北海道においては,学力の向上にかかわり,平成17年3月に独自の学習状況調査を実施し,その結果を踏まえて平成18年度から学習指導の工夫・改善や教員の指導力向上を図る北海道学力STEP(ステップ)アッププロジェクト事業を展開してきた。
また,平成19年度全国学力・学習状況調査の調査結果の分析に基づいて北海道検証改善委員会が作成した「北海道学校改善支援プラン」を活用して,学校が独自に学校改善プランを作成し,学力向上に努めてきた。
全国学力・学習状況調査の調査結果から,知識・技能の確実な習得や思考力,判断力,表現力等の育成,学習意欲の向上や学習習慣の確立などが引き続き課題であることが明確となり,学力向上に向けた具体的な方策について検証・改善を図る必要があることから,次のような取組を行った。
1.各学校における検証改善サイクルの確立
「北海道学校改善協議会」を設置し,各学校が「北海道学校改善支援プラン」を活用し,検証改善サイクルを確立する取組の支援に努めた。
2.調査活用協力校における学校改善
各教育局(全道の14管内にある道教委の出先機関)において「確かな学力プロジェクトチーム」を設置し,次の取組を行った。
3.「確かな学力プロジェクトチーム」によるブロック協議会の実施
隣接する教育局の「確かな学力プロジェクトチーム」によるブロック協議会を実施して,各チームによる取組の内容について交流を図り,調査活用協力校の取組の改善に役立てた。
1.北海道学校改善協議会
北海道学校改善協議会は校長会,大学関係者,PTA等教育に携わる多様な機関で構成し,本事業全体を統括する。
また,協議会内に「調査結果分析チーム」を設置する。
2.確かな学力プロジェクトチーム
確かな学力プロジェクトチームは,各管内の指導主事及び教育研究所員,調査活用協力校の職員で構成し,各教育局ごとに編成する。
3.調査活用協力校
北海道全体での取組となるよう,全道の14の管内に1校ずつ調査活用協力校(小学校7校,中学校7校)を設置した。
【実施体制図】
【重点的に取り組む「6つの提言」】
1.「検証改善サイクルに基づく学校改善事例集」の発行
調査活用協力校の学校改善の具体例を「6つの提言」の視点から取りまとめた資料を作成し,全道の小・中学校へ配布した。
2.「確かな学びをはぐくむ実践ポイント集」
平成20年度全国学力・学習状況調査の調査結果の分析を踏まえ,北海道における学力の課題解決を目指す取組のポイントを示した資料を作成し,全道の小・中学校へ配布した。
「検証改善サイクルに基づく学校改善事例集」
「確かな学びをはぐくむ実践ポイント集」
北海道教育委員会では,北海道のすべての子どもたちの確かな学びを確立するために,基礎的・基本的な内容の確実な定着や学習習慣の確立を図る「北海道『まなび』環境づくりプロジェクト事業」を実施し,各市町村教育委員会及び学校への継続的な支援に努める。
【調査から明らかになった児童の状況】
○好きな授業や楽しみにしている活動があると回答した児童が多い。
○国語や算数の基礎的・基本的な内容の定着が見られる。
○家庭で勉強する時間を自分で決めて実行する児童が少ないことや,家庭学習の時間が短いことなど,家庭における学習習慣や生活習慣に課題がある。
1.検証改善サイクルによる取組の改善
【これまでの取組内容】
現状
○「生活リズム等アンケート」の実施(年3回)による実態把握と望ましい生活習慣・学習習慣の確立に向けた啓発活動
○学力向上を目指した国語と算数の授業における指導方法の工夫
○児童の読書に対する意欲を高めるための読書活動の充実
【調査の結果等の分析】
Check
○国語A,算数A・Bの問題の正答率が高い。
○国語Bの問題で,目的に応じて必要な情報を取り出し,効果的に書くことに課題が見られる。
○家庭学習の時間が少ない児童が多い。
【改善の方向性】
Action
○学力の定着や向上のためには家庭学習が大切であることを踏まえ,保護者と連携を図りながら,児童が自主的に学習習慣・生活習慣を改善する取組の充実を図る。
【改善の計画】
Plan
○発達の段階に応じた「家庭学習シート」を作成し,家庭学習の定着を図る。
○第1回目(5月末実施)の「生活リズム等アンケート」結果をもとに,児童や保護者に対して,家庭における学習習慣・生活習慣の改善を働きかける。
【改善の具体的方策】
Do
○各学級の実態に即した「家庭学習シート」の活用による家庭学習の定着
○「生活リズム等アンケート」(第2回目9月末実施,第3回目11月末実施)や学校便りによる学習習慣・生活習慣の改善の働きかけ
2.具体的な方策の実践事例
○「家庭学習シート」を活用した取組
家庭学習の充実を図るため,各学級の児童の実態に応じて担任が基本形を基に「家庭学習シート」を作成し,児童の主体的な活動となるよう,内容や時間について教師と児童が相談しながら取組を進めている。
家庭学習の時間は[10分×学年]を目標として児童一人一人の実態に応じて設定し,保護者と教師が連携して家庭学習の実態の把握に努め,学習シートの改善を図るなど,継続的な取組となるよう工夫している。
◆「家庭学習シート」を活用する上での4つの約束事
◆家庭学習シート記入例
【第4学年の「家庭学習シート」】
○「生活リズム等アンケート」の分析と家庭への啓発の取組
家庭における生活習慣の改善を図るため,家庭での児童の生活の様子についてアンケートを年間に3回実施し,その変容について分析して実態を明らかにした。
アンケートは,全校児童を対象として,家庭学習の時間のほか,起床時刻,就寝時刻,テレビ視聴やゲームの時間,読書時間など,7項目について行った。
また,アンケート結果を踏まえて,校内で望ましい学習習慣・生活習慣の確立に向けた方策などについて協議するとともに,結果と今後の取組について保護者に伝えるなど,学習習慣・生活習慣の改善に向けた家庭での協力を働きかけた。
【第3学年の「家庭学習の時間」の結果】
「家庭学習の時間」について,第3学年のアンケート結果を見ると,2回目のアンケートから「全くしない」児童がいなくなり,3回目では家庭学習に取り組む時間がより長くなる傾向が見られるなど,家庭学習の充実について取組を進めた成果が表れている。
○宿題はもちろんのこと,児童が自ら考えた家庭学習を行うようになってきた。
○漢字などの基礎的・基本的な知識については,定期的な小テストと家庭学習を関連させて指導したことにより,やればできることを児童自身が実感し,自信を高めることができた。
○「家庭学習シート」の記入や確認を簡潔に行うことができるよう改善を図る。
○家庭学習を通して学ぶ意欲を高めることができるよう取組を工夫する必要がある。
【調査から明らかになった児童の状況】
○学校のきまりを守ることや規則正しい食習慣が確立しているなど,基本的な生活習慣が定着している。
○地域行事への参加率や,新聞・テレビのニュースなどへの関心が高いなど,地域社会に対する興味・関心が高い。
○国語の勉強を好きな生徒が多いが,数学に対する意欲を高めることが課題である。
1.検証改善サイクルによる取組の改善
【これまでの取組内容】
現状
○数学科におけるティーム・ティーチングを工夫し,習熟の程度に応じた指導の充実を図る。
○個人カルテを活用して生徒の学習状況を把握し,教科指導に生かす。
【調査の結果等の分析】
Check
○国語は全体的に全国・全道の正答率を上回っている。特に,「国語への関心・意欲・態度」は高い。
○数学では,全道の正答率と比較して,「図形」「数学的な表現・処理」の正答率が高いが,基礎的・基本的な知識・技能の定着が課題である。
【改善の方向性】
Action
○校内体制の整備
校内体制を教育活動推進部と教育環境整備部の2部制とし,教育活動推進部が中心となって,指導体制や時間割・日課表の工夫改善を図る。
○学力向上に向けた方策
●基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る学習機会の拡大
●家庭学習の取り組み方についての具体的な指導の充実
【改善の計画】
Plan
○教育活動推進部が中心となり,学校評価に基づく学力向上に向けた具体策を検討し,全教職員が共通理解を深めて指導の充実を図る。
○家庭学習を含めた学習の進め方について,保護者の理解を深め,家庭と連携した取組を進める。
【改善の具体的方策】
Do
○個に応じた指導の充実を目指す授業改善の取組
●「個人カルテ」の活用
●個に応じた指導過程の工夫
○放課後学習会及び長期休業における学習会等の取組
●日課表や長期休業中の指導体制等の工夫
○家庭学習の習慣化を図る指導の充実の取組
●「家庭学習の手引」の作成・配布・活用
2.具体的な方策の実践事例
○個に応じた指導の充実を目指す授業改善・「個人カルテ」の活用
●個に応じた指導の充実のため,個別の学習状況を把握する「個人カルテ」を作成し,一人一人の実態に応じた指導を展開している。
【数学科における「個人カルテ」の例】
●「個人カルテ」に基づき,問題解決的な学習の指導過程を基本に,生徒がじっくりと時間をかけて課題解決に取り組む時間を設定したり,自他の考えを交流する場面で授業形態やグループを適切に設定するなど,個に応じた指導過程の工夫に努めている。
【第3学年数学の単元の指導計画の例】
○放課後学習会及び長期休業における学習会の実施
●第3学年を対象とし,11月から2月まで,100分程度の放課後の時間を確保し,学習会を行った。生徒の参加意欲を高めるよう,個人カルテに基づく個別の学習相談を丁寧に積み重ねた。
●第3学年を対象に夏・冬季休業中,計11回の学習会を行った。希望制としたが,ほぼ全員が参加し,第3学年担当の教諭3名が中心となり,学習を進める上でつまずいている点を中心に指導した。
○家庭学習の習慣化を図る指導の工夫
授業との関連を図った家庭学習となるよう,3種類の「家庭学習の手引」を作成して生徒及び保護者へ配布し活用を促している。
【学力向上の極意~家庭学習編ふ・か・ま・り】
○これまで作成した個人カルテ等を活用し,一人一人の学習状況を踏まえ,生徒のニーズに応える学習の機会を確保することにより,意欲や自信をもって学習に取り組む生徒が増えてきた。
○「家庭学習の手引」の活用により,学習の習慣化が図られるとともに,生徒が相互に教え合ったり,積極的に教師に相談する姿が見られるようになった。また,自主的に家庭学習に取り組む生徒が増えつつある。
家庭との連携を一層深め,家庭学習の意義についての理解を促すとともに,生徒の実態に応じたよりきめ細かな指導の在り方を検討する必要がある。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --