南極地域観測事業

南極地域観測第8期計画(骨子)

1.基本的な考え方

 南極地域観測第8期計画は、(実施中核機関である国立極地研究所の法人としての中期目標期間と整合を図るため)第52次から第57次までの6か年とする。策定にあたっては、南極観測の歴史的基盤に立脚し現代の社会的要請に応えた先進的な科学研究を推進する。また、新南極観測船「しらせ」の活用、観測基盤の高度化、国際的な連携・貢献、情報発信を重視する。

2.観測計画

観測計画は、大きく研究観測、基本観測に区分して実施する。

  • 社会的な要請と科学的意義の高いテーマに取り組む重点研究観測として「南極域から探る地球温暖化」を中心課題に据え、以下のサブテーマを実施する。
      サブテーマ1「南極域中層・超高層大気を通して探る地球環境変動」
      サブテーマ2「温暖化過程における南極海生態系の応答」
      サブテーマ3「氷期―間氷期サイクルから見た現在と将来の地球環境」
  • 極地の特色を生かし比較的短期間(3年以内)に集中して実施される一般研究観測、将来の研究観測に向けての予備的な観測・技術開発などを目的とする萌芽研究観測を公募提案に基づき実施する。
  • 基本観測は、国立極地研究所が担っているモニタリング観測と、独立行政法人情報通信研究機構、気象庁、国土地理院、海上保安庁が担当する定常観測に区分して実施し、「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」に貢献する。

3.観測を推進するための支援

  • 新南極観測船や既存の基地をプラットホームとし、さらに野外を舞台とした観測領域の展開を図る。
  • 国内外の組織や機関と連携し、航空機や海洋観測専用船の活用を図る。
  • 隊員編成、隊員訓練、危機管理等の従来のシステムを詳細に点検し、安全で効率的な南極観測を進めて行くとともに、隊員の出張期間の短縮を検討する。
  • 再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー・廃棄物の適切な管理などを通じて、観測活動に起因する環境負荷を軽減しつつ、昭和基地建物・設備のグランドデザインを再検討する。
  • 内陸での活動、特にドームふじ基地の恒久的維持・運用を可能にする手段を講じる。

4.観測事業の社会への貢献

  • 諸外国、特に南極観測後発国との連携を強化し、南極条約体制のもとでの国際共同観測や設営資源の共同利用を推し進めることにより、国際的なリーダーシップを発揮する。
  • 南極観測の成果と国際的意義、南極の自然と環境保全などの観点から、一般市民や青少年への積極的な広報活動を継続する。特に、専門家の意見を参考に学校教育への活用をより一層推進する。

 

別添1

南極地域観測第8期6か年計画策定方針の概要
(骨子案の背景として)

平成20年11月

1.基本的な考え方

 日本の南極地域観測事業は、平成19年1月に昭和基地開設50周年を迎え、その長い観測史の間にオゾンホールの発見や南極隕石の大量収集、南極氷床深層掘削の成功など、国際的にも高い評価を受けた成果を上げてきた。一方、昨今は、地球環境の変化に対して、科学者のみならず国民や国際社会からも大きな関心が寄せられ、特に極域での観測の成果が期待されている。
 南極地域観測第8期6か年計画(以下、「第8期計画」という。)の策定にあたっては、南極観測の歴史的基盤に立脚し現代の社会的要請の上に立ちつつ、新しい世代の研究者が自由な発想のもとでさらなる発展に参画し、世界から評価される成果を上げられる南極観測の仕組み作りを目指す。
 平成21年度には、世界有数の能力を持った新南極観測船「しらせ」(以下、新「しらせ」という。)が就航することから、第8期計画では新観測船や既存の基地をプラットホームとし、さらに極域の野外を舞台とした観測領域の展開を図るとともに、諸外国、特に南極観測後発国との連携をより強化し、国際的なリーダーシップを発揮することへの期待にも応える。また南極と我が国の南極観測を、一般市民や青少年に分かりやすく紹介し、教育現場などに生かされることを推進する。
 第8期計画の策定にあたっては、第7期計画の総括・評価を反映させ、また第9期計画以降への発展性をも視野に入れ、新しい南極観測の出発点としての特色をもたせることを方針とする。すなわち、「開かれた南極観測」、「先進的な南極観測」、「安全で効率的な南極観測」、「国際連携する南極観測」、「情報発信とアウトリーチ」をキーワードに、さまざまな研究者が参画し、国際的な枠組みでの貢献を目指していく。また計画の立案・実施と評価については、外部有識者の意見がこれまで以上に反映できる仕組みとする。
 南極地域観測事業は昭和51年以来、南極地域観測統合推進本部(以下、本部という。)の作成した「南極地域観測事業の将来計画基本方針」に基づき、原則として5か年を一期とした観測計画が実施されてきた。第8期は、計画期間を6か年(第52次~57次観測)とし、実施中核機関である大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(以下、国立極地研究所という)の法人としての「第二期中期計画」(平成22年度~平成27年度)との整合を図り、南極の現場での研究観測と国内研究のリンク、更なる発展を目指す。
 なお、本計画は、本部の輸送問題調査報告書(平成12年6月)、総合科学技術会議評価「南極地域観測事業について」(平成15年11月)、基本問題委員会「意見のとりまとめ」(平成16年3月)、第3期科学技術基本計画などを参考に、本部が定めた「21世紀に向けた活動指針(平成12年6月)」の提言を踏まえると共に、国立極地研究所が南極新時代のグランドデザインとなることを目指して作成した「新たな南極地域観測事業のあり方(平成20年5月)」に立脚した。  

2.観測計画

 観測計画の策定に当たっては、「開かれた南極観測」のもとに計画提案の公募を実施し、科学的に価値が高いプログラムの実行と南極観測における国際貢献において我が国のプレゼンスを高める方策を重視する。
 観測項目は、計画の立案過程・評価過程に応じて、研究観測と基本観測に区分し、研究観測は、重点研究観測、 一般研究観測、萌芽研究観測に区分、基本観測は、定常観測・モニタリング観測に区分して実施する。
研究観測のうち、重点研究観測は、社会的な要請に基づく科学的意義の高い研究観測であり、国内外の要請や緊急性が高く、多方面に大きな貢献および成果が期待できる研究観測である。また、新たな研究領域の開拓を目指した先進的かつ独創的な研究観測、あるいは分野を横断する学際的な研究観測であり、国際協調を目指すと同時に日本独自の戦略的な取り組みとして実施される研究観測でもある。
 第8期の重点研究観測では、公募提案に基づいて国立極地研究所内外の有識者で検討した結果、「南極域から探る地球温暖化」を中心課題として取り上げる。この課題はさらに、
  サブテーマ1「南極域中層・超高層大気を通して探る地球環境変動」
  サブテーマ2「温暖化過程における南極海生態系の応答」
  サブテーマ3「氷期―間氷期サイクルから見た現在と将来の地球環境」
に区分し、共同研究観測としてさまざまな視点から課題の解明に取り組む。
 一般研究観測は、研究者の自由な発想をベースとし、極地の特色を生かした比較的短期間に集中して実施される観測であり、萌芽研究観測は、将来の研究観測に向けての予備的な観測・技術開発などを目的とする観測である。それぞれ、独創的・先駆的な研究を実施し、当該期間中の成果提出を目指して「先進的な南極観測」を実現する。現在、研究者や研究者コミュニティーからの第Ⅷ期計画におけるこれらの観測計画の提案公募と審査の体制を構築している。
 基本観測は、継続的な観測を前提に実施されるものであり、国際的または社会的な要請への対応、十分な観測データ品質の維持・管理、速やかなデータ公開を目指している。またデータの品質を保持しつつ観測の自動化・省力化などを推進していく。特に、極域を観測の場とした地球環境観測の推進、データの取得・利用などを通じて、「GEOSS10年実施計画」を包括的に支援する。各観測項目は、国立極地研究所が担っているモニタリング観測と、独立行政法人情報通信研究機構、気象庁、国土地理院、海上保安庁が担当する定常観測に区分して実施することを原則とする。
 なお第7期までの海上保安庁の担当項目:海洋物理・化学の成果はIPCCなどの資料にも重要なデータとして取り上げられてきたが、現時点では一部の観測を除いて、今後の実施体制が決まっていない。本項目の基本観測としての役割、責務などを十分検討し、第8期6か年計画のなかで対応する予定である。

3.設営計画

 再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー・廃棄物の適切な管理などを通じて、観測活動に起因する環境負荷を軽減させることは南極観測実施国の大きな責務である。外部の専門家を交え、技術・環境影響・コストパフォーマンス等多面的な議論を行い、観測計画と十分に整合のとれた計画を実施する。そのため、長年にわたって増築されてきた昭和基地建物・設備のグランドデザインを再検討し、用途に応じて再配置・規模の最適化を図る。 また、内陸での活動、特に内陸ドームふじ基地の恒久的維持を可能にする輸送力を確保するための手段を講じる。

4.観測支援体制の充実

 南極地域観測事業は今後とも安全を最優先にしつつ、新たに導入される「公開利用研究」への応募者を含めた多様な研究者等が効率的に参画することが可能な組織を目指す。支援の要である新「しらせ」の運航ルートについては、年度単位に加え、中期的な観点からの調整を行い、これまで以上に合理的・計画的に活用する。更に、航空機の活用、海洋観測専用船との共同観測等の支援体制を効果的に取り入れる。これらを実現するために、隊員編成、隊員訓練、危機管理などを詳細に点検し、「安全で効率的な南極観測」を進めていくと共に、観測隊として実施してきた成果が次隊以降に有効に引き継がれる仕組みづくりを目指す。

5.国際的な共同観測の推進

 「国際連携する南極観測」を目指し、南極条約体制のもとでの国際共同観測や設営資源の国際利用を推し進める。 特にアジア諸国との連携について強化を図り、総合科学技術会議「地球観測の推進戦略」(平成16年12月)の「我が国の地球観測の基本戦略」で示されている(1)利用ニーズ主導の 統合された地球観測システムの構築、(2)国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮、(3)アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立、などについて、南極観測事業を通して実現する。

6.国民への情報発信・教育活動の充実

 「情報発信とアウトリーチ」の発展を図るために、研究者への観測データの提供のみならず、多様なメディア(インテルサットによるテレビ会議システム、インターネットのホームページへの掲載等)を活用し、一般国民に対して、南極地域観測事業の活動や成果等について昭和基地等からの発信を積極的に行う。また、次世代の人材育成の観点から、教育関係者の観測隊への参加など、教育現場との双方向の連携を図る。

7.6か年計画の進め方

 第8期計画は、国立極地研究所の第二期中期計画と一体となった体制に基づき、業務の効率化のみならず、観測の実施、研究成果の評価においても、より効果的な方法を模索する。しかし、進歩の早い現代社会においては、観測技術の向上や研究環境の変化も日進月歩である。したがって、第8期計画では前期3か年を経た時点で、総括的な中間評価を実施し、速やかに後期計画に反映させることとして、柔軟な計画を目指す。

8.次期(9期)以降の中期計画の展望

 南極地域観測事業の更なる活性化、効率化を図るため、計画の妥当性、成果、運営、達成度等を評価し、優れた活動を奨励する必要がある。また近年の観測の広域化、多様化、高度化、さらには新たな輸送手段・観測プラットホームとなる新「しらせ」の就航は、研究観測の展開や国際協力等について、ますます急速な変化も予想される。緻密な計画を策定すると共に、事後評価などを積極的に推進し、計画を合理的に運営、次期中期計画に発展させる必要がある。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)、03-6734-4144(直通)

-- 登録:平成25年02月 --