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2 「トピック型」JSLカリキュラム

1.「トピック型」JSLカリキュラムの基本的な考え方

1.1  活動への参加を通した学び

「トピック型」の学習活動の3局面

 「トピック型」JSLカリキュラムは、子どもたちが特定のトピック(たとえば「水道水はどこからやってくるのか」)を探求する共同的な学習活動に日本語を用いて参加できるようにすることを目的にしている。この学習活動は次の3つの局面からなると考えている。

<体験の具体化>
 子どもたちがいま体験していることや、かつて体験したことに具体的で明確な形を与える局面である。それらをここでは「体験の具体化」と呼ぶ。たとえば、「家で毎日水道を使っていること」「浄水場を紹介するテレビ番組を見たこと」といった体験を、言葉、絵、身振りなどによって表現し、他の子どもたちや教師・指導者に伝えていくことがこの局面での子どもたちの活動となる。

<探求の体系化>
 具体化された体験を土台にしながら、他の子どもたちや教師・指導者との議論や、情報の探索などによって、トピックについての理解を深めていく局面である。他の子どもたちや教師・指導者とともに対象を観察し、名づけ、並べ、比較し、特徴づけ、整理するといったことが含まれる。たとえば、インターネットなどを使って水道についての情報を集め、「体験の具体化」の局面で示された「家で毎日水道を使っていること」「浄水場を紹介するテレビ番組を見たこと」といったことと関連づけて整理することが、この局面での子どもたちの活動となる。

<成果の発信>
 探求の成果を他者に向けて発信していく局面である。「体験」や「探求」の局面においても子どもたちはつねに仲間や教師・指導者に向けて自分の経験、理解、考えを表現している。一方、ここでいう発信とは、それまでの探求の成果を分かりやすく人に伝えていく、いわゆる、「プレゼンテーション」である。たとえば、「水道水はどこからやってくるのか」という問いをめぐる学びの成果を、図や写真なども使って発表するといった活動がこれにあたる。

 このように、自分の「体験」を日本語で表現し、それを出発点にして他の子どもたちや教師・指導者と共に「探求」を進め、その成果を日本語で「発信」する。実際の授業は、これらの各局面のさまざまな組み合わせによって展開していくことになる。学びの目標設定によっては、特定の局面に重点を置いた授業、たとえば特に「発信」の局面に焦点を合わせ、プレゼンテーションのさまざまな工夫に取り組んでいくといったものも考えられる。「トピック型」JSLカリキュラムは、このような学習活動に子どもたちを参加させていくことを目指すのである。

「トピック型」の学習活動の3局面の図

学習活動のレベルと日本語のバリエーション

 まだ日本語の力が十分ではない子どもたちを、これらの活動に参加させていくために、次の2つの方向からのアプローチすることにした。
第1は、トピックへの取り組みに向かう子どもたちの学習活動をどのように構成するかである。第2は、日本語の力が不十分な子どもたちが学習活動に参加できるようどのようにサポートするかである。

学習活動のレベルと日本語のバリエーションの図

(1)学習活動のレベル
 「トピック型」JSLカリキュラムで最初に考慮されなければならないのは、子どもたちたちが日本語を使う舞台となる学習活動をどのように構成するかである。子どもたちが取り組むトピックは、十分に興味深いものでなければならず、また、そこでの活動の展開はトピックについての子どもたちの理解の深まりに結びついていなければならない。つまり、「学び応えのある」トピックと活動が必要である。
 「学び応えのある」トピックと活動とは、別の言い方をすれば、子どもたちの認知発達のレベル、既有知識、学習歴などによって決まる現時点での子どもたちの「学ぶ力」に適切に対応したトピックと活動である。それまで、子どもたちが母語で培ってきた「学ぶ力」に応じて、その子どもたちが興味と知的な緊張感をもって取り組むことのできるトピックと活動を用意しなければならない。日本語の力が不十分な場合、当然のことながら日本語での「学ぶ力」は低いものになる。しかし、だからといって子どもたちに提供するトピックや活動のレベルを低いものにしてしまうと、子どもたちは学びの意欲を持てなくなる可能性がある。たとえば、母国で十分な学校教育を受けてから日本に来た6学年の子どもに、日本語の力が低いからといって、「学校のなかで水道のあるところを調べよう」といった低学年向けの活動をさせても、それを楽しむことはあるかもしれないが、知的な興味をもって学びを進めることはないだろう。
 そこで、「トピック型」JSLカリキュラムでは、学習活動を子どもの「学ぶ力」に応じて「レベル1」「レベル2」「レベル3」という3レベルに分けて用意することにした。レベル分けの基準としては、たとえば子どもたちがすでにもつている知識の量や質などが考えられるが、このような学びの内容にかかわる基準は、このカリキュラムが対象とする子どもたちの文化的、生活的、社会的背景の多様さを考えると現実的ではない。そこで、学習活動の中で子どもたちに求められる思考の具体性の度合いによってレベルをコントロールすることにした。具体物を直接観察したり、操作したりすることによって学習を進めていくレベル1、具体的なものの観察や操作から距離をおいて言語的に思考を展開していくレベル3、そして、その中間のレベル2という3段階である。これらの各レベルはおおよそ「低学年」「中学年」「高学年」に対応するものであるが、決して学年に厳密に縛られるものではない。子どもたちの実態や教室の特性に応じて学年にとらわれず教師・指導者が柔軟に授業のレベルを設定・調整していくための一つの目安として用意されたものである。
 これを「体験」「探求」「発信」という学びの3局面と関係づけて整理すると次のようなマトリックスができる。

