「確かな学力」の育成を目指して-徹底指導と能動型学習のめりはりをつけた熊本型授業の一層の充実をめざして-

熊本県検証改善委員会

はじめに

 熊本県では、平成13年度から、身に付けるべき基礎・基本を確実に習得させる徹底指導と、児童生徒が自ら考え、問題解決に主体的に取り組む能動型学習とのめりはりをつけた熊本型授業を推進し、児童生徒の「確かな学力」の向上を目指してきた。また、この熊本型授業の充実に向け、平成14年度からは、知識・技能はもとより、学ぶ意欲や思考力、表現力などを客観的に評価できる「ゆうチャレンジ」を開発・提供して、指導方法の工夫改善を図ってきたところである。
 これまでの取組において、各教科で文章や資料の基本的な内容の理解について概ね定着の状況が見られるが、理解したことを踏まえてじっくりと考え、自分の意見等を整理して表現することが課題であることが分かった。これを受け、本県教育委員会では、「熊本県学力調査」結果報告書(【小学校】【中学校】)を作成し、児童生徒の状況等を的確に把握し、その結果を基に学習意欲を喚起し、思考力・表現力等の向上を図る教材の開発や学習活動の工夫等、「確かな学力」の定着を図る取組の充実を図ってきた。

1 学校改善支援プランの概要

 熊本県検証改善委員会では、国立大学法人熊本大学教育学部附属教育実践総合センター教授である吉田道雄を委員長として、熊本県教育委員会における行政関係者2名、県内の公立小中学校教諭2名、小・中・県立及び特別支援学校校長会代表4名、市町村教育委員会教育長代表2名、公立幼稚園園長代表1名、PTA連合会代表1名、教職員組合代表1名、県民代表1名、熊本大学教授等の学識経験者2名の計17名の検証改善委員から構成される委員会である。
 本委員会の他に、特に、検証改善委員会作業部会を設置し、熊本県学力調査と全国学力・学習状況調査との比較、分析・考察を行い、各学年における課題分析及び検証改善支援プランの素案について検討を行った。
 平成19年11月の検証改善委員会第1回会合において、全国学力・学習状況調査結果概要及び成果と課題についての報告を行い、平成20年2月の作業部会において熊本県学力調査結果との比較、分析・考察を行った。さらに、3月に第2回検証改善委員会を実施し、学校改善支援プランについての検討を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 熊本県検証改善委員会では、本県の全国学力・学習状況調査の結果について、小・中学校の「活用」に関する問題では、十分に定着しているとは言えない状況である。また、学習状況調査の結果からは、「学校のきまりを守っている」「人の気持ちが分かる人間になりたい」と回答している児童生徒の割合は、9割程度で全国よりやや高い状況にあるという結果が見られた。
 これを受けて、熊本県検証改善委員会としては、熊本県学力調査結果との比較、分析を基に、その課題と成果を示し、国語、算数・数学のみならず、社会、理科、英語についても具体的な指導の改善点を明記し、学校改善プランをまとめた。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 前項の概要でも言及したが、本県の全国学力・学習状況調査の結果について、分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。

  • 各教科の平均正答率は、全国平均と同じ、または、全国平均を上回っている。
  • 記述式問題では、小中学校ともに全国平均と比べて平均正答率が高く、無答率も低い状況にある。

 各教科に関する分析では、小学校国語においては、文章の内容と資料の情報とを関係付けて正しく読み取ることや情報を的確に読み取り、正しく説明することに課題がある。また、「数学的な考え方」の観点において、特に小学校において、問題解決の方法や理由を言葉や式で説明する問題に課題が見られる。
 個別の教科について具体的に見ると以下のような特徴と課題が見られた。

【小学校・国語A】

  • すべての領域で平均正答率が全国平均を上回り、知識・技能は概ね定着していると考えられる。
  • 国語への関心・意欲・態度、話す・聞く能力については、概ね定着していると考えられる。

