平成24年3月28日
サービス・イノベーション人材育成推進委員会
1 最終評価について
「産学連携による実践型人材育成事業-サービス・イノベーション人材育成-」は平成19年度より事業期間3年間として開始された事業で、平成19年度に6件、平成20年度に7件のプロジェクトを選定した。なお、平成20年度選定の7件は、表1に挙げた各プロジェクトの特色に着目し、サービス・サイエンスにおける科学的・工学的アプローチと、社会科学的・人間科学的アプローチにも配慮し、本事業全体のバランスを考慮して選定を行った。
この度の最終評価では、平成20年度に選定された7プロジェクト(大学院4件、大学学部3件)について、プロジェクトの申請書に記載された計画・目標の達成状況の検証を行うこととし、検証の観点としていくつかの評価項目を設け、書面及びヒアリングによる評価を行った。
書面評価では、各大学から計画・目標の達成状況について報告を求めたほか、学生アンケートと連携企業アンケートを行った。また、ヒアリングにおいて報告を受けた達成状況の事実確認を行った。
7プロジェクトの取組概要及び最終評価結果は別添のとおりである。各大学の達成状況には差が見られたものの、全体としては申請書の計画・目標について真摯に取組がなされ、2-1に挙げるような成果があったことは高く評価できる。また、同時に、目標に向けて取り組みが行われたものの、十分な成果が挙げられなかった点について2-2に挙げる。
今後、大学がサービス・イノベーション人材育成に取り組んでいくにあたって、プロジェクトに取り組んだ大学のみならず、広くサービス・イノベーションに関する取組を行う大学が参考としていただくよう、サービス・イノベーション人材育成の今後について意見を3に示す。
【表1】
プロジェクトの特色 |
大学名 |
---|---|
ビデオ教材によるサービス・マネジメント教育 |
神戸大学 |
データ・マイニング及びモデリングを活かしたサービス・イノベーション |
関西大学 |
医薬分野におけるサービス・マーケティング |
京都大学 |
情報科学及び知識科学を基盤とするサービス・イノベーション |
北陸先端科学技術大学院大学 |
インターンシップと文理融合を組み合わせたサービス・イノベーション教育 |
慶應義塾大学 |
教育用シミュレーターを活用した金融サービス人材育成 |
早稲田大学 |
イノベーションを生み出す「心の習慣」と「イノベーション評価能力」の養成 |
滋賀大学 |
2-1 本事業の成果
本事業においては、サービス・イノベーションに関する教育を大学に取り入れ、産学の連携による人材育成が行われることで、大学になじみの薄かったサービス・イノベーションという分野に関して大学の意識が高まることが重要であると考えられる。
この観点から、平成20年度選定プロジェクトについては最終評価を行った結果、主に次のような成果が認められた。
(1) サービス・イノベーションに関して、大学と産業界が初めて連携した
サービス・イノベーションをテーマに大学と産業界が初めて連携し、サービス関連企業から大学への講師派遣や、サービス関連企業へのインターンシップ、フィールドワーク等が実施され、学生が実際のサービスの現場と関わる機会が多く取り入れられた。
また、産学連携のシンポジウムやワークショップ、海外の大学・研究機関との共同研究・教育、国際会議での研究発表などが行われたほか、取組大学が集まり各プロジェクトの取組状況についての情報共有や、サービス・イノベーションの在り方についての議論等を行う「情報交換会」が定期的に開催された。これらの大学間及び産学間の活発な意見交換により、サービス・イノベーション人材育成に関する産学双方の意識の高まりが認められた。
(2) サービス・イノベーションに関する人材を育成するための教育カリキュラムが構築された
育成すべき人材像に沿って、各大学が強みを持つ分野を基盤にサービス・イノベーションに関する科目が新規に開発・開設され、既存の科目と組み合わせて体系的なカリキュラムを構築し、正規の教育課程に配置された。具体的には、インターンシップにより得られたエクスペリエンス(体感)と文理融合型カリキュラムを組み合わせた教育カリキュラム、サービス・イノベーションの中核である大量のデータをベースに合理的な意思決定に結びつけるための基礎理論と実践を組み合わせ、産学連携で実践的に教育を行うカリキュラム等が構築された。
また、サービス・イノベーションに関するコースが設置され、補助期間終了後も継続的・発展的に独自の優れたサービス・イノベーション教育を行っているプロジェクトも見受けられた。修了生が商品開発に携わった様子や、起業したことなどが、成果としてメディアに取り上げられたプロジェクトもあった。
(3) サービス・イノベーションに関する教材が開発された
サービス・イノベーション人材育成に関して、他大学で汎用的に利用可能な教材が開発され、配布や公開による波及効果があった。特に、取材が難しいサービス企業の舞台裏を取材し作成されたビデオ教材は、他の大学及び商工会議所、企業向け研修等において広く活用されている。
2-2 目標に向けて取り組みが行われたものの十分な成果が挙げられなかった点
一方で、本委員会としては、十分な成果が挙げられなかった点として以下の(1)~(2)を指摘したい。
(1) 教育研究及び情報発信の継続・充実
他大学との連携を拡充していくことや、プロジェクトを発展させていくことを目指して、独自に予算を確保し事業を継続している大学がある一方、プロジェクトによっては補助期間終了後、予算等の諸事情により、インターンシップ先の確保が困難になり規模を縮小するなど、教育プログラムの開発や継続が困難になったケースが見受けられた。
(2) 教育カリキュラム及び科目やツールの改善
本事業において、各プロジェクトで様々な取組が行われ、学生、卒業生・修了生からは、各プロジェクトに対して概ね高い評価が得られており、インターンシップの受入れ等により連携した企業も、本プロジェクトの意義を高く評価していることが確認できた。
しかし、教育カリキュラムの開発において、目標とする人材育成との関連づけ、教育プロセスの体系化、背景となる学術知見の明確化等が補助期間内に十分達成できなかった例も見受けられた。今後、教育プログラムを発展させていくとともに、開発した科目やツールについても、学生の評価等を踏まえブラッシュアップしていくことが必要である。
3 サービス・イノベーション人材育成の今後
本委員会では、「サービス・イノベーション」を「サービス産業の生産性向上」と「サービス産業分野における新事業、新市場の創出」の2つであるととらえ、プロジェクトの選定及び評価を行った。
現在、我が国の全産業就業者に占めるサービス産業の就業者の割合及びGDPに占めるサービス産業の生産額はおよそ7割を占めており、製造業とともに、サービス産業は我が国の産業を支える双発のエンジンとなっている。
しかしながら、本事業が開始された平成19年には、大学においてサービス・イノベーションの分野が十分に顧みられているとは言い難い状況であった。
その後、本事業が開始され、選定された大学が、教育プロジェクトに取り組むことにより、初めて大学において、産業界と連携した本格的なサービス・イノベーション教育の取組が行われたことは、本事業の大きな成果であったと言える。
また、本事業では、主に人材育成の取組に対する支援を行ったが、教育プログラムの開発にあたり、その基盤となる研究に関して、大学における活発な取組が見られるようになったことも特筆すべきものである。
以上の点において、本事業は我が国の大学におけるサービス・イノベーション教育及び研究が本格化する契機となったものとして高く評価できる。
本事業により、サービス・イノベーションに関する優れた教育プログラムや多くの教材が開発され、一部の大学では教育プログラムが正規の課程に組み込まれるに至っている。本事業を契機として活発になったサービス・イノベーションに関する取組を今後も引き続き継続・発展させていくことが重要である。
一方、現在、サービス・イノベーションの概念は、サービス産業にとどまらず、例えば製造業においても、海外で販売される製品のアフターケア等において活用されるなど、社会のあらゆる活動に大きな影響を及ぼすようになってきている。
そのため、今後は大学ごと、分野ごとの取組だけではなく、サービス・イノベーションに関する社会の活動全体に横串を通し、有機的な連携を図ることで、我が国の成長を後押ししていくことが重要である。
そうした活動の中心としても、本事業に参画した大学における教育・研究活動は重要になると考えられる。大学におけるサービス・イノベーションに関する教育・研究の充実・発展に対し、今後必要な支援を行っていくことを国に求め、本委員会のまとめとしたい。
1 総合評価結果
総合評価 |
件数 |
---|---|
当初の計画を超えた取組が行われ、所期の目的以上の成果があがった |
2件 |
当初の計画と同等の取組が行われ、所期の目的が達成された |
4件 |
所期の計画以下の取組であるが、一部で当初計画と同等又はそれ以上の取組もみられる |
1件 |
総じて当初の計画以下の取組で、所期の目的を達成していない |
0件 |
計 |
7件 |
2 総合評価内訳
(1) 所期の計画を超えた取組が行われ、所期の目的以上の成果があがった
大学名 |
プロジェクト名 |
---|---|
神戸大学 |
サービス産業における価値創造・獲得を果たすイノベーション創出のための |
関西大学 |
プロセスイノベーター育成プログラムの開発 |
(2)所期の計画と同等の取組が行われ、所期の目的が達成された
大学名 |
プロジェクト名 |
---|---|
京都大学 |
ユビキタス健康社会の最新ニーズに対応した実践型人材育成 |
北陸先端科学技術大学院大学 |
情報科学と知識科学を基盤とするサービスイノベーション人材の育成 |
慶應義塾大学 |
エクスペリエンスと講義と研究を一体化したスパイラル修士教育プログラム |
早稲田大学 |
金融サービス・イノベーション・マネジメント研究 |
(3)所期の計画以下の取組であるが、一部で当初計画と同等又はそれ以上の取組もみられる
大学名 |
プロジェクト名 |
---|---|
滋賀大学 |
「公共的対話と知的共同作業をベースにイノベーティブな「心の習慣」と「イノ |
(4)総じて所期の計画以下の取組で、所期の目的を達成していない
(該当なし)
人文・社会科学教育係
-- 登録:平成24年06月 --