学力の定着と向上を目指して-授業改善を図る取組を通して-

三重県検証改善委員会

はじめに

 本県においては、これまでも市町教育委員会や学校と連携・協力し、児童生徒の「確かな学力」の定着と向上を図るため、さまざまな取組を展開してきた。
 今年度実施された「全国学力・学習状況調査」は、本県がこれまで実施してきた教育及び教育施策の成果と課題を検証するとともに、各教育委員会及び各学校への支援や児童生徒一人ひとりの学習の改善等につなげる貴重な「道しるべ」の役割を果たすものになると考えている。

1 検証改善委員会の体制について

 本検証改善委員会は、三重大学教育学部の森脇健夫教授を代表者として、県内の公立小中学校長会の2名、公立小中学校の教諭2名、三重県PTA連合会の1名、県内全29市町教育委員会事務局の学力調査担当者29名、県教育委員会事務局3名の計38名から構成されている。
 平成19年6月に本検証改善委員会を設置し、平成20年2月末までに3回の会議を行ってきた。会議では、調査問題の検討をはじめ、全国学力・学習状況調査結果を踏まえた各市町教育委員会及び各学校の取組等について情報交換を行い、課題や効果的な取組を明らかにし、授業改善につなげるための方策について協議してきた。

(会議での討議の様子)

 学校における授業改善を図るための指導方法や指導形態等の具体的な改善方策については、主に教科別に設置したワーキンググループにおいて、検討を行った。

2 学校改善支援プランの概要

 本県の「全国学力・学習状況調査」の結果については、国語、算数・数学とも、「知識」に関する問題では、相当数の児童生徒が今回出題された学習内容をおおむね理解していると考えられるが、「活用」に関する問題では、知識・技能を活用する力に課題があると考えられる。
 また、児童生徒質問紙調査の結果では、「学習塾で勉強している」児童の割合は約53パーセント、生徒の割合は約70パーセントであり、児童生徒ともに全国を上回っている。
 さらに、学校質問紙調査の結果では、国語の「目的や相手に応じて話したり聞いたりする授業を行った」と回答している小学校の割合は約82パーセント、中学校の割合は約69パーセントであり、ともに全国の割合を下回っている。また、算数・数学の「活用」に関係する「実生活における事象との関連を図った授業を行った」と回答している小学校の割合は約52パーセント、中学校の割合は約45パーセントであり、ともに全国の割合を下回っている。
 このような教科に関する調査の結果及び児童生徒の学習状況に関する質問紙調査の結果を受けて、本検証改善委員会では、各市町や学校が自らの「強み」「弱み」を把握し、主体的に学校改善に取り組むことができるよう、特に以下の点を中心に学校改善支援プランをまとめた。

  • 1授業における『弱み』と考えられる部分について、課題を明らかにする。
  • 2課題解決のために、どのような指導を実践していけばよいか、実践例を示すことで、普段の授業を見直し、指導方法の工夫・改善を図る。

 つまり、学校改善の中でも、授業の見直し、工夫・改善等を中心とした支援プランを示すことで、授業の改善が図られ、児童生徒の学力の向上につながるという考え方のもとに作成したため、名称についても「授業改善支援プラン」とした。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本県の「全国学力・学習状況調査」の結果については、以下のような特徴と課題が明らかになった。

【小学校・国語A】

  •  漢字の読み書きについて、「読み」については、確実に身につけている児童が多いといえるが、「書き取り」については、「ソウダン(相談)する」「魚をヤク(焼く)」の正答率が低い。
  •  インタビューのメモに関する問題については、正答率は52.1パーセントと低く、相手や目的に応じたメモの取り方に関する指導が必要である。

【小学校・国語B】

  •  書かれてある事実について、その理由を読み取ってまとめる問題の正答率は43.5パーセントであり、課題があると考えられる。
  •  二つの感想文を読み比べ、共通する書き方の良いところを二つ書くという問題についての正答率は50パーセント前後であり、「知識」と「活用」の両面から指導の改善を図る必要がある。

【小学校・算数A】

  •  四則計算の正答率は90パーセントを上回っており、相当数の児童ができている。しかし、加法と乗法の混合した計算における正答率は66.3パーセントであり、計算の順序を意識できるようにする指導の充実を図ることが必要である。
  •  分数や小数の意味において、分数や整数、小数を同じ数直線上に表す問題の正答率は50.5パーセントであり、数の意味と大きさの理解に課題があると考えられる。

【小学校・算数B】

  •  情報を分類整理し、問題を解決する問題の正答率は、26.9パーセントである。日常生活の場面で百分率を用いて問題を解決する活動を取り入れ、百分率の意味の理解を深める指導が必要である。
  •  地図の中から図形を見い出し、面積を比較して説明する問題の正答率は14.9パーセントであり、課題があると考えられる。

【中学校・国語A】

  •  手紙についての問題のうち、後付けに関する問題についての正答率は51.6パーセントとなっており、手紙の書き方に関する知識については、課題があると考えられる。
  •  小説の読み取りの問題のうち、文脈における自然描写を読み取る問題の正答率が69.8パーセントである。文脈や表現上の特徴に着目した読み取り方の指導が必要である。

【中学校・国語B】

  •  文学作品について与えられた字数で自分の考えを書く問題の正答率は74.2パーセントである。文学作品を指導する場合は、「何が書かれているか」だけでなく、「どう書かれているか」を読み取り、その効果について評価できるような指導が必要である。
  •  複数の資料を比較しながら読む問題のうち、共通する情報を書いたり、情報を比較して違いを説明するという問題についての正答率はどちらも40パーセント台であり、共通点や相違点を取り出す力を高める指導が大切である。

【中学校・数学A】

  •  円柱と円錐の体積を比較し、正しい図を選ぶ問題の正答率は35.6パーセントであり、実験や実測を通して、図形の性質を理解する活動を重視する必要がある。

【中学校・数学B】

  •  説明を振り返り、発展的に考える問題の正答率は42.2パーセントであり、結論が成り立つことを説明するために必要な条件を示すことができるようにする指導が必要である。
  •  グラフから情報を読み取ることはできるものの、グラフ上の点の並び方を理想化し、単純化してとらえる問題の正答率は32.6パーセントであり、グラフに示されていないグラフの特徴を説明することに課題があると考えられる。

 児童生徒質問紙調査の結果から見られる特徴として、

  • 1 学校で好きな授業がある児童の割合は約93パーセント、生徒の割合は約81パーセントであり、生徒の割合は全国を上回っている。
  • 2 読書が好きな児童と生徒の割合はそれぞれ約72パーセントであり、生徒の割合は全国を上回っている。

 また、学校質問紙調査から見られる特徴として、

  • 1 「児童生徒が熱意をもって勉強していると思う」と回答している小学校と中学校の割合は、ともに約91パーセントであり、中学校の割合は全国を上回っている。
  • 2 「家庭学習の課題(宿題)を与える」ことを「よく行った」と回答している小学校の割合は国語科、算数科ともに全国を上回っているが、中学校の割合は国語科、数学科ともに全国を下回っている。

 さらに、教科に関する調査結果と質問紙調査結果とを関連させて分析したところ、次のようなことが考えられる。

  • 1 学校の授業時間以外での学習が増えると、正答率が高くなるという関係が見られる。ただし、この結果については、正答率が高い児童生徒の学習時間が長いという可能性も加味しながら考察する必要がある。
  • 2 読書が好きな度合いの高い児童生徒ほど正答率が高くなる傾向がある。なお、算数・数学の正答率においても、同様な結果が見られることは注目すべき点である。

4 学校改善支援プランについて

<課題解決のための提言>

【国語科】

 国語科の中心的な課題は、「知識を活用する力」をどう高めるかである。「読む」「聞く」「書く」「話す」などのさまざまな言語活動を取り入れた授業を行う中で、考える力(思考力・判断力・表現力など)を総合的に関連づけ、基礎となる知識や技能を活用して、くらべたり、つないだり、まとめたりする学習を創意工夫していくことが必要である。

【算数・数学】

 算数・数学科の中心的な課題は、「知識を活用する力」「数学的な見方・考え方」である。そのため、これまで以上に主体的に学習する場を設定し、算数・数学的な活動を通して考え、表現することを重視した授業のスタイルに改善する必要がある。そのポイントとして、学習課題(問題)の工夫、問題解決的な学習の展開、学習の振り返り・評価等が挙げられる。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 授業改善をはじめとした学力向上のための情報発信の機会として、平成19年12月22日(土曜日)に「子どもの学力を考えるシンポジウム-学力調査の結果からみえるもの-」を開催した。

<討議の内容>

  • 授業における指導方法の改善
  • 教育条件の整備の在り方
  • 学校・家庭・地域の連携の在り方
(「(子どもの学力を考えるシンポジウム」討議の様子)

 県教育委員会としても、学校改善支援プラン(本県の場合は「授業改善支援プラン」)を踏まえ、以下のような取組を実施することとしている。

1学力アドバンス事業

 課題のある公立小・中学校を中心に、授業方法や評価方法等の工夫・改善を図る。

2学力調査活用事業

 学力向上に向けた学力調査等や、研究大会、研修会を通して、個に応じた指導や集団での指導の工夫改善を図る。

6 おわりに

 子どもたちが生き生きと学習に取り組む姿が見られるのは、興味・関心が学習対象に向かい、「わかる」という実感を伴っているときである。また、わかる喜びにより、学習意欲の向上も図られる。
 このようなことから、学校は、各教科や総合的な学習の時間等において、子どもたちにわかる授業を提供することに全力を注ぐため、普段の授業を見直し、改善を図ることが必要である。
 今回の調査結果の分析は、授業改善の終わりでなく、まさに始まりであることを認識して、今後、各教育委員会や各学校が取り組むことが重要であると考える。

-- 登録:平成21年以前 --