南極地域観測事業

第32回南極条約協議国会議(ATCM32)概要

平成21年4月17日
日本代表団

1.概観

 第32回南極条約協議国会議は、4月6日から17日まで米国ワシントン及びボルチモアにおいて開催された。初日の6日に、1959年に採択された南極条約50周年及び国際極年2007―2008の終了を記念して閣僚級会合が行われ、我が国から日本政府を代表して橋本聖子副大臣が出席した。閣僚級会合では、「平和と科学の50年」を基本テーマとして、南極条約協議国及び北極評議会加盟国を代表する閣僚レベルの参加者による議論が行われ、南極の平和利用と国際協力の推進という南極条約の基本理念を再確認する「南極条約50周年に関するワシントン閣僚宣言」、及び国際極年の期間中に行われた観測の重要性を謳った「国際極年と極地の科学に関するワシントン閣僚宣言」が採択された。
6日から2週間にわたり、南極における環境の保護、観光・非政府活動のあり方、南極における生物探査活動等について、集中的な議論が行われた。

2.各論

(1)南極条約協議国・北極評議会合同閣僚会合

 閣僚級会合では、ホスト国である米の呼びかけにより、「平和と科学の50年」を基本テーマとして、原署名国であるわが国を含め、北極評議会の加盟国の参加を得て国際極年の成果及び極地の科学の将来について意見交換が行われた。橋本副大臣は、南極条約体制の将来に対する我が国の協力の継続を確認し、我が国の北極評議会へのオブザーバー加盟に対する関心を表明した。
また、南極条約50周年と、国際極年と極地の科学に関する閣僚政治宣言が満場一致で採択された。

(2)事務局長の選出

 任期満了に伴い、本年9月に交代する南極条約事務局長の後任者の選出が行われ、独のマンフレッド・ラインケ氏(アルフレッド・ウェーゲナー極地海洋研究所上席科学官)が南極条約次期事務局長として選出された。同氏の任期は、2013年までの4年間。

(3)観光・非政府活動対策

 南極における観光活動の活発化や2007年11月に発生した観光客船エクスプローラー号の沈没事故等を背景として、南極の環境保護及び航行の安全面から、観光・非政府活動に関して、これまでにない活発な協議がなされた。南極観光への取組に関する一般的原則が議論されたほか、南極を訪れる観光船の乗客数及び上陸人数に上限を設ける内容の措置等が採択された。
また、南極海で航行する客船の構造や南極で行われるスポーツ行事のあり方等につき、今次会合で十分議論ができなかったため、次回会合までの期間に、南極条約事務局のウェブ上に設置されている電子フォーラムでも議論を続けていくことになった。
我が国は環境保護と科学活動及び観光活動の両立を基本的立場として、議論に積極的に参加した。また、次回会合までの電子フォーラムにおける議論にも積極的に貢献していく所存。

(4)南極地域の環境保護

 ペンギンやアザラシ等南極地域の動植物の殺傷等の行為と非在来種の持込みの禁止が、環境保護に関する南極条約議定書附属書2で規定されている。同附属書については、2001年から、主として無脊椎動物(昆虫等)を保護対象として追加することを中心に規定の見直し、再整理の議論が重ねられてきた。今次会合において各国間の立場が収れんし、無脊椎動物の保護対象への追加などの附属書2の改正が合意された。なお、魚類、オキアミ等の海洋生物種の保護・保存については、従来の整理どおり、南極条約ではなく南極海洋生物資源保存条約の管理下で実施されることが明確にされた。
また、南極条約協議国会議において指定される「南極特別保護地区」や「南極特別管理地区」に関して、新規地区指定や既存地区の管理計画改正について合意された。

(5)南極における生物探査(バイオプロスペクティング)

 2000年頃より、南極に生息する動植物の遺伝資源を活用して新薬等の製品を開発する行為について、国際的な議論が高まっている。このため、近年の南極条約協議国会議において、南極における生物探査活動のあり方について活発な議論が交わされ、今次会合でも継続して議論がなされた。生物探査活動の定義、遺伝資源の利用による利益配分等について議論がなされ、本問題は既存の南極条約体制で既に対応できていることが確認されたほか、追加的な規制の必要性などの論点については、次回会合までの期間に、電子フォーラムでさらなる意見交換を行っていくことになった。

(6)事務局の運営

 我が国の提案により、増加傾向が続いていた会議文書の翻訳費について、提出文書のページ数に上限を設ける等のルールが採択され、経費節減など会議運営の一層の効率化が図られた。

(7)次回会合

 第33回南極条約協議国会議は、2010年5月3日から14日まで、ウルグアイで開催される。

(参考)

 南極条約は、1959年に採択され、1961年に発効。2009年4月現在、締約国数は47。そのうち、我が国を含む28カ国が協議国となっている。我が国は、同条約の原署名国であり、1960年に同条約を締結、協議国として、南極地域における平和の維持、科学的調査の自由の保障とそのための国際協力、軍事利用の禁止、領土権主張の凍結、環境保全と海洋生物資源の保存等の面で、積極的役割を果たしてきている。その後、1991年には環境保護に関する南極条約議定書が採択され、環境影響評価(附属書1)、南極の動物相及び植物相の保存(附属書 2)、廃棄物の処分及び廃棄物の処理(附属書 3)、海洋汚染の防止(附属書 4)、南極特別保護地区規定等(附属書 5)と共に1998年に発効、南極の環境及び生態系の包括的保護が進められている。

(了)

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