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先端技術を駆使したHLA多型・進化・疾病に関する統合的研究 (笹月 健彦)

研究領域名

先端技術を駆使したHLA多型・進化・疾病に関する統合的研究

研究期間

平成22年度~平成26年度

領域代表者

笹月 健彦(九州大学・高等研究院・特別主幹教授)

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるHLAは、多様な病原体由来のペプチドと結合し、抗原特異的免疫応答を制御している。HLAは、多重遺伝子族を構成し、ヒトゲノムの中で最も多型性に富む遺伝子群である。また、各遺伝子座の特定の対立遺伝子間に強い連鎖不平衡があり、各人種ごとに特有のHLAハプロタイプが存在する。このHLAの比類ない特徴は、病原体との永い戦いを通して獲得されたと推測されるが、その機序は不詳で解決されるべき重要な課題である。
 特定のHLA対立遺伝子が、自己免疫疾患、アレルギー疾患、感染症などと相関を示すことが報告されてきた。しかもナルコレプシーとHLA-DQ6のように相対危険度が1,468という例もあり、非HLA遺伝子の相対危険度の多くが2.0以下であるのと比べ、圧倒的に強い相関を示す。しかし、多くの例ではHLAハプロタイプ上のどの対立遺伝子が真の原因遺伝子か、そのHLAに結合する病因ペプチドは何か、など根本的疑問が解決されておらず、その解明による新しい医療の開発が喫緊の課題である。
 本領域では、ゲノム科学とタンパク科学における先端技術と先端情報を駆使し、HLAの成り立ちの進化学的解明、および免疫応答関連疾患におけるHLAの役割の解明と、これらに立脚した疾病の予防と制御、重症化阻止などのための分子創薬への道を拓く。すなわち、HLAを中心に据えた免疫システムの真の理解を通して、生命進化の理解と人類への貢献を目指す。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 ゲノム科学の最先端技術を利用し、これまでの約2年間で、徹底的なリシークエンシングによって日本人主要HLAハプロタイプのゲノム塩基配列決定とゲノム多様性解析が進んだ。さらに、高解像度のHLA DNAタイピング法の開発に成功した。HLA分子立体構造解析においては、HLA-DP5分子と花粉抗原ペプチド複合体の立体構造を世界に先駆けて解明した。また、HLAのペプチド結合領域のアミノ酸座位は進化速度が速いことが知られているが、アミノ酸置換の蓄積が、時間が経過しても変化していない対立遺伝子が存在することを明らかにした。HLAと疾病との関連においては、グレーブス病発症について、感受性HLA-DPB1*05:01は抵抗性HLA-DRB1*13:02に対してエピスタティック(上位)であること、他方、抵抗性アレルDRB1*13:02がDPB1*05:01以外の感受性アレル(HLA-DRB1*04:06)に対してエピスタティックであることを明らかにした。また、関節リウマチ、1型糖尿病、原発性胆汁性硬化症について全ゲノム相関解析を行い、新規遺伝子を複数同定した。さらに、強直性脊椎炎発症においてHLA-B27ホモ二量体がペプチド非依存性に発症に関与していることを見出した。また、HLA-DQヘテロダイマーの不安定性が一型糖尿病感受性と関連することを明らかにした。HLA分子の機能制御を目指した分子探索を進め、HLA-DP5との高い親和性が予想される化合物を同定した。また、pH 応答性リポソームによって、効率よく低分子化合物を樹状細胞のエンドソームにデリバリーし、抗原特異的な免疫応答を誘導することに成功した。このように、HLA領域ゲノム多様性の全貌解明と疾病との関連に関する研究が着実に進むとともに、HLA分子を中心に据えた免疫制御法開発を目指した、HLA分子立体構造、HLA分子結合化合物の解明が当初予定を上回り順調に進んでいる。

審査部会における所見

 A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるHLAは、多重遺伝子族を構成し、ヒトゲノムの中で最も多型性に富む遺伝子群である。また各遺伝子座の特定の対立遺伝子間に強い連鎖不平衡があり、各人種に特有のHLAハプロタイプが存在する。本研究領域は、ゲノム科学と蛋白科学における先端技術と先端情報を駆使し、HLAの成り立ちの進化学的解明、免疫応答関連疾患におけるHLAの役割の解明及びこれに立脚した疾病の予防と分子創薬への道を拓くことを目的としている。HLAの全容を明らかにしようとする意欲的な研究目標に対し、各々HLA研究を専門とするグループが、異なったアプローチ・研究方法論で統一したテーマで進めており、現状ではHLA関連の疾病と、その原因を探るための技術基盤との連携基盤が整ったと評価できる。また、HLAは、多様な病原体由来のペプチドと結合し、抗原特異的免疫応答を制御しているため、疾病発症にかかわる抗原ペプチドの同定、HLA分子との結合低分子化合物の同定と予測及び同化合物のデリバリーシステム開発は順調に推進されており評価できる。今後、疾病を超えた連携を意識することで領域としての基盤を確立し、より多くの波及効果をもたらすことを期待する。また、領域運営の上で若手研究者育成や一般に向けたアウトリーチ活動などについて、一層の取組を期待したい。

2.評価の着目点毎の所見

(1)研究の進展状況

 「既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成などを目指すもの」としては、HLAのゲノムや構造、疾病との関連を解析することで、HLAの全容を明らかにしようとする意欲的な研究であり、各々HLA研究を専門とするグループが異なったアプローチ・研究方法論で統一したテーマに迫っており、新興・融合領域として期待できる。
 「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究などの推進により、当該研究領域の発展を目指すもの」としては、もとより構造解析と疾病との関連や、ゲノム解析と進化学研究は切っても切れない関係であり、それぞれ手法を異にした研究者が共同研究することは必然的なものである。現状ではHLA関連の疾病と、その原因を探るための技術基盤の連携はできていると評価できる。
 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究などの推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、塩基配列の決定方法をはじめ、ゲノム解析、構造解析等の技術的手法などの基盤技術を確立し、新技術を取り入れるなど、順調に連携が図られており、それに基づく共同研究体制とその成果は上がりつつあると評価できる。
 「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、多型性のゲノム解析、構造解析、機能解析とともに、進化学的観点での研究が進められており、一つのモデルとして他領域への波及効果は大きい。また、疾病発症にかかわる抗原ペプチドの同定、HLA分子との結合低分子化合物の同定と予測及び同化合物のデリバリーシステム開発順調であると、高く評価でき、これらの知見を基とした分子創薬への波及効果は大きいと期待される。

(2)研究成果

 「既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成などを目指すもの」としては、既にNat genetなど、インパクトの高い雑誌に掲載されるなど、確実に成果が上がっている。
 「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究などの推進により、当該研究領域の発展を目指すもの」及び「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究などの推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、HLA領域の効率的なリシーケンス法を確立し、日本人に特徴的なハプロタイプのゲノム配列を十分なカバー率と重複度をもって決定するなど、本研究領域の基盤構築が順調に進んでおり、この解析を基に、進化的解析、多様性解析、及び疾病との相関解析が領域内での共同研究により順調に進展し、成果を上げていると評価できる。さらに、構造生物学との連携で、抗原由来のペプチドとHLA分子との複合体の結晶構造が決定され、大きく進展している。一方で、進化学研究はベンチサイド研究とは異なって、その性質上毎年何篇もの論文を公表することは困難であろうと予想される。また、感染症との関連に関しては、進行中のグループと共同研究を推進することが望ましい。
 「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらすもの」としては、現時点では明確な波及効果と思える成果は目立たないが、今後十分に期待できる。

(3)研究組織

 日本のHLA研究の最前線にいる研究者が配置され、組織自体には大きな問題はない。構造生物学・進化学的視点が加えられており、統合研究が期待されるが、より新興・融合領域を目指した共同研究が可能な組織作りが望まれる。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 個別研究は着実に進展しており、今後、領域代表者のリーダーシップのもと、本研究領域内での共同研究や若手研究者の育成に向けた取組の推進とそれに伴う成果を期待したい。
 また、他領域への波及効果をもたらすものとして、今後この研究領域で蓄積したデータベースについては研究期間を超えた継続が望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年12月 --