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第1章 職場体験の基本的な方考え方

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(1)職場体験とは
 生徒が事業所などの職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動


(2)職場体験が求められる背景と必要性
学校から社会への移行をめぐる課題
1 就職・就業をめぐる環境の激変
  ・雇用システムの変化
  ・求職希望と求人希望との不適合の拡大
  ・新規学卒者に対する求人状況の変動
2 若者自身の資質等をめぐる課題
  ・勤労観、職業観の未熟さ
  ・社会人・職業人としての基礎的資質 ・能力の低下
  ・社会の一員としての意識の希薄さ
子どもたちの生活・意識の変容
1 子どもたちの成長・発達上の課題
  ・身体的な早熟傾向に比して、精神的・社会的自立が遅れる傾向
  ・働くことや生きることへの関心、意欲の低下
2 高学歴社会におけるモラトリアム傾向
  ・職業について考えたり、職業の選択・決定を先送りにするモラトリアム傾向の高まり
  ・進路意識や目的意識が希薄なまま進学 ・就職したりする者の増加
下矢印 下矢印
学校教育に求められている課題
1 「生きる力」の育成
  ・確かな学力、豊かな人間性、健康・体力の向上
  ・自然体験、社会体験等の充実
  ・発達に応じた指導の継続性と小・中・高の連携
2 社会人・職業人としての自立した社会の形成者の育成
  ・学校の学習と社会とを関連付けた教育
  ・生涯にわたって学び続ける意欲
  ・社会人・職業人としての基礎的な資質・能力
  ・家庭・地域と連携した教育
下矢印
キャリア教育の推進
望ましい勤労観、職業観の育成 一人一人の発達に応じた指導
小・中・高を通じた組織的系統的な取組 社会体験等の充実
下矢印
職場体験の一層の充実


1 職場体験が求められる背景
 職場体験が求められる背景として、子どもたちの生活や意識の変容、学校から社会への移行をめぐる様々な課題、そして、何よりも望ましい勤労観、職業観を育む体験活動等の不足が指摘されています。

 物質的な豊かさや生活の利便性の向上、都市化・少子化等の進展に伴って、子どもたちの生活や意識も大きく変容している。また、これまでの子どもたちには見られなかった柔軟な感性や遊び心、ボランティア活動等への高い参加意欲を持っているなどの積極性は見られるものの、社会性の不足、規範意識の低下、人間関係や連帯感の希薄化、集団や社会の一員としての自覚や責任感の低下などが指摘されている。そして、変化の激しい先行き不透明な社会を背景として、若者の世界に漠然とした閉塞感や無力感、あるいは、職業について考えたり、職業の選択・決定を先送りにするモラトリアム傾向やフリーター志向の広がり、高水準で推移する若年者の失業率やいわゆる「753」といわれる就職後の早期離職、また最近ではニート(NEETNot in Education,Employment,or Training)の問題が指摘される中で、生徒の進路意識や目的意識の低下が懸念されている。
 一方、このようなことから、学校段階では、従来から課題となっている不登校や中途退学についても、将来の社会的自立に向けた支援の視点から「進路の問題」として捉えることの重要性が指摘されている。
 何よりも、各種報告等によると、日本の子どもたちは、将来に向けて、なぜ、学ばなければならないのか、学び続けなければならないのか、何のために学校で学ぶのか等、学ぶことへの関心や意欲が低下傾向にある等、様々な課題が指摘されている。まさに、「学ぶことの意義」という教育の根幹の部分で問われているのである。
 こうした課題の背景には、子どもたちを取り巻く環境の変化等に起因する様々な要因が考えられるが、特に、子どもたちの生活の中で、疑似体験や間接体験が多くなる一方、社会体験や自然体験等の直接体験が著しく不足していることが大きく影響しているとの指摘がある。
 自己の将来に夢や希望を抱き、その実現をめざし、職業生活に必要な基礎的な知識や技術・技能の習得への理解や関心、望ましい勤労観、職業観の育成はすべての子どもたちに必要なものである。また、技術革新の進展や経済・産業の変化や構造転換などが急速に進む中で、学校教育を終えた後も、若年者に対して、新たな知識や技術・技能を身に付け、生涯にわたって自己の職業生活をたくましく切り拓いていこうとする意欲や態度、目的意識などを培うことがこれまで以上に大切になってきている。

2 職場体験の必要性
 職場体験には、生徒が直接働く人と接することにより、また、実際的な知識や技術・技能に触れることを通して、学ぶことの意義や働くことの意義を理解し、生きることの尊さを実感させることが求められています。また、生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲など培うことのできる教育活動として、重要な意味を持っています。

 望ましい勤労観、職業観の育成や、自己の将来に夢や希望を抱き、その実現を目指す意欲の高揚を図る教育は、これまでも行われてきたところであるが、より一層大切になってきている。
 職場体験は、こうした課題の解決に向けて、体験を重視した教育の改善・充実を図る取組の一環として大きな役割を担うものである。特に、生徒の進路意識の未成熟や勤労観、職業観の未発達が大きな課題となっている今日、生徒が実際的な知識や技術・技能に触れることを通して、学ぶことの意義を理解し主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲など、培うことのできる教育活動として重要な意味を持っている。
 現行の中学校学習指導要領においては、体験的な学習や問題解決的な学習を重視している。
 また、平成11年12月の中央教育審議会の答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」、及び平成16年1月「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」においても、小学校段階から発達課題に応じて「キャリア教育」を推進することが提言され、その一環として職場体験等の体験活動を促進することが重要であると指摘されている。

小学校職場見学等 中学校職場体験等 高等学校インターンシップ等

 このような職業にかかわる体験は、ともすれば「働くこと」と疎遠になりがちであった学校教育の在り方を見直し、今、教育に求められている学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる具体的な実践の場である。
 特に、中学校における職場体験は、小学校での街探検、職場見学等から、高等学校でのインターンシップ等へと体験活動を系統的につなげていく意味において、重要な役割を持っている。
 このため職場体験は、各学校において、事業所や地域との深い連携・協力関係のもとに、生きた学びの場を構築していくという観点に立って、幅広く導入していくことが強く望まれている。あわせて、小学校・中学校・高等学校等の連携を図っていくことも重要である。

(3)職場体験の意義
職場体験の教育的意義
望ましい勤労観、職業観の育成
学ぶこと、働くことの意義の理解、及びその関連性の把握
啓発的経験と進路意識の伸長
職業生活、社会生活に必要な知識、技術・技能の習得への理解や関心
社会の構成員として共に生きる心を養い、社会奉仕の精神の涵養 等

下矢印
学校にとって
教育活動の見直しの機会
教員の意識改革
保護者、地域に対するキャリア教育の具体的理解の促進
教員にとって
職業や産業に対する理解の深化
生徒理解の多様化と深化
地域や事業所への理解促進
地域における教育力の把握
新たな資質・能力の形成
生徒にとって
自己の理解を深め、職業の実像をつかみながら、望ましい勤労観、職業観を身に付けることができる。
学校の学習と職業との関係についての理解を促進することができる。
異世代間も含めたコミュニケーション能力の向上が図れる。
実際的な知識や技術を学ぶことができる。
社会的なルールやマナーを体得することができる。
地域や事業所に対する理解を深め、地元への愛着や誇りを持つことができる。
家庭にとって
家族の一員としての自覚
家族の役割を再認識
職業に関する会話の促進
キャリア教育の理解の促進
保護者にとって
働くことを通して家族の会話の促進
子どもたちの働く姿から、新たな一面の発見
中学校で行っているキャリア教育に対する具体的な理解
地域にとって
地域の中学生理解
地域が一体となって生徒を育てていこうとする機運の高揚
地域への理解促進
事業所にとって
中学生に対する見方の変化
次代を担う人材育成
企業の社会的役割の具現化
地域における企業価値の高揚
地域への貢献
職場の活性化
社員教育の一環
キャリア教育の具体的理解


1  勤労観、職業観の育成の場
   実際に仕事をしている人と接し、自分自身も体験することで、働くことの意義や目的の理解、進んで働こうとする意欲や態度などを育むことができる。職業の意義についての基本的な理解・認識、自己を価値あるものとする自覚、夢や希望を実現しようとする意欲的な態度など、望ましい勤労観、職業観を育むまたとない機会である。

2  新たな自分を発見する場
   生徒が自己の個性や適性を把握し自己理解を深めていく上で、様々な体験・経験を積み重ねることは、極めて重要である。自分が役立つ存在であることを知ることができたり、自己の新たな可能性を見い出したりする場合も少なくない。また、それぞれの職業の実像は、実際に仕事を経験し、働くことの厳しさや喜びなどを身をもって体験することを通して、生徒自らが体得していくものである。

3  コミュニケーション能力、社会的スキルを身に付け、人間関係の大切さを体得する場
   職場体験は、そこで働いている多くの職業人との触れ合いや交流を通して、異世代とのコミュニケーション能力を高めるとともに、社会人としての基本的マナーや言葉遣いなどを身に付けることができる場でもある。核家族化や都市化が進む中で、異世代との交流が減少し、あいさつができない、言葉づかいを知らない、コミュニケーションがうまく図れないといった若者が増えているという指摘もあり、これが高い離職率の一因となっている場合も考えられる。コミュニケーション能力や社会的スキルを身に付ける上でも、職場体験の果たす役割は大きい。

4  学校と社会をつなぐ場
   生徒は、職場体験を通して、学校での学習が社会でなぜ大切なのか、どのように役立つのか、実際に仕事をしていく上でどのように用いられるのかを知ることができる。それは同時に、現在の学習と将来の職業生活との関係を理解し、目的を持って学習に取り組む上での重要な契機ともなる。「働くこと」から疎遠になりがちな今日の子どもたちにとって職場体験は、こうした現状を打開し、体験を通して学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感をもって理解していくという大きな役割がある。

5  職業生活や社会生活に必要な知識、技術・技能を学ぶ場
   生徒が職業で実際に用いられている知識、技術・技能を学ぶ貴重な機会である。
また、実際に働いている人たちの生活ぶりを見聞きする絶好の機会でもある。

6  教員の新たな資質・能力の形成の場
   教員にとっては、産業界の動きや職場の実情、地域の現状についての認識を深めることができる。そのことから、生徒への適切な助言や生きた情報の提供等が行われるようになり、また、教員のコーディネート能力、カリキュラム開発能力等の向上、さらに、意識改革につながることが大いに期待できる。さらには、これまでには見られなかった生徒の姿やその変化を見たりすることによって、教員の生徒理解が一層深まるのである。

7  親子の会話を促進する場
   保護者にとっても子どもたちの働く姿は、その新たな側面を発見することになる。
 また、働くということを通して、子どもとの会話を促進する機会にもなり、子どもは保護者との会話を通して、働くことの尊さや感謝の気持ちを持つことになろう。

8  事業所、地域の理解と活性化を図る場
   職場体験は、地域の産業やそこに働く人々の素晴らしさや大切さを発見する場合も多く、そのことが地元に対する愛着や誇りを持つことにつながる。また、自分自身に対する自信や可能性の発見と相まって、自己の拠って立つところ=アイデンティティを形成していく上での大きな契機となっていく。
さらに、地域が一体となって生徒を育てていこうとする気運が高まること、事業所も地域に貢献することができるなど、職場体験には広範な教育効果を期待することができる。



(4)職場体験の現状

 全国の公立中学校における職場体験の実施率は、年度別に下のグラフのようになっている。
  公立中学校の約90パーセントで職場体験が実施されている。今後はその日数、時期、実施内容、生徒の意識の変容、さらには、職場体験の事前・事後指導の在り方等を見直し、職場体験が生徒にとってよりよいものとなるよう、改善していく必要がある。

全国公立中学校における職場体験実施率の推移

(国立教育政策研究所生徒指導研究センター)


(5)キャリア教育の視点に立った職場体験の在り方
1  児童生徒の発達段階を踏まえた在り方
   職場体験を進める上において重要なことは、児童生徒の発達段階を踏まえて、児童生徒の全人的な成長・発達を支援する視点に立って行うことである。
   人間の成長・発達の過程には、いくつかの段階(節目)と各段階で取り組まなければならない発達課題がある。これをキャリア発達の視点から見れば、学校段階別に次の図のような段階と課題が考えられる。また、こうした発達には、自己理解、進路への関心・意欲、勤労観、職業観、職業や進路先についての知識や情報、進路選択や意思決定能力、職業生活にかかる習慣や行動様式及び必要な技術・技能などといった様々な側面が考えられる。

2  小学校、中学校、高等学校の連携を図った在り方
   今後、各学校において職場体験を進めていく上では、それぞれの学校の状況、子どもたちの実態や発達段階を踏まえ、小・中・高等学校における連携の意義を生かしながら、キャリア教育の視点からしっかりとそのねらいを明確にして取り組む必要がある。例えば、次の図のように整理できる。


小学校・中学校・高等学校におけるキャリア発達と職場体験等の関連(例)

小学校 中学校 高等学校
<キャリア発達段階>
進路の探索・選択にかかる基盤形成の時期 現実的探索と暫定的選択の時期 現実的探索・試行と社会的移行準備の時期
自己及び他者への積極的関心の形成・発展
身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成
肯定的自己理解と自己有用感の獲得
興味・関心等に基づく勤労観、職業観の形成
進路計画の立案と暫定的選択
生き方や進路に関する現実的探索
自己理解の深化と自己受容
選択基準としての勤労観、職業観の確立
将来設計の立案と社会的移行の準備
進路の現実吟味と試行的参加
体験的活動(例)
街の探検
家族の仕事調べ
インタビュー
商店街での職場見学・体験
身近な職業聞き取り調査
連続した5日間の職場体験
子ども参観日(親の職場へ)
職場の特定の人と行動を共にする職場見学
上級学校の体験入学
インターンシップ(事業所、大学、行政機関、研究所等における就業体験)
学校での学びと職場実習を組み合わせて行うデュアルシステム
上級学校の体験授業
企業訪問
児童生徒の感想から
いっぱいおもしろいのをみて楽しかった。
いつも私たちをまもってくれてありがとう。
大きくなったら、私も看護師さんになりたいな。
お店で働いている人は、みているよりずっとたいへんだな。
いろいろな仕事を見て、夢がまた増えました。
うちのお父さん、お母さんの仕事もたいへんだなと思った。
仕事の厳しさや楽しさを知り、働くことの大切さを感じた。
親やまわりの大人たちがとてもがんばって働いていることに感心しました。
コミュニケーションの大切さを知りました。
学校での勉強が大事だということがよくわかりました。
将来なりたいと思っていた仕事だが、自分に向いてないと実感した。
学び続けることの大切さを知り、これからの進路決定に役に立ちました。
企業努力の大切さと現実の厳しさを実感した。
部下に指示をだす場面をみて、部署の人間関係の大切さを感じた。


3  学校と家庭・保護者との連携を生かした在り方
  勤労観、職業観を育成する上で基礎となるのは、家庭における手伝いである。家庭の中での役割分担を通して、子どもたちの役割認識、分担された仕事への責任感、家族としての自分の立場などを体得していくことができる。その意味では、幼児期からの家庭のしつけを含めて、保護者の担う部分が大きい。したがって、保護者が学校生活、職場体験等での子どもの感想を聞いたり、保護者の勤労観、職業観を話したりすることは、非常に有効である。さらに職場体験の前後はもちろんのこと、入学時期から家庭・保護者と学校とが連携を図っていくことが重要である。
4  学校と地域・事業所との連携を図ったシステムづくりとその活用
   職場体験を機会に、学校と地域や事業所との連携が図られる。このことは、事業所にとっても、次代を担う人材育成の面から地域における社会的な役割を担うことにもなり、職場の活性化、地域への貢献といった意味においても価値のあることである。
   しかしながら、職場体験の一時で連携が終わってしまうことも少なくない。今後は、共に築き上げた連携体制を、職場体験後も引き続き維持していくことにより、キャリア教育をさらに継続的、発展的に推進していくシステムづくりが必要である。職場体験をより効果的に進めていくための協議の場のみならず、社会人講師の招聘等、ここで築いたシステムをさらによりよい地域のシステムとしていくためにも、様々な連携を進めていくための年間を通した、協議の場を設けることが大切である。
   このことはまた、その後、地域の自治会の活動やお祭り、ボランティア活動に際し、子どもたちが進んで参加していける地域のシステムづくりにつながっていく。地域や事業所、家庭との連携を図ったシステムづくりは、学校と家庭・地域全体で子どもたちを育てていく気運を高めていくことにもなるのである。