2002年5月20日
研究開発成果の取扱いに関する検討会
研究開発成果の取扱いに関する検討会 報告書
平成14年5月
研究開発成果の取扱いに関する検討会
現在、我が国は産業の国際競争力の低下、少子高齢化の進展等の課題を抱え、また、世界は地球規模の食糧、資源エネルギーの不足、地球温暖化等といった困難な課題に直面している。
「知の世紀」と呼ばれる21世紀に踏み出した今、これらの課題を克服し、我が国が世界のトップランナーとして活躍していくためには、研究者が自由な発想により最大限能力を発揮できる競争的な研究開発環境を整備し、研究開発を推進することによって新しい知の創造を図り、それを積極的に利用していくことが重要である。
換言すれば、新しい知の創造の結果創出された研究開発成果については、その利用によりさらなる知の創造に努力すること、及び国際的な競争環境の中での我が国経済の活力維持・持続的発展を図るため新たに創出された知の利用を促進すること、が要請されている。
公的研究機関※1で創出される研究開発成果には、微生物、実験動物、植物新品種等の生物遺伝資源、化合物や材料のサンプル、岩石試料、各種計測データのような情報、図面(設計図、地形図等)や、発明、著作物等の知的財産など、有形あるいは無形の種々のものがある。
しかしながら、公的研究機関における研究開発成果の帰属と利用のあり方が必ずしも明確でなかったため、上述のような要請に必ずしも十分に応えることができていないという問題があった。
米国クリーブランド・クリニック財団で研究していた理化学研究所研究員が経済スパイ法違反容疑で起訴された事件を契機として、研究開発成果の帰属と利用に関する問題に対する関心が高まり、昨年12月には、総合科学技術会議により研究開発成果の取扱いのルールを緊急に整備すべき旨の提言がなされている※2。
これらの状況を踏まえ、文部科学省科学技術・学術政策局長及び研究振興局長の私的研究会として設置された「研究開発成果の取扱いに関する検討会」では平成14年1月以来、6回に及ぶ会合を開催して、研究開発成果の帰属と利用に関する問題の検討を行い、その取扱いに関する基本的な考え方を取りまとめた。
なお、研究開発成果の取扱いの詳細については本来公的研究機関自身が主体的に決めるべきことであるが、各公的研究機関における、本報告書に示した考え方を踏まえた積極的な取組みがより一層望まれる。
また、本報告書に示した考え方に基づき、公的研究機関以外の研究機関においても研究開発成果の利用の促進がなされることが期待される。
本報告書における「研究開発成果」は、以下の範囲のものであり、公的研究機関の業務範囲に属するものを検討の対象としている。中でもこれまで帰属と利用のあり方が必ずしも明確でなかったものを中心に検討した。
本報告書のその他の主な用語については、「<参考>用語の定義」を参照されたい。
研究開発成果とは以下のものをいい、有体物及び無体物からなる※3。
公的研究機関における、研究開発成果の帰属と利用に関するルールの現状は以下のとおりであり、総じて明確であるとは言い難い状況にある※4※5。
特許権については、ほぼ全ての公的研究機関で帰属が定められている。主な国立試験研究機関、特殊法人、独立行政法人等では、ほとんどの機関で「原則として国・機関に帰属」あるいは「国・機関が一部又は全部を承継」とされている。また国立大学等では、旧文部省の通知※6により、応用開発を目的とする特定の研究課題の下に特別に国が措置した研究経費を受けて行った研究の結果生じた発明等については国に帰属し、それ以外は大学教官等に帰属する旨定められている。
実用新案権、意匠権については、国立試験研究機関、特殊法人、独立行政法人等では特許権に準ずる取扱いがなされている。国立大学等では、実用新案権は特許権と同じ取扱いがなされているが、意匠権に関しては定めがない。
データベース及びプログラムの著作権については、約半数の国立試験研究機関、特殊法人、独立行政法人等では、特許権に準じ「原則として国・機関に帰属」あるいは「国・機関が一部又は全部を承継」とされている。また、国立大学等では、旧文部省の通知※7により、国から特別に措置された経費を受けて作成されたデータベース及びプログラムの著作権は国に帰属し、それ以外は大学教官等に帰属する旨定められている。
特許権、実用新案権、意匠権並びにデータベース及びプログラムの著作権以外の研究開発成果の帰属については、ほとんどの公的研究機関では定められていない。
このように、公的研究機関における研究開発成果の帰属は必ずしも全てに関して明確にはなっていない。
なお、研究者が異動した場合の特許権等の帰属については、総じて異動前と同様の(すなわち帰属の変動はない)取扱いとなっている。
研究開発成果の利用を促進するには、そのための体制を整備し、創出された研究開発成果のうち権利化等が可能な知的財産の適切な保護を図る必要があるが、多くの公的研究機関においてはそれが十分になされていない。
ほとんどの公的研究機関では、研究開発成果の研究開発の場での広い利用を促進するルール(研究開発成果の利用手続、利用を制限する条件等)の整備はなされていない。
なお、知的基盤である生物遺伝資源等の提供を行っている公的研究機関には、その提供ルールを定めているところがある※5。
特許権については、多くの公的研究機関では、実施料、実施許諾を受けた第三者が正当な理由なく実施しない場合の別の者への実施許諾、特許権が共有に係る場合の取扱い等のルールが通常定められている。
また、実用新案権、意匠権並びにデータベース及びプログラムの著作権については、特許権に準じた取扱いがなされている場合が多い。
しかしながら、特許権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)を増進するための配慮(事業活動の予見可能性の確保等)が十分なされているとはいえない状況にある。
それ以外の知的財産の産業利用を促進するルールについては、ほとんどの公的研究機関では整備されていない。
知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として提供しようとする場合や、科学・学術的価値を有する知的財産を取扱う場合等、研究開発成果の研究開発の場での広い利用と知的財産の保護の両立を図る必要がある場合があるが、これについて規定等が整備されている公的研究機関はない。
研究開発成果の研究開発の場での広い利用を促進し新しい知の創造を図るとともに、知的財産の産業利用を促進し国際的な競争環境の中で我が国経済の活力維持・持続的発展を図るという観点から、研究開発成果の取扱いの現状をみると、以下のような問題が抽出される。
研究開発成果の帰属が必ずしも全てに関して明確にはなっていないため真の所有者が明らかでないことがあり、また利用を促進するルールの整備がなされていないので、研究開発の場における研究開発成果の円滑かつ適正な流通が阻害されるおそれがある。
研究開発成果が適切に管理されないまま廃棄されたり、滅失・国外流出したりするおそれがあり、知的基盤等の整備・提供をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用が進まないおそれがある。
研究開発成果の研究開発の場での広い利用と知的財産の保護の両立を図る必要がある場合(知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として研究開発の場へ提供する場合等)の適切な取扱いができないため、知的財産の研究開発の場での広い利用が進まない可能性がある※8。
知的財産を適切に保護し、知的財産権等の実施(利用)を促進する体制が不十分であることとも相応して、公的研究機関の知的財産権等の十分な実施(利用)がなされていない※9。
知的財産権等の実施(利用)と、それに伴う対価の公的研究機関・研究者への還元が不十分であるため、公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブが付与されない。
知的財産権によって保護された知的財産を事業として研究開発の場へ広く提供する場合(知的基盤等の整備・提供事業を行う場合)に適切な取扱いができない。
研究開発成果の帰属と利用に関する問題を解決し、研究開発成果の利用を促進するための基本的考え方をまとめれば以下のとおりとなる。
知的活動の成果である研究開発成果の創出は、発明等の知的財産をはじめとして研究者の創作力・努力に大きく依存していることから、一般的に研究開発成果は原始的には研究者に帰属すると考えられる。しかしながら、研究開発成果の利用を促進するという観点から、契約、勤務規則その他の定めにより研究開発成果を最終的には公的研究機関に帰属させることが適当である。
公的研究機関は必要な体制(知的財産の権利化、知的財産関連訴訟の対応等のための体制)を整備し、創出された研究開発成果のうち権利化等が可能な知的財産の適切な保護を図る必要がある。
それとともに以下のような研究開発成果の利用を促進するルールを整備することが適当である。
基本的に公的研究機関・研究者が研究開発の場で自由に研究開発成果を利用できるようにする一方、公的研究機関・研究者には、研究開発成果を研究開発の場で広く利用可能とするための貢献(知的基盤等の整備をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用に対する貢献等)を求めることが適当である。
その際、研究開発の場での広い利用を妨げることのないよう、その利用を制限できる場合を明確化するとともに、簡素な手続での利用が行えるようにする必要がある。
知的財産権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)の増進(事業活動の予見可能性の確保等)に配慮する。一方、知的財産権等の実施許諾等を受けている者が正当な理由なく知的財産権等の実施(利用)をしていないときは、知的財産権等の実施許諾等の取り消し、別の者への知的財産権等の実施許諾等又は譲渡を行うことが適当である。
また、公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブを付与するため、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う相当の対価を公的研究機関・研究者に還元する必要がある。
研究開発の場での広い利用のため、第三者が知的基盤等として整備・提供しようとしている知的財産が、公的研究機関の有する知的財産権によって保護されたものである場合、公的研究機関はその実施(利用)を許諾し、収益目的のときはそれに伴う相当の対価を取得する必要がある。
知的財産権では保護されない知的財産であって、科学・学術的価値も有するものについては、公的研究機関・研究者が研究開発の目的等を考慮してケースバイケースで判断することが適当である。
第3章の基本的考え方を踏まえ、本章においては、公的研究機関が研究開発成果の帰属と利用のルールを具体的に検討していく際のポイントとなる事項(枠の中)及びその解説を示すこととする。
一般的に、研究開発成果は原始的には研究者に帰属すると考えられる。
発明、考案、意匠、著作物、回路配置、植物新品種等の知的財産は、基本的に法令によってそれを創作した研究者に帰属する※10。
研究開発成果としての有体物(その創出も発明等の知的財産と同じく知的活動によるものであり、研究者の創作力・努力に大きく依存する)についても、通常研究者に帰属すると考えられる※11。
しかしながら、創作された研究開発成果としての有体物が、その研究開発分野の通念・常識からみて、そもそも「新たな物」といえない場合、及び財産的価値、学術的価値その他の価値の著しい向上あるいは新たな付加を伴わない場合は、原材料を提供した公的研究機関の帰属となると考えられる※12。
なお、研究者とその使用者等である公的研究機関との関係によっては、研究開発成果が公的研究機関に原始的に帰属する場合もある※13。
原則として、原始的に研究者に帰属している研究開発成果は契約、勤務規則その他の定めにより最終的には公的研究機関に帰属させるのが適当である。
研究開発成果の最終的な帰属については、その利用を促進するという観点から、研究者の使用者等である公的研究機関の研究開発成果創出の貢献(研究開発費、研究用材料、研究開発施設・設備などの提供等による貢献)も考慮して、各公的研究機関が最適な形態を決定するものと考えられるが、現状では、研究開発成果を最終的に研究者に帰属させると、以下のような問題が生ずる。
なお、上述の問題は、研究者が他の者・機関から提供を受けた研究開発成果を取扱う場合にも生じうるため、それも同様に公的研究機関の帰属とするのが適当であると考えられる。したがって、研究者が他の者・機関から研究開発成果の提供を受けた場合、契約、勤務規則その他の定めにより、それを公的研究機関に帰属させる旨の届出等の提出を研究者に求めることが適当である。その際には研究開発成果を提供した他の者・機関の意志や提供条件を確認しておく必要がある場合もあろう。
また、諸外国においても研究開発成果は機関の帰属とされていることが多い。
学術研究は、本来、研究者の自由闊達な発想を源泉として展開されるものであり、研究組織内での指示・命令に従う研究とは基本的に性格が異なっているものの、研究開発成果の利用という観点からみた場合、学術研究により創出された研究開発成果についても、原則機関すなわち国の帰属とすることが望ましい。
しかしながら、現段階で全ての研究開発成果を国の帰属とすると以下のような問題が生ずる。
したがって、当面は国立大学等における研究開発成果の帰属のルールは基本的に現状のままとし、その具体的な取扱いは以下のとおりとするのが適当である。
なお、法人化後は原則として組織(法人)に帰属させるのが適当であると考えられるので、国立大学等においては今からそのための準備を進めていく必要がある。
発明及び考案については、これまでどおり旧文部省の通知に従い、応用開発を目的とする特定の研究課題の下に特別に国が措置した研究経費を受けて行った研究の結果生じた発明等については国に帰属させ、それ以外は大学教官等に帰属させる※18。
職務で創作した意匠及び植物新品種については、意匠法及び種苗法において特許法の職務発明と同旨の規定が存在する※19ことから、旧文部省の通知を準用※18し、発明等と同様に取扱うのが適当である。
職務上創作をした回路配置については、半導体集積回路の回路配置に関する法律第5条により国に帰属する。「職務上」創作をしたものであるか否かは、職務発明に関する考え方と同様に処理できることから、職務上創作をした回路配置についても、旧文部省の通知※18を準用し、発明等と同様に取扱うことが可能であると考えられる。
これまでどおり旧文部省の通知に従い、国から特別に措置された経費を受けて作成したデータベース及びプログラムの著作物の著作権は国に帰属させ、それ以外は大学教官等に帰属させる※20。
微生物、材料サンプル等、研究開発成果としての有体物については、外観を信用した円滑かつ適正な取引・流通を可能とし、また知的基盤等の整備・提供をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での利用を促進するためにも、国の帰属としておくのが適当である。その際、当該有体物を煩雑な手続無しに提供できるよう、関係法令にも留意しつつ、学内規定の制定等体制を整備する必要がある。
現在、大学教官等の帰属を原則とする知的財産権の帰属の在り方の変更を法人化時とするのは、以下の理由による。
研究者が知的財産権や秘密の知的財産を管理する場合には、管理のための手続の負担に伴う研究開発活動への影響が生じ、また、法律的知見の不足等の理由により適切な管理がなされなくなるおそれがある。したがって、公的研究機関の知的財産担当部門がこれらの管理を実施するのが適当である。
公的研究機関に帰属する知的財産権及び秘密の知的財産以外の研究開発成果(微生物、材料サンプル、各種データ、試作品等)については、研究者が専門的な知見を有し、適切な管理・保存方法に熟知していることから、公的研究機関の責任のもとに、研究者がその管理・保存を実施するのが適当と考えられる。
共有に係る研究開発成果の持ち分は、法令に定める場合を除き、公的研究機関と他の者・機関との契約により定めるのが適当である。
法令に定める場合とは、特許権及び実用新案権に関し、研究交流促進法第7条の規定により同法施行令第5条に定められる場合が挙げられる。
契約、勤務規則その他の定めがある場合を除き、研究開発成果を創出した研究者が異動しても、一般的には公的研究機関の研究開発成果の帰属を変動させないことが適当である。
研究者の異動に伴い研究開発成果の所有権や知的財産権が頻繁に移転することになると、外観を信用した研究開発成果の円滑かつ適正な取引・流通が妨げられる。また知的財産権が移転することにより、ライセンス契約の打ち切り、新権利者による権利行使がされた場合への対応等、知的財産権の実施(利用)許諾を受けた者の事業活動における予見可能性を害し安定的に実施(利用)が行えない状況が生じるおそれがある。したがって、一般的には研究開発成果を創出した研究者が異動しても帰属を変動させないことが適当である。
しかしながら、研究開発成果の管理・保存がそれを創出した研究者にしか行えない場合(例えば研究開発成果が特殊な菌学的性質を有する微生物であるといった場合)や、知的財産を創出した研究者自身が知的財産権等の実施(利用)を行う場合等は、契約等により研究開発成果の帰属を変動させることが適当である。
<体制の整備>
研究開発成果の利用を促進するには、まず公的研究機関の体制※23を整備し、創出された研究開発成果のうち権利化等が行える知的財産の適切な保護を図る必要がある。
体制の整備では、とりわけ研究開発成果の利用に関する業務を行える人材の育成・確保が重要である。
<ルールの整備>
それとともに以下の項目に掲げるような研究開発成果の利用を促進するルールの整備を行う必要があると考えられる。
公的研究機関・研究者は原則として研究開発成果の研究開発の場での利用を制限することは適当でない。ただし、研究開発成果を研究開発の場で広く利用させることが適当でないような場合はその利用を制限することができると考えられる。
公的研究機関・研究者が研究開発の場で自由に研究開発成果を利用できるようにする一方、公的研究機関・研究者には研究開発成果を研究開発の場で広く利用可能とするための貢献(知的基盤等の整備をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用に対する貢献等)を求めることが適当である。研究開発成果の研究開発の場での広い利用は、研究開発成果の提供、公開により達成できる。
研究開発成果を研究開発の場で広く利用させることが適当でないような場合には、以下に掲げるような場合が挙げられる。
公的研究機関・研究者による知的基盤等の研究開発の場への提供、及び研究開発の場へ広く提供するため知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者・機関に対する公的研究機関・研究者からの研究開発成果の提供、についても同様に取扱うのが適当である※24。
知的基盤等として提供される場合も含め、研究開発成果としての知的財産が、研究開発の場への市場を通じた適正な価格での安定供給が可能な場合は、民間能力の活用という観点から、公的研究機関自身ではなく第三者(民間事業者等)による収益事業としての提供を図っていくべきである。
なお、知的財産が公的研究機関の知的財産権等に係るものである場合は、当該第三者は公的研究機関から知的財産権等の実施許諾等又は譲渡を受け、それに伴う相当の対価を公的研究機関に支払う必要がある。
研究者は研究開発成果についての専門的な知見や研究開発の場の現状に関する知識を有し、また実際に当該成果の管理・保存を行っている。したがって、研究開発成果の研究開発の場での広い利用を促進するという観点からすると、研究者の判断によりその利用を図ることとした方が適当であると考えられる。
ただし、公的研究機関の関知しないところで、研究開発成果の窃取、秘密の知的財産の不正開示等が行われないよう、研究者は公的研究機関の了承を得てその利用を図ることが適当である。一方、公開手続や研究材料提供契約(MTA)などによる提供手続が複雑であると研究開発成果の情報発信や円滑な取引が阻害されることから、利用手続は簡素なもの(例えば研究材料提供契約であれば所定の様式に研究者及び研究開発成果の提供を受ける者が必要事項を記入し公的研究機関の承認印を得るといったようなもの)とする必要がある。
