平成28年度の第58次南極地域観測隊の観測計画(以下「第58次計画」という)は、平成27年11月の南極地域観測統合推進本部総会で決定された「南極地域観測第9期6か年計画(以下「第9期計画」という)」の初年次の計画である。第9期計画では、第8期計画で実施されている重点研究観測「南極域から探る地球温暖化」を大きく発展させ、地球温暖化を含む全球環境変動という包括的な視点により、南極域の総合的な精密観測を展開する。そのため、地球システムにおける現在と過去の南極サブシステムの変動、サブシステム内の相互作用の解明及び南極域の変動と地球システム変動との関係を明らかにすることを目的に、第9期重点研究観測メインテーマ「南極から迫る地球システム変動」が決定された。このメインテーマを推進するため、サブテーマ1「南極大気精密観測から探る全球大気システム」、サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用」、サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」が設定され、これらのサブテーマのもと分野横断的な研究観測を実施する。また基本観測については、極域を観測の場とした地球環境観測の推進ならびにデータの取得・公開・利用を通じて、2016年以降の「GEOSS新10年実施計画」に貢献する。
また、第58次計画では、南極観測船「しらせ」による船上観測に加え、別働隊として、南大洋では東京海洋大学練習船「海鷹丸」による船上観測を計画する。
(1) 基本観測は、第9期計画のとおり定常観測とモニタリング観測に分かれる。
(2) 研究観測は、重点研究観測、一般研究観測及び萌芽研究観測の三つのカテゴリーに区分した観測から構成される。
(3)「公開利用研究」については、第57次隊までにおける実施状況を検証しつつ、公募により採択された以下の3課題を実施する。(1)「しらせ搭載全天カメラ観測による南極航海中の雲の出現特性」、(2)「現場主義の南極条約体制研究:科学と国際法のインターフェイス」、(3)「昭和基地における省電力光源を用いた水生栽培試験」。併せて、「継続的国内外共同観測」についても、国内外の研究機関等と国立極地研究所との協定等に基づいた委託課題として、以下の1課題を実施する。(1)「海面漂流ブイによる南大洋の観測(オーストラリア気象局のブイ投入)」。
第58次計画においては、昭和基地整備計画に基づいた基本観測棟の建設を中心に実施する。基地電気設備の点検・更新を順次実施するとともに、太陽光発電パネルの更新や埋立廃棄物の処理など、再生可能エネルギーの導入の推進、および観測活動に起因する環境負荷の軽減に取り組む。また、今後の内陸での観測・調査活動に備え、内陸輸送用トラクターを導入するとともに、次年度の内陸調査の準備も実施する。そのために、燃料・車両・重機等の大型物資、観測機材、設備資材等を可能な限り輸送する。
(1) 南緯55度以南の行動は、2016年12月7日から2017年3月15日までとする。
(2) 第一優先を昭和基地越冬成立(越冬基本観測に必要な物資と越冬隊員の交代)とする。
(3) 重点研究観測(サブテーマ1: 南極大気精密観測から探る全球大気システム、サブテーマ2:氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用)を実施する。
(4) 夏期の基本観測、一般研究観測、公開利用研究、継続的国内外共同観測および設営作業を実施する。
(5) 国際連携の一環および萌芽研究観測として、アジア極地科学フォーラム(AFoPS)と連携しつつ、外国人研究者を含む科学チームによる地質調査を実施する。
(6) 海鷹丸については別行動とする。
(1) 目的:第58次越冬隊人員・物資の輸送、夏期の野外調査・基地観測、設営作業、第57次越冬隊持帰り物資(廃棄物を含む)の輸送、越冬成立
(2) 期間:12月中旬リュツォ・ホルム湾沖~2月中旬昭和基地最終便
(3) 以下のオペレーションを優先順位をつけて実施するが、所要物資量、時期的な要件、現地の状況により、適宜柔軟に対応する。
1) 昭和基地越冬に必要な物資の輸送及び越冬成立
2) 基本観測棟1階工事、汚水処理棟解体工事、300kVA 1号発電機オーバーホール、太陽光パネル更新、コンテナヤードおよび道路補修、各棟電気設備更新、車両整備、及びそれらに必要な物資の輸送
3) リュツォ・ホルム湾沿岸および内陸氷床域の野外調査 (観測隊ヘリコプター1機の運用を含む)
4) 第57次越冬隊の物資(約377t、1,854m3 内廃棄物 約252t)の持ち帰り
(4) 物資搭載量(概数) 1,060t, 3,027m3
1) 昭和基地 1,030t【内訳:観測60t、設営290t、食料67t、*燃料613t】(註: * 貨油581キロリットル以外は容器込みの重量)
2) 船上観測・設営物資 11t
3) 野外・沿岸観測物資 19t
(5) 接岸不能の場合
貨油・大型物資を含め、物資輸送は空輸及び氷上輸送により可能な限り行う。
【参考】58次隊の基本的ミッションを達成するための最低限の物資量
輸送量 約701t【内訳:基本観測約55t、設営約58t、食料約46t、*燃料約542t】
(註: * 貨油507キロリットル以外は容器込みの重量)
(6)昭和基地作業に対する「しらせ」からの支援
昭和基地作業や夏期宿舎調理について、「しらせ」乗組員の支援を得る。
(1) 目的:船上観測等
(2) 期間:2016年12月2日フリーマントル出港~昭和基地沖までの航行中、及び、昭和基地離岸~2017年3月20日シドニー入港までの航行中。但し、シーロメータ、全天カメラ、航行モニタリングおよび船舶用オリオールメータ観測については2016年11月11日晴海出港から2017年4月10日晴海入港まで継続実施する。
(3) オペレーションの基本方針:以下の観測を可能な限り実施する。
1)観測、停船観測、豪気象局ブイ投入
2) 船上観測(大気、海氷、重力、地磁気、地質探査装置による海底地形、氷海性能試験、海水飛沫計測、気象ゾンデなど)
3) 海底圧力計の設置*・揚収
4) リュツォ・ホルム湾奥を含む湾内でのCTD・XCTD観測及び海底地形調査
5) ケープダンレー沖での係留系設置、海底地形測量、CTD・XCTD観測および海氷サンプリング
6) アムンゼン湾周辺での無人磁力計保守・風向風速計保守・無人オーロラ観測装置設置、測地観測、陸上生物調査および地学調査
7) 表層漂流系投入
*海底圧力計の設置は基本往路とする。58次も昭和基地への輸送を優先する方針である事から、氷状が厳しい等の理由で往路設置が困難な場合は、帰路での設置も可とする。
(1)目的:南極海における基本観測(海洋物理・化学)、および海洋生態系や南極底層水の調査等 (夏隊員6名)
(2)日程案:2016年12月31日 フリーマントル出港
2017年1月26日 ホバート入港
(観測隊員・同行者日程:2016年12月26日東京発~2017年1月31日東京着)
(1) 第58次越冬隊は、2月1日に第57次隊から昭和基地の管理を引き継いだ後、越冬諸準備を進め、越冬隊員の交代を行い2月20日に越冬交代を完了させる。越冬交代後は、南極地域観測統合推進本部および国立極地研究所の支援を受けて、越冬隊長の指揮の下、安全第一に活動することに留意し、昭和基地の維持運営を行う。
(2) 燃料・電力消費量の削減を図りつつ、昭和基地とその周辺地域における基本観測、重点および一般研究観測ならびに設営作業を実施する。
(1) 定常観測
(2) モニタリング観測
(3) 重点研究観測:「南極から迫る地球システム変動」
(4) 一般研究観測
「環境保護に関する南極条約議定書」および「南極地域の環境の保護に関する法律」を遵守し、「南極地域活動計画確認申請書」に基づく活動を行う。特に、昭和基地においては年間を通じて廃棄物処理とその管理を行い、環境保全に努める。また、内陸や沿岸での調査等から排出する廃棄物も法律の規定に従った処理と管理を行い、 昭和基地に持ち帰り処理する。
観測設営計画を実施する上で、基地の運営や基地内外での行動に関する危険予知活動と安全対策に努める。野外調査や基地作業での安全指針を冊子(安全対策計画書)にまとめ、隊員および関係者に周知する。また、南極での不慮の事故や疾病に適切に対応するため、TV会議システムを用いて国内医療機関から医療診断支援を得るための遠隔医療相談のシステムを活用する。
南極観測による学術的成果や活動状況を広く社会に発信するため、TV会議システムを用いた「南極教室」をはじめ、講演会場への中継などを通じて南極観測のアウトリーチや広報活動に協力する。今回で8回目となる「教員派遣プログラム」で同行する小学校および高等学校の教員2名による「南極授業」を夏期間に実施するほか、「第13回中高生南極北極科学コンテスト」で選ばれた優秀提案を昭和基地において実施する。また、計画されている昭和基地創立60周年記念関連行事に協力する。
1 ・ 越 冬 観 測 |
区分 |
部門・研究領域 |
担当機関 |
観測項目名 |
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基 本 観 測 |
定常観測 |
電離層 |
情報通信研究機構 |
(1)電離層の観測 (2)宇宙天気予報に必要なデータ収集 |
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気象 |
気象庁 |
(1)地上気象観測 (2)高層気象観測 (3)オゾン観測 |
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潮汐 |
海上保安庁 |
潮汐観測 |
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測地 |
国土地理院 |
測地観測 |
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モニタリング観測 |
宙空圏 |
国立極地研究所 |
宙空圏変動のモニタリング |
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気水圏 |
気水圏変動のモニタリング |
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地圏 |
地圏変動のモニタリング |
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生物圏 |
生態系変動のモニタリング |
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学際領域(共通) |
地球観測衛星データによる環境変動のモニタリング |
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研究観測 |
重点 研究観測 |
宙空圏・気水圏・地圏 |
国立極地研究所 |
南極から迫る地球システム変動 |
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一般 研究観測 |
宙空圏 |
南極昭和基地での宇宙線観測による宇宙天気研究の新展開 |
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宙空圏 |
無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測 |
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宙空圏 |
SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究 |
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宙空圏 |
電磁波・大気電場観測が明らかにする全球雷活動と大気変動 |
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気水圏 |
南極成層圏水蒸気の長期観測 |
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生物圏 |
露岩域と生物の変遷から探る生態系のメジャートランジション |
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生物圏 |
一年を通した生態計測で探る高次捕食動物の環境応答 |
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生物圏 |
極限環境下における南極観測隊員の医学的研究 |
2・夏期観測 |
区分 |
部門・研究領域 |
担当機関 |
観測項目名 |
|
基本観測 |
定常観測 |
電離層 |
情報通信研究機構 |
(1)電離層の観測 (2)宇宙天気予報に必要なデータ収集 |
|
海底地形調査 |
海上保安庁 |
海底地形測量 |
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潮汐 |
海上保安庁 |
潮汐観測 |
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海洋物理・化学 |
文部科学省 |
(1)海況調査 (2)南極周極流及び海洋深層の観測 |
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測地 |
国土地理院 |
(1)測地観測 (2)地形測量 |
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モニタリング 観測 |
宙空圏 |
国立極地研究所 |
宙空圏変動のモニタリング |
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気水圏 |
気水圏変動のモニタリング |
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地圏 |
地圏変動のモニタリング |
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生物圏 |
生態系変動のモニタリング |
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研究観測 |
重点 研究観測 |
宙空圏・気水圏・生物圏・地圏 |
国立極地研究所 |
南極から迫る地球システム変動 |
|
一般 研究観測 |
宙空圏 |
南極昭和基地での宇宙線観測による宇宙天気研究の新展開 |
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宙空圏 |
無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測 |
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宙空圏 |
SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究 |
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宙空圏 |
電磁波・大気電場観測が明らかにする全球雷活動と大気変動 |
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気水圏 |
南極底層水昇温・低塩化期における深層循環の変貌解明 |
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気水圏 |
南極成層圏水蒸気の長期観測 |
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気水圏 |
無人飛翔体観測による南極沿岸域のエアロゾルの空間分布観測 |
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気水圏 |
全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動 |
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気水圏 |
東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構 |
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気水圏 |
夏季の海洋・海氷上~南極氷床における降水、水蒸気、エアロゾル粒子の空間分布と水循環 |
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地圏 |
地震波・インフラサウンド計測による大気-海洋-雪氷-固体地球の物理相互作用解明 |
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地圏 |
太古代-原生代の地殻形成と大陸進化の研究 |
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生物圏 |
露岩域と生物の変遷から探る生態系のメジャートランジション |
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生物圏 |
一年を通した生態計測で探る高次捕食動物の環境応答 |
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生物圏 |
南大洋インド洋セクターにおける海洋生態系の統合的研究プログラム |
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萌芽 研究観測 |
地圏 |
南極仕様 SLR 観測システム開発 |
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地圏 |
AFoPSサイエンスチームの南極派遣(地質調査) |
実施計画(案)概要 |
(1)基本観測棟工事(1階部分) |
部門別 |
主な作業 |
主な搬入物品 |
機械 |
・300kVA発電機オーバーホール |
・無人走行トラクタ 1台 |
燃料 |
・越冬用燃料 |
・W軽油 バルク 581kl |
建築・土木 |
・基本観測棟工事(1階部分) |
・基本観測棟2階部分・外部階段資材 1式 |
航空 |
・観測隊ヘリコプターの運用 |
・観測隊ヘリコプター 1機 |
通信 |
・無線通信回線運用 |
・更新用無線設備 |
医療 |
・医療業務 |
・医薬品 |
食糧 |
・越冬調理 |
・越冬食糧 |
環境保全 |
・夏期廃棄物処理、夏期用汚水処理設備の運用 |
・ドラム缶圧縮機 |
多目的アンテナ |
・アンテナ、レドームおよび送信設備の運用・保守 |
・保守部品 |
LAN・インテルサット |
・インテルサット衛星通信の運用・保守 |
・保守部品 |
野外観測支援 装備 |
・野外調査補助 |
・個人装備 |
輸送 |
・輸送全般 |
・12ftコンテナ×50台 ・ヘリコプター用スチールコンテナ |
庶務 情報発信 |
・公式文書の管理、各種事務手続き、隊長業務補佐 ・輸送業務、広報業務 |
|
極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144,4451)
-- 登録:平成28年11月 --