平成10年度 | 57,000千円 |
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平成11年度 | 51,000千円 |
平成12年度 | 54,000千円 |
平成13年度 | 45,000千円 |
平成14年度 | 45,000千円 |
特別推進研究によってなされた研究が、本書類作成時点までの間にどのように発展しているか、次の(1)~(4)の項目ごとに具体的かつ明確に記述してください。
平成10年度から平成14年度まで、九州大学大学院理学研究院において、ツメガエル卵を用いて「初期発生における細胞周期制御の研究」という研究課題で特別推進研究を行なった。その後、同研究機関において、同じくツメガエル卵を用いて特別推進研究でなされた研究を発展させてきた。具体的には、特別推進研究で得られた発見・知見を元に、in vivo(発生系)およびin vitro(無細胞系)の系で、様々な細胞周期制御因子(Wee1,Plk,Mosなど)やチェックポイント制御因子(Chk1,Cdc25Aなど)の構造と機能およびそれらの制御機構を解析してきた。そして、その結果得られた新たな発見や知見をEMBO,PNAS,Nature誌等に発表してきた。現在では、これらの研究に加え、神経分化や細胞老化における細胞周期制御の研究も推進している。
特別推進研究の成果を元に新たな発見、知見が数多くあったが、以下にその代表的なものついて記す。
Cdc25ホスファターゼは、サイクリン依存性キナーゼ(Cdks)を活性化することで、細胞周期の進行を促進させる役割を持っている。脊椎動物では、DNA傷害等に応答し、Chk1とChk2がCdc25AのN末端領域をリン酸化し、その分解を誘導する。本研究で、Chk1,Chk2の内Chk1のみがツメガエルCdc25AのC末端(Thr504)をリン酸化し、同ホスファターゼと様々なCdk-サイクリンとの相互作用を阻害することが明らかになった。重要なことに、この阻害はCdc25Aの分解よりも早く起こり、複製チェックポイントでより必須の役割を果たすことが判明した。更に、ヒトから酵母までの他の様々なCdc25にもThr504に相当する部位が存在し、これらのChk1によるリン酸化でも様々なCdk-サイクリンとの相互作用が阻害されることが分った。以上の結果から、Chk1が様々なCdc25を新規の共通機構で阻害することが初めて明らかになった(EMBO J., 2004に掲載)。
SCFβ-TrCPユビキチンリガーゼのF-boxタンパク質であるβ-TrCPは様々な基質中の2重にリン酸化されたDSGモチーフ(DpSGΦXpS)を認識する。β-TrCPはヒトCdc25AのDSGモチーフにもChk1依存的なリン酸化で結合する。本研究で、ツメガエルおよびヒト両方のCdc25Aが、β-TrCPによって認識される、新規な非リン酸化型DDGモチーフ(DDGΦXD)を持つことが明らかになった。DDGモチーフはツメガエルCdc25Aの唯一の機能的β-TrCP結合部位であり、ヒトCdc25Aでも重要な結合部位であることが判明した。また、DDGモチーフはヒトCdc25Bを含む他種の様々なタンパク質にも存在し、それらの機能的β-TrCP結合部位であることが分った。更に、これらのタンパク質のユビキチン化にはβ-TrCPの結合のみでなく、他の領域やリン酸化も必要なことが判明した。この研究で、β-TrCPが非リン酸化型DDGモチーフも認識することが初めて示された(PNAS, 2005に掲載)。
脊椎動物の未受精卵は第二減数分裂中期(Meta-)で停止している。このMeta-停止にはMos/MAPKキナーゼ経路が関与しているが、その最終標的は長い間不明であった。最近、ツメガエル卵のMeta-停止にErp1(サイクリンBのユビキチンリガーゼAPC/Cの阻害因子)が直接的に関わっていることが示されたが、Mos/MAPK経路とは独立に働くとされた。しかし、本研究で、予想に反し、Mos/MAPK経路がErp1を標的にしていることが判明した。すなわち、Mos/MAPK経路の下流キナーゼp90rskがErp1を直接的にリン酸化し、その安定性や活性を亢進させることでMeta-停止(APC/Cの阻害)を引き起こすことが示された。また、Mos/MAPK/p90rsk/Erp1経路が第一及び第二減数分裂の転移にも必須であることが示された。これらの研究で、永年の謎であったMeta-停止の分子経路が明らかになった(Nature, 2007に掲載)。
この研究はごく最近なされたものであり、転写因子FoxMIがツメガエル胚の神経板に特異的に発現し、神経前駆細胞の増殖・分化に関与することを明らかにした(Nature Cell Biol.に投稿中)。
本書類作成時点までの間に、特別推進研究の研究成果が他の研究者に活用された状況について、次の(1)、(2)の項目ごとに具体的かつ明確に記述してください。
特別推進研究で得られたツメガエル卵での成果をいくつかに分類し(A~F)、それぞれのその後の学界へのインパクトや貢献について以下に記す。
以下、特別推進研究の研究期間中と終了後の論文の「要旨」と「引用数」を、それぞれ上位10報程度(年代順)のものについて記す。
調査日 2007年12月25日
次の(1)、(2)の項目ごとに、該当する内容について具体的かつ明確に記述してください。
我々の特別推進研究及びその後の研究は全て基礎的な研究であり、未だ直接的な社会への還元には至っていない。しかし、これらの成果は、以下いくつかの例で示すように社会還元の可能性が充分にあるものであると考えている。
この研究では、卵母細胞の核内物質が正常な卵成熟(卵が受精可能な状態になる過程)に必須であること、その機能のモデル等を示した。この成果は家畜動物(ブタなど)でも検証されつつあり、畜産、クローン動物の生産などへの基礎情報の一つになっている。
これらの一連の研究では、Chk1,Cdc25A,及びWee1の活性制御部位の同定とその分子機構を明らかにした。Chk1はDNA傷害・複製チェックポイントの主役の1つであり、そのエフェクターとしてのCdc25AやWee1は重要な細胞周期制御因子である。従って、Chk1,Cdc25A,Wee1等の発現や活性の人為的な制御は細胞増殖異常の病気であるがん等の治療に有効と考えられている。Chk1,Cdc25A,Wee1の機能ドメインとその制御機構を明らかにした我々の研究は、それらの分子を標的にした創薬等の基礎情報になり、今後社会への還元につながると考えている。
これらの研究では、ツメガエル未受精卵のMeta-停止に至る分子経路をMos/MEK/MAPK/p90rsk/Erp1経路として同定した。また最近、他のグループと共同でマウス卵でも同様な経路がMeta-停止に働くことを明らかにした。マウスではMos/MAPK経路の不全で卵巣奇型腫が生ずることが知られている。従って、脊椎動物未受精卵の分裂停止の分子経路を明らかにした我々の成果は、将来、ヒトの不妊・卵巣奇型腫等の診断や治療などに還元される可能性が充分にあると考えている。
平成10~14年度の間の特別推進研究に関与した職員、ポスドク、大学院生のうち、その後研究職、教育職に就いた者について、特別推進研究に参加した期間、参加終了時の身分、その後の進路・動向、現在の研究・教育内容を以下に記す。
氏名 | 研究参加期間 | 参加終了時の身分 | 進路・現職 | 現在の研究・教育内容 |
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古野伸明 | 平成12~13年度 | 助手 | 広島大学大学院理学研究科 両生類研究施設・准教授 | 両生類卵形成 |
中條信成 | 平成10~14年度 | 助手 | 九州大学大学院理学研究院・助教 | 両生類形態形成 |
宇都克裕 | 平成10~14年度 | ポスドク(学振PD) | JST CREST(クレスト)研究員 から 日本ベーリンガーインゲルハイム 川西医薬研究所 研究員 | 神経関係 |
志牟田健 | 平成10~14年度 | ポスドク(学術研究員) | 国立感染症研究所細菌第一部 研究員 | 病原菌生化学 |
岩下淳 | 平成10~11年度 | ポスドク(学振PD) | 秋田県立大学生物資源科学部 応用生物科学科・助教 | アメーバの分裂 |
早野善政 | 平成10~11年度 | 博士課程3年 | 福岡県警・科学捜査研究所・研究員 | 法医学 |
吉留賢 | 平成10~12年度 | 博士課程1年 | 鹿児島大学医学部・助手 から 鳥取大学医学部生命科学科・助教 | 両生類卵の分裂 |
大江智也 | 平成10~12年度 | 修士課程2年 | アステラス製薬株式会社・筑波研究センター 研究員 | 脳活性物質 |
猪原綾 | 平成11~14年度 | 修士課程2年 | バイエル薬品株式会社 研究員 | がん関係 |
溝上陽子 | 平成11~14年度 | 修士課程2年 | 佐賀県立 高校 教師(生物) | 生物教育 |
上野秀一 | 平成10~14年度 | 博士課程3年(学振DC1) | 山口大学大学院 医学系研究科 応用分子生命科学系・助教 | 両生類卵の分裂 |
岡本健吾 | 平成10~14年度 | 博士課程3年(学振DC1) | 学振PD から 九州大学大学院理学研究院生物科学部門・助手 から 高崎健康福祉大学 薬学部 薬学科・助教 | 転写因子制御 |
葛城美徳 | 平成11~14年度 | 博士課程1年 | 学術研究員 から JST CREST(クレスト)研究員から新潟大学 教育研究院 医歯学系遺伝子制御講座・助教 | マウス遺伝学 |
井上大悟 | 平成12~14年度 | 修士課程2年 | 学振DC1 から JST CREST(クレスト)研究員 から 九州大学大学院理学研究院生物科学部門 学術研究員 | 両生類卵成熟 |
佐野亜希子 | 平成12~14年度 | 修士課程2年 | 大鵬薬品工業株式会社・飯能研究センター 研究員 | がん関係 |
毛利宜子 | 平成12~14年度 | 修士課程2年 | 三栄原エフエフアイ株式会社・東京支社 研究員 | 香料関係 |
-- 登録:平成21年以前 --