動植物に共通するアロ認証機構の解明(澤田 均)

研究領域名

動植物に共通するアロ認証機構の解明

研究期間

平成21年度~平成25年度

領域代表者

澤田 均(名古屋大学・理学研究科・教授)

研究領域の概要

 有性生殖は、アロ(同種異個体)の関係にある細胞(配偶子)同士が融合し、遺伝的に多様な子孫を残す仕組みである。これには、遺伝的に異なる配偶子を選抜するアロ認識機構と、選ばれた雌雄の配偶子が膜融合する配偶子融合機構が含まれる(ここでは2つの機構を統合して「アロ認証」機構と呼ぶ)。これまで「アロ認証」機構は生物種でかなり異なると考えられ、個別に研究が進められてきた。しかし、領域代表者が世界に先駆けて最近発見した原索動物のアロ認識機構(雌雄同体のホヤが自家受精を防ぐ仕組み)が動植物の共通の原理に基づくこと、さらに、植物配偶子の膜融合に必須の遺伝子が動物にも広く存在することが明らかにされ、今まさに、動植物の枠を越えた「アロ認証」機構の中核原理の解明が求められている。本領域研究では、動植物研究者が一堂に会して新しい融合領域を創成し、動植物に共通する「アロ認証」機構の解明をめざす。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 有性生殖はアロ(同種異個体)の関係にある細胞(精子と卵)が融合し、遺伝的に多様な子孫を残す仕組みである。これには、遺伝的に異なる配偶子を選別するアロ認識機構と、選ばれた雌雄の配偶子が膜融合する配偶子認識機構が含まれる。本領域では、この両認識機構を統合して「アロ認証」と呼んでいる。これまでアロ認証の仕組みは生物種でかなり異なると考えられ、個別に研究が進められてきた。しかし、領域代表が世界に先駆けて最近発見した原索動物のアロ認識機構(雌雄同体のホヤが自家受精しない機構)が被子植物における自家不和合性の機構(自己の花粉が雌蕊についても自家受精しない機構)に酷似し、動植物に共通の原理に基づくことが示されたこと、さらに、植物の配偶子膜融合に必須な遺伝子(GCS1)が動物にも広く存在することが明らかにされたことから、動植物の枠を越えたアロ認証研究領域の融合とその中核原理の解明が求められている。そこで本領域研究では、世界をリードする本邦の動植物研究者が一堂に会して、全く新しい融合研究領域を創成し、『動植物に共通するアロ認証機構』を解明することを目的としている。研究項目として、「アロ認識機構」、「配偶子接近・相互認識機構」、「細胞接着・膜融合機構」、「新技術開発とアロ認証統合理解」を設定し、相互に連携をとりながら、共同研究の推進を図る。特に、新技術等の情報や高額機器の共有化を推進するとともに、若手研究者の育成にも力をいれ、新しい角度からの独創的先進的な研究を一層発展させる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域研究は、7件の計画研究と総括班により平成21年度から開始され、平成22年度から2年間の公募研究が23件と、平成24年から2年間の公募研究が16件加わり、活発な領域研究が展開された。今までに8回の領域会議、2回の国際会議、12回の学会関連シンポジウム、2回の一般公開講演会を開催している。領域のホームページでは、新着論文紹介・評論サイトを設けて、新知見や新技術に関する情報の共有化を図った。またプロテオーム解析、ライブイメージング解析、遺伝子改変生物の開発などの領域内支援活動も活発に行い、共同研究を推進させて、多くの重要な研究成果を出すことができた。アロ認識研究に関しては、雌雄同体のホヤの自家不稔機構と被子植物の自家不和合性の機構が、当初考えていた以上に共通原理に支配されていることが判明した。また、膜融合因子GCS1に関しても、高等植物やマラリア原虫のみならず、コケ類、細胞性粘菌、刺胞動物にも発現しており、有性生殖に関わっていることが示され、動植物・単細胞生物に共通する配偶子認識機構の存在が裏付けられた。これはまさに本領域の創成なくしてはなし得なかった成果といえる。哺乳類の配偶子膜融合因子の機能領域の同定や機能解析の面でも進展が見られた。本融合領域の創成により、動植物生殖学の研究者間での連携や研究交流が活発になり、共同研究も非常に進んだ。また、本領域研究の総括を、和書「動植物の受精学(化学同人)」と洋書「Sexual Reproduction in Animals and Plants (Springer)(電子書籍:無料)」にまとめて、社会に情報発信できたことも大きな成果といえる。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、動植物研究者が一同に会して、新興融合領域を創成し、共同研究を通して動植物に共通するアロ認証機構の解明を目指した。これまでに、自家不和合性応答に細胞内カルシウムが動植物で共通して関与することの証明や、受精時の先体反応開始時期に関する従来の説を覆す新説の提唱など、領域内の共同研究によって優れた成果が公表されている。また、動植物共通のアロ認識機構の一般化についてもある程度達成している。さらに、異分野連携の重要性が領域全体に浸透しており、個々の生物種における個別研究に終わらない有機的な連携により新たな研究領域の発展に繋がった。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 動植物に共通して存在する生殖機構の存在を明らかにし、新たな学術領域を創成したことは高く評価できる。また、動植物の垣根を越えて研究領域の融合を図る様々な試みが行われ、動植物研究をまとめあげた領域代表のリーダーシップは特筆すべき点である。本領域の研究によって「アロ認証機構」という概念を定着するに至った功績は大きい。

(2)研究成果

 個々の研究課題は目的を十分に達成し、研究論文は高い評価を受けているジャーナルに発表された。アウトリーチ活動も積極的に行われており、受精を含めた「生殖」について一般社会のリテラシー向上に努めた。また、本新学術領域を俯瞰する和書「動植物の受精学」に加えて英文での成書も出版し、本領域の研究を主体とした総括を行ったことは学術的にも意義深い。研究項目「アロ認識機構」の顕著な発展の一方、「配偶子接近・相互認識機構」に関しては大きな進展があったのかについてはやや疑問が残る。

(3)研究組織

 計画研究組織を中核にして多数の公募研究を加えることで、多様な生物種における共通生殖機構と関連する遺伝子群の存在を明らかにすることができた。領域内共同研究も多数実施され、多くの成果を生みだした。また、計画研究と公募研究との共同研究も多く、一部学会及び論文発表されていることから、両者の融合がうまく機能していたことが伺える。

(4)研究費の使用

 LC/MS/MS、冷却EM-CCDカメラなどは、領域内においてプロテオーム解析、バイオイメージングの共同研究に効率良く用いられた。また、マウス、ホヤなどモデル生物についても領域内で共有されている。とくに、LC/MS/MSについては利用頻度が高いことから、外部委託からリース契約に切り替えるなど柔軟な対応がなされた。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 アロ認証分子機構の保存性、多様性に迫ったことは、生殖生物学の一分野を深化させた大きな貢献と言える。また、動植物研究を融合させる推進体制は今後の生物学研究のモデルともなり得るものである。広範な生物種研究への貢献は測り知れない。

(6)若手研究者育成への貢献度

 本領域の研究期間内に多くの若手研究者の昇進があった。また、研究成果への若手研究者の貢献も大きく、その育成にも成功したものと判断できる。若手研究者対象のワークショップ等を積極的に開催し、国際会議等での発表を積極的に後押しするとともに、AlloForumといった領域内の情報交換の場を活用し科学的な議論を深めたことは、若手研究者を刺激することにつながった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --