日本の技術革新-経験蓄積と知識基盤化-(清水 慶一)

研究領域名

日本の技術革新-経験蓄積と知識基盤化-

研究期間

平成17年度~平成21年度

領域代表者

清水 慶一(国立科学博物館・理工学研究部・室長)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 20世紀に我が国は膨大な技術革新を達成してきた。科学・技術・社会・文化が相互に関連して進展した「日本の技術革新」は、今後我が国の更なる技術革新・技術開発に役立つ膨大な知識の宝庫である。しかし、20世紀から21世紀にかけ、産業構造の急激な変化、終身雇用制の崩壊、生産拠点の海外移転、戦後の技術革新を支えた技術者の高齢化などの諸要因が重なり、「20世紀の技術革新経験」は急速に散逸・滅失しつつある。そこで、このような我が国における技術革新の資料や経験といった有形・無形の資料を蓄積し、知識基盤として整備することが緊急の課題となる。
 本特定領域の目的は、20世紀に行なわれた日本の技術革新を計画的に「蓄積」し、その内容を多面的に「調査・分析」することにより、将来の技術革新に役立つ「知識基盤」として整備するため、総合的・学際的な研究を展開することにある。最大の特徴は、日本の技術革新経験を体系的に捉え知識基盤化し、こうした経験を後世に残すための仕組みを確立する点にある。加えて、これまで経済学や経営学などで捉えられていた日本の技術革新を技術革新の担い手である理工系研究者による研究と分析、具体的な技術革新情報の収集と知識基盤化を行う点にある。本一連の研究により、研究の基盤となる日本の技術革新経験を体系的に蓄積・整備することが可能になる。また、様々な取り組みを通して、この経験を将来の継続的な技術革新に繋ぐ方法について実証的な成果を出すことが期待できる。

(2)研究成果の概要

 本特定領域は「蓄積」「分析」「知識基盤化」の3つを軸としている。「蓄積」においては、「技術の系統化」「オーラルヒストリー」「企業内資料」等の有形・無形の資料を蓄積することが出来た。「分析」「知識基盤化」に関しては、個別研究に有機的な連携を持たせながら領域全体として研究を推進してきた。平成20年度に放送大学で「日本の技術革新」という科目を設けて領域の成果を中間的に纏めた。この教科書作りをベースとし、最終的な報告書として「日本の技術革新大系」を纏め、これまでの蓄積と成果を収斂させ、体系化を図った。また、我が国では初めての「(技術革新を含む)技術史研究」に関する理工系学会の連携体制のハブとしての役割を果たした。さらに、今まで日本には無かった技術革新に関する資料の収集から公開までのナショナルシステムを構築したこと等が挙げられる。
 本特定領域が設定されるまで、日本には「技術革新の個々の研究」はあっても、日本の技術革新経験の「蓄積」「分析」「成果の社会還元(知識基盤化)」という大きなシステムで捉えた総合的な研究は行なわれてこなかった。本領域は、これらを有機的な結びつきの下に一体として研究を進めたことで、従来は個別の研究分野でしか明らかではなかった日本固有の技術革新の特徴を総合的に明らかにした。この成果は、日本の将来の技術革新を行うに当たって重要な知識となるばかりではなく、今後の世界の技術革新の在り方にも日本の過去の経験を提供可能となった初めての成果である。

審査部会における評価結果及び所見

B (研究領域の設定目的に照らして、十分ではなかったが一応の成果があった)

 本研究領域は、20世紀に行われた日本の技術革新についての経験を計画的に蓄積し、その内容を多面的に調査分析することにより将来の技術革新に役立つ知識基盤として整備することを目的としたものである。理工系の科学者、技術者の寄与を特徴とする独自性のある取組による情報蓄積については一定の成果をあげていると判断される。
 一方で、蓄積した技術革新に関する情報の知識基盤化については必ずしも十分でないという指摘が多く見られた。
 また、データベースの構築と公開などの電子媒体の有効利用や、英文での成果とりまとめなどがなされるべきとの意見もあった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年01月 --