学習活動のレベル
学習活動の展開 レベル1 レベル2 レベル3
体験 直接体験 直接体験/間接体験 間接体験/直接体験
探求 具体物の操作 具体物の操作 言語的思考/具体物の操作
発信 具体物の利用 具体物の利用 言語的表現/具体物の利用

 たとえば、「水」をテーマにした授業の場合、実際に近所の川を観察しに行き、母国の川の様子と比較し、水の色や川の大きさ、川と人々の生活の関係の違いなどを整理していく授業や、水道の水を使って色水を作ることで水の性質を直感的に理解するといった授業はレベル1(場合によってはレベル2)向けのものとなる。一方、インターネットで河川の汚染状況について調べ、その数値を整理してグラフにし、地域ごとに比較するといった授業はレベル3となる。レベル3の活動においても、もちろん具体的なものの支え(たとえば実際に汚染された水を観察し、汚染度の測定を行うなど)は不可欠であるが、そうした具体的な活動を言葉によってとらえなおし(たとえば数値化し)、言葉のレベルで思考を進めていく(たとえば数値を比較する)ことがレベル3(部分的にはレベル2)の学びの活動である。

(2)日本語表現のバリエーション
 「トピック型」JSLカリキュラムにおいて日本語は、子どもたちが自分の「学ぶ力」に応じた学びの活動を展開していくための道具として機能しなければならない。学習活動へ参加していく中で日本語を習得させていくといっても、日本語を母語とせずに育ってきた子どもたちに、すぐに母語話者並みの日本語の使用を求めることは、もちろん不可能である。そこで活動のレベルを下げず、しかも、その流れを中断させることなく、子どもたちの不十分な日本語の力を支えていく工夫が必要となる。
 そうした工夫として、「日本語表現のバリエーション」というアイディアを用いることにした。ある一つの活動を達成するための方法は数多くある。たとえば、パソコンの操作が分からない場合でも、「マニュアルを読む」「近くの人に聞く」「試行錯誤してみる」「メーカーのサポートセンターに電話してみる」「誰かに代わりに操作してもらう」など多様な解決の道筋が考えられる。これと同じように、学びの中で特定の活動を進めていくために用いられる道具としての日本語も多様なものが考えられる。たとえば、「体験」の局面で、水道を使った経験を他の子どもたちや教師・指導者に向かって語るという活動は、「私は手を洗うときに水道を使います」といった完全な日本語の表現だけではなく、「手、洗うとき」といった簡単な表現でも可能である。さらに、水道で手を洗っている絵を示して「これ」ということや、実際に水道のあるところに行き「これ」といって、手を洗って見せるといったやり方でも達成することができる。このように完全な日本語表現ができない子どもたちでも、よりシンプルな表現を用いたり、具体物や身振りの助けを借りたりすることで、活動を進めていくことができる。「体験」「探求」「発信」の各局面の中で生じるさまざまな活動に用いられる日本語について、日本語表現として完成しているものから、モノや身振りに支えられたよりシンプルなものまで、いくつかのバリエーションを用意しておき、子どもたちの日本語の力に応じてそれを切り替えていく。このような方法をとることで日本語の力が不十分であっても活動を中断することなく、学びを進めていくことができるはずである。
 なお、バリエーションの作成に当たっては、語彙、文型(文の構造)、談話のまとまりという言語的な要素も考慮した。具体的には、次のような考えをもとにバリエーションを作成している。第1は、「語彙」である。日常的に使わない語彙であれば子どもたちにとってなじんだものにかえる、抽象な語彙は具体的なものに言いかえる、教科特有の用語であればより基本的な語彙に置きかえる、難しい漢字語彙であれば日常的に使う語彙に言いかえるといった工夫をしている。
 第2は、「文型(文構造)」である。具体的には、複雑なものは単純な構造の文型で言いかえる、長すぎる文は短い文に分ける、聞き慣れない文型であればよく使っている文型で言い直すなどの工夫をしている。
 第3は、「談話のまとまり」である。具体的には、一回の発話で扱う内容が多すぎれば小さく分けてやりとりする、文と文の関係が複雑であれば分かりやすく並べ替えるなどの工夫をしている。

学習活動と日本語表現のマトリックス

 「トピック型」JSLカリキュラムにおける「学習活動のレベル」と「日本語表現のバリエーション」の関係を先ほどのマトリックスを使ってあらためて整理すると次のようになる。

学習活動のレベル
学習活動の展開 レベル1 レベル2 レベル3
体験 直接体験 直接体験/間接体験 間接体験/直接体験
日本語表現のバリエーション
探求 具体物の操作 具体物の操作 言語的思考/具体物の操作
日本語表現のバリエーション
発信 具体物の利用 具体物の利用 言語的表現/具体物の利用
日本語表現のバリエーション

 このマトリックスにしたがって「トピック型」JSLカリキュラム開発の具体的な作業を挙げれば次のようなものになる。

  • (1)「レベル1」「レベル2」「レベル3」のトピックと活動の設定
  • (2)設定された学習活動の道具となる日本語表現(バリエーション)の選択
「授業づくり」を支援するツール

 「トピック型」JSLカリキュラムでは、レベル1、レベル2、レベル3という各レベルのトピック・活動をそれぞれいくつか設定し、その活動に必要な日本語表現のバリエーションを一覧表にして用意しておくといった固定的なカリキュラムを作成しても、教室にやってくる多様な子どもたちに対応できないことは明らかである。たとえば、「水道水はどこからやってくるのか」というトピックを設定したとしても、対象となる子どもたちがこれまでの生活の中で水とどのような関わりをもってきたのかということによって、実際の学習活動の展開は大きく異なるだろう。子どもたちの文化的背景や生活背景によっては、あらかじめ用意したトピックに興味をもつこと自体が難しい場合もある。
 それゆえ必要なことは、教師・指導者自身が教室にやってきた子どもたちの「学ぶ力」と日本語の力、そして興味・関心に応じて、トピックと活動(体験・探求・発信)の内容を設定し、必要な日本語のバリエーションを用意することである。「トピック型」JSLカリキュラムの課題は、したがって、上のマトリックスを埋めるような、いくつかの授業プランとそこで最終的に習得されるべき日本語のリストを作りだすことではない。教師・指導者自身による独自の「授業づくり」を支援するツールの開発を目指した。

1.2 AUカードの基本構造

 教師・指導者のカリキュラムづくりを支援するツールとして「AUカード」を提案する。
 AUは「Activity Unit」(活動の単位)の略であり、学習活動を構成している一連の下位活動である。トピック型の授業の場合、このような下位活動には、たとえば次のようなものが考えられる。

  • 「体験」の局面: 知識を確認する、経験を確認する、など
  • 「探求」の局面: 比べながら観察する、変化を観察する、など
  • 「発信」の局面: 表現する、判断する、など

 授業の中で展開する子どもたちの学習活動はこうした単位的な下位活動が数多く組み合わさって成り立っていると考えられる。このような単位的な下位活動(AU)と、それを行うために必要な日本語表現のバリエーションを組み合わせ、一枚のカードにしたものがAUカードである。たとえば、「探求」の局面を構成する単位的な下位活動のひとつである「比べながら観察する」のAUカードは次のようになる。ただし、これは大まかなイメージであり、実際のAUカードにはこうした基本情報のほかにさまざま情報が盛り込まれることになる。AUカードの具体的な構成については2で詳述する。

AUカードの基本構造の図

「トピック型」JSLカリキュラムにおける授業は、こうしたAUカードの組み合わせによって構成されることになる。

体験→探求→発信の図 

 AUカードは、「トピック型」JSLカリキュラムが子どもに身に付けてもらいたいと考える、教科共通の基本的な(日本語を用いた)学ぶ力の一覧表である。しかし、これらすべてを授業に取り込む必要はない。子どもたちの学ぶ力や特性にあわせて、それぞれ欠けていると思われる力、より伸ばしていきたい力との関係で必要となるAUカードが選択されればよい。また、どのAUカードから教えていくのかという順序性も存在しない。日本語表現のバリエーションを工夫することで、どのようなレベルにある子どもでもAUカードにある活動を行うことができるからである。
 AUカードとして具体化された「トピック型」JSLカリキュラムは教科共通の基本的な学びの力の「地図」のようなものである。地図は、その世界のどこに何があるのかを示すものであり、その地図を使ってどこからどこに向かうのかということを指定することはない。人々はさまざまな出発点から、さまざまな目的地に向かうために地図を使う。地図上のどの経路を選ぶかは、地図の使い手が自分で決めることである。AUカードが提供する学びの世界の見取り図も、同じように学び手がどこから出発して、どこに向かうのかということは指定しない。これに対して固定された内容を一定の順序に配列する通常のカリキュラムは、特定の場所に行くために使われる交通案内図のようなものである。子どもたちの学ぶ力や特性との関係の中で、学びの世界のどこから出発し、どこに向かうのかを教師・指導者自身が決めていくために活用する「地図」がAUカードなのである。

1.3 AUカードを用いた授業づくり

 AUカードは、次のように教師・指導者の授業づくりの中で使われることになる。
 教師・指導者は教室にやってきた子どもの学ぶ力、文化的背景などの実態に応じてトピックと学習活動のアウトラインを決定する。次に、決定された学習活動のアウトラインを構成する単位的な下位活動(AU)を洗い出し、それに対応するカードを選択する。そして、子どもたちの日本語の力を考慮しながら各単位的活動で用いる日本語表現をAUカードにあるバリエーションから選択する。
 子どもたちの日本語の力のうち特に伸ばしたい表現がある場合、それに対応するAUカードをまず選び、そこにある単位的活動が中心となるような学習活動のアウトラインを考え、それから学習活動全体をAUカードによって構成するという手順も考えられる。

教師・指導者の実践的力量への依存

 このようにAUカードは、教師・指導者が子どもたちの現状にあわせて構想したトピック型の学習活動の中に日本語表現を組み込んでいく作業を支援するツールである。どのようなトピックを選ぶのか、そしてそのトピックについてどのような学習活動の流れを組み立てるのかという授業のアウトラインづくり(AUカードとして提供された学びの世界の地図上で出発点と目的地を決定する作業)の支援は、AUカードの機能ではない。
 個々の子どもの学ぶ力や特性に応じて学びの活動を組み立てていくことは、学校で教師・指導者が日常的に行っていることであり、これこそが教師・指導者の専門性の中核をなす力量のひとつである。「トピック型」JSLカリキュラムにおけるトピックの選択と学習活動の構成については、教師・指導者のこのような専門的力量に頼りたい。自分のところにやってきた子どもたちにどのようなことを学んでほしいのか。このような学びのためにはどのような学習活動の展開が有効か。このような授業づくりを教師・指導者は日々、行なっている。学びのトピックの選択や学習活動の展開は、子どもたちや学校や地域の具体的な諸条件を考慮しながら決定されていくものであり、そうした「現場の複雑さ」を無視した授業プランは実用的とは思われない。AUカードという地図と、その中をこれから旅しようとしている子どもたちを前にして、どのような旅行のプランをたてるのか。子どもたちの多様性を考えたとき、この実践的な判断の基準やパターンをあらかじめ洗い出しておくことは不可能に近い。個々の教師・指導者の専門性にどうしてもたよらなければならないのである。

形成的評価という視点

 日本語を母語としない子どもたちを対象とした教育について必ずしも特別なトレーニングを受けているとは限らない多くの教師・指導者にとって、目の前の子どもたちの現状把握、つまり子どもたちがどの程度の「学ぶ力」と日本語の力をもっているのかということを事前に評価してから授業づくりを進めることは大変に難しい課題である。そこで、1-1で述べたように「形成的評価」という視点を提案したい。実際に授業を行う中で、その子どもたちのつまずきや不十分な側面を発見し、その後の授業づくりに反映させていく。子どもたちの学びの結果を評価するのではなく、これから学びをどのように展開していくのかということを考えていくために現時点で子どもたちができることや困難を明確に理解することが形成的評価である。
 形成的評価は、たとえば、次のように進める。まず、教師・指導者の「直感」「経験」にしたがってトピックと学習活動を選択する。そして、実際に授業を行ってみて、その中で子どもたちのつまずきに出会った場合、AUカードにある日本語表現のバリエーションから、別のシンプルな日本語表現を選び子どもたちに提示してみる。このことによって、子どもたちの活動が前に進めば、問題は子どもたちの日本語の力にあったことになる。また、このような対応でも子どもたちの活動が止まってしまったままであれば、問題は子どもたちの学ぶ力など日本語以外の要因にあることになる。この点でAUカードは、基本的な「学ぶ力」の地図であり、日本語表現を決めるための支援ツールであると同時に、授業の中で子どもたちの問題点を発見するために用いられる形成的評価のツールでもある。はじめから完璧な授業を作るのではなく、授業での関わりの中で、徐々に子どもたちの特性が見えてきて、その子どもたちに合った授業を作っていく。AUカードは、このような形成的評価に必要な問題の発見と整理のために教師・指導者が用いるツールの一つとして活用可能である(もちろん形成的評価には、対象となる子どもに関する多様な情報が必要であり、AUカードのみによって形成的評価全体が可能になるということはない)。
 ただ、形成的評価による授業づくりを進めていくにしても、特に経験の少ない教師・指導者にとっては、実際にどのような授業を作っていけばよいか、なかなかイメージできないと思われる。そこで、授業づくりの参考になるような典型的な実践事例をレベルごとに用意して提供することにした。JSLカリキュラムが対象とする子どもたちの多様性を考えると、参考になるような指導案をある程度用意するだけでは不十分である。さまざまな子どもたちを対象にした指導案や実践事例をできる限り多く集めたデータベースを作り、個々の教師・指導者がAUカードを使って独自の授業づくりをしていくための豊かなヒントを提供していく必要がある。このようなサポート・システムについては4で説明する。
 以上が、「トピック型」JSLカリキュラムの基本的な考え方だが、この一連の開発の経緯を資料1に示した。どのようにして、活動を重視した学習を構想したか、AUをどのように特定化し、それに日本語表現をどのようにのせていったかなどについて詳細に記述している。本文とあわせて資料も参照していただき、理解を深めてほしい。

2.AUカードの構成と利用について

2.1 AUカードの基本構成

 「トピック型」JSLカリキュラムは、テーマ及びトピックをもとに構成された「学習活動」と、それに対応した「日本語表現」から成っている。ここでは、学習活動の各局面に対応したAUを一覧で示す。この一覧が、AUカードの基本部分を構成することになる。

局面 AU 活動内容
知識・経験 知識を確認する 知識を確認する
知識の有無を確認する
経験・体験に基づく知識を確認する
経験を確認する 経験の有無を確認する
共有経験を確認する
疑問を抱く 原因・理由を追求する
気づきや疑問を挙げる
観察する 観察する 観察行動を誘いかける
形状などを観察する
動きを観察する
条件に気づく
特徴を見つける
比べながら観察する 比較観察を誘いかける
違いを観察する
共通点を探す
変化を観察する 変化の観察を誘いかける
変化の結果を観る
変化の様子を観る
情報活動 情報を収集する 情報収集の方法を考える
情報収集の手がかりを探る
情報の取捨選択をする 利用する資料を選択する
必要な情報を探す
情報や傾向を読みとる 情報を読み取る
傾向を読み取る
情報を関連付ける 情報を整理する
関連を把握する
特徴を探る
情報から結論付ける 規則を見つける
結論付ける
結論に理由付けする
結論に経緯付けする
規則を見つける
まとめる
命名する 新しい言い方を知る
記号を知る
思考する 分類して考える 分類の視点を決める
分類作業をする
分類の結果の意味を把握する
比較して考える 比較する観点を探る
比較してわかったことの意味を考える
条件的に考える 条件を付けて考える
達成のための方法を考える
いろいろな視点で考える 他の視点を探す
いろいろな位置から見る
他の人の立場で考える
他の事物にとってどうか考える
他の方法を考える
推測する 条件を付けて推測する
それまでの学習から推測する
表現する 感じたことを表現する 感じたことや印象を表現する
思ったことを表現する
考えたことを表現する 考えたこととその理由を表現する
考えたこととそのプロセスを表現する
わかったことを表現する わかったことを表現する
経験したことを表現する 見たことを表現する
したことを表現する
気づいたことを表現する 気づいたことを表現する
身体で表現する 身体で表現する
絵や図で表現する 絵で表現する
図で表現する
判断する 判断する 根拠のある判断をする
経験による判断をする
状況を踏まえて判断する
意思決定する 理由を述べて意思決定する
理由を述べて選択する
評価する 評価する
改善すべき点を述べる
したことを振り返る

