プラズマとナノ界面の相互作用に関する学術基盤の創成(白谷 正治)

研究領域名

プラズマとナノ界面の相互作用に関する学術基盤の創成

研究期間

平成21年度~平成25年度

領域代表者

白谷 正治(九州大学・システム情報科学研究院・教授)

研究領域の概要

 プラズマを用いたナノ材料・ナノ構造の創成は、ULSI作製等のトップダウンプロセス、カーボンナノチューブ作製等のボトムアッププロセスに広く用いられており、ナノ構造創成法として中心的役割を果たすと期待される。本領域では界面がナノサイズに縮小することにより顕在化する特徴に焦点を絞り、そこに内在する法則・原理・機構を解明し新しい学術基盤を体系化する。その基盤に基づき、界面サイズ縮小で顕著となる相互作用の揺らぎの抑制法と増幅法を確立し、それぞれ揺らぎの無い超高精度トップダウンプロセスと高度に制御された自己組織化ボトムアッププロセスを実現する。これにより、従来実現できなかった高度なナノ材料・ナノ構造の創成に爆発的な発展をもたらすことを意図している。

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 プラズマを用いたナノ材料・ナノ構造の創成は、ULSI作製等のトップダウンプロセス、カーボンナノチューブ作製等のボトムアッププロセスに広く用いられており、ナノ構造創成法として中心的役割を果たすと期待される。本新学術領域研究『プラズマとナノ界面の相互作用に関する学術基盤の創成』では、界面がナノサイズに縮小することにより顕在化する相互作用の4つの特徴(1.ナノ界面では物性がバルク界面と著しく異なることにより、相互作用にサイズ効果が発現する。2.相互作用の揺らぎが顕著となる。3.界面の寸法が相互作用長と同等以下になる。4.ナノ界面がプラズマ反応場に構造を与える。)に焦点を絞り、究極のナノプロセスの実現に必要不可欠な、プラズマとナノ界面の相互作用に関する学術基盤を確立することを研究目的とした。その基盤に基づき、界面サイズ縮小で顕著となる相互作用の揺らぎの抑制法と増幅法を確立し、それぞれ揺らぎの無いトップダウンプロセスと制御された自己組織化ボトムアッププロセスを実現することにより、ナノ材料・ナノ構造の創成に爆発的な発展をもたらすことを意図した。本領域の研究で確立した学術基盤は、有機・無機・バイオ等の材料を用いたナノ構造の創成と応用に広く応用できるため、従来実現できなかった高度なナノ構造の創成を通して、半導体、磁性体、フォトニクス、オプティクス、環境、エネルギー、バイオ、医療等の極めて広範な分野に大きな波及効果をもたらすと期待される。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 本領域では、ナノ材料・ナノ構造の究極の創成プロセスの実現に必要不可欠な、プラズマとナノ界面の相互作用に関する学術基盤を確立するため、以下について研究した。
1.プラズマ揺動に対するプラズマ中ナノ粒子の成長ゆらぎについて、反応性プラズマ中のラジカル密度とナノ粒子成長が非線形結合すること、この非線形性によりナノ粒子成長ゆらぎが抑制される条件があることを示した。この非線形結合とナノ粒子成長ゆらぎの抑制に関する理論を構築した。これらは、一般的なプラズマとナノ界面相互作用のゆらぎの制御に有用な成果である。
2.トップダウンプロセスの代表とも言える半導体エッチングプロセスについて、領域内研究者の知見を統合して3次元シミュレーションを行い、プラズマとナノ界面相互作用ゆらぎの発現機構を解明し、その抑制による超高精度エッチングプロセスを実現した。本研究成果は、半導体産業の今後の発展に大きく寄与するものである。
3.超臨界プラズマ関連研究者の連携により、超臨界プラズマ中における密度ゆらぎを新規化学反応場として用いることで高次ダイアモンドイドやオリゴペプチドの作製に成功した。これらの結果は、揺らぎの増幅を有効利用した新しいボトムアッププロセスの実現であり、今後の大きな発展が期待される。
4.領域内の研究者の連携により、ナノ・バイオテクノロジー分野、表面改質やプラズマ医療などの分野、材料科学分野に波及効果のある学術基盤を構築した。

審査部会における所見

A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

1.総合所見

 本研究領域は、プラズマとナノ界面の相互作用に関する学術基盤を確立することを研究目的として申請された研究領域である。学理の構築に向けた研究活動の過程で、5年間の領域設定期間に、超高精度エッチングプロセス、表面改質、プラズマ医療などの波及効果が期待される「学理の応用」の成果が数多く得られた点で評価でき、当初の目標はほぼ達成できたと考えられる。一方、原理・原則の定式化や機構の解明を含む、領域全体の「学理の体系化」という点においては、端緒についた段階であり、今後個々の計画研究の成果をどのように統合し、新しい学問領域を創成していくのか期待したい。

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 応募時に研究領域として設定した3つの研究対象、すなわち(1)プラズマとナノ界面の相互作用の解明、(2)揺らぎのないトップダウンプロセスによるナノ構造の創成、ならびに(3)自己組織化を制御したボトムアッププロセスによるナノ構造の創成に対して組織的な研究を遂行し、おおむね期待通りの成果を得ている。その一方、領域全体の学理を構築すべく、研究成果の汎用化に取り組んでいるが、最終的に個別研究課題の成果を示すに留まっており、体系化という観点においては、小さな前進に留まった印象が強い。今後の多くの応用分野への効果的な波及を図るうえでも、より一層の学理解明が待たれる。

(2)研究成果

 ナノ界面プラズマを「作る・見る・使う」という3つの研究項目のもとに10件の計画研究を配置し、それら計画班の連携と推進により、6件の連携項目からなる研究成果を得ている。個々には、医学、農学、電気化学などの他研究分野への波及効果が期待される研究成果を得ている。

(3)研究組織

 ナノ界面プラズマを「作る・見る・使う」という研究項目のもとに10件の計画研究、それらの下にさらに33件の公募研究を配置することにより、広範な研究組織を比較的若い研究者から構成している。本領域を総括班が主導、調整することにより、研究者相互に領域横断的な研究連携が保たれ、研究が効率的に進み、学理の応用を中心に成果が得られた。一方、一部の計画研究代表者らのエフォートが低い点、計画研究と公募研究の関係がやや希薄な点については改善の余地があったであろう。

(4)研究費の使用

 概ね問題はない。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 超高精度エッチングプロセスの実現やウイルスの超高感度検出技術の確立等、「学理の応用」の結果は、当該学問分野、関連学問分野への貢献度は大きい。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者育成に関しては、若手教員の昇任に関しても5年間に7名と、本領域の研究組織の規模を勘案するとむしろ物足りない印象を受ける。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成26年11月 --