平成10年度 | 80,000千円 |
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平成11年度 | 60,000千円 |
平成12年度 | 47,000千円 |
平成13年度 | 67,000千円 |
平成14年度 | 67,000千円 |
研究代表者は、平成14年(2002年)4月、京都大学大学院生命科学研究科から、独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センターに、センター長、並びに、高次構造形成研究グループのグループディレクターとして移籍し、本特別推進研究を継続した。終了後、引き続き新しい特別推進研究課題「接着装置に依存した新しい細胞行動制御シグナルの探索」が採択され(研究期間:平成15年~18年度)、これにより、前課題の中心テーマであったシナプス形成の制御に関する研究をさらに発展させると共に、シナプス形成の土台となっている細胞接着現象についてより一般的な細胞生物学的機構を解明するための研究を発展させた。また、理化学研究所の運営費交付金によって、細胞接着分子と神経発生の関係に関する研究も併せて進めた。その結果、平成14年度までの特別推進研究の成果は、その後の研究の発展のために極めて有効に生かされ、平成15年~18年度間の特別推進研究の成果の事後評価では(平成19年10月実施)では、(A)の評価を得ている。
特別推進研究(研究期間:平成15年~18年度)
研究課題名「接着装置に依存した新しい細胞行動制御シグナルの探索」
研究代表者、研究経費256,000千円
特別推進研究の初期に、新しいカドヘリンスーパーファミリーFlamingoをショウジョウバエを用いて同定し、平面内細胞極性形成の制御因子であることを明らかにした。その後、この分子の脊椎動物ホモログについて研究を進め、たとえば小脳プルキンエ細胞樹状突起のパターンニングに重要な役割を果たすことを明らかにし、動物界を通して細胞の形態制御に関わることを示すことができた。
特別推進研究の期間中に、カドヘリン結合因子の一つp120カテニンの研究を開始した。その後、この分子の研究は2つの方向に発展した。一つは、この分子が微少管に結合することの発見。これにより、カドヘリン接着装置と微少関係が相互作用するという、従来あまり重要視されてこなかった問題が浮かびあがり、これに関する研究は現在大きく発展しており、その機構、生物学的意義の解明につながっている(論文投稿中)。もう一つについては、p120カテニンに結合するタンパクのスクリーニングをした結果、Cdc42に特異的なGEF、Tubaが見つかり、その機能の研究に発展した。Tubaは、細胞結合領域のアクチン重合を制御して、細胞境界の張力を制御することが明らかになった。さらに、これらの細胞生物学的研究の延長として、予期せぬ現象“cadherin flow”を発見することができた。
特別推進研究期間の後半に、解離した網膜細胞が再集合するとき、他の細胞のコンディションメディウムを加えておくと、再集合体の中での組織形成が著しく促進されることが分かった。有効因子を同定することは、神経組織形成機構を理解する上で重要と考え、研究を進めた結果、Wntが有効であること、さらに、網膜の幹細胞が分布する辺縁領域にWnt2bが発現していることが分かった。これらの現象を詳細に調べた結果、Wnt2bが網膜幹細胞の維持のために必要であること、この作用が解離細胞からの網膜組織形成のために働くことなどを明らかにした。研究の動機とは異なる方向に発展したが、幹細胞の維持機構の解明という重要な貢献をすることができた。
シナプス結合の形成にカドヘリンが関与することを実験的に証明したのは我々が始めてである。その後、この問題の重要性に対する認識は、専門家の間に次第に広まり、今や、ほぼ教科書的スタンダードになりつつある。
平面内極性形成機構の研究は、近年の形態形成学における主要テーマの一つである。Frizzled,Disheveledなどの関与が知られていたが、Flamingoが重要であるとの発見は、平面内極性形成機構の解明のために新たな展開をもたらした。とりわけ、これらの成分が、細胞極性に対応して局所的分布をするという発見は大きい。以降の研究では、本発見に影響され、Frizzled, Disheveled等も同様な局在することが気づかれ、今や本分野の研究は、これらの分子間の相互作用の結果生じるシグナル機構の解明に注がれている。
カドヘリンによる細胞間接着装置とはどのようなもので、また、他の細胞内システムとどのように関係しながら働いているかについて、いくつかの重要な知見を蓄積できた。とりわけcadherin flowの発見は、細胞間接着が“静的な”分子間相互作用によっておきるという先入観を覆し、カドヘリン分子が極性をもって流動する状態でおきている場合があることを明らかにしたもので、この意外性は本研究分野に大きなインパクトを与えた。また、最近、カドヘリンはカテニンを介してアクチン繊維と結合しているとする従来のモデルは正しくないという見解が発表された。しかし私達は、カテニンとアクチンは、EPLINによって繋ぎ止まれているということを発見し、この問題に対して正しい解を提示することができた。
幹細胞の生成・維持機構に対する関心は、再生医療の実現に向けて、近年、著しく高まってきている。この分野がまだ未成熟な中、いち早くWntシグナル系の関与を示すことができたことは大きい。この成果は、網膜視細胞変性症の再生医療学的治療を目指す理研・網膜再生医療研究チームによって直ちに応用され、網膜に人為的に傷害を与えたマウスモデル実験系においてWntの投与が視細胞の再生を促進することが明らかにされた(J. Neurosci. 27:4210-4219, 2007)。
調査日 2007年11月15日
本研究は純粋な基礎研究であるため、特許取得の申請等はしていない。得られた成果の多くは、当面は、生命現象のしくみのより深い理解という形で社会に還元する。その方法については、理化学研究所及び当研究所発生・再生科学総合研究センターから出版される種々の広報誌、さらには、一般市民向けの講演会を通じて行っている。Wnt2bが網膜幹細胞の維持に関与することの発見は、発生・再生科学総合研究センター網膜再生医療研究グループ(高橋政代チームリーダー)により発展させられ、網膜視細胞変性症の治療に貢献できる可能性が示唆された。
本研究に参画した若手研究者は、助手2名(研究開始の段階で分担研究者として1名、途中から1名)、及び、大学院生(15名)である。現在のポジションについて列記する(括弧内は特別推進研究期間中のポジション)。
-- 登録:平成21年以前 --