学校図書館

2.学校図書館をめぐる近年の状況

1.子どもの読書活動の広まりと子どもの読書状況

(1)子どもの読書活動の広まり

ア 国等の動き

○ 平成13年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が制定されて以降、子どもの読書活動に対する社会的な関心も高まっている。

○ 同法の制定を受け、国においては、「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が2次にわたり策定され(※1)、その推進が図られている。
 また、すべての都道府県では「子ども読書推進計画」が策定され、さらに、市町村においても「推進計画」を策定して活動推進を図っているところが増えてきている。

イ 学校における読書活動の状況

○ 読書活動への取組は学校の中にも浸透してきている。学校種による違いもあるが、全校一斉読書や、読み聞かせ、ブックトークなどの取組は、多くの学校で行われるようになった。また、従来からの一般的な取組として、読書感想文等への取組が、引き続き行われている。

○ ただし、これまでの学校教育における読書指導については、「本を読むこと自体が楽しい」という読み方を教えることに失敗しているのではないかとの指摘もある(※2)。例えば、読書感想文を書くこと自体は国語力を向上させる有効な方策の1つとなるが、日常的な読書指導をせずに、感想文を書くためにのみ読書をさせるようなことをすれば、子どもたちは過度の負担を感じ、物語の中に入り込めず、読書を楽しむことができない等とも言われる。

○ また、全国学校図書館協議会・毎日新聞社による調査によれば、全校一斉読書に対する感想として「本を読めるので楽しい」と答えた児童生徒の割合は、小学校から中学、高校へと進むにつれ、小さくなっている。全校一斉読書の時間があることで「本を読むことが好きになった」としている児童生徒の割合についても、同様の調査結果が出ている(※3)。

○ 全校一斉読書等や読書感想文等以外にも、一部の学校では、例えば、読書マラソンや読書会・読書討論会、読書ゆうびん、読書のアニマシオンなどの様々な取組が行われているが、こうした取組の広がりはなお限定的に止まっている。
 特に、読書の楽しさを伝える活動手法に関しては、中学、高等学校と学校段階が上がるにつれ、読み聞かせなどの手法が用いにくくなるが、これに代わる中・高生向けの効果的な手法として、広く普及・定着しているものは、必ずしも見出せない状況にある。

○ なお、学校における読書指導においては、読書の楽しさに気付かせ、習慣付けを行うだけでなく、すでに読書の楽しさに気付き、読書に親しんでいる児童生徒に対しても、さらに様々なジャンルの図書を紹介し、その読書の幅を広げていく指導を行うことが重要な要素として求められる。
 しかし、現在、このような指導は、専門的な知識技能を持つ一部の教職員による取組として行われているに過ぎず、学校において、広く、組織的に行われる状況にはなっていない。

○ すなわち、現状において、多くの学校では、読書習慣を身に付けさせ、その幅を広げるための活動が、多様に展開されるまでには至ってないのが実態である。

(2)子どもの読書の状況

○ 我が国の国民一般の傾向として、「活字離れ・読書離れ」の傾向が以前より指摘されているが、上記(1)のような活動への取組を背景として、子どもの読書量については、近年、増加傾向を示す指標も出てきている(※4)。

○ 一方、これらの調査においても、一定時間以上の読書をしている児童生徒は、小学校よりも中学校で少なくなり、「不読者」の割合が中学校で多くなる状況が、同時に示されている。
 中学生については、部活動や塾などもあり、読書する時間を確保することがより難しくなることから、読書離れが進みやすいとの指摘が、従来からなされている。

○ ただし、「読書が好き」な児童生徒の割合は、小学生と中学生との間で必ずしも大きな違いは表れておらず、読書への関心自体は、中学生になっても、ある程度維持されている状況も見出される。
 これら調査等からは、読書好きの生徒が、勉強やスポーツ、友人との交友の合間に、小学校時ほどではなくとも一定の時間を確保し、本を読んでいる状況もあることが推測できる。

2.読解力の育成・言語力の涵養等に対する要請の高まり

(1)総合的な学習の時間の実施と「生きる力」の理念の共有

○ 変化の激しいこれからの社会を担う子どもたちには、基礎的な知識・技能を習得させるとともに、それらを活用して様々な課題に積極的に対応し、解決していける力を身に付けていくことが重要となる。

○ このような観点から、現行学習指導要領(平成10・11年告示)においては、自ら課題を見付け、自ら学び、考え、主体的に判断し、問題解決する能力等を育て、「生きる力」をはぐくむことをねらいとした「総合的な学習の時間」が新たに設けられた。

※「総合的な学習の時間」のねらい

(1) 自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること
(2) 学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の在り方を考えることができるようにすること
(3)各教科、道徳及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活において生かし、それらが総合的に働くようにすること

○ 総合的な学習の時間の創設により、各学校は、地域や学校、子どもたちの実態等に応じて、横断的・総合的な学習や子どもたちの興味関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うこととなり、学校図書館を授業の中で活用していくことに対する教員の関心も、これを契機として大きく高まった。

○ 平成20年3月に告示された新しい学習指導要領においても、引き続き、「生きる力」の理念の共有の上に、学校の教育課程全体を通して、基礎的な知識・技能とともに、それらを活用する能力等を育てていくこととされている。
 このような中、すべての教科等の指導を通じ、学校図書館の計画的な利用を進め、児童生徒の主体的な学習活動を促進していくことが、ますます重要となっている。

(2)我が国生徒の読解力等に関する調査結果と学力向上に向けた要請

○ これからの社会で重要となる知識・技能の活用能力については、OECD(経済協力開発機構)において国際的な調査(生徒の学習到達度調査(PISA))が実施されている。

○ とりわけ我が国の生徒の「読解力」については、2003年のPISA調査で低下傾向が示されている。もはや世界トップレベルとは言えない(OECD平均と同程度)とするその結果は、国民の間でも深刻に受け止められた(※5)。

○ 平成19年度からは、文部科学省の全国学力・学習状況調査が、全国の小・中学生を対象に実施されている。各学校においては、この調査結果等を元に自校の課題の分析を行い、それぞれの実態に応じた対策を立て、授業の改善・充実等につなげていくよう求められている。

(3)学校教育における言語力の涵養の要請

○ PISA調査の結果等に対する社会的関心が高まる中、平成17年には「文字・活字文化振興法」が制定され、国・地方公共団体は、「学校教育における言語力の涵養」のための施策を講ずべきことが明記された。

○ 新しい教育基本法の理念を受けて、平成19年6月に改正された学校教育法の第21条においても、義務教育として行われる普通教育の目標の1つとして「読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと(第5号)」が新たに規定された。

○ さらに、平成20年3月に告示された小・中学校の新学習指導要領においても、「言語力の育成」が新たな基軸として打ち出され、各教科等の学習を通じ、記録、説明、批評、論述、討論などの言語を使った活動(言語活動)を充実することとされている。

3.学校図書館に対する多様な要請

(1)学校の中の学校図書館(「心の居場所」として)

○ 子どもたちが生き生きとした学校生活を送れるようにするため、また、子どものストレスの高まりや、生徒指導上の諸問題への対応の観点からも、学校内に「心の居場所」となる場を整備していくことが、より強く求められるようになっている。

○ このような中、示威結うな読書活動の場である学校図書館についても、そうした「心の居場所」としての機能をさらに充実させていくことが、大きく期待されるようになっている。

(2)地域の中の学校図書館

ア 放課後の子どもたちの安全・安心な居場所として

○ 地域社会の中においても、児童生徒が放課後に安全・安心に過ごせる「居場所づくり」が重要な課題となっている。

○ このような状況の中、学校図書館についても、自校の児童生徒はもちろん、地域の子どもにも開放し、子どもの放課後活動(読書活動)の拠点等として活用すべきとの要請も寄せられるようになっている。

○ 特に、最近では、文部科学省・厚生労働省の連携による総合的な放課後対策として、「放課後子どもプラン」が実施されており、学校の余裕教室や学校敷地内の専用施設に、放課後児童クラブ等が開設・実施されるケースも増えている。そうした中にあって、さらに、クラブ等が併設された学校の図書館を地域の子どもに開放することにより、学校図書館を、地域の子ども読書活動の拠点として、有効活用できるのではないかとの期待がある。

○ 一方、過疎地域におけるスクールバス通学の児童生徒の場合、放課後にバスが出発するまでの時間は、校内のどこかで過ごす必要があり、このような児童のためにも、学校図書館を開館して居場所を提供することが重要となる。過疎地域における学校の統廃合が今後さらに進んでいった場合、このようなニーズがますます大きくなることも予想される。

イ 地域における読書活動の拠点として

○ 生涯学習に対する国民の関心の高まりを受け、地域住民が自由に学校図書館を訪れ、図書資料の利用・貸出しができるようにしてほしいとする要請は、今後ますます多くなっていくものと予想される。

○こうした要請を受け、すでに地域によっては、上記1.の2(3)イで見たように、独自のノウハウにより、学校図書館を地域の資源として有効に活用している事例も見られる。さらに最近では、(一部の核となる)学校図書館を地域住民全体のための施設としてより明確に位置付け、「地域開放型」の図書館として、その機能に応じた蔵書や設備の整備を推進するといった方向性も、検討されるようになってきている。


※1 平成14年8月2日閣議決定(第1次)及び平成20年3月10日閣議決定(第2次)。

※2 「これからの時代に求められる国語力について」(平成16年2月3日文化審議会答申)。

※3 「第53回学校読書調査」(2007年6月全国学校図書館協議会・毎日新聞社)。

※4 文部科学省の調査では、児童生徒の読書時間について、平成13年度以降、全体として増加傾向が見られるとともに、平日に読書を全く(又は、ほとんど)しないとする「不読者」の割合が減少している状況が示されている。
 また、全国学校図書館協議会・毎日新聞社が毎年調査している「5月1ヶ月間の平均読書冊数」についても概ね増加傾向が表れ、「不読者」(0冊回答者)の割合が減少している。

※5 我が国の生徒の読解力については、続く2006年のPISA調査の結果においても、前回調査(2003年)とほぼ同程度の成績となっている。

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総合教育政策局地域学習推進課

(総合教育政策局地域学習推進課)

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