して情報を解釈したり,関連付けて考える能力の育成に努めてきた。読み取る力を身につける「教材開発」に努める。

*保護者との連携を深めること。
保護者には,学習面及び生活面での取り組みで「自己有用感」を感じられる教育が大切であるることを伝え,学校便り等を通して,お互いの役割と責任を自覚しながら,相互の連携及び協力に努めていくこと。
 まだまだ課題が山積しているが,今後も学力向上,ひいては「生きる力」の育成に役立てるよう研究を推進していきたいと考える。

5.成果の普及について

 本年度の研究の成果については,以下の方向で普及を図り,特色ある学校づくりに努められるように取組を進めていきたいと考えている。
▽「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究」を取り入れた研究冊子の配布を行う。
▽上富田町教育研究会において,町内の小中学校と研究会を持ち,本校の取組を報告し,各校の情報も取り入れながら,研修を深めていく。(上富田中学校との連携も含む)
▽上富田町教務主任会で報告と研修を行う。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --