富山県では,全国学力・学習状況調査の結果から,「学び合い」と「体験」を柱にした「とやま型学力向上プログラム」を策定した。そして,児童生徒の発達の段階に応じて「学び合い」や「体験」を学習活動に位置づけて成果を上げた実践事例を基にした指導資料と,学習内容の定着を図り,知識・技能等を活用していくための学習教材を作成した。それらを県内全小・中学校に配付し,「とやま型学力向上プログラム」の推進を図ってきた。
しかし,各学校が全国学力・学習状況調査の結果を十分活用しているとはいえない状況が明らかになった。そこで,各学校が,全国学力・学習状況調査の結果等を生かした検証改善サイクル(PDCAサイクル)を確立し,成果と課題を明らかにした教育指導の改善を重点的に進めていく必要があると考えた。
1.「とやま型学力向上プログラム」の策定
本県では,これまでも「児童生徒がかかわり合う学習活動を目指した授業づくり」,「児童生徒が授業で身に付けた知識・技能の有用性を実感し,学ぶ意欲が高まる体験活動の充実」を課題として各学校において授業改善に取り組んできた。しかし,取組の成果の検証方法が確立されておらず,効果的な方策が見いだせない状況も見られた。
また,平成18,19年度に開催された富山県義務教育在り方協議会(委員:学識経験者,保護者代表,学校関係者等)においても,「子どもたちのコミュニケーション能力が不足しており,学級の学習集団としての機能が低下している学級では学力の向上を期待しにくいこと」「これから求められる学力として,知識・技能を活用していく力の育成が重要であること」が指摘された。
このような現状や課題については,平成19年度に実施された全国学力・学習状況調査結果からも明らかとなった。そこで,富山県では,図1のような「学び合い」と「体験」を柱とした「とやま型学力向上プログラム」を策定した。
《図1》
2.取組の概要
20年度は,「とやま型学力向上プログラム」を踏まえながら,全国学力・学習状況調査の結果等を活用した検証改善サイクルを大切にして授業改善や学校改善を図ることとした。そのために,調査活用協力校における取組に対して指導・助言等の支援を行うとともに,優れた授業実践事例を収集した。それを基に指導資料・学習教材を作成し,小・中学校の全学級に配付した。さらに,県内教員を対象に実践報告会の実施やリーフレットの配付等を通して成果の普及を図った。
調査活用協力校は,全国学力・学習状況調査の結果から自校の成果と課題を明らかにし,「とやま型学力向上プログラム」を踏まえ,課題解決に向けて意欲的な授業改善に取り組もうとする学校を選定した。なお,20年度は,県内15市町村のうち8市町村から,各1校(小学校4校,中学校4校)を選定した。
実践報告会やリーフレット等により,全国学力・学習状況調査の結果等を生かした継続的な検証改善サイクルを確立し,授業改善や学校改善に取り組む必要性を各学校に広めた。
また,各調査活用協力校における取組の成果から表1のような「授業改善のポイント」をまとめ,実践報告会の開催やリーフレット等の配付を通して県内の全小・中学校に提示した。
《表1》
授業改善のポイント
ポイント | 主な取組 | |
---|---|---|
導入 | 児童生徒が具体的な目標を共有する | ・学習内容や活動の方法や手順等の確認 ・課題提示の工夫 ・全員が取り組める課題設定の工夫 ・学習内容と実生活を関連づけた学習展開の構想 |
展開 | 児童生徒が目標を達成するための具体的な学習方法や手順を共有する | ・学習内容に応じた学習形態の工夫 ・問題の解決,または解決のプロセスのためのスキル指導 ・人間関係を大切にした話し合いの約束づくり ・グループ活動への助言の工夫 ・論理的な思考を伸ばす書くことの指導 ・児童生徒同士による意見交換の工夫 ・指導形態(TTと少人数指導の組み合わせ方)等の工夫 |
終末 | 児童生徒が具体的な成果を確かめ合う | ・個や集団の目標達成度を具体的に確認する評価の工夫 ・自他の考えのよさや高まりを実感できる評価の工夫 |
1.指導資料・学習教材(追録版)の配付
調査活用協力校での授業記録や作成資料を参考にして,19年度の指導資料「授業改善のためのかくし味(学び合い編,体験編)」・学習教材「豊かな体験パワーアップカード」の追録版を作成し,県内小・中学校の全学級に配付して,成果の普及に努めた。
授業改善のためのかくし味
豊かな体験パワーアップカード
2.調査活用協力校における研修会等への支援
調査活用協力校において,大学教授及び指導主事等を招聘した校内研修会を実施できるように支援した。その際,近隣の学校の教員等にも参加を呼びかけ,実践の取組と成果の普及を図った。
大学教授によるワークショップ
3.広報紙,リーフレットの配付
調査活用協力校での研究の取組概要や成果等の普及を図るため,広報紙やリーフレットを県内全小・中学校に配付した。
広報紙
リーフレット
4.「とやま型学力向上プログラム」実践報告会の実施〈平成21年2月12日(木)〉
県内全小・中学校の校長,教頭,教務主任等約370名を対象とした実践報告会を下記の内容で開催した。
報告会では,全国学力・学習状況調査の結果から自校の成果と課題を教職員で共有し,検証改善サイクルを踏まえて授業改善や学校改善を進める必要があることを確認した。さらに,調査活用協力校における「とやま型学力向上プログラム」を踏まえた取組とその成果について,普及・啓発を図った。
各学校が,全国学力・学習状況調査の結果等を分析し,それを生かした継続的な検証改善サイクルの確立を一層進めていく。また,21年度は,「とやま型学力向上プログラム」調査活用協力校を県内全15市町村から各1校選定する。そして,20年度の実践から提案した「授業改善のポイント」の検証と改善を図り,「とやま型学力向上プログラム」の充実に努める。
19年度全国学力・学習状況調査の結果より,
等を大切にした授業改善が必要であることが明らかになった。そこで,「対話的な学級づくりと一人一人の学びを支える授業の充実」という研究主題を設定し,国語科と算数科を中心として取り組むこととした。具体的には,国語科では,自分の考えを伝える力,他の考えを認めながら自分の考えと比べて聞く力の育成,算数科では学習したことを活用する力の育成に努めることを大切にして実践することにした。
《図2》共通に努力したい10か条
○一人一人の学びを支援するレディネステストや誤答分析
児童一人一人の理解度を確認し,個に応じた支援を行うために単元導入前にレディネステストによる誤答分析を行った。一人一人のつまずきを確認した上で授業に臨むことで,適切な指導を行うことができ,学習内容の定着率も向上した。特に,算数科において効果的だった。
○学びの足跡が分かるノート指導
「ノート指導の手引き」を作成し,全学年でノートの基本的な書き方を徹底した。「課題」「見通し」「解決」「練習」「まとめ」という流れを重視して指導に当たったことによって,課題に対して予想を立て,自分の解決方法をノートに書き表そうと粘り強く考えるようになった。また,話し合いの際に友達の考えのよいところや「なるほど」と思ったことをノートにメモすることで自分の考えを見直し,深めることができた。
○考えを練り上げるためのペア学習・グループ学習
一人学習からペア学習・グループ学習,さらに全体学習へと学び合う人数を徐々に増やしていくことで,全体の場ではなかなか自分の意見を伝えることができなかった児童でも,無理なく自分の考えを発表することができるようになってきた。
ペア学習では,「自分の意見を相手に伝える」「相手の意見を聞く」「二人の意見を交えながら発表する」ということから始めた。教科や児童に合わせてペア学習の仕方を次第に変化させていくことで,より自然な話し合いができるようになった。特に,互いに意見を伝え合った後,二人の意見の類似点や相違点を話し合う時間を設定したことで,話し合いが焦点化され,考えを練り上げることもできた。
また,グループ学習ではグループのメンバー一人一人が役割をもつことで,話し合いをスムーズに進めることができた。ペア学習・グループ学習とも,下の例のように話し方や聞き方のルールを決めて行うことで,低学年でもスムーズに自分の考えを伝え合うことができた。
《例》「話し方のあ・い・う・え・お」
あ:相手を見て
い・う:言う順番を考えて
え:話したいことを選んで
お:終わりまではっきりと
○感動を共有できる体験活動の導入
大きな驚きや感動は児童の感性を豊かにする。そういう感性を文章表現にも取り入れるために国語科と生活科,総合的な学習の時間を関連づけながら書く指導を行った。特に,低学年では「『目,鼻,耳,口,手,足』等,体全体を使って感じよう。そして『心』で思ったことやそのときの気持ちを大切にしよう」と語りかけ,絶えず視点を変えて観察することを意識させるとともに,比喩表現の使い方等を学年に応じて適時指導した。その結果,次第に表現が豊かになってきた。さらに,日記に書いてきた日常の小さな出来事に対し,感動をもって教師が返事を書くことで,児童は書くことを楽しむことができるようになってきた。
○学習意欲の向上につながる自尊感情の涵養
全教育活動の根底に道徳教育をおき,各教科・領域を関連づけながら「いのちの教育」を行った。特に,道徳の時間では自他のいのちを大切にし,よりよく生きようとする心情を高めることをねらいとしたことが,相手の言動を理解しようとする心情を育てるとともに,自己肯定感を高めることにつながった。各教科においても,互いに相手の意見を認め合い,誤答から学ぼうという意識が芽生えてきている。グラフ1.2.のように,発言者は自分の意見が全面的に受け入れられたという安心感,成就感から自己肯定感を高めることができ,それが学習意欲にもつながってきている。
