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4.「教科志向型」JSLカリキュラム「社会科」

4.1 日本語を母語としない子どもたちにとっての「社会科」

 日本語を母語としない子どもたちにとって、「社会科」とはどのような教科なのであろうか。授業参加を困難にしているものは何かという観点から整理してみた。

(1)日本での生活体験がないために、経験をベースにして学習することが困難である

 例えば、3、4学年の「商店」の学習では、地域の商店利用等の経験を基に、消費活動や商店の販売の仕事について学んでいく。ところが、日本語を母語としない子どもたちの場合は、こうした社会的な経験を豊かにもっているとは考えにくい。
 また、5学年で扱う「日本の国土」に関しても、日本で育ってきた日本語を母語とする子は日々関連する情報に触れており、その情報が社会科の授業を通して新たな見方や考え方で整理され、体系化されて学習が進められていく。日本語を母語としない子どもたちの場合は、事前の情報接触が少ないだろうと考えられるし、接触があったとしてもその理解には限界があると思われる。このように、日本語を母語としない子どもたちは、生活体験や事前の情報接触の不足によって、教室での学習のほとんどが新情報で、しかも生活実感の伴わない内容となり、参加が困難になっていると考えられる。また、社会科の目標である、「社会生活についての理解を図り、我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て、国際社会に生きる民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」力の育成にも、地域や日本社会での経験が乏しいことが少なからず影響すると考えられる。

(2)社会科の学習の仕方や学習形態への不慣れが、学習活動への参加を困難にする

 日本での学習経験がなくとも、母国の学校での学習経験がある子どもたちは、その経験を基にした学び方を身に付けている。しかし、その学び方が、日本の学校での学び方と異なる場合、学習活動への参加が困難になると予想される。例えば、知識伝達型の学習スタイルしか経験していない子どもたちは、調べ学習のような探求型の授業では戸惑うだろう。また、グループ活動の経験がない子どもたちは、仲間との関わり方が分からず傍観せざるを得ないということにもなろう。

(3)地図や資料等の情報処理や表現の未習熟が、内容理解や参加を困難にする

 社会科の特徴とも言える、地図や地球儀、生産量の増減の表やグラフ等の統計的資料や年表を活用する授業では、資料活用ができるかどうかが重要となる。これらの社会科に必須の学習スキルを運用できなければ、授業への参加は難しくなる。また、社会科の資料の多くは、言葉や記号が使われているため、母国で資料活用ができた子どもたちであっても、日本語や日本で使っている記号、単位についての理解力や知識が不十分であれば、資料の活用は難しくなってしまう。

(4)社会科特有の言葉や表現が、内容理解を一層困難にしている

 社会科の学習で、子どもたちは社会的な見方や考え方を獲得していくと同時に、その概念や知識を表すための言葉や表現を身に付けていく。例えば、3、4学年の地域の生産や販売に関する仕事についての学習では、具体的な食品の名称としてしかとらえてこなかった「ほうれん草」「大根」「昆布」「ホタテ」等の食品を、社会的な見方でとらえ直す。日本語を母語としない子どもたちの場合は、「ほうれん草」「大根」等の名称さえまだ知らないという日本語のレベルである可能性がある。その上、社会科特有の語彙や表現が無造作に提示された場合、それらは学習上の大きな障壁となる。

4.2 「教科志向型」JSLカリキュラム「社会科」のねらい

4.2.1 身に付けさせたい「学ぶ力」

 社会科の授業の特徴を授業展開から探ると、学び方や調べ方を身に付ける体験的な学習、問題解決的な学習の構造が挙げられる。社会的事象について問題を設定し、観察、調査し、地図や各種の資料を効果的に活用し、調べたことを表現するとともに、それに基づき、社会のシステムを理解し、社会的事象の特色や意味などについて考える力などを育てるという展開である。
 日本語を母語としない子どもたちにとっては、日本語の不十分さを文脈等からの情報の利用によって補いながら、こういった学習過程に参加し、社会的なものの見方や考え方を身に付け、知識や概念を日本語と共に習得していくための「学ぶ力」、言い換えれば、上記4.1に示した社会科学習上の困難を和らげ、社会科の学習への参加を可能にする力が求められており、「教科志向型」JSLカリキュラム「社会科」(以下、「JSL社会科」とする)は、「社会科の学習活動への参加を通して日本語で『学ぶ力』を獲得する」ことをねらいとしている。
 その際、JSL社会科では、学び方や調べ方を身に付ける体験的な学習、問題解決的な学習に参加できる力を育くむために、二つのアプローチをとることが有効であると考える。一つは、上記の問題解決的な学習の流れを体験させる方法であり、一連の活動へ参加する力を育成するためのものであり、流れを重視するアプローチである。もう一つは、問題解決的な学習の各局面を構成する「地域の社会的事象を観察、調査する」「地図や統計的データから情報を得る」「情報を分析、整理する」「グラフや表で表す」等の下位の活動に参加する力を高める方法である。この下位の活動に参加する上で、重要なのがJSL社会科で身に付けさせたい具体的な「学習スキル」である。例えば、「調査の仕方」「地図の見方」「統計的データの見方」「表の作成の仕方」等の力である。このアプローチは、情報活用のスキルや、情報を社会的な見方・考え方で再構成する表現スキルを運用する活動に焦点化して授業を準備するものであり、スキル運用を重視するアプローチである。二つのアプローチが相補的に「学ぶ力」を高めると同時に、日本語で二つのタイプの学習活動に参加する経験を通して、日本語の力が引き上げられると考える。

