本県では,個に応じたきめ細かな指導の充実を図る少人数授業等の新学習システムを推進するなど,学力の確実な定着を図る取組を進めている。
平成19年度検証改善サイクル事業では,「全国学力・学習状況調査(以下「調査」という。)の分析」「リーフレットの作成」「シンポジウムの開催」からなる学校改善支援プランを実施し,平成17年度に県で行った学力調査との比較等を通して,本県児童生徒の一層の学力の確実な定着を図るための学校支援方策を検討し,県下に普及啓発を行った。
平成19年度調査における本県児童生徒の学力の定着状況は,全国の公立学校の状況と比較し,「主として知識・技能に関する問題」は概ね身に付けていると考えられるが,「知識・技能を活用する問題」については課題が見られた。また,児童生徒質問紙調査では,全国の状況と比べ,予習・復習への取組等がやや低い状況にある等,児童生徒の学力の確実な定着を図るための学習基盤の形成に課題が見られた。
そこで,平成20年度においては,知識・技能を活用する学習活動の充実及び学習を支える基盤の形成をめざし,調査の経年分析や調査活用協力校における実践研究を進めた。
全県的な学力向上を図るため,基礎学力向上推進委員会を設置し,平成20年度調査の結果を分析し,課題解決を図るための指導方法の工夫例等をリーフレットにまとめるとともに,学力向上シンポジウムを開催した。
また,県内に調査活用協力校として,「活用する力」の向上に関する推進モデル校を配置(12校)し,教科指導を通して,基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに,知識・技能を活用する学習活動の実践研究を行った。
ア 基礎学力向上推進委員会の運営
学識経験者等からなる基礎学力向上推進委員会を設置し,平成19年度調査と平成20年調査の経年比較等を通して,県内全体として課題が見られる学習内容等についての分析を行うとともに,学力と質問紙とのクロス分析の結果から学力の定着に影響を与える要因等を把握し,課題解決の方策を検討した。
検討結果をリーフレット及び実践事例集にまとめるため,委員会内に小委員会を組織し,分析・考察を行った。
イ 調査活用協力校における実践研究
県内の12校を「活用する力の向上に関する推進モデル校」(調査活用協力校)として指定するとともに,国の「外部人材活用事業」を活用し,非常勤講師を配置した。
平成19年度調査の結果を踏まえた実践研究を行うとともに,調査結果をまとめたリーフレットや実践事例集への事例の収集を行った。
ウ 学力向上シンポジウムの開催
調査結果を生かした指導方法の工夫改善を図る方策等について周知を図るため,調査の分析結果をまとめたリーフレット及び実践事例集を活用し,市町教育委員会及び教員を対象に全県規模のシンポジウムを開催した。
「基礎学力向上推進委員会」の協力のもと平成20年度調査の分析を進めた結果,以下のことが明らかになった。
○ 本県児童生徒の学力の定着状況は平成19年度と同様,小学校・中学校とも全国の公立学校の状況と同程度である。
○ 全国的な状況と同様に,「知識に関する問題」の一部や「活用に関する問題」に課題が見られる。
○ 様々な考えを引き出し思考を深めたり,学習したことを振り返らせたりする等の指導方法を工夫している学校の児童生徒ほど,正答率が高い傾向が見られる。
○ 「朝の学習」活動を設け,読書活動や漢字・計算の反復練習を行ったり,保護者や地域の人々の参画を得た教育活動を推進している学校の児童生徒ほど正答率が高い傾向が見られる。
こうした結果を踏まえ,県では,学力や学習習慣に関する課題を解決するため「学習タイムの推奨」「知識・技能を活用する学習活動の工夫」について検討を進めた。
ア 学習タイムの推奨
課題が見られた問題や質問を分析した結果,以下の問題が明らかになった。
国語では同音異義語や類義語,慣用句,算数・数学では小数,分数や文字式の計算等の問題の正答率がやや低く,また,これらの問題は無解答率も高い。
1.小学校国語
○ 「かいじょう」の同音異義語のうち開場を答える。
正答率 (%) | 無解答率 (%) | ||
---|---|---|---|
県 | 全国 | 県 | 全国 |
38.0 | 36.8 | 18.5 | 18.7 |
2.中学校国語
○ 辞書における「金字塔」の意味を用いて「金字塔を打ちたてた」の意味を答える。
正答率 (%) | 無解答率 (%) | ||
---|---|---|---|
県 | 全国 | 県 | 全国 |
40.3 | 41.4 | 23.1 | 22.2 |