<研究材料提供契約(MTA)>
研究材料提供契約(MTA)に規定すべき事項としては、
等が挙げられる。
<研究内容の制限>
研究開発成果の研究開発の場での広い利用の促進は新しい知の創造を意図したものであることから、研究材料提供契約(MTA)において第三者の研究内容自体を制限するのは好ましくない。もっとも、研究開発成果の提供に対する謝辞や入手先を論文中に明記することを求めたり、提供を受けた研究開発成果を利用して得られた新たな研究開発成果に関する発表論文の提出を受ける等、科学技術・学術の領域において慣習とされている条件を付することは問題ないと思われる。
<修飾・改変体>
研究開発成果としての知的財産を常法により修飾・改変等して得られたもの(例:ある化合物を慣用の保護基で修飾して得られる誘導体、常法によりある遺伝子で形質転換した細胞、表現方法を変更しただけのデータ等)の産業利用については、研究材料提供契約(MTA)により制限することが可能であり、別途知的財産権等の実施許諾等又は譲渡を求めることができるとするのが適当である。単なる常法による研究開発成果の修飾・改変等は新しい知の創造を意図したものということはできないからである。
<リーチスルー等>
公的研究機関・研究者が、研究開発成果を研究開発のために利用した第三者に対し、新たに創出した研究開発成果の持ち分や研究開発成果が知的財産である場合の産業利用による対価等(リーチスルー等)を求めることができるか否かはケースバイケースで判断すべきである。
ただし、論文・口頭発表、特許出願公開公報等により公開され広く公衆に利用可能となった研究開発成果情報をもとに第三者が新たに研究開発成果を創出した場合は、当該第三者にリーチスルー等を求めることは適当でない。このような研究開発成果情報は法令等の制限がない限り誰もが自由に利用できるようにすべきであり、第三者の利用を妨げるのは社会的に望ましくないからである。
また、適正な条件・対価で提供を受けた研究開発成果をもとに第三者が新たに研究開発成果を創出した場合も、当該第三者にリーチスルー等を求めることは適当ではないと考えられる。研究開発成果の研究開発の場での広く適切な利用を促進し新しい知の創造を図るという意図に反しない限り、研究開発成果の適正な条件・対価での提供によって、通常、第三者に研究開発のため自由に利用し新たな研究開発成果を創出する権能が与られたと考えるのが適当である。
それに対して、公的研究機関・研究者が、公開されていない研究開発成果情報を提供する場合、高額の研究開発成果を廉価あるいは無償で提供する場合等であって、これらの提供が第三者の新たな研究開発成果の創出に寄与するときは、公的研究機関・研究者もその創出の貢献度合いに応じてリーチスルー等を求めることができるものと考えられる。なお、前者のように公的研究機関の研究者が知的貢献をしている場合、当該研究者は共同創作者となることもあろう。
これまで、研究者の間では、収益を目的としない研究開発成果の研究開発の場への広い提供が慣習となっており、これが研究者の研究開発インセンテイブを高めるとともに研究者間の自由競争を促し、新たな知の創造に寄与してきた。
研究開発成果には、財産的価値のないもの、財産的価値の算定の困難なもの、公開されることにより公共財的性質を持つに至るもの(例えば、ひとたび論文発表、口頭発表された計測データ等の研究開発成果情報は非排除性及び非競合性を有し、公共財としての性質を有する)があり、また財産的価値はあっても需要が小さいものもあるので、市場を通じて適正な価格で安定供給できない(市場原理が働かず、収益事業として産業利用できない)場合が多い。このような場合は公的研究機関・研究者自身が研究開発成果の研究開発の場への提供を行う必要があり、その提供は通常収益を目的とすることはできないと考えられる。
したがって、公的研究機関・研究者による研究開発の場への研究開発成果の提供に際しては、仮に相応の対価を求める場合であっても、その価格は、これまでの慣習も考慮し、管理等に実際に要した費用、いわゆる実費を上限とするのが適当であると考えられる。
ただし、研究開発成果が知的財産権等に係る知的財産であって、研究開発の場での利用だけでなく、産業利用も許容する場合の対価はケースバイケースであって上述の限りではない。
公的研究機関・研究者が共有に係る研究開発成果を第三者に研究開発の場で利用させることについては、予め共同研究契約等により他の共有者の同意を得ておくのが適当である。
公的研究機関との共有に係る研究開発成果の研究開発の場での広い利用が妨げられるのを防止するため、公的研究機関・研究者が共有に係る研究開発成果を第三者に研究開発の場で利用させることについて、予め共同研究契約等により他の共有者の同意を得ておくことが適当である。
しかしながら、研究開発成果を研究開発の場で広く流通させることが適当でないような場合は、他の共有者は研究開発成果の利用に必ずしも同意する必要はないと考えられる。
また、他の共有者により、共有に係る研究開発成果としての知的財産が市場を通じて適正な価格で安定供給できる場合は、他の共有者によって研究開発の場への提供を図るのも一案といえる。
ただし、知的財産が知的財産権等に係るものである場合は、公的研究機関は契約等によりその持ち分に応じた相当の対価の還元を他の共有者に求めることが適当である。
知的財産権等の実施許諾等又は譲渡の条件の設定については、法令及び公的研究機関と第三者との契約によることが適当である。
研究開発成果の研究開発の場での広い利用における場合とは異なり、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡の条件の設定については、法令の制限内で十分に実施(利用)がなされ最終的に国民の利益が最大となるよう、公的研究機関と第三者との間の契約で定める必要があると考えられる。
契約により定められる条件には、期限(3年間実施が可能等)、範囲(日本国内全域、関東地方のみ等)、種類(独占的、非独占的)、行為(制限なし、製造のみ、販売のみ、複製のみ、秘密の知的財産の開示の禁止、複製困難な知的財産の別の者へのさらなる貸与(又貸し)の禁止等)、実施(利用)料などの対価等が考えられる。
契約に際し、自身で実施(利用)しない公的研究機関は、
に特に留意する必要がある。
公的研究機関が知的財産権等の価値の変動を伴う行為※25をすると、第三者の受けた知的財産権等の実施許諾等の財産的価値も大きく変動する。
公的研究機関の知的財産の産業利用と国民への成果の普及を進めるには、できるだけ知的財産権等の実施許諾等を受けた第三者の事業活動におけるリスクを減らし、事業活動の予見可能性が確保できるようにしておく必要がある。
そのためには、公的研究機関は第三者との契約において、知的財産等の価値の変動を伴う行為の当該第三者への事前通知と了解に関する事項、公的研究機関と知的財産権等の譲渡先との契約で譲渡先の当該第三者に対する実施許諾等を約させることとする旨の事項、等を定めておく配慮が必要であろう。
なお、公的研究機関から知的財産権の実施(利用)許諾を受けている第三者はそれを登録しておけば、譲渡先に対抗することができる場合がある※26。
また、公的研究機関は知的財産権を放棄するに当たっては、実施(利用)許諾を受けている第三者の承諾が必要である※27。
第三者の事業活動を不当に制約する条件には、製品販売価格・再販売価格や販売数量の制限、サービス提供価格の制限、製品の販売先や原材料・部品の購入先の制限、等のように第三者の事業化意欲を著しく減退させるとともに、第三者の製品・サービスの価格を支配し市場の価格決定機構に大きな影響を与えるものがある。知的財産権等の実施(利用)を促進する観点から、このような条件を付すことは適当でない。
知的財産権等の実施許諾等を受けた者が正当な理由なく一定期間実施(利用)していない場合、公的研究機関は、知的財産権等の実施許諾等の取り消し又は別の者への知的財産権等の実施許諾等若しくは譲渡を契約等で定めることが適当である。
公的研究機関の知的財産は産業利用を通じて広く国民に普及していくべきものである。しかしながら、知的財産権等の実施許諾等を受けた第三者が正当な理由なく実施(利用)しない場合、知的財産の産業利用による製品・サービス等の国民への普及が不当に妨げられることになる。したがって、このような場合は公的研究機関が上述のように取扱うのが適当である。
知的財産権等の実施許諾等又は譲渡をした場合、公的研究機関はそれに伴う相当の対価を受けることを契約等で定めることが適当である。また、公的研究機関はその対価の一部を研究者(知的財産権等の対象となっている知的財産を公的研究機関で創出したのち異動した研究者も含む)にも還元する必要がある。
公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブを付与するためには、実施(利用)料等の対価の一部を公的研究機関のみならず研究開発活動を行う研究者自身にも還元する必要がある。その際、人材の流動性を妨げることのないよう、対価の一部は知的財産権等の対象となっている知的財産を創出したのち他の機関に異動した研究者にも還元するのが適当と考えられる※28。
<対価の額、配分割合>
対価の額や公的研究機関と研究者の間の対価の配分割合については、個々の知的財産権等の財産的価値、公的研究機関及び研究者の知的財産創出に対する貢献や知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に向けた貢献に応じ適宜決定されるべきと考えられる。
<法人化後の国立大学等>
法人化後の国立大学等についても、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う対価の取得は可能であるものと解される※29。
法令の規定と同旨である※30。
他の共有者が有する知的財産権等の持ち分の財産的価値が変動するのを防止し、事業活動の予見可能性を確保することは、知的財産権等の実施(利用)において重要と考えられる。
公的研究機関の知的財産は産業利用を通じて広く社会に普及していくことが重要である。したがって、他の共有者が正当な理由なく実施(利用)しない場合には、他の共有者との契約によって、公的研究機関は、第三者への知的財産権等の実施許諾等又は持ち分の譲渡の同意を他の共有者に求めることが適当である。
その際、知的財産の創出には他の共有者も関与していることに鑑み、知的財産権等の持ち分に応じて、他の共有者に対しても第三者から取得した相当の対価を還元することが適当である。
なお、契約等に基づき他の共有者に設定された専用実施(利用)権についても、正当な理由なく実施(利用)されていない場合は、取り消すことができることとするのが適当であろう。
知的財産権(著作権を除く)が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその知的財産の実施(利用)をすることができる※31。
一方、共同著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない※32。
いずれの場合であっても、公的研究機関自身が実施(利用)を行う能力を有していないため、他の共有者が実施(利用)を行うことになる。
他の共有者が実施(利用)する際に、知的財産創出に直接貢献している公的研究機関・研究者に対する報酬などの見返りがないとすると、研究者の知的財産創出のインセンテイブを減殺し、中長期的には公的研究機関全体のシーズ創出能力にも悪い影響を与えるおそれがある。
したがって、公的研究機関は契約等により知的財産権の持ち分に応じた相当の対価の還元を求めることができるとしても差し支えないものと考えられる。
また、共有の有体物の場合は、他の共有者はその全部について、持ち分に応じた使用をすることができる(民法第249条)。他の共有者が複製困難な知的財産の公的研究機関の持ち分も利用するのであれば、公的研究機関はその持ち分に応じた対価を取得できるものと考えられる。
研究用材料(生物遺伝資源等)などの知的基盤等は公的研究機関・研究者の研究開発活動のみならず、広く経済社会活動を安定的かつ効果的に支えるものである。
知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者・機関(他の公的研究機関も含む)が、研究開発成果としての知的財産を研究開発の場での広い利用のため提供(複製、業としての生産や譲渡等)する際、それが公的研究機関の有する知的財産権によって保護されたものであることがある。
知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として整備・提供していくことができないとすると、知的基盤等を充実させることによる知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用が促進されず、結果として新しい知の創造を加速していくことができなくなる。一方、知的財産権によって保護された知的財産を自由に知的基盤等の整備・提供事業として産業利用できることとすると公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブが損なわれることになる。
この矛盾を調整するため、知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として整備し研究開発の場へ広く提供することを可能とし、場合により公的研究機関が提供に伴う相当の対価を取得できるようするのが適当である。
なお、研究開発成果としての知的財産を研究開発の場で広く流通させることが適当でないような場合、公的研究機関はその提供を制限することができる。
また、特許権に係る生物遺伝資源については寄託が義務づけられており、第三者は試験又は研究の目的でその分譲を受けることができることとなっている※33。
知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として市場を通じて適正な価格で安定供給する場合(知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者が民間事業者である場合)は、知的基盤等の整備・提供という収益事業として知的財産権の実施(利用)をする場合であるから、公的研究機関は知的財産権の実施(利用)許諾に伴う相当の対価を取得することが適当である。
一方、その逆である場合(知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者が他の公的研究機関等である場合)は、収益を目的としたものではないので、公的研究機関が知的財産権の実施(利用)許諾に伴う対価を取得することは実際上適当でないと考えられる。
知的財産権による保護が可能な知的財産については、必要に応じ保護を図る一方、研究開発の場での広い利用を可能とする。
知的財産権による保護が可能な知的財産には、科学・学術的価値も有するものがあるが、知的財産の保護と産業利用の促進という観点からは、これが権利化されないまま広く利用可能とされるのは避けるべきであると考えられる。
したがって、このような場合は知的財産権による保護を図りながら、研究開発の場での広い利用を可能とする取組みを行うことが適当である。
知的財産権によって保護されない知的財産であって、科学・学術的価値も有するものの取扱いは、それが適切に保護又は利用されるよう、公的研究機関・研究者が研究開発の目的等を考慮してケースバイケースで判断し、対応することが適当である。
科学・学術的価値を有する知的財産を秘密の知的財産として産業利用するかそれとも研究開発の場での広い利用を可能とするかは、個々の知的財産の内容により判断するほかないと考えられるが、自身で秘密の知的財産の実施(利用)をしない公的研究機関・研究者にはその財産的価値の判断が難しい。
公的研究機関・研究者が行える判断の一応の目安としては、以下のような研究開発の目的によるものが挙げられる。
有体物とは、空間の一部を占めて有形的存在を有するものをいう。
民法第85条の有体物については、今日の社会的・経済的事情を鑑み、「法律上の排他的支配の可能性」と広く定義する学説も少なくないが、本報告書では、通説に従い上述のものとする。
研究開発成果としての有体物には以下のものが例示される。
当然のことながら、排他的支配を及ぼすことができない(所有権を主張できない)物、例えば新しく発見した天体Y自体、新しく見出された疾患の患者自体、は、帰属を定め利用を行うことができないので、有体物の対象外であり、研究開発成果としては取扱わない。
なお、新しい天体Yについての観測データや、新しく見出された疾病の患者の治験データ等の情報は無体物ではあるが研究開発成果といえる。
無体物とは有形的存在を有しないものをいい、知的財産その他の各種情報、電気・熱・光・音響などが例示される。
有体物の場合と同様、排他的支配を及ぼすことができないものは、帰属を定め利用を行うことができないので対象外とし、研究開発成果としては取扱わない。
電気、熱、光、音響などといった知的活動から生じたものでない無体物は知的財産には含まれない。
また、知的財産は財産的情報であるから、複製可能であり、物(有体物)に化体されていることも多い。
複製可能な物とは、例えば特許発明品、植物新品種、表現に特徴のあるコンピュータープログラムを記録したFD等、第三者がその物又はその物に関連する情報(例えば特許公報、論文)をもとに、複製することができる物である。当然全く同一の物の複製が可能であることを意味するものではなく、財産的情報が複製可能であれば足る。
岩石試料、土壌サンプル自体は情報ではなく、また情報の化体した複製可能な物でもないので、知的財産ではない。しかし、知的活動から生じた岩石試料の測定データ等は財産的価値を有するのであれば知的財産となる。
知的財産には、排他的独占権である知的財産権が付与されるもの(発明、考案、意匠、商標、著作物、植物新品種、回路配置)や、秘密にすることにより排他的利用が行える知的財産(「秘密の知的財産」。ノウハウ等)がある。
知的財産の化体した物の中には、公開されても第三者には実際上複製できない物(「複製困難な知的財産」。複雑なプラント、装置、試作品のように理論上複製可能であるが実際上複製することが困難な物と、生物遺伝資源のように公開情報だけでは第三者が複製できない物がある。)があり、このような物は実際のところ一般の有体物と同様、第三者に直接譲渡又は貸与して産業利用を図るほかない。
準ずる権利としては、特許を受ける権利等がある。
知的財産権、秘密の知的財産及び複製困難な知的財産は全て利用により発生する便益が対価を支払う者だけに排他的に享受されるという排除原理が働く私的財としての性質を有するものであるので、知的財産権若しくは秘密の知的財産の実施(利用)許諾又は複製困難な知的財産の貸与(「知的財産権等の実施許諾等」。知的財産権の実施(利用)許諾には専用実施(利用)権の設定を含む。)又は知的財産権若しくは複製困難な知的財産の譲渡(「知的財産権等の譲渡」)により取引され、実施(利用)が可能である。
なお、それ以外の知的財産、すなわち公開され公衆に広く利用可能とされた知的財産は、非排除性及び非競合性を有する公共財としての性質を有するから、通常その実施(利用)のための取引がなされることはない。
人間の知的活動から生ずる情報を体系化し、広く供用可能としたものをいう。
科学技術基本計画※34では、知的基盤は、研究者の研究開発活動、さらには広く経済社会活動を安定的かつ効果的に支える、
とされている。これは知的活動の成果として蓄積された知的資産を体系化し、広く供用可能とした基盤であり、その内容(質、量等)の充実によって、より多くの利用者に利用される価値が高くなるものである。この知的基盤も含め一般に人間の知的活動から生ずる情報を体系化し、広く供用可能としたものを「知的基盤等」と定義することにした。
なお、この情報は物に化体されていることも多い(例:生物遺伝資源)。
国の機関又は組織及び運営に関し国の監督を受ける機関であって、研究開発を行う機関をいう。
「国の機関」には、国立大学等(「国立大学、短期大学及び高等専門学校並びに大学共同利用機関」をいう。)や国立試験研究機関が含まれる。
「組織及び運営に関し国の監督を受ける機関」には、特殊法人や独立行政法人が含まれる。
地方公共団体が設置した公設試験研究機関は含まれない。
研究振興局研究環境・産業連携課
-- 登録:平成21年以前 --