4.3 JSL社会科の授業の構成

4.3.1 問題解決的な授業の構造

 「社会科の学習活動を通して日本語で『学ぶ力』」を高めるための授業を構想するに当たり、JSL社会科では、問題解決的な学習の構造を次のように整理した。

1.課題をつかむ(課題把握) ある事象に対して、自己の体験や提示された情報をつなげて課題意識をもつ(主観的な受け止め)

 ↓

2.調べる(課題追及) 課題に対して、関連ある事象を調べることにより、自分なりの考えを練り上げる(吟味・一般化へ、客観的な認識へ)

 ↓

3.まとめる(結論づけ) 課題に対する考えを相互に発表し合ったり、自己の価値判断・思考決定を行ったりする(普遍化へ、主体的な認識へ)

4.3.2 JSL社会科の授業の構造

(1)流れを重視するアプローチ

 日本語を母語としない子どもたちが授業の「課題をつかむ」「調べる」「まとめる」の三局面に参加するためには、下の表に示した力を必要とする。そこで、このアプローチでは各局面を、これらの力を高めるための活動から構成する。例えば、「課題をつかむ」の局面は、「ある社会的事象について経験を交換する」「疑問に感じたことや面白いと思ったことを話す」「調べたいことを決める」等の活動(「トピック型」JSLカリキュラムのAUレベルの活動単位)から組み立てられる。こうして構成された一連の活動への参加を通して、課題解決的な流れに乗って学習を進める力が培われると考える。

局面 各局面で必要となる力
「課題をつかむ」
  • 自己の体験を日本語や写真等の資料を用いて表現し、伝える
  • 提示された情報について、身近な例・出来事などでとらえる
「調べる」
  • 関連する社会的事象について、調べる、体験する、インタビューする、話し合う等の活動を通して情報を収集し、それを整理・分析する
  • 調べた結果を日本語やいろいろな表現方法で表し、一般化を図る
「まとめる」
  • 個別の事象を一般化された社会の仕組みの中に位置付け、問題の解決方法を探る
  • そのプロセスと結論を、日本語や他の方法で表現し、他者に向けて発信する

 授業を組み立てる際には、子どもたちの日本語の不十分さや、生活経験の不足、社会科の知識の不足を考慮する必要がある。その実態に合わせて、各段階をより細かい活動に分けて進めたり、その活動の順序を変えたり、類似した活動を繰り返し盛り込む等、参加を可能にするための工夫を要する。その時に、「トピック型」JSLカリキュラムのAUと社会科AUが利用できる(AUに関しては、4.3.3で述べる)。このタイプの授業をタイプ1と呼び、次のような授業の展開とする。

授業タイプ1の例
対象学年:3、4学年
時間:3時間
学習内容:交通の仕組み
目標:目的地までの交通手段を調べて計画を立て、実際に利用して、電車やバス等の路線、料金、運行頻度、乗客へのサービス等について知る。
展開 課題をつかむ 調べる まとめる
1.どんな交通機関を利用しているか話し合い、「目的地」への行き方をインターネットや時刻表、パンフレット等で調べ、計画を立てる。 2.実際に、交通機関を使って目的地に行く。
料金、支払い方、運行頻度等を調べる。
3.利用してみて気が付いたことや分かったことを絵と文で表し、発表する。
(2) スキル運用を重視するアプローチ

 問題解決的な授業の各局面は、それぞれに局面を支える下位の活動単位から構成されている。例えば、5学年の「日本の国土」の授業を想定すると、「調べる」局面は、「調べる方法を考える」「地球儀で日本の位置を確認する」「地図で近隣諸国との位置関係を確認する」「日本の位置を白地図の作業で確認する」「国土の面積を統計資料で調べる」「他国と面積を比べる」等の活動から構成される。この学習では、地球儀や地図の見方という情報を収集・処理する学習スキルや、地図に表す等の社会科的手法で情報を再構成する学習スキルが身に付いているかどうかが、参加の可否を左右することになる。それは、同時に各局面への参加の可否ともなり、授業の流れに乗って参加できるかどうかにも影響する。
 そこで、先にも述べたが、学習スキルを運用して情報収集・処理する活動と、社会的特性のある表現活動に特化した授業を構成し、そこに参加させることによって問題解決的な授業への参加の準備性を高める方法が「学ぶ力」の育成には不可欠である。それが、スキル運用を重視するアプローチである。このアプローチでは社会科の学習活動の基礎となる学習スキルの中でも、特に日本語を母語としない子どもたちにとって重要と考えられる技能的な力を対象とする。それを整理したものが、下の表である。これらをJSL社会科の学習スキルと呼ぶことにする。

<JSL社会科の学習スキル>

情報収集・処理 情報を収集する
  • 実物を集める
  • 文献を集める
  • 通信手段を利用して情報を取り寄せる
  • 聞き取りをする
  • 現地で観察・見学・調査をする
  • 体験する
情報を処理する 情報を把握する
  • 地図、年表、統計資料、絵、写真、映像を読み取る
  • 地図帳、地球儀を利用する
情報を分析する
  • 観察・学習経験、生活経験から考えを持つ
  • 各種の資料を活用して分析する
表現技能 情報を再構成する
  • 文字・文章で表現する
  • 地図、年表、統計などに表す
  • 構成活動で表す
  • 情報機器を使って表す
情報を発信する
  • 口頭で発表する
  • 学習成果(作品)を基に発表する
  • 映像やコンピュータで発表する
  • 情報として発信する

 授業は、学習スキルを運用して行う課題を中心に、幾つかの活動を組み合わせて構成する。例えば、地図を活用する活動に焦点化した場合、地図記号とそれが指し示す施設名や土地利用を結び付ける練習、地図の記号を読み取って説明する練習、絵地図の絵を地図記号で表す練習等を、さまざまな地図資料を利用して行うような授業が構想される。このタイプの授業では、JSL社会科で身に付けさせたい学習スキルの運用力の強化を目標とするため、必然的にその学習スキルと密接に関連する学習内容、あるいは資料と一体化して扱うことになる。このアプローチの授業をタイプ2とする。次にその授業展開例を示す。

授業タイプ2の例
対象学年:3、4学年
時間:1時間
学習スキル:1.地図を読み取る 2.地図に表す
目標:地図記号の意味を知り、地図を読み取ったり、地図に記号を書き込んだりできる
展開 1.地図の記号を見て、何を表すものか話し合う 2.それぞれの記号が何を表すかを知り、地図を読み取る 3.絵地図の絵を地図記号に書き換える

※ いずれのタイプの授業も、社会科の学習内容を扱い、学習スキルを運用するという要素を含んでいる。ポイントは、「課題をつかむ」「調べる」「まとめる」という授業の流れへの参加を重視するか、学習スキルを運用する単独の活動への参加力を強化することに重点を置くかという違いである。基本的には、タイプ2の授業がタイプ1の授業に先行したほうが、効果的に「学ぶ力」を高められると考えられる。

4.3.3 支援の構造

4.3.3.1 JSL社会科のAU

 JSL社会科では、授業の各局面を構成する活動の多くは、「トピック型」JSLカリキュラムで開発したAUが利用できる。たとえば、「課題をつかむ」局面では、課題を設定するために重要な、疑問や関心を抱く活動は、「トピック型」AU「B-1~2興味を持つ1 2」「B-3~5疑問を抱く1 2 3」等が活用できる。というのも、「トピック型」のAUは、「体験」「探求」「発信」の3局面を構成する活動単位として、主に教室で行われている理科や社会科の授業を基に開発したからである。
 しかし、社会科の固有性と考えられる情報活用・表現の学習スキルに関しては、「トピック型」JSLカリキュラムのAUでは対応できない。そこで、新たに社会科AUを開発した。社会科AUは、上記4.3.2の(2)スキル運用を重視するアプローチの項で示した、JSL社会科学習スキル一覧を基に、それらの学習スキルを運用して行う活動を具体的に示したものである。社会科AUは社会科的特徴をもつものを活動単位にしたいと考え、単位をトピック型ほど細かくせず、ひとまとまりの流れを持つ活動のレベルとしている。例えば、「地図を読み取る」というAUは、地図を読み取る一連の活動を指し、地図記号や方位について知ること、それを基に地図を読むこと、読み取ったことを日本語で表現することが含まれる。
 AUカードの利用方法は、授業タイプ2で授業を組み立てる際には、焦点化する学習スキルを運用する活動をこの社会科AUから選択する。タイプ1の授業では、3局面の流れを作る際に、社会科AUを選択して組み込む。そして、「トピック型」JSLカリキュラム同様、例示されている日本語表現を参考に、学習内容と子どもたちの日本語の力に相応しい日本語表現を考え、活動参加時の働きかけと応答の表現として使用する。この働きかけと応答の表現は必ずしも、働きかけが教師、応答が子どもたちと固定的なものではない。活動の性質によって誰がどの立場で働きかける場合の表現なのか、また、応答する場合の表現なのかが決まる。例えば「~(だれだれ)にインタビューする」というAUの場合には、インタビューする側である子どもたちが利用する表現が働きかけの表現、インタビュー相手の表現が応答の表現となる。

4.3.3.2 学習内容の選択と再構成

 学習内容は、社会科の豊富な内容から、JSL社会科として、そして対象の子どもたちにとって相応しい内容を選択し、再構成していかなければならない。そこで、学習内容の選択・再構成の視点を考えていこう。まず、二つのアプローチに共通する内容選択のポイントを示す。その後、スキル運用を重視するアプローチで特に考慮すべき点を加える。

(1)両タイプのアプローチに共通する視点
  • ア 子どもたちが興味・関心を抱けるように
    • 在籍学級や学校行事に関連づけて(社会見学、遠足、運動会)
    • 身近な出来事(地域の出来事、事件、新しい店、行事)
    • 母国のこと(スポーツや文化的活動)
    • 好きな事柄、好きな場所等に関連する事柄(趣味、好きなテレビ、遊園地)
  • イ 子どもたちの生活実態に関連づけて
    • 家庭での出来事
    • 知り合いや友達との関係
    • 参加している地域の活動
    • 母国での経験(休みの過ごし方、友達、学校生活、町の様子、)
  • ウ それまでに獲得してきた知識・概念を土台にして学べるように
    • 母国の地理、歴史、産業、社会の仕組み
    • 母国で学んだ社会科関連の知識
  • エ 全体像がつかめるように全体把握を優先して
    • 歴史の流れ
    • 地理的空間(世界の中の日本、日本の○○(丸丸)県)
  • オ 在籍学級の社会科の学習との関連性を意識して
    • 在籍学級での学習内容(先行して学ぶ)
    • 在籍学級で学習済みの内容(復習として学ぶ)
    • 在籍学級の学習の前提となっている内容(補足のため)
    • 学習内容の全体像(準備性を高める)
    • 在籍学級の学習に関連する学習内容(理解を確かなものにするために)
  • カ 「課題をつかむ」「調べる」「まとめる」という展開が可能な内容
    • 子どもたちの日本語の力で、ある程度調べられる内容
    • 調べる活動が、できるだけ具体物や直接的な体験を通して行える内容
    • まとめる活動で、写真や図、グラフや表等、言葉以外の表現手段が可能な内容
(2)スキル運用を重視するアプローチで特に考慮すべき視点

 社会科AUの中から目標として特定の活動を選択した段階で、かなり内容は特定される。しかし、JSL社会科の授業としてより適当な内容を精選しなければならない。上記のア~カの視点に加えて、次のような点から選択をすることが望ましい。

  • キ 焦点化する活動を中心に学習できる内容
     例えば、「絵や写真の読み取り」であれば、絵や写真を多用する内容が相応しい。また、「グラフで表す」活動であれば、表や数値をグラフ化する作業が多く含まれる内容が相応しい。
  • ク 短時間で実施できる内容
     タイプ2の授業は、タイプ1の授業への参加を容易にするために準備性を高めることをねらいとする授業である。そのため、できるだけ短くコンパクトな形で実施し、タイプ2で培った力を、タイプ1の授業参加で発揮できるようにすることが、JSL社会科の目指す学ぶ力の育成への近道となる。
  • ケ 同じスキルを類似の資料や活動で運用できる内容
     例えば「インタビューをする」活動であれば、ある対象者に対して一度だけ行ったとしても、その力はまだ十分に高まったとはいえない。そこで、いろいろな内容について、或いは異なる対象者に対して「インタビュー」を行うように活動を組み立てることが大事である。

(3)資料「JSL社会科の学習項目とキーワード一覧」の利用について
 内容選択のための資料として、JSL社会科の学習項目とキーワード、及びそこで求められるJSL社会科のスキルを一覧にしたものを準備した。それを参照し、対象児童にとって相応しい内容を選択して欲しい。ただし、あくまでも参照のための資料であり、網羅的に学習するための学習項目一覧の類ではない。内容の選択に当たっては、その子どもたちにとっての重要性、優先性、必要性が最も重視されるべきである。また、キーワードも同様である。日本語を母語としない子どもたちにとって、日本での生活体験が日本語を母語とする子どもたちほどには多くないこと、当該子どもたちの社会科での学習経験等を考慮して、焦点化する言葉を選んで学習活動の中に組み込んで扱うことが必要である。あくまでも社会科の活動に参加できるようになることがねらいであり、その結果として概念の獲得に伴ってそれを表す社会科のキーワードが学習されると考える。

4.3.3.3 教師・指導者の支援

 教師・指導者には、子どもたちが知的に興味・関心を持ち、参加しているという実感が持て、安心して授業に参加できるように支援をすることが求められる。そのためには、授業構造や内容構成の工夫の他に、子どもたちに合った教材・教具の開発や利用の工夫が必要である。また、事前の準備以外にも、授業中に意図的に、或いは子どもたちの反応に即応して、日本語の不十分さを補うために教師・指導者自身が使用する言語を選択したり、理解や表現(話す、書く)を促したりする支援が必要である。

 まず、教材・教具開発及び授業中の支援を行う上での原則を3点挙げる。

  • 自分の体験と関連づけられるように、学習内容を生活実態に合わせて示す。
  • 問題解決的な展開が意識できるように、活動の転換を明示的に行う。
  • 内容理解を促すために、具体物や体験的活動に支えられた学びの場をつくる。
(1)教材、教具の準備

 教材・教具作成上(選択、利用方法を含めて)の工夫のポイントを示す。

  • ○(丸)両タイプのアプローチに共通
  • ●(黒丸)流れを重視するアプローチで必要な工夫(タイプ1の授業)
  • ▲(三角)スキル運用を重視するアプローチで必要な工夫(タイプ2の授業)
  • ○(丸)子どもたちに馴染みのある教材を使用(子どもたちが日々目にしている実物、 資料、母国の情報)。
  • ○(丸)各活動のキーワードを準備する(カード、板書)。
  • ○(丸)各段階の作業用シートを準備する(個別に配付するものと、全体で見られる拡大したもの)。
  • ○(丸)視覚的教材を多く用いる。
  • ○(丸)作業・操作をしながら学べる教材を準備。
  • ●(黒丸)各活動で、活動参加を推進するための教具を準備する(活動目的を明示するカード、活動の流れ図)。
  • ●(黒丸)子どもたち自身の作品や他の授業の成果物を教材として使用する。
  • ▲(三角)繰り返し練習が出来るシート
     例えば、統計表を読み取って質問に答えるというパターンの練習問題。
  • ▲(三角)成果をチェック、復習するシート
     例えば、絵地図から記号化された名称・意味を問う問題。
     (スキル運用力を強化するために繰り返し練習したり、成果を確認したりする必要があれば、▲で示したようなシートも有効であると考える。ただし、日本語の不十分さが障害にならないよう工夫が必要である。)
(2)授業中の支援

 教師・指導者の授業中の支援のポイントを示す。

  • ○(丸)両タイプのアプローチに共通。
  • ●(黒丸)流れを重視するアプローチで特に重要(タイプ1の授業)。
  • ▲(三角)スキル運用を重視するアプローチで特に重要(タイプ2の授業)。
  • ○(丸)日本での生活体験の不足、文化的社会的背景についての知識不足に配慮して、問いかけたり、情報を提示したりする。
  • ○(丸)▲(三角)意味と言語形式を統合させるために、活動への参加を通して獲得した知識や概念に、適切なタイミングで日本語を示す。
  • ○(丸)▲(三角)作業活動の途中でも、日本語でやりとりをし、社会科的な活動とそれを支える日本語とを結びつけさせる。
  • ○(丸)体験的活動をできるだけ多く経験させる。
     触れて見る、聞いて見る、使ってみる、やってみる、訪れてみる…
     言語のみでは認識しにくい自身との関連性を、体験を通してつかませる。
  • ○(丸)表現する意欲を重視し、日本語以外の表現手段による表現を奨励する。
     自分なりの方法で表現させる→他の表現方法を示す(ヒント)→自分で考えた表現方法で表してみる。
  • ○(丸)●(黒丸)授業パターンの認識を促し、社会科の学習活動への参加を容易にするために活動の転換をはっきりと示し、授業にメリハリをつける。
  • ○(丸)●(黒丸)学習状況を見て、必要に応じて学習形態を変更する。
     (一斉、グループ、ペア、個別)
  • ○(丸)●(黒丸)活動に相応しい場所を選び、学習の場所にも変化を持たせる。
     (教室、図書室、コンピュータ室、公共施設、学習対象の場所、対象の人が集まる場)

 スキル運用を重視するアプローチでは、地図やグラフ作成などの作業が多くなると考えられる。そこで、▲(三角)印で示したように、作業途中でも日本語でのやりとりをして、活動の中身と日本語とを結びつけてとらえられるように支援することや、対象児童にとって重要な社会科特有の用語を精選して提示するといった配慮が肝要である。

4.4 授業の作り方

 JSL社会科の授業づくりのポイントや手順について、基本的な考え方を示し、その後、4つの事例で具体的に示していく。

4.4.1 授業づくりの基本的な流れ

 JSL社会科の授業づくりの流れは、基本的には表のように、1子どもたちの実態把握、2ねらいとする「学ぶ力」の設定(アプローチの決定)、3授業の構想(大まかな授業の展開)、4授業の組み立て(具体的にどのような活動(AU)を、どのような教材を利用して、どのような支援を行って)、となる。ただし、4つの段階は緩やかな順次性しかなく、幾つかの段階が同時に進められることも大いに考えられる。
 1の子どもたちの実態把握、2のねらいとする「学ぶ力」の決定の段階では、資料と して示した「JSL社会科学習スキル一覧」と「JSL社会科学習項目一覧」を参照し、つまずきの原因や、今後の在籍教室での学習に参加する前の学習として有用な学習スキルや、先行して学習する意味がある内容を特定する。例えば、つまずきが社会科の情報収集・処理スキルの問題なのか、既有知識の不足が問題なのか。或いは、日本における社会的経験不足によるものなのか、または情報や概念を示す日本語の未学習によるものなのか。このように診断することによって、授業の目標設定、活動の選択、教材・教具の作成をより的確に行うことができる。それは同時に、形成的評価の視点ともなると考えられる。
 3の授業の構想では、目標達成のためにどのような活動を中心に、どのように展開するかを大まかに考え、4でより具体的に、授業のプランを練る。4の段階では、利用するAUや教材・教具類、支援の仕方を決め、個に応じた指導案を作成したり、教材を作成したりするなどの準備を行う。
<JSL社会科の授業づくりの流れ>

1.子どもたちの実態把握

  • 社会科でのつまずき:どこでつまずくのか、何が原因か
  • 在籍学級の社会科:今何を学習し、次に何を学習するのか
  • 本人の経験:来日後の社会経験、学習経験、来日前の生活体験、学習歴
  • 日本語等の力:日本語の力、学習のスタイル
  • 興味・関心:何に興味・関心があるのか

 →社会科の学習に結び付けられないか?

参照資料

  • 学習スキル一覧
  • 社会科AU一覧
  • JSL社会科の学習項目とキーワード一覧
2.ねらいとする「学ぶ力」の設定 社会科の内容について前提知識が不足しており、社会科の調べ学習等の一連の活動に参加することが難しい
…流れを重視するアプローチ

情報収集・処理スキルや、地図や図表等で表現するスキルが不十分で、そのスキルを運用する活動に参加できない
…スキル運用を重視するアプローチ
3.授業の構想

タイプ1:「課題をつかむ→調べる→まとめる」という大体の学習の流れを構想する
タイプ2:どのような活動でどの学習スキルの運用力を強化するのか構想する

参照資料

  • 社会科AU一覧
  • JSL社会科の学習項目とキーワード
4.授業の組み立て 子どもたちの背景を生かすように配慮して、各時間の活動展開(AUの選定も)、活動の形態、活動時間、教材、教具、支援の方法を具体的に決定し指導案を作成する。

4.4.2 アプローチのタイプによる授業づくりの違い

 授業の流れを重視するアプローチによるタイプ1の授業と、社会科のスキル運用を重視するアプローチのタイプ2の授業について授業の作り方を紹介する。各アプローチ一つずつ授業例を示す。どのような子どもたちに、どのような力をつけさせるためにアプローチを選択したのか。授業づくりのプロセス、授業構成要素、内容・教材選択の視点、準備する教材、学習支援の考え方等の観点から考える。なお、ここで紹介する事例に関しては、その指導案を4.5の資料3で示してある。

(1)授業タイプ1(授業事例 5年「食料はどこから?」)

 対象の子どもは、社会科の授業になかなか参加できない状況にある。本人は、言葉の問題だといっているが、それ以上に、日本についての知識や生活体験の不足が、内容理解の困難を招いているようである。そこで、まず社会科の授業に参加する経験をさせたいと考えた。そこで、対象の子どもの経験が生かせ、今後の学習の助けとなる基礎的な知識が獲得できる授業にしたいと考え、流れ重視のアプローチで授業を行うことにした。
 子どもたちの周囲には海外の食品が溢れている。対象の子どもが身近に感じ、興味が持てるように、日本で食されている母国の食材や食料から出発することにする。課題意識を持って食品の産地、製造地を調べる、その成果から母国と日本、日本と世界の食品の輸出入を通した関係性をとらえる、という一連の活動への参加が可能になると思ったからである。それに、「輸出入」に関する学習は、日本と他国との関係をとらえる学習上必要な、国名、国の位置、流通等の基本的な内容を含んでおり、在籍学級での学習活動への参加の助けになると考えた。
 どこの家庭にでもある食品のラベルや、広告の切抜きが教材になるので、ラベル集めや広告集めを家庭での課題として課す。また、ラベルを世界地図上に貼り付ける活動や、カード化して様々な観点で分類する活動ができ、操作や作業という、具体物や体験の支えのある学びの場を構成する。
 支援として、ラベルカードにルビをふる、世界地図にルビをふる等の補助をする。また、カードを操作する活動で繰り返し問いかけたり、聞かせたりして、操作とともに日本語の表現を理解させ、できれば話せるように促す。

授業事例「食品はどこから」(5年)の授業づくり

1.子どもの実態:

  • 小学校5学年の子ども、ひらがな、カタカナは読み書きがほぼできるが、漢字が苦手である。
  • 社会科の学習に対して、言葉が分からないといい、参加意欲が低い。休み時間は元気に友達と遊びまわっているが、授業では目立たずほとんど発言しない。
2.ねらいとする「学ぶ力」:
  • 課題をつかむ:身の回りの食品から、国と国の間の関係に関心を持ち、課題を設定する。
  • 調べる:世界地図を利用した作業等を通して、国と国との関係を調べる。
  • まとめる:調べた結果を基に、各国の産業と輸出入の関係について関連づける。
3.授業の構想:食品ラベルを集めさせ、それを基に活動を展開しよう。
 ラベルで食料世界地図の作成や、食品ごとの分類などを通して、食料の生産地や、日本との関係(特に、母国との関係)に気付かせよう。
4.授業の組み立て:3時間単元
  • 1時間目:
    • 日本で売られている母国の食品を知り、食品の産地について感心を持つ。
    • 食品ラベルを集め、カード化し分類を行って、食品の社会科のとらえ方を理解する。
    • トピック型AU A-1「知識を確認する」
    • 社会科AU M-3「カードを作る」
  • 2時間目:
    • 食品のラベルから食品の生産地を調べ、世界地図に貼って食料世界地図を作成する。
    • 社会科AU J-1「視点を決めて整理する」
    • 社会科AU L-1「調べたことを地図にまとめる」
  • 3時間目:
    • 食料世界地図を見て分かることをもとに、日本と母国・他国との関係を、食品の輸出入の面からとらえ、文章にまとめる。
    • 社会科AU J-5「総合的に考えて結論を出す」
    • 社会科AU K-4「わかったことを文章でまとめる」
(2)授業タイプ2(授業事例 6年「歴史への入り口」)

 対象の子どもは、「トピック型」JSLカリキュラムでの学習を経て、在籍学級での授業で積極的な参加姿勢を見せている。しかしながら、他の子どもたちと同じペースでは、資料を読み取ることは困難で、授業の内容が理解できずにいる。そこで、この子どもには社会科のスキル運用を重視するアプローチで授業を組み立てることにした。
 これから、学習が始まる「歴史」では、頻繁に年表を読み取る活動が出てくる。年表が読めれば、学習参加の可能性は高まると考えた。また、年表の見方が分かれば、歴史的背景をとらえることもできる。そこで、これから歴史の勉強を始めよう(或いは、一定程度授業は進んでしまった段階でもいいだろう)という対象の子どもに対して、日本の歴史の学習への取り掛かりとして、年表の見方を学ばせようと考えた。
 また、絵や写真等を比べて年代順に並べる活動を通して、視覚的資料から情報を得たり、分析したりする力を身に付けられれば、歴史の学習に、興味・関心を持ち、理解可能な部分が増えてくると考えた。さらに、各時代の食物や服装等の生活の様子や、建物等の特徴を見つける活動を通して、歴史を学ぶ楽しさを味あわせ、生活、建築物、文化等の大切さに気付くことを知ることができると考える。
 具体物の支えや直接体験を豊かにするために、各時代の生活の様子が分かる絵や道具の写真等をたくさん準備することにした。また、年表に関しては、年表の基本的な見方を知ることをねらいとしたため、情報を削って簡素化したものを用いた方が良いと考えた。
支援については、資料の読み取りを可能にするために問いかけを分かりやすく、具体的にすることと、年表を見る上で鍵となることばを、繰り返し聞かせたり、文字として示したりして触れさせることを中心に行う。このように考えて作ったのが、下に示した「歴史への入り口」の授業である。