 このAUとそれに対応した日本語表現を一体化させたものがAUカードである。一枚のAUカードは次のような構成になっている。

AUカード

AU:比べながら観察する1 「比較観察の誘いかけ」
よく使う言葉→比べる、違う、どこ
教師・指導者の発問・指示 子どもの発言・反応
基本形
  1. ~と~を比べてみよう。
  • はい。(観察する)
バリエーション
  1. ~と~は違っていますか。
  2. どこが違いますか。
  • はい。(観る)
  • ~が違います。

 「AU:「比べながら観察する1」」の部分が、AUカードのAUにあたる部分である。「よく使う言葉」は、活動を行う際に、基本語彙として使用する言葉、あるいは句を示している。

 日本語表現は、左側の「教師・指導者の発問・指示」欄と右側の「子どもの発言・反応」欄を対比的に示している。それぞれの表現は、基本形とバリエーションの2種類でまとめている。基本形は、学校での学習時に指示される基本的な表現である。バリエーションは、子どもたちが基本形の表現が理解できない場合、そのバリエーションの一例として示している。基本形、バリエーションの数字は、表現の難易度を示すものではない。また、左側の「教師・指導者の発問・指示」欄の日本語表現と右側の「子どもの発言・反応」欄の日本語表現は必ずしも対応するものではない。

2.2 AUの日本語表現の役割とその機能

 子どもたちは、まず日々の学校生活のさまざまな場面で必要な言語を身に付け、その後、教科の学習活動を通して学習するための言葉を次第に獲得していくと言われる。
 学校での学ぶ力を育成し、教科学習を効果的に進めるためには、まず、子どもたちがどの程度、日常生活でコミュニケーションできているか具体的に把握する必要がある。その上で、子どもたちの日本語の力に即した理解力、表現力、認識思考力、想像力などを育成していくことが大切になってくる。教師・指導者は、子どもたちの認知力や学力の実態を把握し、子どもたちが参加可能な学習活動を設計し、その中で理解可能な日本語による発問や指示を行うことによって、これらの力を総合的に伸ばしていくことが課題になる。
 AUの日本語表現では、活動における学習の各局面のコミュニケーションを支える日本語の表現例を示したものである。ここで示した日本語表現は一つの例であり、お手本として完結したものではない。子どもたちの言語運用力や学力の多様性を考えれば、決して特定の定型表現が万能であることはない。また、基礎的な日本語の文型や表現を網羅したものでもない。教科学習に入る前の段階にいる子どもたちが学習活動に参加することを可能にし、活動への参加を通して言語運用力および学ぶ力を育成するために必要な日本語表現という視点で、取り上げたものである。
 AUカードの活用においては、基本形を踏まえつつ、子どもたちの反応や応答に即した適切な表現で対応することが必要になる。その際、教師・指導者の表現にも、単語から単文、単文から複文、複文から段落文とある程度の難易度のあることを認識しておく必要がある。また、表現が単語のみであった場合も、概念が分からずに、理解できないこともあるため、言い換えや繰り返しなどで、柔軟に対応することも大切になる。教師・指導者には、時に日本語をある程度、客観視できることが必要になってくる。
 同時に、子どもたちのもつ背景知識や場面状況などを十分に考慮し、写真や絵など言葉以外の補助手段を活用することも必要である。つまり、理解するための手がかりを豊富にして子どもたちが言葉を聞いたり、使ったりすることができるように工夫する必要がある。
 最後に、日本語表現の基本的な考え方を示しておく。

  1. 「~です」「~ます」で統一した。
  2. 「よく使う言葉」は単語あるいは句レベルで重要になる言葉である。子どもたちには是非理解してもらいたい表現のことである。
  3. 「教師・指導者の発問・指示」の基本形は、子どもたちへの働きかけとしてもっとも代表的な表現である。
  4. バリエーションは、子どもたちに応じて、コントロールした場合の他の表現例を示す。ただし、網羅的ではないので、バリエーションを参考に、教師・指導者、ことばを変化させて対応する必要がある。その場合、一語文、二語文、三語文、修飾語を使った表現等は、教師・指導者が意識して使い分けることが望まれる。
  5. 「子どもの発言・応答」はあくまでも、予想に基づくもので、必ずしもそのような定型で答える必要はない。

3.授業事例の構成とその利用について

 AUを用いた授業づくりについて基本的な考え方を示す。どのような手順で授業を作り、その結果どのような授業になるのか、そして、授業事例がどのような構成になっているかを説明する。なお、資料の授業事例を参照しながら読んでいただきたい。

3.1 授業づくりの流れ

 AU(活動単位)カードを利用した授業づくりの流れを考えていこう。低学年の子どもたちを対象にした授業「買い物ごっこ」(次ページはその手順の図式化)を例に説明する。

1.子どもたちの実態

 子どもたちの生活実態、学習への参加の度合いについて把握する。具体的には、子どもたちの日本語の力、教室での学習参加の様子、計算力についてである。

2.教師・指導者の視点

 子どもたちの実態をもとに、買い物についてのやり取りをきっかけにして子どもたちに身に付けさせたい力をおおまかにイメージする。

3.AUの選択/トピックの決定、授業のアウトラインの決定

 AUカードをもとに子どもたちの様子を観察することにより、その子どもたちがどんな活動に困難を感じているかを具体的に把握できる。そして、参加できない活動を授業の目標とする。同時に、「買い物」という具体的な文脈に即して、トピックと授業のアウトラインをイメージする。その際、学習の3つの局面「体験」「探求」「発信」を含んだ授業の展開を考える。この例に即していえば、「体験」の局面では買い物についての体験を話す活動、「探求」の局面では商店の様子などを思い出して買い物ごっこの準備をし、実際に買い物をする活動、「発信」の局面では買い物したことについて話し、作文を書く活動という3つから構成されている。

