パネルディスカッションの様子

A
 本日はお忙しい中をお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。定刻となりましたので、これより平成17年度、現代GPフォーラムをはじめさせていただきます。それでははじめに、文部科学省の石川高等教育局長から開会のあいさつをさせていただきます。石川局長、よろしくお願いいたします。

石川
 皆様、おはようございます。ご紹介をいただきました文部科学省の石川でございます。今日は平成17年度の現代GPフォーラムに、大変大勢の方がご来場いただきまして、誠にありがとうございます。ひとことごあいさつを申し上げさせていただきたいと思います。これからの知識基盤社会におきまして大学をはじめとする高等教育機関は、個人の人格形成の上でも、また社会、経済、文化の発展、あるいは国際競争力の確保といった国家戦略の上でも、極めて重要な役割を期待されております。昨年の1月、皆様方もご記憶と思いますけれども、中央教育審議会の答申「我が国の高等教育の将来像」では、同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受ける、という状況の中で、各大学等が社会から期待される役割、機能を十分にふまえた教育研究を展開し、個性、特色を明確化することが重要であるということですとか、あるいは今後、各大学は自らの選択により機能分化していくべきである、こんなことが提言をされております。また、各大学がこの機能別分化を念頭に、個性、特色を明確化するにあたりまして、財政面におきましては基盤的経費の助成、あるいは競争的資源配分、こういったものを有効に組み合わせることによる多元的できめ細やかなファンディングシステムを構築することが重要であると、こういったことが提言をされているわけでございます。
 このことをふまえまして、文部科学省では国公私立大学を通じた競争的な環境の下で、大学の教育改革への取組を支援する事業を推進しているところでございます。まさに、この現代的教育ニーズ取組支援プログラム、現代GPはその重要なひとつでございます。この事業は社会的要請の強い政策課題に対応したテーマにつきまして、各大学、短期大学、あるいは高等専門学校の特に優れた教育プロジェクトを選定いたしまして、広く社会に情報提供をするとともに、財政支援を行うことによりまして、これからの時代を担う優れた人材の養成を推進する事業でございます。本事業は選定されるだけでなく、学内で申請にいたる議論を積極的に行っていただく過程、それ自体にも意義のある事業でございます。また、選定された取組を、ほかの大学などが参考にすることによりまして、さらなる高等教育の活性化につなげていくということを重要な目的としております。
 本日のフォーラムは選定大学等の取組状況に関する情報発信の場であるとともに、選定委員会の委員の先生方のお考えや、あるいは選定された大学等の取組について、直接意見交換をできる貴重な機会であると考えております。皆様方におかれましては、この機会を有意義に活用し、18年度の申請に向けましてそれぞれの大学で改革に向けた議論を、活発に進めるとともに積極的に申請をしていただくことを、心から期待をしております。最後に大変厳しい日程の中で、精力的なご審査をいただいております荻上委員長、そして永田副委員長をはじめとする委員の先生方にこの場をお借りいたしまして、改めて厚く御礼を申し上げまして、私の冒頭のごあいさつとさせていただきます。本日は本当にありがとうございます。

A
 ありがとうございます。それでは現代GPフォーラム、パネルディスカッションに移らせていただきたいと思います。パネリストの先生方は、ご登壇いただきますようよろしくお願いいたします。パネルディスカッションは、現代的ニーズに応える大学教育というテーマでご討議いただく予定になっております。ディスカッションの司会進行は、文部科学省大学振興課の伊藤大学改革推進室長が務めさせていただきます。それでは伊藤室長、よろしくお願いいたします。

