南極地域観測事業

南極観測実施責任者評議会(COMNAP)の概要

期間

2008年6月29日~7月5日

場所

ロシア北極南極研究所、サンクトペテルブルグ

出席者

藤井理行 国立極地研究所長 COMNAP代表
白石和行 国立極地研究所副所長 SCALOP代表
石沢賢二 国立極地研究所事業部設営室長 代替エネルギー作業委員会

 

 南極観測実施責任者評議会(COMNAP)は、南極条約体制のもとで、国家事業として南極観測を実施する機関の責任者の合同会議として、1989年に結成され、2008年現在、29カ国が加盟している。COMNAPの傘下には、南極研究科学委員会(SCAR)の設営作業委員会を起源とする「設営と行動に関する常置委員会(SCALOP)」がある(今回廃止となった)。毎年開かれる総会では、さまざまな作業委員会や調整会議が開かれ、南極条約協議国会合(ATCM)からの諮問への対応や南極観測の抱える諸問題の討議、実際の南極におけるオペレーションの情報交換等の実務的な討議を行なっている。とくに、近年は南極観測における安全の確保、研究や観測が南極の環境に与える影響を最小限度にするための技術的問題、国際協力によるオペレーションの推進についての話題が中心となっており、各国の南極観測事業実施における最も重要な国際会議として位置づけられている。

1.第20回年次総会の概要

今回の主なトピクスは、1)ATCMへの対応、2)COMNAP憲章の制定、3)組織改革と次期事務局長の選出方法などである。
 IPY2007-2008を契機に国際協力が一層盛んになっているが、この勢いを今後、どのように発展させるかが課題である。特に、行動の安全確保、燃料費の高騰やツーリズムの発展など、南

 極観測事業を取り巻く情勢の深刻化により、救難対策、代替エネルギーの開発、船舶や航空機、基地等の設営資源の共同利用などが総会での議論の焦点となった。

2.作業委員会のトピクス

  • 安全対策、新エネルギー対策、船舶や航空のオペレーション、南極における医療、隊員訓練などのさまざまな作業委員会(WG)や調整グループの会合があった。
  • 安全対策
    ・ 昨シーズンのエクスプローラ号の沈没事件の余波もあり、ATCMでの議論を受け、安全とツーリズムが大きな問題。各国の観測隊はツーリストの事故にどこまで対応すべきかが問題となる。
    ・ 8月12日~14日にバルパライソ(チリ)で、南極域における救難体制改善のためのワークショップが予定され、南極海での救難の調整にあたるアルゼンチン、オーストラリア、南アフリカ、ニュージーランド、チリ、フランス、米国、英国の責任当局(海軍やコーストガード)代表とそれぞれのMNAP、それにCOMNAPやATSの代表による討論を行う(添付1)。
  • 船舶オペレーションWGでは、 欧州極地委員会の計画として、BASが進めているENVISATを用いた海氷監視システム(Polar View)の紹介があり、実際に航路決定に利用したオーストラリアがその効果を強調した。
  • エネルギー対策と設営協力
    ・ 代替エネルギーの開発と基地の省エネ問題には各国が真剣に取り組んでいる。
    低炭素化社会への運動は南極にも広がりつつある。
     しかし、最大の省エネ効果は、各国の設営の協力によって得られるとし、オーストラリアの提案で、東南極に基地を持つ国々で設営協力ワークショップを開催することになった(添付2)。
    欧州極地委員会のINFRAPOLE計画は南北両極にある欧州各国の基地施設の共同利用を進める計画であるが、欧州以外の国にも呼び掛けている。
  • SCALOP設営シンポジウムが開催された。我が国からは、新観測船「しらせ」と新たな輸送システム、昭和基地における環境保全対策などの紹介をした。

3.COMNAPの今後

  • 結成後丁度20年を経たCOMNAPの機能をより発展させ効果的なものとするために、COMNAP憲章が定められ、同時に組織の見直しがはかられた。その結果、SCALOPや各種作業委員会は廃止され、あらたに、議長のもとに5名の副議長から成る執行委員会により組織を牽引する構造が作られた。白石は副議長の一人として、今後のCOMNAPにおける主にオペレーションに関係する課題に対応することになろう。
  • COMNAP憲章では、COMNAPの目的を定めた。
    1)環境に配慮した最適な方法で効果的な活動を進めるためのフォーラムを開くこと、2)国際協力を促進させること、3)情報交換の機会とシステムを提供すること、そして、4)南極条約体制を維持するために、各国の南極観測事業を通じて得られた経験をもとに、実際の技術的、非政治的な勧告をすることを通じて、南極における科学研究の支援を最適で効果的に実施し、発展させる。

 

 南極域における救難体制改善のためのワークショップの概要
(Workshop:Towards improved SAR coordination and response in the Antarctic)

期間

2008年8月12日~14日

場所

バルパライソ(チリ)

主催

COMNAPとチリ海軍領海・海運局(DIRECTEMAR)の共催

出席者

白石和行 国立極地研究所副所長、COMNAP副議長

会議等の概要

 かねてから、南極海、特に半島地域での海難事故への対応はCOMNAPでの話題であったが、昨シーズンのエクスプローラー号の沈没は大きな衝撃を与えた。ATCM においては、Resolution 6 (2008)でCOMNAPと南極海周辺の救難調整センター(Rescue Coordination Center RCC)との協調を求めており、それを受けて本会合では、ツアー旅行会社の団体であるIAATOも含めた各国の救難体制の連携を目指して、さまざまな情報交換と地域別の救難対策が議論された。
このワークショップの目的は、

  • 南極大陸を取り巻く5カ国(アルゼンチン、オーストラリア、南アフリカ、ニュージーランド、チリ)の区域別の海難事故調整センター(RCC)とそれぞれの南極観測実施機関であるCOMNAP、民間旅行団体IATOOなどの代表約60名が集まり、救難活動の体制の現状を理解し、より良い方法を探るために、
  • 南極地域の海、空、陸のそれぞれにおける危険の存在を理解し、
  • 南極地域の救難活動(SAR)体制を改善する方策を探る、ことにある。
    最初の1日半は、各国のSARへの取り組みと、RCCの活動が紹介された。また、人工衛星やインターネットを利用したさまざまな船舶監視システムの紹介とその南極観測への応用が議論された。

 2日目の午後は、3つの地域に別れて、SARの想定問題に取り組んだ。
チリとアルゼンチンのチームは、観光船の爆発事故を想定して、RCCへの通報から一連の流れを追った。また、NZ、米、豪の3国は、西南極での不時着事故を、また日本は、南ア、独、仏とともに、DROMLANの大陸間飛行での事故を想定したSARを検討した。

 3日目の午前はバルパライソ市のはずれにあるチリ海軍基地を訪問し、氷海航行シミュレーターとMRCCを見学した。午後は、前日のシナリオ演習の紹介があり、ほかの出席者からの質問や助言が与えられた。

最終報告等の要旨

(1)現在、南極地域で日常的に各国でなされているSAR体制の情報を交換し、共通理解を得ることができたこと、

(2)海難事故調整機関とそれぞれの南極観測実施機関であるCOMNAP、民間旅行団体IAATOなどの間で、相互の合意を形成することを結論とする。最終報告書をまとめてATCMとCOMNAPに提出する。今回の会議の成功を認め、今後定期的に開くことが提案された。

次回はアルゼンチンで行われる予定。

 

東南極設営協力ワークショップの概要

期間

2008年9月26日~9月27日

場所

中国極地研究所(中国・上海)

参加国(8カ国)

オーストラリア、中国、フランス、インド、日本、韓国、ルーマニア、ロシア

日本からの参加者(3名)
白石和行(国立極地研究所副所長・極域観測担当)
千葉政範(国立極地研究所事業部設営室・専門職員)
外田恵子(国立極地研究所事業部企画課・環境企画係主任)

1. ワークショップ開催の背景

 2008年6月29日~2008年7月4日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催された第20回COMNAP(南極観測実施責任者評議会)において、各国間での南極地域における設営協力・共有に関する提案がなされ、討議が行われた。これを受け、オーストラリアが中心となり、東南極地域における各国の設営協力に関するワークショップが開催されることとなった。

2. ワークショップ開催の目的

 より緊密な設営協力の準備のために必要な選択肢の確認と将来的に設営協力を行うための仕組みの構築を視野に入れ、各国の南極観測プログラムの設営能力に関する情報を共有すること。

3. 主な議事

【1】 各国の南極観測プログラムから、3~5年後の活動計画に関する紹介および保有する設営設備に関する説明があった。特に、船舶や航空機等の人員物資の輸送手段や基地の設備などについては、場所や収容可能人数を含めた具体的な数値を示した説明がなされた。各国の設営設備に関する情報をまとめた一覧表は、後日、オーストラリアが参加国に回覧する予定。
【2】 東南極地域において、各国間でどのような設営協力が可能であるか議論された。他国間での設営設備の共有の例としてDROMLAN(ドロンニングモードランド航空網)に関する説明とその意義について議論が行われた。オーストラリアは自国の設定した航空路の今後の運用についての見通しを紹介した。
【3】 将来的な設営協力の協定のために可能な選択肢を明らかにすることをすることを視野に入れ、各国の南極観測プログラムの設営能力に関する情報を共有することを目的とする「東南極設営協力ネットワーク」の共同組織に関する声明が採択された。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)、03-6734-4144(直通)

-- 登録:平成25年02月 --