3.小学校算数
○ 2÷3の商を分数で表す。
正答率 (%) | 無解答率 (%) | ||
---|---|---|---|
県 | 全国 | 県 | 全国 |
66.7 | 73.7 | 5.2 | 4.6 |
4.中学校数学
○ 連立方程式を解く。
y=3x-1
3x+2y=16
正答率(%) | 無解答率 (%) | ||
---|---|---|---|
県 | 全国 | 県 | 全国 |
80.6 | 76.7 | 9.3 | 11.2 |
予習をしている児童生徒の割合は,全国より小中学校ともにやや低く,復習をしている児童生徒の割合は,全国より小学校では5.7ポイント低く,中学校では6.0ポイント低い。
○ 復習をしているという質問に対し,「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した児童生徒の割合
小学生(%) | 中学生(%) | ||
---|---|---|---|
県 | 全国 | 県 | 全国 |
37.7 | 43.4 | 33.6 | 39.6 |
国語や算数・数学の「A:主として知識に関する問題」の正答率と予習・復習とのクロス分析の結果,家で学校の授業の予習・復習をしている児童生徒ほど,正答率が高い傾向が見られた。
【小学校国語A平均正答率×質問:予習をしている】
こうしたことから,宿題や予習・復習などの家庭での学習課題を適切に課すなど,家庭学習も視野に入れ,家庭との連携を図りながら学習習慣を育成することが重要であると考えた。そこで,各学校において,10分間程度をモジュールとする「学習タイム」を推進し,基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着や,学習習慣を確立する取組が一層充実されるよう,事例集「基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着をめざして‐『学習タイム』の推進‐」を全校に配布した。
イ 知識・技能を活用する学習活動の工夫
本県では,平成19・20年度ともに,「主として活用に関する問題」に課題が見られた。また,平成20年度の学力と児童生徒質問紙とのクロス分析の結果,以下のことが明らかになった。
自分の考えの理由がわかるように気をつけて書いている児童生徒や,学習したことを普段の生活で活用できないか考えている児童生徒ほど,平均正答率が高い。
【小学校国語A平均正答率×質問:国語の授業で自分の考えを書くとき,考えの根拠がわかるように気をつけて書いている】
【中学校数学B平均正答率×質問:数学の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考えている】
こうしたことから,学識経験者,学校関係者等による活用事例集作成部会において知識・技能を活用する学習活動の在り方について研究協議を行うとともに,県内の「活用する力」推進モデル校の成果等を参考にして,事例集「知識・技能を活用する学習活動に関する指導事例集」にまとめ,県内各学校へ普及啓発を行った。
【事例概要】
小学校国語 | 1.司会の能力を高める学習活動 2.キーワードに着目し,理由や根拠を踏まえて記述する学習活動 3.字数や表現様式などの条件に応じて書く力を高める学習活動 4.複数の文章や資料を比較・吟味する学習活動 |
---|---|
中学校国語 | 1.自分の考えを相手に効果的に伝えられるように書く学習活動 2.複数の資料を比較し目的に応じて情報を活用する学習活動 3.読み比べすることにより共通点や相違点に気付く学習活動 4.作品の展開や心情の変化に着目しながら音読や朗読をする学習活動 |
小学校算数 | 1.情報過多の問題を提起し,必要な情報を選択する学習活動 2.他教科と関連した学習活動 3.学んだことを日常事象に活用する学習活動 4.式や図,文章により筋道を立てて説明する学習活動 |
中学校数学 | 1.文字式を利用する良さを感得させる学習活動 2.数学的に表現したり日常的・社会的現象へ活用する学習活動 3.証明の意義を理解させ,相互に検討し合う学習活動 4.式・表・グラフのつながりを重視したり,説明する学習活動 |
ア リーフレット・指導事例集
基礎学力向上推進委員会において,平成19・20年度調査の結果から課題が明らかとなった「活用」に関する指導事例集を作成するとともに,平成20年度調査の結果をまとめたリーフレットを作成し,県内全教員(約28,000人)に配布することで,検証改善サイクルの確立や課題解決を図るための指導方法の工夫改善に活用するよう支援を行った。