【小学校・国語B】

  • 国語Bの記述式の問題の平均正答率は、全国平均に比べて高く、すべての記述式の小問で全国平均を上回り、自分の考えをまとめたり、説明、要約して表現する力は比較的に定着していると考えられる。
  • 読むことについて、文章の内容と資料の情報とを関係付けて正しく読み取ることについて、全国平均を下回り、課題がある。
  • 選択式、短答式の問題について、いずれも全国平均を下回り、求められる解答に合うように短い文章でまとめて書く形式の問題の解答に課題があると考えられる。

【小学校・算数A】

  • すべての領域で平均正答率が全国平均を上回り、知識・技能は概ね定着していると考えられる。
  • 数量や図形などについての知識・理解、表現・処理の力は概ね定着していると考えられる。

【小学校・算数B】

  • 短答式の問題を解決する力は、概ね定着していると考えられる。
  • 量と測定、図形は全国平均を下回り、その他の領域でも、知識・技能等を活用する力に課題があると考えられる。

【中学校・国語A】

  • 全ての領域で平均正答率が全国平均を上回り、知識・技能は概ね定着していると考えられる。
  • すべての観点において、全国平均は上回っているものの、書くことや文脈に即して漢字を読むなどの言語事項に課題があると考えられる。

【中学校・国語B】

  • 全ての領域で平均正答率が全国平均を上回り、知識・技能等を活用する力も概ね定着していると考えられる。
  • 情報を基に根拠を明らかにしながら、自分の考えを書いたり、作品の内容や構成、表現上の特色を踏まえ、自分の考えを書く問題について全国の平均は上回っているが、県の学力調査等の結果等から、課題があると考えられる。

【中学校・数学A】

  • 領域別に見ると、数と式、図形の内容は概ね理解できていると考えられる。
  • 数学的な考え方は、平均正答率が全国平均を上回っているが、平成18年度県学力調査結果と同様に、課題があると考えられる。

【中学校・算数B】

  • 知識・理解は、概ね定着していると考えられる。特に、知識・理解について、活用する力の定着状況は良好である。
  • 記述式の問題の平均正答率は、全国平均に比べると2.9ポイント高いが、理由や解決方法を記述して表現する力に課題があると考えられる。

 また、学習状況調査の結果からは、以下のような特徴が見られた。

  • 授業で学習したことが将来、社会に出たときに役に立つと回答した児童生徒の割合は、小学校の国語、算数、中学校の国語で約9割と高い状況にある。
  • 学校の授業時間以外の学習時間(1日当たり)について、2時間以上学習する児童生徒の割合は、小学校で全国より低く、中学校で全国より高い状況である。
  • 「自分の学校のきまりを守っている」「人の気持ちを分かる人間になりたい」と回答した児童生徒の割合は、小中学校ともに約9割と高い状況にある。
  • 自校の小中学生について、「熱意をもって勉強している」「授業中の私語が少なく落ち着いている」、「礼儀正しい」と思っている学校の割合は9割以上と高い状況にある。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた分析結果から、各学年、領域ごとに以下のような指導の改善ポイントを示した。

【小学校・国語】

  • これまで本県で実践してきた学年別漢字配当の漢字については、読みだけではなく書きについても徹底して指導し、日常生活において使えることを重視し、児童の習得の実態に応じた指導を工夫する必要がある。
  • 能動型学習の場面で、思考力・表現力をはじめ、具体的に身に付けるべき力を明確にした指導をする必要がある。
  • 文章だけでなくグラフや図など多様な種類の資料から、情報を読み取り、目的に応じて書き換えたり、説明したりする指導を工夫する必要がある。

【小学校・算数】

  • 能動型学習の場面で、思考力・表現力をはじめ、身に付けさせたい力を明確にした指導に留意する必要がある。
  • 数学的な考え方、知識や技能を活用して課題を解決する力、理由や解決方法を記述して表現する力を診る評価問題を開発して、適切な評価に基づく指導を行う必要がある。
  • 言葉や数、式、図、表、グラフなどを用いて考えたり、説明したり、記述して表現したりする活動を多く取り入れる必要がある。その際に、キーワードとなる用語や数、式、図などの相互の関連について、適宜指導を行う必要がある。

【中学校・国語】

  • 複数の情報から得た情報を整理して、伝えたい事柄や自分の考えを書く活動の指導に留意する必要がある。
  • 資料から必要な情報を読み取ったり、資料に表れているものの見方や考え方をとらえる指導に留意する必要がある。
  • 能動型学習の場面で、思考力・表現力をはじめ、具体的に身に付けるべき力を明確にした重点的な指導を工夫する必要がある。
  • 社会生活において確実に使えることを重視し、常用漢字の正しい読み書きについて、生徒の習得の実態に応じた指導を充実する必要がある。

【中学校・数学】

  • 前学年の内容についても、基礎的・基本的な知識や技能を確実に身に付けさせるよう、生徒一人一人の習熟度を的確に把握し、学び直しの機会を設けるなど、個に応じた継続的な指導に留意する必要がある。
  • 数学的な考え方、知識や技能を活用して課題を解決する力を伸ばす教材開発や、理由や解決方法を記述して表現したり、図や式などを示しながら言葉で説明する活動を取り入れた指導を行う必要がある。
  • 生徒の意見に対して、理由や条件を変えた場合などについて問い返し、根拠を明らかにして考える力や、より進んだ学習へ誘う指導が必要である。
  • 日常生活や他教科等の内容を数学的に考察する機会を設け、学習で身に付けたものを活用する力を伸ばす指導が必要である。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 熊本県教育委員会としては、全国学力・学習状況調査の結果を受け、教師の意識改革及び指導力向上に向けた取組と学校等における体制づくりに向けた取組の2面から改善に取り組んだ。

(1)教師の意識改革及び指導力の向上に向けた取組

ア教育事務所や市町村教育委員会との連携による取組

 全国学力・学習状況調査や県学力調査の課題分析に基づく授業改善研修会への指導主事の派遣

イ学力向上対策研修の実施

 指導力の高い教諭による授業公開と実践研究の発表

  • 小学校:国語、社会、算数、理科
  • 中学校:国語、社会、数学、理科、英語

ウ教材開発委員会による実践事例集の作成

 全国学力・学習状況調査や県学力調査の課題解決に向けた授業実践の紹介や学力向上対策研修による教材や学習指導案、評価問題等を取りまとめた実践事例集の作成

エ「ゆうチャレンジ」過去問題の学校等への提供

 平成14年度からの問題を全小中学校及び教育事務所等に配付し、授業改善の参考とする。

(2)学校等における体制づくりに向けた取組

ア学力向上対策検討委員会の実施

 全国学力・学習状況調査や県学力調査の結果分析に基づく本県の学力向上対策の検討

イ「創造!生きる力」実践発表会の開催

 小中学校における「確かな学力」の向上に向けた取組の発表

ウ管理職対象の研修会の充実

 「21世紀を拓く熊本の教育推進講座」(校長対象)における授業改善に向けた研修の充実

6 おわりに

 今回の全国学力・学習状況調査結果については、本県において平成十三年度から推進している熊本型授業の一定の成果を見ることができた。しかし、依然として、思考力や表現力の育成に課題があることも分かった。今後、大事なことは、各市町村教育委員会や学校で、結果を丁寧に分析して、成果と課題を明らかにし、各学校独自の改善プランを作成するとともに、児童生徒一人一人の状況を的確に把握し、学習意欲を喚起し、思考力・表現力等の向上を図る教材の開発や学習活動の工夫等「確かな学力」の確実な定着に向けた取組の一層の充実に努めていくことが重要である。

-- 登録:平成21年以前 --