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南極地域観測事業

第52次日本南極地域観測隊 夏隊報告

第52次夏隊の概要

  1. 厳しい海氷状況、悪天候にはばまれて計画の遅れが出たが、ほぼ所期の目的を達成した。
  2. 新「しらせ」2年目の航海にあたり、搭載限界1300tに近い大量の物資を輸送した。
  3. 重点研究観測の一環で、アンテナ1000本からなる大型大気レーダーを設置した。
  4. 大型の建物である自然エネルギー棟の主要部を建築した。
  5. ペンギンの行動調査をはじめ、露岩域の地質調査、測地、地球物理観測など「しらせ」ヘリコプターや観測隊小型ヘリコプターを駆使して多彩な沿岸域の調査を実施した。
  6. 重点研究観測の一つに基づく内陸ドームふじまでの調査旅行を実施、併せてドームふじ基地で初の天文観測を開始した。
  7. 重点研究観測の一つで、「海鷹丸」による海洋観測を実施した。
  8. 大学院学生、公開利用研究者、技術者、中高教員、環境省係官、韓国メディアなど多彩な同行者が参加した。

1.はじめに

 第52次南極地域観測隊(以下、第52次隊)は、2009年11月の第135回南極地域観測統合推進本部総会で決定された「南極地域観測第8期6か年計画」の初年度の計画を実行する隊として、観測実施計画および設営計画は極めて多岐にわたった。長期的に継続する定常観測、モニタリング観測から構成される基本観測を進めるとともに、新しく、重点研究観測「南極域から探る地球温暖化」の下、3つのサブテーマ「南極中層・超高層大気を通して探る地球環境変動」、「南極海生態系の応答を通して探る地球環境変動」、「氷期‐間氷期サイクルから見た現在と将来の地球環境」を開始し、さらに一般研究観測10課題を実施した。大型大気レーダーの設置および自然エネルギー棟建設という2つの大型建設計画を含め、物資輸送、昭和基地での作業、しらせ船上での観測等、さまざまな課題を伴う夏期行動実施計画であった。特に、前次隊以来の厳しいリュツォ・ホルム湾の海氷状況など、様々な自然条件からも、計画の完全実施は困難が予想された。このため、第一優先を昭和基地越冬成立(越冬基本観測に必要な物資の輸送と越冬隊員の交代)とする、第二優先を大型大気レーダー設置(重点研究観測)および自然エネルギー棟建設とするという優先順位を含む基本方針に基づき計画の遂行をはかることとした。
 実際、海氷状況および天候は極めて厳しいものであった。定着氷が厚く積雪が多く、しらせの砕氷に困難を来すことが前次隊同様であっただけでなく、流氷域も広くかつ乱氷状態にあり、往路、復路ともに大いに難渋した。また、天候が悪いことも特徴であった。12月中は比較的好天であったものの、1月に入るとほとんど毎日強風と降雪、吹雪の連続で、日照時間は昭和基地観測始まって以来の最低を記録した。しかし、その中で、大部分の夏期作業は進展し、ほぼ計画を達成できた。2月も中旬以降、強風、吹雪が多く、たびたびブリザードにも襲われ、夏期間最終局面では飛行計画の遅れ、変更を余儀なくされた。
 一方、別働隊である海鷹丸による観測も、海域は異なるものの厳しい海氷状況にあったことは同様であった。重点研究計画サブテーマ2「南極海生態系の応答を通して探る地球環境変動」を中心とした観測が行われた。

2.「しらせ」により昭和基地に向かう隊

2.1 往路

 第52次南極地域観測隊は、越冬隊30名、夏隊33名、同行者28名(公開利用研究者、海鷹丸乗船研究者、大学院学生、観測設備技術者、氷海航行試験関係者、中・高等学校教員、環境省職員、報道関係者、韓国メディア派遣者、ヘリコプター要員)から構成された。海鷹丸乗船者13名を除き、観測隊員・同行者計78名は、すべて「しらせ」により昭和基地に向かった。
 2010年11月11日、「しらせ」は東京港晴海埠頭を出港し、11月25日にオーストラリアのフリーマントル港へ入港した。観測隊員のうち4名(夏期設営担当副隊長、気水圏担当夏・越冬隊員2名および越冬設営隊員)および同行者1名は晴海埠頭より「しらせ」に乗船し、一般研究観測「エアロゾルから見た南大洋・氷縁域の物質循環過程」を実施した。11月24日、越冬隊28名、夏隊28名、同行者15名の計71名は、成田空港よりオーストラリアに向け出発、翌25日フリーマントル港で「しらせ」に乗船した。韓国からの同行者2名も合流した。同港で船上観測の準備や現地購入食料等の積み込み、さらには天文観測関連等、オーストラリアとの共同研究物資の搭載も行った。
 11月30日、「しらせ」はフリーマントルを出港、船上観測を行いつつ、12月5日に南極圏(南緯55度以南)に入った。この間にオーストラリア気象局から依頼された気象観測用ブイを投入した。東経110度線に沿った航走観測、停船観測を南緯62度まで継続した後、西航した。12月16日深夜リュツォ・ホルム湾沖で海底圧力計を設置し、昭和基地へ向けて砕氷航行を開始したが、定着氷進入地点に向け南下する流氷域の氷状が厳しく、乱氷状態にありラミングを繰り返すこととなった。あまりに進捗が遅いので、大きく東に迂回して、いわゆる大利根水路に入り西向きに戻る航路をとった。19日、昼間は停泊してヘリコプター防錆解除作業、ブレード取り付けを行いつつ、夜間砕氷航行を続け、20日も92号機の試飛行を行い、その後19時29分に定着氷に進入した。引き続き砕氷航行を行いつつ機を待ち、23日にようやく昭和基地への第1便を飛ばすことができ、昭和基地への越冬隊員等の送り込み、準備空輸、S16へのドーム旅行隊や野外観測グループの派出をおこった。既に、昭和基地から12マイル以内の地点に近づいていた。その後、夜間は砕氷航行を行いつつ、24、25日にかけてS16へのスリング輸送、昭和基地への緊急物品の空輸を行った。以後、砕氷航行を続け、1671回のラミングの後、31日23時20分昭和基地沖に接岸した。

2.2 昭和基地接岸中

 越冬物資・人員の輸送、夏期の野外調査・基地観測、建設等設営作業、51次越冬隊・52次夏隊持ち帰り物資の輸送、持ち帰り廃棄物の輸送、越冬成立を目的とし、2月中旬昭和基地最終便までの期間、上記した優先順位に従ってオペレーションを実施した。

・観測

 夏期間には、船上、昭和基地周辺の野外観測、そして昭和基地において基本観測(定常およびモニタリング観測)及び研究観測(重点、一般)、公開利用研究を実施した。「しらせ」に搭載されたマルチナロービーム測深機を用いた海底地形測量を氷海域で実施した。昭和基地での基本観測は、越冬観測のための引き継ぎと機器の入れ替え調整、校正が多かった。夏期の観測としては、潮汐観測のための副標観測、測量、VLBI観測、52次から越冬隊員が不在となる電離層観測の準備等であった。重点研究観測は、第8期として新しく開始されるものが大部分で、大型大気レーダーの1000本を越えるアンテナの基礎掘削、アンテナ取り付け、送受信機モジュール設置とケーブル配線のほか、レイリーライダーやミリ波分光計等、機器の設置・調整が大仕事となった。なお、大型大気レーダーは、越冬隊により、3月下旬、初期観測を開始した。
 野外観測としては、12月下旬からのスカレビークハルセン調査をはじめ、ルンドボークスヘッタ、スカーレン、スカルブスネス、ラングホブデ、パッダ島、かなめ島、からめて岬、インホブデ、西オングル島、プリンス・オラフ海岸域等の露岩域さらに沿岸氷床域において、地質、地圏、測地、陸上生物、大型動物、宙空等の観測を実施した。大型動物(ペンギン)調査では、ラングホブデ袋浦に、ほぼ夏期全期間滞在して実施した。これら野外観測支援には「しらせ」ヘリコプターに加え、観測隊小型ヘリコプターも使用した。特に、地質隊は、ベースキャンプに長期間滞在の間、周辺露岩域への日帰り調査に小型ヘリコプターを多用した。
 12月中旬から2月中旬まで、内陸ドームふじ基地までの往復トラバース観測を行うとともに、ドームふじ基地では浅層掘削、フィルンエアサンプリング(掘削とサンプリングは少し離れた地点にて)、南極天文観測等を実施し、第48次隊までに掘削した深層氷床コアを持ち帰った。特に、天文観測は初の本格的観測として、赤外線望遠鏡の観測や無人観測用の発電機システムの導入などが行われた。
 1月中旬から2月初旬には、リュツォ・ホルム湾において氷上での海氷観測を続けたほか、2月5日には「しらせ」の氷海航行試験、海底地形調査も実施した。
 その他、大陸上S16において気象、地学、生物、機械等の観測・引継ぎを行うとともに、第51次隊よりとっつき岬までのルートの引継ぎを受けた。また内陸ドーム旅行隊の収容オペレーションを実施した。

・設営

 輸送については、持ち込み物資総量1294 tと、観測・設営計画が大規模かつ多岐にわたるため、しらせ搭載最大限の物資を輸送した。昭和基地1267 t(内訳:貨油526 t、氷上487 t、空輸255 t)、S16行18 t、沿岸野外9 tであった。接岸不能の場合の輸送も、空輸及び氷上輸送により可能な限り行うこととしていた。実際には年内ぎりぎりで接岸がかなったが、天候不順もあって、その後の氷上輸送、空輸も時間を要し、本格空輸終了は1月23日と遅くなった。これは、既に夏期作業終盤であり、第1便直後の緊急輸送物資の多さと相まって、今後の大きな課題である。なお、輸送は氷上及び空輸が強風や視程悪化による中止を余儀なくされた日があったものの、日照時間が極端に少なかったため逆に海氷面の融解が進まず、氷上輸送時の海氷ルートは終始安定していたという面もあった。持ち帰り物資は総計428 t(廃棄物223 t)であった。
 昭和基地作業については、観測のための大型大気レーダー関連の観測制御小屋建設と設備工事から、大型の自然エネルギー棟本体部分の建築(土台基盤のコンクリートのみ51次で施行済み)と極めて大規模であったことから、その他300 kVA発電機のオーバーホールはじめ通常の設営作業を含めて作業量が予定1900人日、実質2300人日弱と、近年にない多さであった。従って、昭和基地作業支援についても、作業量が極めて多いことから、例年の人日を超えた支援をしらせに要請し、また、作業の習熟度や休日の設定など合理的な対応を検討した。実際、1月7日から2月7日まで、6泊7日を標準に、計5期、延べ32日間にわたって各期間14ないし18名、合計500人日を越える派遣を得たが、天候不良による作業休止や交代日の半日作業などで、実作業は386.5人日にとどまった。各工事現場の初動時に除雪等で時間を取られた。また、コンクリートプラントや夏期宿舎の生活用水の確保に苦労した。
 東南極航空網(DROMLAN)により、緊急の物資輸送(タイヤ・ローダのタイヤおよび大型大気レーダーのアンテナ基礎掘削機の部品)が行われ、S17での引き取り作業を2月3日から4日にかけて行った。

・同行者課題

 18名という前次隊におとらぬ多人数の同行者が昭和基地を訪れた。このうち、公開利用研究での参加者2名、大学院学生3名、大型大気レーダー技術者4名、ヘリコプター技術者2名はそれぞれ観測活動に直接参加したので、観測計画の中でその動きは把握されていた。しかし、それ以外の同行者、報道、環境省、派遣教員2名、韓国メディア2名については、独自のテーマで参加しているため、昭和基地内での行動から、野外観測への同行など、その行動計画の作成・調整およびその把握は複雑であった。野外観測計画自体が極めて多岐にわたり調整に苦労した中で、さらにこれら同行者の計画がからみ、大変複雑となった。特に、夏期間後半は天候が不良で多くの計画の変更が必要となり、同行者の行動も制約を受けた。同行者の行動計画、把握は隊長用務のうちかなりの比重を占めるものであった。派遣教員による昭和基地からの「南極教室」は5回にわたって実施された。

2.3復路

 第52次隊越冬隊は、1月下旬に昭和基地の引き継ぎを行い、2月1日に第51次隊と越冬を交代した。
 2月18日、「しらせ」は定着氷縁にて第51次越冬隊28名、第52次夏隊30名と同行者18名を最終的に収容した。同日、定着氷縁を離れ北上を開始する予定であったが、S16からの物資撤収が21日まで遅れたため、ヘリコプターのブレード取り外しを済ませ、定着氷縁を出発したのは22日となった。なお、昭和基地沖は8日に離岸し、途中数日の野外観測支援飛行作業のための停泊を含め、定着氷中の砕氷航行は10日間続けられていた。昭和基地における作業量が膨大であったため、滞在期間を長く取り、帰路の日程に余裕がなかったところ、悪天候により3日の遅れが出たため、帰路のアムンゼン湾での全てのオペレーションを断念せざるを得なくなった。復路においても往路同様流氷帯が残っており砕氷に困難をきたしたため、リュツォ・ホルム湾の氷海離脱にも時間を要し、合計1577回のラミングの後24日朝、ようやく海底圧力計の揚収をおこなうことができた。その後、海底地形調査の他、27、28日は天候に恵まれ、ケープダンレー沖での係留系設置5か所・回収2か所を2日間で済ませることができた。以後、海洋観測、東経110度線、150度線での重点海洋観測を行いつつ東経150度線に沿って北上し、3月13日に南極圏を離脱した。
 3月18日、「しらせ」はオーストラリアのシドニー港へ入港し、20日、第51次越冬隊と第52次夏隊、および同行者はシドニーから空路帰国した。なお、東日本大震災の報を受けた「しらせ」は日程を早め22日シドニー港を出発し、4月5日に横須賀に帰港した。

3.海鷹丸により観測を行う隊

 海鷹丸の南大洋における観測は,1956/57の第1次南極観測事業に「宗谷」の随伴船として参加して以来,今回が18次となる。近年では,2002/03年以来およそ3年に2度の頻度で行われ,今回が6回目(レグでは9レグ)の観測となる。今回の観測航海(UM-10-04)は,東京海洋大学研究練習船「海鷹丸」の平成22(2010)年度遠洋航海(平成22年11月12日~平成23年3月4日)のうち,フリーマントル‐ホバート間(平成22年12月24日~平成23年1月22日)において,110°E線, 140°E線を中心としたふたつの海域で行われた。また,この航海は,大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所と,国立大学法人 東京海洋大学との共同研究(課題名:2010/2011 年南極夏期共同観測「南大洋の環境変動と生態系変動」)として行われた。その内容は、南極地域観測計画の重点研究観測サブテーマ2「南極海生態系の応答を通して探る地球環境変動」、一般研究観測「プランクトン群集組成の変動と環境変動との関係に関する研究」、そして海洋大独自課題「南大洋の環境変動と生態系変動」からなった。
 重点研究観測および一般研究観測の下、南極海における長期係留系観測、有殻翼足類の調査等、観測隊員3名、同行者10名により実施した。隊員等は12月20日成田空港より出発し、21日オーストラリア・フリーマントル港で海鷹丸に乗船した。2010年12月24日フリーマントル出港直後から大しけに見舞われたが,重点研究観測域までの110°Eラインに沿った観測は概ね順調に進んだ。110°E付近の重点研究観測海域では,一部の観測点は海氷に覆われて観測ができなかったが,その他の観測点については海況にも恵まれ順調に進んだ。140°E線の観測では,最初にDumont d’Urville基地沖で投錨する予定であったが,海氷と悪天候に阻まれて断念した。2011年1月22日ホバートへ入港し、隊員等は1月25日成田空港に到着した。

4.環境保護活動

 「環境保護に関する南極条約議定書」および「南極地域の環境の保護に関する法律」を遵守して行動した。また、環境省から南極域の現地調査を目的に係官の同行を得た。ラングホブデ雪鳥小屋周辺のごみの回収を行った。

5.情報発信・広報活動

 南極観測による学術的成果や活動状況を広く社会に発信するため、メディアに対する情報提供に努めた。第52次隊で派遣された教員2名による「南極授業」を夏期間に5回にわたり実施した。また、新聞協会派遣による産経新聞記者の同行を得て現地からの記事・写真を多数発信し、韓国から派遣された2名の同行者によりドキュメンタリー映像の撮影・インタビューが行われた。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

-- 登録:平成24年02月 --