授業事例「歴史への入り口」(6年)の授業づくり

1.子どもの実態:小学校6学年の子ども

  • これから、在籍学級で日本の歴史の学習を行う。
  • トピック型JSLの授業で3ヶ月程学習し、徐々に日本語で発信する力がついてきた。
  • 社会科の資料を他の子と同じように読み取ることはまだできない。

2.ねらいとする「学ぶ力」:

  • 年表の見方(年号、時代、時代の長さや歴史の流れをとらえる)
  • 歴史資料の絵や写真の見方(服装や食べ物、建物等の特徴を掴む)

3.授業の構想:

  • 年表を利用して日本の歴史的背景をつかませよう。
  • 各時代の特徴を絵や写真から得られるその時代の服装や建物等からとらえさせよう。
4.授業の組み立て:2時間単元
  • 1時間目:
    • 絵や写真でいろいろな時代の服装や建物等を紹介し特徴を探す。
    • 服装や建物を時代の順に並べる活動を通して時代の流れを感じさせ、日本の歴史に興味・関心を持つ。
    • 社会科AU G-4、J-3「絵や写真を読み取る」「比較して結論を出す」
  • 2時間目:
    • 時代区分に着目させながら歴史年表の見方を理解する。
    • また、1時間目で取り上げた絵や写真を年表上に位置付けて、服装や建物の歴史的な流れを結びつけてとらえる。
    • 社会科AU G-2、L-5「年表を読み取る」「年表に表す」

※ この他、JSLカリキュラム社会科の開発に当たって提案された授業展開事例を、4.5JSL社会科資料の4.授業展開例として示してある。

4.4.3 授業の位置付けの違いによる授業づくりの違い

 在籍学級の学習と連動させて実施する場合と、来日間もない子どもたちへの初期指導の一環として実施する場合の授業づくりの違いについて考えてみたい。前者は、授業例「わたしたちのA県」を通して、後者は、授業例「母国に手紙を書こう」を通して紹介する。

(1)在籍学級の社会科学習と連携して(授業事例 4年「わたしたちのA県」)

 在籍学級の進度に合わせて授業の内容や活動を決定すれば、在籍学級での社会科の学習への参加を直接的に後押しできる。その場合、4.3.4で示したように、先行して同じ内容を学ぶ、復習として学ぶ、補足のために学ぶ、準備性を高めるために学ぶなど、取り出し指導で行う学習の位置付けは、いろいろ考えられる。
 ここで紹介する事例は、在籍学級での学習に入る前に、地図の見方や、インタビューの仕方を強化して、準備性を高めることをねらった授業である。スキル運用を重視したアプローチで行うことにした。

授業事例 「わたしたちのA県」(4年)の授業づくり

1.子どもの実態:小学校4学年

  • 在籍学級で「A県」の学習が始まるが家の近所のことは自分以外はほとんど知らない。
  • 会話に問題はないが、地図の見方や、位置関係を表現する力が弱く、授業では困難が大きい。
  • まだ、礼儀正しい話し方が身に付いていない。

2.ねらいとする「学ぶ力」:地図を読み取る力

  • インタビューをする力(インタビューの仕方、インタビューを通して関心事について知る)

3.授業の構想:

  • A県の地図を見ながら、地形や土地利用について話し合う活動を通して、基本的な地図の見方を学ばせよう。
  • 学校の教員にインタビューさせ、他地域の様子をイメージさせよう。同時に、インタビューの仕方を身に付けさせよう。

4.授業の組み立て:3時間単元

  • 1時間目:
     日本地図、県地図を利用して、A県の位置、山、川、平野、行政区分について、基本的なことを理解する。
     社会科AU G-1「地図を読み取る」 他
  • 2時間目:
     他の地域に住んでいる教員へのインタビュー内容を決め、インタビューの仕方を練習する。
     トピック型AU E-3「情報を収集する3」 他
  • 3時間目:
     インタビューを行い、結果をシートにまとめて発表する。
     社会科AU F-3「公共施設の人にインタビューする」 他
(2)編入直後の学習支援の一環として(授業事例 「母国に手紙を出そう」3、4学年)

 子どもたちは来日直後から学校生活や社会生活を送っている。そうした子どもたちに対して、生活するために必要な情報や実際の体験を、社会科の学習として提供する授業である。学習の題材は学校や住んでいる地域を対象とし、その身近な世界を社会科の見方や考え方でとらえ直すという学習となる。
 ここで、来日直後の子どもたちに郵便の仕組みの一部を、実際に母国に手紙を出す体験を通して学ばせる例を紹介する。母国へ手紙を書くという活動は、子どもたちの生活の延長線上に位置付けることができ、その体験を基に、問題解決的な流れに参加させることが可能となろう。また、子ども一人ではなかなか利用できない日本の社会システムを、社会科の学習の一環として取り上げることによって、その子どもが日本での社会経験を豊かにしていくきっかけになると考える。そこで、流れを重視するアプローチで、学習の基本となる社会的知識や経験を蓄えることを目指す授業とした。

授業事例 「母国に手紙を出そう」(3、4学年)の授業づくり

1.子どもの実態:

  • 小学校3、4学年(他の学年でもアレンジすれば可)
  • 滞日間もなく、学校外では生活するための体験がほとんどない。
  • 平仮名の読み書きの学習が漸く終了、会話は簡単なやりとりのみ。
  • 子どもたちは日本に来てから母国に手紙を書いた経験がないだろう。

2.ねらいとする「学ぶ力」:

  • 課題をつかむ:手紙を書いた経験を様々な表現手段で伝える。
  • 調べる:体験や図の読み取りを通して、日本の郵便のシステムについて知る。
  • まとめる:理解したことを、図式化を通して一般化できる。

3.授業の構想:

  • この授業で手紙を書く経験を通して、手紙の書き方を知ることができるだろう。
  • 実際に郵便局に行き、切手を買って郵便を投函する体験を通して、郵便の仕組みの一部が理解できるだろう。

4.授業の組み立て:3時間単元

  • 1時間目:
    • 母国の友人や親戚に日本での生活に関して母語で手紙を書く(書ける部分のみ日本語)。
    • トピック型AU A「経験を確認する」「実際に体験をする」
  • 2時間目:
    • 封筒に宛名を書き込み、郵便システムを利用するために必要な情報が何かを理解する。
    • 郵便局に行って手紙を出し、料金について尋ねる。
    • 社会科AU E-5「実際に体験をする」「施設を利用する」
  • 3時間目:
    • 資料を基に、投函した手紙が相手に届くまでを知り、シートの図にまとめる
    • 社会科AU G-4、G-6、L-2「写真を読み取る」「図を読み取る」「調べたことを図にまとめる」

4.4.4 JSL社会科の指導案の構成

 JSL社会科の考え方や上記のプロセスを反映させるものにするために、指導案のフォームを提案する。このフォームで、4.4.2と4.4.3で紹介した4つの事例の指導案を作成し、資料として掲載してある(4.5資料3)ので参照いただきたい。ただし、このフォームはあくまでも例であり、必ずしもこの通りである必要はない。実際に授業を担当する立場の教師・指導者に、JSL社会科の考え方が盛り込まれたより使いやすいフォームで指導案を作成してもらえればよいと考える。
 指導案のフォームを示し、指導案の各項目について簡単に説明する。

教科志向型JSLカリキュラム社会科 指導案

授業のタイプ 1/2

  1. 単元名: 「 」
  2. 対象児童: 想定する子どもの学年と、題材選択に特に関連のある背景を記す。
    (国籍、言語背景等、JSLカリキュラムの対象である「日常会話はできるが、教科学習についていけない子」という点は共通であるため、特には記述しない)
  3. 時間数:単元を構成する時間数
  4. 単元設定の理由:
    次の視点から、単元設定の理由を記す。
    • 子どもたちの興味・関心という視点から
    • 日本語が不十分な子どもがこの単元の学習にどうやって参加できるのかという視点からこの学習活動に参加することによって、内容の理解と日本語の獲得が同時に進行すると考えられる理由
    • 子どもたちのニーズの視点から
       学校生活上の必要性、社会生活上の必要性、学校全体の教育活動との関連
    • 異なる社会文化的背景下で獲得した知識や経験を生かせるかという視点から
    • 在籍学級の社会科の学習との結びつきという視点から
  5. 学習目標: 授業のタイプによって目標の設定の仕方が異なる
     タイプ1の授業は、単元について3つの局面から成る一連の学習活動に参加できるようにすることを目指すものである。そのため、目標はどのような活動の流れに参加できるようにすることを目指し、それによって獲得できる社会的なものの見方や考え方は何かを記す。
     タイプ2の授業は、社会科に特有の情報収集・処理活動と社会科的な手法での表現活動のどれに焦点を当てて、強化していくのかを具体的な社会科の学習内容と絡めて示す。
     その他、両タイプの授業を通して身に付けさせたい日本語の力も行動目標として示す。
     ◎活用するAUをここに示すこととした。
  6. 語彙・表現に関して
     この単元を学習するに当たって、活動計画案上に示した日本語の語彙と表現の項目を、どのように位置付けるかを示す。
  7. 活動計画(単元)
    活動(教材) 活用するAU 日本語の語彙と表現 学習支援※
           
    ※(学習支援) ここでは留意点のみならず、どのように支援するのかを具体的に示す。例えば、日本語では理解が難しい場合や、内容について理解はできているが日本語でどう表現してよいか分からない場合、どう対応するか。学習活動の経験が乏しいために参加の仕方が分からない場合、どのようにして参加させるか等。
  8. バリエーション
     事例を活用する場合に、対象の子どもの背景、指導教師、授業時間、教材、在籍学級との連携等、諸条件が異なる場合に、どのようなアレンジが可能かを示す。ポイントとして以下の点を想定してバリエーションを挙げる。
    • より発展的な授業にする場合
    • 社会的知識が乏しい場合
    • 在籍学級と連携して行う場合
    • 言語面で、想定した子どもよりもレベルが低めであった場合
    • 時間的に計画した時間が確保できない場合
    • 子どもたちの母国での生活体験や母文化を出発点とする場合
  9. リソースとして利用可能なもののアイディア
    1. 教材・教具
       指導案の教材・教具以外でも効果的だと考えられるもの、或いは代用可能なもの
    2. 人的リソース
       担当教師以外で、学習支援をしたり、一緒に学習したり、関連する事柄について情報提供したり、学習内容について話し合ったりできると期待する相手と、そのリソースとしての活用の仕方

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総合教育政策局国際教育課

-- 登録:平成21年以前 --