平成16年度現代GPを振り返って

高田 敏文
東北大学大学院経済学研究科教授

高田 敏文 東北大学大学院経済学研究科教授

 国立大学の法人化を契機に、文部科学省の高等教育政策が大きく方向転換しつつあることは、頭では理解できていたつもりでしたが、実際にどういうことになるのかは、わたくし自身、皆目、分かりませんでした。今回、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(以下「現代GP」)の枠組みづくりに参画させていただきまして、また申請資料を拝読させていただきまして、新しい時代の大学のあり方を示す試みの一つを体験させていただきましたことは、わたくしにとりまして貴重な経験となりました。この場をお借りして、感想を述べさせていただきます。

 国立大学が法人化され、「国立大学法人」がスタートしました。これは民営化とは違いますので、国の責任がなくなったわけではないことはもちろんです。しかし、国立大学法人は、国との間に一定の距離を保ちつつ、様々な分野で今まで以上に、公立・私立大学との間で競争するようになります。現代GPは、新しい高等教育政策の視点からみた場合、まさしく競争的な環境の中で大学・大学院での教育改革を実現させることに目標が置かれていることを認識しなければなりません。

 大学等での教育改革については、多数の英知を結集したプロジェクトを考案することが必要です。これまで大学内部での教育にかかる議論は、教務委員にでもならない限り、「自家営業」ないし「個人商店」の色彩が強く、また他の教員の授業について何か発言できるような環境にはありませんでした。今回の現代GPの意義は、そうした垣根を取り払い、広く自分の学科、学部、あるいは大学全体として取り組むべき教育課題を認識し、具体的な改革案を考案しなければならない点で、大学にとって大きな意義があったのではないでしょうか。

 高等教育のあり方は、文部科学省や各大学の個別的な問題であるだけでなく、国家全体にとっても極めて重要な意義があります。教育は百年の計、と言われる通り、そのあり方によって国の繁栄や発展が大きく左右されます。何が正しかったのかは、百年後になってみないと分かりませんが、何か問題が認識されたときに、何もしないでいることがもっとも大きな禍根となる、とわたくしは考えています。現代GPは、限りある財源のなかからやる気と英知を結集した大学等に重点的に財政支援する仕組みというところが、非常に有意義かつグッドアイデアです。

 ここから先は、各大学等の責任です。今回、選定された案件と残念ながら不採択となった案件との間に明確な一線を引けるわけではありませんが、全体としましては、やはり選定案件は、よく練られた企画となっている印象を強く受けました。おそらく企画案を策定するプロセスで多くの人々の議論と英知が結集されているものと思われます。全体の印象として、組織的にエネルギーと時間をかけて作成された案件の強さをみてとれました。

 大学が大変革期に入っている今、大学教育のあり方についても改革が必要となっていますし、社会もそのことを期待しています。国際的な研究水準を維持することはもちろんですが、大学教育についても高いレベルを維持しなければ、これからの国家としての日本が成り立ちません。大学人は、一人ひとりがそのことを強く意識し、教育改革を実践することが求められています。現代GPは、そうした実践を支援する強力なツールとなると考えますので、多くの大学等が今後もこの事業に参加されることを期待しております。

-- 登録:平成21年以前 --