イ シンポジウム
平成20年12月に全国学力・学習状況調査の全県的な状況についての周知,課題に基づく指導上の工夫改善の在り方等ついて普及啓発を図るため,県内の実践事例の発表及びリーフレットを活用したパネルディスカッションを内容とするシンポジウムを開催し,約1,000名の管理職及び教員の参加を得た。基調報告とパネルディスカッションの2部構成で今後の指導方法の工夫改善の在り方等について議論を深めた。
また,県内9地域において,リーフレット等を活用した「活用する力」の研修を実施し,管理職及び教員に改善事項の周知を図った。
ア 検証改善サイクルの推進
平成21年度も,引き続き全県基礎学力向上推進委員会を設置し,経年変化を分析するとともに,リーフレット作成,シンポジウムの開催を通じて調査の有効活用を推進する。
また,県内9地域で,事例集等を活用した教員研修を実施する。
イ 「学習タイム」の推奨
基礎的基本的な知識・技能の確実な定着や学習習慣を育成するために,「学習タイム」の推進に関するリーフレットを全校に作成・配付し「学習タイム」を推奨する。
ウ 研究協力校
全県的な課題として,中学校国語に課題が見られたことから,研究校として中学校20校を指定し,国語の指導方法の工夫改善に取り組むこととしている。
(参考)リーフレット・事例集は以下のホームページからダウンロード可
兵庫県教育委員会義務教育課
http://www.hyogo‐c.ed.jp/~gimu‐bo/index.html
「平成20年度全国学力・学習状況調査結果」
「基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着をめざしてー「学習タイム」の推進‐」
「知識・技能を活用する学習活動に関する指導事例集」
ア 学級数等
1 年 | 2 年 | 3 年 | 特別支援 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
学級数 | 3 | 3 | 3 | 1 | 10 |
生徒数 | 108 | 116 | 94 | 1 | 319 |
教員数25
イ 研究対象学年
全学年
ウ 研究対象とする教科
国語・数学
ア 全国学力・学習状況調査を活用した工夫改善のポイント
イ 具体的な取組内容
1.「朝学習の充実」「基礎学習ノートの定着」「学び合いの授業」
2.少人数指導や複数指導による個に応じた指導
ウ 各教科における学び合いの授業
1.国語科
2.数学科
ア 知識・技能を活用する学習活動の工夫
イ 研究成果の普及啓発
西宮市内の中学校で組織する研究グループ「中学校学力向上」(年間7回開催)で成果を報告するとともに,西宮市総合教育センター主催教育研究発表会において発表し,研究成果の普及啓発を図った。
ア 生徒相互の関係を客観的に把握し,小集団で活動する「学び合いの授業」に生かす方法の研究を進める。
イ 知識・技能を活用する学習活動において,効果的な複数指導,少人数指導のあり方の研究を深める。
(1) 学校の状況
ア 学級数等
1 年 | 2 年 | 3 年 | 4 年 | 5 年 | 6 年 | 特別支援 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
学級数 | 5 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 1 | 25 |
生徒数 | 149 | 134 | 118 | 123 | 130 | 102 | 2 | 758 |
教員数34
イ 研究対象学年
5,6年
ウ 研究対象とする教科
国語
ア 全国学力・学習状況調査を活用した工夫改善のポイント
イ 具体的な取組内容
1.対話する力の育成
2.論述する力の育成
3.読書習慣の育成
ア 知識・技能を活用する学習活動の工夫
1.対話する力の育成
2.論述する力の育成
3.各教科等での新聞づくり
4.読書習慣の育成
イ 研究成果の普及啓発
兵庫県教育委員会中播磨教育事務所主催「活用する力」ステップアップ研修会において発表し,研究成果の普及啓発を図った。
ア 発達段階や個々の指導の状況に応じた言語活動の在り方
イ 自己評価や相互評価,小集団での討論を重視した学習活動の工夫
ウ 国語以外の教科等での言語活動の充実を図る学習指導のあり方
エ 家庭と連携した読書習慣の充実
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --