南極地域観測事業

第12回観測事業計画検討委員会議事概要(案)

1.日時

平成20年6月20日(金曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省 旧文部省庁舎 第一会議室

3.出席者

委員

 小池 勲夫

 国立大学法人 琉球大学 監事

 

 柴田 明穂 

 国立大学法人 神戸大学大学院 国際協力研究科 教授

 

 永原 裕子

 国立大学法人 東京大学大学院 理学系研究科 教授

 

 松田 治

 国立大学法人広島大学名誉教授

 

 安岡 善文

 独立行政法人 国立環境研究所理事

オブザーバー

 藤井 理行

 国立極地研究所長

 

 宮岡 宏

 第48次越冬隊長

 

 伊村 智

 第49次夏隊長

 

 小達 恒夫

 第50次隊隊長

 

 門倉 昭

 第50次隊副隊長

 

 石沢 賢二

 第50次隊副隊長

 

 菊地 信之

 外務省 国際協力局 地球環境課 課長補佐

 

 清水 健史

 外務省 国際協力局 地球環境課

 事務局

 近藤 秀樹

 文部科学省 海洋地球課長

 

 本吉 洋一

 文部科学省 科学官

 

 丸山 修一

 文部科学省 海洋地球課 課長補佐

4.議事

【1】 前回の審議状況及び前回の議事録(案)について、事務局より説明があった。

議事録について、修正、意見がある場合は、6月27日(金曜日)までに事務局に連絡をいただくこととされた。

【2】1.南極地域観測に関する状況について

(1)第48次越冬隊長より、第48次越冬隊の活動について報告、第49次隊長より、第49次夏隊の活動について報告があった。主な意見は以下のとおり。


小池委員長 
 温室効果気体で、メタンが増えている報告があったが、これは他の地域でも同じ現象が起こっているのか。

第48次越冬隊長 
 他の地域においてもメタン増現象が起こっているとの報告がある。

柴田委員 
 第49次隊及び交換科学者の報告において、生物研究及び採取を行ったとの記載があるが、バイオロジカル・プロスペクティング活動に関わる活動であるのか。もし該当する活動であれば、現在の南極条約下では、「バイオロジカル・プロスペクティング活動を行った場合は、協議国会議にて報告をする」とのルールがあり、今期のATCMにおいて報告しなければならなかったはずであるがその事実はない。今回の報告の活動は、バイオロジカル・プロスペクティング活動に該当しないのか。

第49次隊長 
 今回の活動は、バイオプロスペクタル・プロスペクティング活動にあたらない。氷床上の微生物研究については、研究目的が、生物が存在するか否かという点であり、生物多様性の研究である。また、カビの研究についても、多様性研究のもと行われた観測である。ただし、カビについては、そこから有用遺伝子等が取れる可能性はある。二次的にプロスペクティングに関わる成果となる場合もありうるため、今後は二次的に関与した場合の報告については検討が必要である。

小池委員長 
 生物多様性という科学的な目的を掲げれば、ATCMでの報告義務はないのか。そこから有用物資が取れる可能性がある場合は、プロスペクティング活動の一部となるのではないか。

第49次隊長
 例えば、明らかに遺伝子資源や物資資源の探査として現地調査を行う場合もありうる。その場合は、計画段階でプロスペクティング活動として申請すべきではないか。

小池委員長 
 現在、南極地域では多くの研究者が生物に関係しているが、この研究等が第三者により生物資源として扱われた場合は、その時点で報告すればよいのか。

柴田委員 
 現在、何をもってバイオロジカル・プロスペクティング活動であるかの定義が争われている。広域定義としては、現時点での目的がたとえ科学的目的であれ、将来利用され得るような微生物等を採取する活動についても含まれるとしている。しかしこの場合は、科学活動の自由とどのように両立するかが争点となっている。日本政府として、このバイオロジカル・プロスペクティング活動に対する立場をどう位置づけるか、是非検討課題としていただきたい。

藤井極地研所長 
 極地研としては次回のATCMをめざして意見整理をする必要がある。

永原委員 
 IPYに絡んで特別に行った観測はあるか。

第48次越冬隊長 
 オゾンゾンデのマッチ観測はIPYプロジェクトである。また、日本・スウェーデントラバース計画に関してもIPYプロジェクトである。

第49次観測隊長 
 IPYの各国で行われている活動を国民に紹介するキャンペーンに合わせて文部科学省でサイエンスカフェを行った。

(2)引き続き国立極地研究所より、平成19年度に派遣した交換科学者及び外国共同観測についての報告と、第49次越冬隊の現況についての報告が行われた。主な意見は以下のとおり。

柴田委員 
 「オーロラ オーストラリス」は日本へのサポートのみに使用されるのか。

白石極地研究所副所長 
 年間4~5回、オーストラリアと南極を航海している。

柴田委員
 非常事態が起こった場合のバックアップ体制はどのようになっているか。

白石極地研究所副所長 
 南極でのオペレーションであるため、不測の事態について対処を講じている。第一優先は、第49次越冬隊を安全に日本に帰国させることである。次に挙げられるのは、第50次隊を安全に南極に送り届けることである。この場合、予定数全員か一部かによって越冬活動にどのような影響が出るかについても想定を行っている。このようなワーストケースについては、今年度「オーロラ オーストラリス」によるオペレーションであるために想定するのではなく、毎年行われている。

柴田委員 
 契約上はどのようになっているのか。

丸山海洋地球課課長補佐 
 昨年の秋に、基本的なMOUをオーストラリア南極局との間で取り交わしを行っている。詳細な部分については交渉中である。

小池委員長 
 基本的に、越冬隊は今年度帰国させる計画であるのか。

白石極地研究所副所長 
 物理的に2年越冬も可能であるが、近年航空機の利用も可能となったため2年越冬はないと思われる。

藤井極地研究所長
 2年越冬というのは、日本の南極観測50年の歴史の中で、次の船が迎えにこられない非常事態を想定して、油2年分、食糧2年分を維持している。食糧に関して は、非常食を入れ替えつつ備えている。ただし、この50年間に2年越冬は一度も無かったため精神的な面が一番の問題点である。

松田委員
 「オーロラ オーストラリス」から基地までの空輸期間が2週間であるが、悪天候なども考え余裕をもった期間となっているのか。

白石極地研究所副所長 
 余裕をもった期間を設定している。

【3】2.第50次南極地域観測について

 国立極地研究所より、資料7に基づき第50次隊輸送計画概要について説明あり、また第50次南極地域観測隊長から、資料8に基づき第50次南極地域観測実施計画について説明があった。続けて資料9に基づき第50次南極地域観測隊員等について説明があり、承認された。主な意見は以下のとおり。

小池委員長 
 海鷹丸はどこから来るのか。

第50次観測隊長 
 ケープタウンから下ってくる。

小池委員長 
 海域の観測は「オーロラ オーストラリス」を使用した場合共同で行うのか。

第50次観測隊長 
 「オーロラ オーストラリス」ではフリーマントルを出航した後、110度ラインを南下する際に観測を行い、海鷹丸では違うコースで観測を行うためオーバーラップする点はほとんどない。

柴田委員
 National Antarctic Expedition には、同行者も含まれるのか。「海鷹丸」の行動も含まれるのか。もし、すべての活動が日本政府の観測活動であるならば、現在問題となっている隊員や船が事故を起こし、環境に損害を与えた場合の責任は国の責任にまとめることが可能であるが、含まれない場合は、だれにどのような方法で損害賠償を負わせるかという問題がある。
 もう一つは、非政府活動では保険をかける義務を負わせることが2004年のATCMにおいて採択されている。この内容にも関係するため、それぞれのステータスについて教えていただきたい。

丸山海洋地球課課長補佐
 同行者については、観測隊員と共に本部決定し派遣されるということから考えれば、政府活動の一環として見ることができる。「海鷹丸」については、非政府活動に相当すると考えられる。ただし、今後、南極観測活動の多様化が進む上では、このような活動を南極観測事業の枠組みの中でどのように運用するかについて議論いただかなければならない。

小池委員長 
 国際的に、政府活動及び非政府活動とはどのような背景に基づいているのか。科学の世界では、その枠を超えて共に行う考えである。

柴田委員
 背景としては南極がアクセスしやすくなった点があげられる。よって政府がお金を出資してアクセスする以外に民間や大学でもアクセスできるようになってきている。つまり南極域に到達している人の数やその活動の多様性が高まっていることが背景にあると思われる。最近問題となっているのは、非政府活動の中でも観光及びツーリズムである。現在の議論では、政府コントロールが及ばない人が多数南極地域に入ることにより問題が起きているが、その対応が政府として十分に行えない状況になっていることから、非政府活動及び観光活動をより厳しく規制する必要があるのではないかという点である。

丸山海洋地球課課長補佐
 先ほど「海鷹丸」の活動についてであるが、例えば独立行政法人あるいは国立大学法人等が船を運用し、南極地域に行く場合は、何をベースに運用しているかに依るということも考えられる。すなわち、国が定める中期目標等に基づき予算が組まれ活動を行っている場合についてはどう考えるのかは論点の一つであると思われる。

杉本委員
 開かれた南極観測を行う場合、南極観測隊での活動が環境を破壊するおそれがあるかについては審査対象となるのか。

白石極地研究所副所長 
 観測計画の審査の際に、研究の意味とは別の観点で、環境に関する国内法に準拠しているかという項目がある。

柴田委員
 例えば事故が起きて救助をしてもらった場合の経費を払うことができる保険に入るように義務づけ、その上限額はこのくらいの額を要求する等は、具体的な議論となっており、法的拘束力がある形で国際的な文書が採択されている。まだ日本は承認していないため、日本では拘束力はない。そういう意味で、敷居が高くなることは考えられる。

小池委員長
 国立大学が法人化される際、すべての法人は保険に入っているため、このような体制には慣れてきている。国際的な場面で、できるだけ敷居が高くならないように外務省に努力していただきたい。

【4】3.第51次南極地域観測計画について

 事務局及び国立極地研究所より、資料10に基づき説明があった。主な意見は以下のとおり。

小池委員長 
 マルチナロービームを行う定常観測は、海洋物理・化学の観測ではないため名称を変えてはどうか。

白石極地研究所副所長 
 従来、海底地形測量を海洋物理・化学の中の1項目として行っていたため、現段階では変更をしない。ただし、第8期では検討を行う。

小池委員長 
 定常観測を第8期以降どのように行うかについて検討を行う必要がある。

永原委員 
 マルチナロービームを今後継続する場合、毎年同じ経路で行うと意味が無いと思うがどうか。

白石極地研究所副所長
 マルチナロービームは、海上保安庁が担当するが、海図を作成するというミッションと地球物理データというミッションの相手方において、一番効率的な方法を検討しなければならない。

永原委員 
 ただ往復するだけでなく観測をする場合は、南極滞在期間が短くなるのか。
白石極地研究所副所長
 船の航路は毎年フレキシブルに対応しなければならない。輸送形態システムがコンテナ化し合理化されることにより、昭和基地での積み卸し時間が短縮されることが想定されるため、この期間を有効に活用できるかもしれない。新「しらせ」の活用としては、今まで以上に輸送に力を注ぐことから、砕氷船としての能力を生かし、オープンシーではなくその海水域に重点を置き観測をする一つの方向性としてマルチナロービーム観測がある。

藤井極地研究所長
 今後8期計画立案に向け、様々な意見交換を行うことが必要である。25年ぶりの新しい船をどのように有効に使用するか。特に世界に冠たる砕氷船をどのように使用するか。またそれにより新しい成果を発信していきたいと考える。

松田委員 
 「より一層の環境負荷軽減を図るために、新エネルギー利用システムの構築」とあるが、具体的には何か。

白石極地研究所副所長
 太陽発電や、風力発電である。

松田委員 
 エネルギー需要など具体的に考えているのか。

藤井極地研究所長
 年間発電量での夏の太陽光発電は3%ぐらいである。第8期には倍を目指す。風力は問題もあり、試験的なものである。

【5】4.南極地域観測第8期計画策定スケジュールについて

 事務局より、資料11に基づき説明が行われた。

【6】5.南極条約国会議(ATCM)の概要について

 外務省より、資料12に基づき説明が行われた。主な意見は下記のとおり。

柴田委員
 来年4月の協議国会議は大変大きな会議となる。平和と科学の50年ということで、IPYの成果も含めて、今後の南極科学活動の重要性とその社会的意義に対して、政治的に強力なサポートを表明するというような会議となると想定される。まさに今後を見据えるという国際的な動向と、我々の第8期の議論が重なるため、次回の検討の内容を来年4月の会合において何らかの形でフィードバックできるような形で、日本がいかに新「しらせ」を使って観測活動に力を入れ、それが南極条約体制における科学活動のサポートの一部を構成するというような形で、戦略的にこの8期の計画策定、そして、新「しらせ」の就航を披露、第Ⅷ期の議論と国際的な議論を結びつけていくということが大変効果的であるように思う。

小池委員長
 南極の場合は、科学的な研究というのが非常に大きなウエートを占めており、それが国際的な縛りでこちらが意図しているものと違う方向へ行ってしまうとなかなか後で取り返しがつかないため、なるべく早目に手を打ってこちらの主張を行うことは非常に大事である。よって、なるべく今年のうちに議論をして、来年ATCMにフィードバックがうまくできるように事務局に努力していただきたい。

永原委員
 SCARは具体的にどのように活動しているのか。また国内のSCAR委員会はどうか。

白石極地研究所副所長
 SCAR会長、事務局長はATCMに出席している。この会合でサイエンティストの代表としての発言をしている。現在は、2年ごとにSCARの総会を開催している。今年は来月サンタクルーズで会合があるが、そこへ代表を出して、国際共同研究や国際動向の議論をしたい。それを国内の研究者コミュニティにフィードバックしたいと考えている。

永原委員
 SCARは、あまり観測計画に絡んでいないがどうか。

白石極地研究所副所長
 南極に関するサイエンスの情報交換の場であるSCARの国内委員会の立場というのは、昔に比べて希薄になっている。昔は、日本学術会議の南極特別委員会が現在の極地研究所の役目を行っていたが、それに比べると随分縮小されている。

松田委員
 新しいビジョンにある公開利用研究というのは、極地研が公募して計画の審議を南極観測審議委員会が行う。つまり、ある意味では、狭義の南極地域観測事業ではないけれども、そのエクスペンション事業と読める。公開というのは、そもそもだれかがだれかにオープンするという話なので、どの程度オープンに審査するのか。

白石極地研究所副所長
 この前提として、この公開利用研究に参加する研究者の方は、南極に実際行くときは、同行者という立場で派遣されることになる。同行者は、本部総会で審議・承認されるため、そういう意味では国家事業に含まれる。

安田委員
 国内で研究計画をチェックする体制は整っているのか。また他国からチェックされることはあるのか。

白石極地研究所副所長
 環境省で南極環境議定書を基に審査を行っている。

柴田委員
 南極条約では査察という強力なチェックメカニズムがあり、どの国もいかなるときにも自由に査察委員を派遣して、他国の基地でも船舶でも全部査察できるというのが南極条約で定められている。環境保護議定書でも定められているチェック機能である。日本はこの50年間1度もその査察をだれに対してもやっていない。日本に対してはやられてはいる。南極条約体制の基で我々の観測活動も行われていることから、それが維持発展していくため、新「しらせ」の利用の1つの方法として、日本も他国が悪いことをやっていないかどうかを見ていくというような姿勢も必要である。

杉本委員
 新「しらせ」は非常に砕氷能力が高く、ほかの国にはないようなすばらしい砕氷船である。国民の税金を使って新しい「しらせ」を建造し、私それを利用することが我が国の誇りとすることができるのであれば、それを使用してこういうすばらしいサイエンスができるんだということを国民にPRすべきではないか。

小池委員長
 広報は非常に大事である。非常にメリットが大きいんだということをやはりぜひ極地研としても強く発信していっていただきたい。

(了)

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

極域研究振興係
電話番号:03-5253-4111(内線4144)、03-6734-4144(直通)

-- 登録:平成25年02月 --