伊藤
 それでは皆様、改めましておはようございます。休日、朝早くから多数の皆様にお集まりをいただきまして、誠に感謝を申し上げます。ただいまより、午前の部のパネルディスカッションを開始させていただきたいと思います。「現代的ニーズに応える大学教育」このGPに関しどのように皆様方、取り組んでいくべきか。また今後の課題は何か。こういったことにつきまして、大いに議論を深めていただき、さらに午後の分野ごと、部会ごとのディスカッションにつなげていただければと思っております。
 はじめに私から、本日のパネリストの先生方をご紹介申し上げます。大学評価・学位授与機構教授の荻上紘一様でございます。荻上先生は、皆様ご案内のとおり、現代的教育ニーズ取組選定委員会の委員長でいらっしゃいます。続きまして、関西大学法学部教授の永田眞三郎先生でございます。永田先生は同じく、現代的教育ニーズ取組選定委員会の副委員長をお務めいただいております。続きまして、株式会社進研アド教育研究部課長の足立寛様でございます。足立様は、非常に数多くの大学について、取組取材等を通じ把握をされておりますとともに、特色GPの審査委員もお務めでございます。続きまして学校法人河合塾教育研究開発本部教育研究部長の滝紀子様でございます。滝様は大学を選ぶ高校生、またその保護者の立場から、様々な観点で大学の取組というものを注視していただいております。
 早速ではございますが、ただいまからパネルディスカッションに移りたいと思います。まず冒頭に私から、現代GPの意義等につき、若干ご紹介させていただきたいと思います。先ほど冒頭で私どもの石川局長からごあいさつ申し上げましたように、昨年1月の中央教育審議会の将来像答申で、知識基盤社会を迎える中で大学というものは大変大きな期待を寄せられていると。そしてその期待が非常にさまざまな期待というものが大学に課せられているということで、ご答申をいただきました。この図表にございますように、主に7つ、例示としてあげていただいたわけでございますけれども、一方で世界的研究教育拠点を目指すべきだ。また高度専門職業人員養成を進めるべきであるという意見。また総合的な教養教育を充実してもらいたい、特定の専門的分野の教育をしてもらいたい、さらに地域の生涯学習の拠点、また社会貢献機能を果たしてもらいたい。こういう形で、実は大学には今さまざまなニーズというものがあるわけでございますけれども、ひとつの大学がこのすべてのニーズを満たすということは物理的には大変厳しいわけでございまして、これからはそれぞれの大学が、自分の大学は何を売りにしていくのか、そういう部分をしっかり学内で検討いただきながら、個性、特色を発揮していく、緩やかな機能別分化ということも申しておりますけれども、まさにそういう時代で、わが大学が何を進めていくのか、こういう部分を大いに議論をしていただき、取り組んでいただきたいというような提言が、中教審からなされていたわけでございます。
 そういった中で、先ほど申しましたように、私どもも、各大学の個性、特色に応じた取組というものを多元的に支援できるようにということで、さまざまな目的に応じ、国公私を通じた大学教育改革の支援のプログラムというものを提供させていただいておるわけでございます。世界的な研究教育拠点の形成という21世紀COEプログラム、こういう部分もございますし、それぞれ社会の要請に応える専門職業人の養成を行っていく部分もございます。また、それぞれの教育課題に応じて、高専、短大、学部、大学院、それぞれのレベルに応じ、段階に応じて支援をするということで、特色GPですとかイニシアティブ、こういう事業も展開しているわけでございますが、その中で、まさに現代的課題に対応できる人材を養成していくという大学の取組を支援させていただくのが、この現代GPでございます。
 現代GPは改めてご説明するまでもなくご案内かと思います。平成18年度はこの6テーマに沿って、いま公募をしているところでございますけれども、この6テーマに沿って、それぞれの大学内で、大いに議論し、申請をしていただいた優れた教育の取組を選定し、支援をする。それにより大学全体の教育の活性化につなげていきたいということでございます。
 最後に、1枚だけ簡単な数字を紹介させていただきます。現代GPに関してですが、ご案内のように平成16年度から始まりまして、2年目が終わるところでございます。この間、徐々に浸透をしているところでございまして、この表でございますように、40パーセント以上の大学がこれに申請をしている。文部科学省のプログラムいろいろございますけれども、一部の大学がやはり申請しやすいというプログラムもございます。それに対して、現代GPは徐々にいま広がりつつあるところでございまして、今年度、18年度の募集になれば恐らく半数以上の大学が申請したことがあるという形になるのではないかと思っております。右上の表でございますけれども、申請をしなかったというところも申請までの時間が足りなかったので申請できなかったとか、これまでのテーマ設定だとうまく合うものがなかったので申請できなかったということでございますが、18年度は環境教育やキャリア教育という新しいテーマも設定をいたしましたので、大いに申請が伸びるのではないかと期待しているところでございます。
 さらに右下のグラフでございますけれども、そういう申請に向けた行為、実際には選定を残念ながらされなかったけれども、申請に向けて学内で議論した、この行為自体が非常に役立っているという声を多数の大学から頂戴をしてございます。そういう意味で、ぜひ今日のフォーラム等を通じて、またこのGPに対するご理解というものを深めていただいて、大いに学内で議論を進め、このGPグループに皆様もご参加いただければありがたいと思っております。以上、GPの意義につき、私から簡単に説明をさせていただきましたが、このあと各パネリストの先生方から、それぞれのお立場に沿ってこのGPの成果、また課題等につき、ご発言を頂戴したいと思っております。
 それではさっそくではございますが、トップバッターといたしまして、荻上先生から競争と評価の時代の中で、大学に求められる組織的な教育とインセンティブということにつきまして、ご提言を頂戴したいと思います。荻上先生よろしくお願いいたします。