4.日本語表現の具体化

 次に、AUの日本語表現のバリエーションから、子どもたちの日本語の力に適切と思う表現を選択する。そして、この授業内容に合った教師・指導者からの指示や問いとそれに対する子どもたちの応答へと具体化する。たとえば、AUの日本語表現「たことがありますか」という教師・指導者の問いかけを、「~を買ったことがありますか」というように、授業で直接発話する表現にする。

5.指導案作成/教材・教具の準備

 最後に、授業の指導計画を指導案にまとめる。活動への参加を促進するための支援や日本語の理解・産出を促進・補助するための支援について考える。また、授業に必要な教材、語彙カード、表現カード、タスクシートを作成したり揃えたりする。この授業であれば、近所の商店や商品の写真やお金、買い物ごっこの準備のための材料、「お店(商店)」「ねだん」等の語彙カードや「いくらですか」等の表現カード、買い物ごっこについてまとめて作文を書くためのタスクシートなどが必要になる。

AUカードを活用した授業づくりのイメージ -低学年児童対象の授業「買い物ごっこ」を例に-
子どもの実態
  • 半年前に来日した2学年の子ども
  • 日常会話はできる
  • 授業中はついていけない
  • 自分で考えて決められない
  • 目前のことしか理解できないし、伝えられない
  • 学年相当の計算力はある
  • 読み書きはかなり困難

 ↓

教師・指導者の視点
  • 買い物をしたことを話したがったが、うまく伝わらなかった…興味・関心
  • 来月生活科で商店の勉強をする…在籍クラスでの学習
  • 分からないことは聞いて、自分で判断できるようにさせたい…学び方

 ↓

AUを選択

AU:

  • 経験を確認する
  • 情報を収集する
  • 判断する
  • 経験したことを表現する
やじるし
トピックを決定、学習活動とアウトラインを決定
テーマ:「金」 トピック:「買い物ごっこ」
学習活動:
  • 買い物の経験について話し、それぞれの商店の商品や買い物の仕方を思い出す。それをもとに買い物ごっこの準備をする。
  • 持っているお金で何が買えるか考え、自分で判断して欲しいものを買う。
アウトライン:
買い物の経験を問う→商店の名称と商品、お金の払い方について確認する→買い物ごっこの準備をする→買い物ごっこをする(値段を聞いて買うかどうか判断する)→買ったものや売ったものを発表する

 ↓

AUの日本語表現のバリエーションから適当なものを選択
教師・指導者のはたらきかけ・質問、子どもの応答として具体的表現にする
  • 自分の買い物経験について、絵などを利用しながら具体的に話す。
     「を買ったことがありますか。」「はい、でを買いました。」
  • 買い物ごっこで買いたいものの値段を尋ねて買うことができ、自分が買うと判断した理由を教師・指導者とのやりとりを通して伝える。
     「~はいくらですか。」「~は○(丸)円です。」
     「~何を買いますか。」「~を買います。~は~です。」
  • 買い物したことを、簡単な文章で表現する。
     「わたしは、(どこ)で、~と~を買いました。~はとても~でした。あわせて○(丸)円でした。」

 ↓

指導案作成/教材・教具の準備

3.2 授業事例の基本構成

 この報告書では、5つのテーマからなる15のトピックに関して授業事例の指導案を示した(以下の表参照、ただし報告書にはその中から4つの例を選んで掲載した)。指導案は、次の13の項目とタスクシートから構成されている。
 1.学年、2.テーマ、3.トピック、4.時間数、5.目標、6.活動、7.教材、8.語彙、9.文字、10.授業の流れ、11.教師・指導者の支援、12.活動のバリエーション、13.リソース

<授業事例一覧>
テーマ トピック
レベル1 レベル2 レベル3
「カレンダー作り」 「月には何が住んでいる」 「月の形」
「消防探検隊」 「太陽の力」 「火」
「シャボン玉とばそ」 「かさくらべ」 「水道の栓」
「学校にある木」 「季節と木の様子」 「木の家、草の家、氷の家」
「素材の仲間分け」 「買い物をしよう」 「金属の特性」
(1)学年

 「学年」は、授業で取り扱う内容と活動がどの学年相当の学ぶ力が必要か、どの学年の教科内容に関連があるかを示すものである。ここで留意してほしいのは、対象学年を示すものではなく、レベル1、レベル2、レベル3のどのレベルの力にふさわしいかを示すものであるという点である。対象とする子どもたちの認知的発達の段階や学ぶ力から見て、どのレベルのトピックが適当かを選択することが必要である。たとえば、実際に対象とする子どもが5学年であっても、中学年相当の学ぶ力を身に付けていると判断すれば、中学年向けのトピック(レベル2)が適切だということになる。なお、トピックは学ぶ力や認知的なレベルに合わせて選択し、日本語の力のレベル差への対応は、トピックそのもの(つまり内容や活動)のレベルを下げるのではなく、教師・指導者の支援や教材に工夫をして対応することが望ましい。

(2)テーマとトピック

 「テーマ」は「月、火、水、木、金」とし、各テーマに関して、低、中、高学年の各学年相当の学ぶ力に応じたトピックをレベル1、2、3として設定した。トピックは、教えなければならない学習内容よりも、「活動を通して学ぶ」場を提供するためのものである。実際に事例を運用する場合、対象とする子どもにとっての必要性、関心の度合い、学習条件などの面から検討し、その子どもにとって意味のあるトピックとなるように工夫したり、改変したりして利用してほしい。

(3)時間

 トピックごとに3時間単位の授業と1時間単位の授業の指導例を用意した。3時間扱いの授業は、「活動を通したトピック追究の学習にするために、体験→探求→発信という3つの局面から構成・展開する」という、「トピック型」カリキュラムの基本的枠組みにそって、それぞれの段階に1時間ずつ時間を配分したものである。1時間目に既有の知識を活性化する(体験)、2時間目に深め・広げる(探求)、3時間目に「体験」「探求」段階の学習の成果を仲間や教師・指導者に向けて発信する(発信)というように、各局面のねらいと活動内容を明確にした。一方、取り出しの授業数が少なく、3時間扱いの授業には2、3週間かかるという現場の状況をも考慮した結果、1時間扱いの授業例も作成した。
今回は、授業事例として3時間型と1時間型の授業を示したが、今後はこれ以外にも、一つの「AU」をもとに構成する短時間(20~30分)の活動例や、在籍学級との連携を念頭においた活動例など、さまざまなバージョンを指導案以外の方法で提案していくことも考えている。

(4)目標

 子どもが教室での学習活動に参加出来ない場合、子どもの活動とAUカードとをつきあわせて、どの活動でつまずいているかを特定し、参加させたい活動と、その活動に参加するために必要な日本語表現を決めることになるが、それをここでは「目標」と呼ぶ。「学習活動に参加するための力」を重要な目標とし、その活動に参加するために身に付ける必要がある日本語の力というとらえ方で「日本語表現」をバリエーションの中から選択した。

(5)授業の流れ

 目標とするAUをどのような内容の学習活動の中に組み込むかを考えて授業のアウトラインを考案した。その際、イメージしやすく、学校・教室で実施可能な活動を考えた。普通教室での教科学習の活動と同じような活動も多く含まれている。ただ、留意してほしいのは、活動は類似していてもそのねらいが異なるという点である。つまり、その活動への参加の仕方を学ぶことが目標であり、教科の知識・技能の獲得を第一義とはしていないのである。そのため、活動に参加するというプロセスを重視した授業にするよう工夫した。もちろん、学習活動に参加することにより結果的には教科の知識や技能も身に付くであろうし、そうして獲得した知識や技能が次の活動への参加を助けることにもなる。また、「体験」「探求」局面でも必ず簡単に読んだり、書いたりする活動を含むように工夫した。それは、対面での口頭による日本語の力を読み書き能力と結び付けるためであり、形成的評価を行う上での資料を得るためでもある。なお、外部との交流などを中心にした活動は、条件が整わないとできないため、バリエーションとしてそのアイディアだけを示した。

(6)教材

 「教材」については、日本語を母語とする子どもたちよりも、具体性があり、操作可能で、繰り返し利用可能なものや、変化や関係性が視覚的に理解できる図表等、小さいステップでの学習を可能にするようなものが望ましい。指導案でも、このような考えのもとに教材を提示した。語彙カードや表現カードなどは、AUの日本語表現、及び学習内容に関する重要な語彙(キーワード)を子どもの力に応じて適切な数にしぼり提示する。
 タスクシートは、子どもたちが学習する内容に即して、その学習の過程や成果を記入してまとめるためのものである。日本語学習の面からは、必要に応じてルビをふったり、一定の文型を利用して学習した内容を文章化したりするように工夫した。

(7)教師・指導者の支援

 「教師・指導者の支援」は、子どもたちが学習に参加する際に、予測される困難とそれへの対応の仕方の例を示したものである。日本語の理解(聞く、読む)や産出(話す、書く)を助けるための手だてとして、話し方の留意点、言葉の示し方や意味の伝え方の工夫、文章を書かせる場合の補助の仕方などを具体的に示した。また、日本語でのコミュニケーションがうまくいかない場合の対処の仕方なども挙げた。学習活動に参加させるための支援については、なぜ参加できないのかの原因とその対応の仕方を例として示した。教材の利用方法、活動の示し方、学習内容の組み替え、あるいは授業の進め方の工夫などについての支援である。この支援のヒントが実は、子どもたちの活動への参加や日本語でのコミュニケーションについて形成的に評価する観点にもなる。

3.3 活動のバリエーション

 指導案で示した授業の展開はあくまでも事例であり、それを活用する時には、目の前の子どもの文化的社会的背景、その子どもの体験や経験に基づく知識・技能などを活性化させて授業を進めるように手を加える必要がある。そこで、次の4つの視点からそうした工夫の仕方についてアイディアを示す。

1.学習方法の形態に応じた工夫

 一斉学習、個別学習、グループ・ペア学習など学習方法の形態によって学び方が異なる。教師・指導者と子どもたちの人数にもよるが、日本語の力や内容についての理解の度合いにより、適切な形態を選ぶことが重要である。また、学習形態を変えることで、多様な学習の仕方を経験させることにも大きな意味がある。学習形態ごとの活動例を示した。

2.出身国による違いに着目して

 子どもたちが母国や母語で培ったものを引き出すには、出身国、出身地域に関連する素材や内容などを授業に持ち込むことが必要になる。また、子どもたちの母語の力や年齢、学習内容によっては、母語での補助が有効な場合もある。ここでは、そのための支援のアイディアについて示した。

3.学習活動を発展させるために
  • 学習についての理解を深めたり広げたりするために
    日本語に関して支援があれば、内容についてはもっと深く掘り下げて学習が出来る子どもたちや、もっと多くの情報を理解し概念化できる子どもたちもいる。そうした子どもたちに対する活動の展開例を示した。
  • 授業の流れを変えて
     子どもたちがそれまでに馴染んできた学習のスタイルと、この授業のスタイルが異なる場合も考えられる。その場合には、子どもたちが培ってきた学び方を生かせるように授業の流れを変えたり、活動の中身そのものを変えたりすることも考えなければならない。それによりトピック型の学習とは違う学びが成立し、そのことで新しい知識や概念の獲得に結びつくこともある。しかし同時に、トピックを追求していく学習にも参加できるように、子どもたちの従来の学び方とトピック型の学び方とを接合するような学習活動や学習の流れを工夫することも重要である。そうしたアイディアを載せた。
4.多様な学習の連携に向けて

 子どもたちは、在籍学級で学校生活の大半の時間を過ごす。しかも、最終的には取り出しの日本語学級ではなく、在籍学級で通常の授業に参加していくことになる。取り出し学級での学習が在籍学級の学習内容や活動とリンクしていれば、子どもたちが円滑に在籍学級での活動に参加する上で大きな助けとなる。また、在籍学級の日本の子どもたちにとっても、日本語を母語としない子どもたちと一緒に学ぶことにより、異なる体験や知識、考え方に直接ふれたり、知ったりすることができる。ここでは、在籍学級の学習内容や学習活動と連携した授業を行うためのヒントを集めた。

3.4 リソース

 リソースには、一般には教材・教具、あるいはインターネットを利用して得られる情報などの物的・情報リソース、学級の友だち、家族、地域の人などの人的なリソースが考えられる。指導案には、その活動で利用する教材として典型的なものを示した。しかし、実際の授業では各学校の実状に応じて相応しいリソースを用意する必要がある。そこで、他にどのようなリソースが考えられ、それをどのように利用できるかについてのアイディアを集めた。
 教材としては、次のようなものがある。子どもたちの学ぶ力や日本語の力に合った教材、子どもたちの興味を引く教材、具体的で理解しやすい教材、段階的にその変化を示すことが出来る仕掛けのある教材などである。その他、その地域の特性を生かせる教材・教具もある。視聴覚機器の整備の度合いによっては、機器を利用する教材に変更することもできる。
 人的リソースとしては、まず学校や学級の仲間が考えられる。同じ年齢や同じ学習をしている仲間とのコミュニケーション活動は、内容を理解する上でも、日本語の発達の上でも格好の支援になる。また、家族も重要である。それまでの学習経験、生活体験を把握しており、母語でのコミュニケーションを取るためには、家族は学習支援者として大変強力な存在である。また、地域コミュニティの支援者や支援団体は、子どもたちの状況の理解者である。こうした人的リソースと連携することにより学習活動に奥行きと広がりが出てくるが、その例について示した。

3.5 語彙・表現型とその扱いについて

 「トピック型」JSLカリキュラムは、語彙や文型を網羅的に項目化することやレベル化して配列することを避けて作られている。リスト化により、語彙や文型の記憶のための学習や、その運用練習になるのではないかという危惧があったためである。しかし、やはり指標は必要であり、その目安としてAUの日本語表現とそのバリエーションを考えた。また、それぞれの授業事例においては、語彙と文字という項目を設けた。ただし、提示した表現や語彙、文字をそこで覚えなければならないということではなく、目標とする活動への参加のために、その子どもたちにとってどの表現が適切か、どの語彙が必要か、また表記上どのような点を意識させたいかを考えるための一つの「目安」である。たとえば、語彙に関しては、漢字圏の子どもたちと非漢字圏の子どもたちとでは、漢字語彙の難しさは全く異なる。非漢字圏の子どもたちにとって、漢字語彙はもっとも難しく、しかもつまずきの原因にもなる。一方、漢字圏の小学校高学年以上の子どもたちであれば、漢字で書かれた語彙の方が理解しやすいということがよくある。
 また、同じ語彙でも母国での学習の有無により難易度は異なってくる。母国ですでに学習した子どもたちにとって、学習した概念や考え方に日本語のラベルを貼り付けるだけでもある程度の理解は可能である。しかし、母国での学習経験のない子どもたちにとっては、その概念や考え方そのものの理解が大切であり、繰り返し発話練習をしたところでその語彙を覚えて運用することはできない。したがって、一つの基準で語彙や表現型を並べ、その順番に、しかも網羅的に教えても効果的ではない。目の前の子どものコミュニケーションや活動への参加の状況を把握した上で、その日の活動に参加するために利用する表現、語彙、文字を決めて活動と共にそれらの習得を目指す方が適切である。
 なお、指導案に示した語彙、及び文字はその授業で意識して理解・産出させたいものの目安であるが、次のような考え方で選択してある。
 「語彙」としては、そのトピックの学習にとって必要なキーワードを、該当学年の認知的発達段階を考慮して示した。概念的なまとまりで示し、実際に授業をする教師・指導者が子どもたちの実態に合わせて語彙を選択できるようにした。
 「文字」としては、この単元の読み書き活動の中で、表記の正確さを意識させたい文字を提示した。この単元を通して文字を教えるというよりも、学習活動を通して意識化させることによって、結果的に文字の学習や強化に結びつくという考え方で示した。また、書字能力は個人差が大きいと考えられ、子どもたちの力に合わせて他の文字を選んだりするということも必要となろう。ここで提示する文字もあくまでも一つの例である。

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