《グラフ1》
《グラフ2》
○学力を向上するための家庭学習の習慣化
学力の向上のためには,学習習慣の定着と基礎・基本の定着が欠かせない。そのためにも,全校挙げて家庭学習の習慣化を図った。「10分間×学年」を目標の家庭学習時間とし,目標を達成できた児童の人数を学級ごとに集計したところ,グラフ3.のように,全体達成率が8割近くまでに上昇した。
《グラフ3》
適時,家庭学習に対する意識の高め方等を話し合ったり(10月),強化週間を設けたり(11月以降),学年だより等で家庭に働きかけたりしながら取り組んだ。その結果,チャレンジテストの認定証の交付率を通して基礎的な学力を見ると(19年度→20年度)計算チャレンジテストでは98.5%→99.2%,漢字チャレンジテストでは97.7%→98.8%と伸びてきた。
・発表意欲が高まる課題設定や発問構成の工夫
・反復練習で基礎・基本を繰り返し定着させながら,それを活用できるような学習活動の工夫
・放課後に個別指導を行うなどにより学習の習慣化を図っていく工夫
全国学力・学習状況調査や他の学力調査・検査の結果から,生徒は,調査内容についておおむね理解できていると考えられる。しかし,学習状況を見ると,自分の思いを表現したり,互いの考えを磨き合ったりするなどの学習態度が十分とは言えない状況がみられた。学習が成立するためには,「実験・観察」や「鑑賞・作業」等の,生徒が自分の目や耳で感じたり,手で操作したりする学習の場が大切である。また,共に学び合う学習態度を育成することによって,学習も充実し,その効果も高まる。このような考えから「体験や学び合う場を取り入れた学習展開の工夫」と研究主題を設定した。
数学科における分析と対策
優れている点 | 指導を要する点 |
---|---|
・数学的な表現・処理 ・数学的な見方や考え方 ↑ 小プリント学習の毎時間の実施や,考える時間を十分に与えて生徒の見方や考え方を尊重する指導の成果と考えられる。今後も,帯学習や少人数指導を継続していく。 |
・数量,図形などについての知識・理解 ↓ 情報を読み取り,的確に処理する学習活動(個人の読み取った情報から意見を出し合うグループでの学び合い)を強化していく。 |
具体物に直接触れる機会,映像や音声を通して本物に接する機会,生きたコミュニケーションを体験する機会等を工夫することで,生徒の知的好奇心や学習意欲を高めることができた。
また,問題解決的な学習や体験的な活動では,見通しをもてなかったり活動がうまくいかなかったりしたときの支援方法を考えておくことで,生徒は自信をもって取り組むことができた。
授業の中に,教え合う場や評価し合う場等,生徒同士で意見や情報を交換し合う場を意図的に設定することにより,深まりのある学習活動が展開できるようになった。
生徒の理解力や表現力,興味・関心を考慮したり,ジグソー学習等を取り入れたりして,ペアやグループなどの小集団の編成の仕方や活動の方法を工夫したことにより,生徒の学習意欲を高めることができた。
また,「学び合いのルール」を教師と生徒が共に理解しながら学習を進めたことにより,生徒は自分の考えを意欲的に表現できるようになってきた。
取組による生徒の変容
○授業における生徒の変容
教師及び全生徒を対象に実施している学校評価アンケートで,「よくできた(強くそう思う)」「ほぼできた(ほぼそう思う)」と回答した教師や生徒の割合を,7月と12月で比較した。(★印の質問は,20年度のアンケートに新しく設けた質問であるため,19年12月のデータはない。)
グラフ1、2のように,20年度の取組により,教え合ったり学び合ったりしながら授業に取り組む生徒が増えてきた。
《グラフ1》
《グラフ2》
また,グラフ3、4のように自分の意見や考えをもって進んで授業に参加したり,グラフ5.6.のように自分の考えを表現したりする生徒が増えてきた。
《グラフ3》
《グラフ4》
《グラフ5》
《グラフ6》
○学習内容の定着からみた生徒の変容
18年度入学生について,19年度及び20年度の11月に実施された富山県中学校教育研究会学力調査で,自分の考えを表現することが必要とされる国語科,数学科,英語科の設問について,その正答率を県の正答率と比較した。
グラフ7~9のように,自分の考えを表現できる生徒が少しずつ育ってきていると考えられる。
《グラフ7》
《グラフ8》
《グラフ9》
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --