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4 JSLカリキュラムのサポート・システムと周知について

1. サポート・システム

1.1 サポート・システムの必要性

 JSLカリキュラムは、多様な文化的背景、生活背景をもった子どもたちを対象とするため、あらかじめ固定した内容を一定の順序で配列するような形態はとらない。そこで、このJSLカリキュラムでは、教師・指導者が子どもたちや学校の状況に応じて独自の授業を作っていくことを支援する様々なツールを提案した。しかし、これらツールは子どもたちの状況を見極め、適切な学習活動を構想していく教師・指導者の専門的力量を前提としたものであり、特に日本語を母語としない子どもたちに対する教育経験が少ない教師・指導者にとっては、授業づくりが難しいものになる可能性がある。また、実際に授業を進めていくなかでもさまざまな困難に出会うだろう。そうした困難についても、その解決のための固定した方程式は存在しない。
 日本語を母語としない子どもたちが多様である以上、このような困難はどうしてもさけることができない。しかし、こうした困難を教師・指導者が一人で抱え込む必要はない。同じような課題に取り組む他の教師・指導者たちと協力し、また地域の人々や専門家と連携しながら解決していく意義は大きくJSLカリキュラムが、実際に現場で機能するためには、こうした相互支援・連携の仕組み(サポート・システム)が不可欠である。

1.2 どのようなサポート・システムが必要か

 JSLカリキュラムに対するサポート・システムは「JSL活用サポート・システム」「学習者サポート・システム」「交流サポート・システム」の3種類に分類できる。

1.2.1 JSL活用サポート・システム

 JSLカリキュラムに取り組む教師・指導者たちが指導案や実践事例を共有し、JSLカリキュラムの活用に関する工夫やアイディアについて情報交換するためのシステムである。多様な子どもたちが対象となるJSLカリキュラムでは、繰り返し述べているとおり、問題解決のための固定した処方箋は存在しない。このような状況で有効なのは、できるかぎり多様な事例を集積し、それを問題解決の「ヒント」として活用するという方法である。たとえば、ある事例をみて、「この部分をこうやって作りなおせば、私の教室の子どもたちにも使うことができるかもしれない」「活動の展開は使えないが、このトピックは面白い、これを使って私ならこんな授業ができるかもしれない」「この事例の先生は、私と同じ悩みをこうやって解決したのか」といった具合に、教師・指導者が事例に触発されて、問題解決の糸口を見いだし、発想を広げ、自分にも使うことができるいろいろなテクニックを知る、というような方法である。ここでも、いわゆる「正解」が示されるわけではなく、他の教師・指導者が提供してくれた事例から、自分にとって意味のあることを見つけだし、それを自分の実践につなげていく教師・指導者自身の探求と想像力が求められる。しかし多様な現場で、多様に繰り広げられている実践の豊かなデータベースは、教師・指導者の実践的な探求と想像力を刺激し、教師・指導者が一人で問題に向き合うことでは得ることのできない、実践の広がりを与えてくれるものと考えられる。子どもたちの多様性に向かうJSLカリキュラムには、こうした実践共有のコミュニティが不可欠である。

1.2.2 学習者サポート・システム

 多様な実践事例を提供することで教師・指導者を直接支援するのではなく、JSLカリキュラムの学びに取り組んでいる子どもたちに働きかけて、教師・指導者をサポートしていこうとするのが学習者サポート・システムである。子どもたちが授業に入っていきやすくするための支援、授業で学んだことを定着しやすくするための支援などを通じて、教師・指導者を側面からサポートするのがこのシステムの目標である。
 このような支援のうち私たちが特に重視するのが、子どもたちの母語をもちいた授業への準備と、内容の定着に向けた自学自習の仕組みづくりである。多くの場合、教師・指導者は子どもたちの母語を話すことができない。また、子どもたちも日本の学校での授業の様子がよく分からず戸惑うことも多い。こうした状況のなかで、たとえば子どもたちがこれから取り組む学習のおおまかな内容や、そこで使われる日本語表現について母語であらかじめ知っておくことは、授業をスムーズに進行させ、子どもたちを本来授業が目指している学びに向かわせるために非常に有効であると考えられる。

1.2.3 交流サポート・システム

 JSLカリキュラムへの取り組みは、学校の中に閉じたものとはならない。たとえば<学習者サポート・システム>における母語支援を実際に進めていくためには、母語話者やその言葉を学んでいる日本人の協力が不可欠である。また、子どもたちが学校外で授業の予習などをする場合には、家庭や地域との協力関係が不可欠なものになる。また、このカリキュラムは、たとえば地域の日本語教室など学校外でも活用可能であり、子どもたちの学びの連続性を考えれば、そうした学校外での取り組みと学校での授業の間にもさまざまなつながりがあることが望ましいだろう。さらに、ボランティア派遣などに関しては、行政機関も学校、地域と連携していくことが必要である。<交流サポート・システム>はこうしたJSLカリキュラムをめぐるさまざまなセクターが連携していくことで、地域あるいは地域を越えたネットワークを構築していくことを目指す。

1.3 サポートの多様な回路の必要性

 以上のようなサポート・システムを構築していく際に現時点で最も有効な手段となるのがインターネットであると考えられる。JSL支援サーバー等を設置し、インターネット上にこれらのサポートを実現するための取り組みをすすめていく必要がある。
 しかし、学校や学習者のインターネット・アクセスの普及度、インターネット上のシステムがもっ媒体としての制約などを考えると、印刷物や、サポート・グループなどローカルで直接的な人的ネットワークによる支援の可能性についても検討していく必要がある。
 また、インターネット上のサポート・システムについても、子どもたちや地域の多様性を考えれば、特定の支援システムがサポートを一元的に行うことは望ましくない。また、実際不可能であると考えられる。むしろ、地域や問題関心ごとに複数のシステムがゆるやかに連携しながら動いていくことが望ましい。インターネット上のサポート・システム自体を多様化、豊富化していく方策を検討する必要がある。

2. JSLカリキュラム周知のための取組の必要性

JSLカリキュラムを普及し定着させていくためには、上記のようなサポート・システムの充実に加え、JSLカリキュラムについてより多くの教育関係者に知ってもらう周知戦略が必要となる。上で示したサポート・システムが有効に機能するためにはこのカリキュラムを積極的に利用する教師の数が一定数以上になる必要があり、この点からも周知戦略は重要なものとなる。

 具体的には以下のような方法が考えられる。 

  • 教師向けに書かれたJSLカリキュラム活用解説本の出版
  • JSLカリキュラム指導事例集の出版
  • 各地でのJSLカリキュラム活用ワークショップの開催
  • 教育関係雑誌などへの記事掲載の働きかけ
  • 公立学校への活用研究委嘱とその成果発表

 サポート・システムの充実に加え、これらの周知活動を継続的におこなうことがJSLカリキュラムの普及、充実において重要である。

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総合教育政策局国際教育課

-- 登録:平成22年07月 --