荻上
 それでは選定に携わった者の立場から、少しお話をさせていただきたいと思います。まず競争的環境の中で個性輝く大学をつくるというキャッチフレーズの下に、大学改革が進められているわけでございますが、競争的環境の中で大学改革をしていくというときに、まず第一に求められるものは大学の目的、あるいは育てるべき人材といったものを明確に定めていただくということだと思います。その明確に定められた目的のもとで、さまざまな議論をし、アイデアを出していただいて競争をしていく。競争をしながら客観的な評価を受けて、よりよいものに改善をしていくという努力をしていただくわけですが、この現代GPの立場から言いますと、まず大学が社会に開かれたものになる。いわゆる「開かれた大学」と言われますけれども、そのことが非常に重要なキーワードではなかろうかと思います。先ほど来お話も出ていましたけれども、そのためには積極的な情報発信というものが欠かせないことになると考えます。
 大学が組織として受ける第三者評価という観点から考えますと、これは大きく2種類に分けることができると思います。法律で受けることが義務付けられている評価、それから各大学が自主的に受けることができる評価。その2種類に分けられると思います。法律で義務付けられている評価としては、つい昨年度から始まった、認証評価というものがあります。それから大学などをつくろうと思ったら、設置の審査を受けなければいけない。これも法律で義務付けられている評価ということになろうかと思います。それから国立大学について言えば、さらに国立大学法人評価というものを受けなければいけないということも法律で義務付けられたわけです。このような何種類か法律で受けることが義務付けられている評価というものもありますが、一方で各大学の判断で受けられる評価というのもたくさんあります。21世紀COEであるとか、特色GPであるとか、このわれわれの現代GPであるとか、あるいは魅力ある大学院教育イニシアティブ、あるいはJABEEなどいろいろなものがあります。
 第三者評価ということになりますと、大学の先生方はこれまで研究に関する第三者評価には十分慣れていらしたと思います。また積極的にそういった第三者評価には取り組んでこられたと思います。しかし、教育に関する第三者評価にはあまり慣れていらっしゃらなかった。もしかすれば、教育に関する第三者評価などという概念は辞書に載っていなかったのではないかとさえ思われます。大学の教育というのは、従来はどちらかと言うと、教員が一国一城の主的な色彩が強くて、教員個人の取組が中心ではなかったかと思います。もちろん、大学の教育においては、教員の個々の資質は極めて重要ですが、これからは組織としての教育力が問われることになると思います。先ほど申し上げました教育に関する第三者評価には、さまざまな形のものがありますけれども、そういったところで問われるのは個々の教員の資質ではなくて、組織としての教育力であると思います。
 それで、現代GPについて申し上げますと、これは現代的教育ニーズに応えるべく組織として工夫をする、そういうことに対してインセンティブを与えるということを目的として設定されたプログラムです。これまでは教員個々の取組が主であった高等教育について、組織的に取り組むものに光を当てるということが、現代GPをはじめとするGPタイプのプログラムの狙いです。それで現代GPに関して言えば、2年間この事業を行ったわけですが、その効果がいろいろ表れていると思います。組織として教育に取り組むというためには、学内で横断的に教育内容、あるいは将来構想といったようなことを検討することが必要になってきます。そのためには学長であるとか、あるいは学部長などのリーダーシップが問われるということになります。それからいままで教員が一国一城の主的な色彩が強かったために学部の壁であるとか、あるいは学科の壁、さらには教員間の壁といったようなものが組織として教育を展開していく際に障害になっていたことも多々あろうかと思いますけれども、さまざまなGPに挑戦をしていただくという過程で、そういったさまざまな壁が低くなってきているというふうに見受けられます。
 また、さらに最近さまざまな形でファカルティ・ディベロップメントということが言われております。各大学はそれぞれの考え方に基づいてさまざまな工夫をしてFDに努めていらっしゃると思いますが、このGPに申請をするということをとおして、さまざまなGP効果が表れているというふうに考えております。
 それから当然のことですけれども、社会的なニーズに応えるということですから、大学が閉鎖的であってはいけないということで、大学の閉鎖性がずいぶん改善されてきているというふうに思います。それから個性輝く大学をつくるということですけれども、GPに挑戦をするということによって、大学の個性が非常に明確になりつつあるというふうに考えます。冒頭、申し上げましたように、まず大学の目的、どういう教育をするか、どういう人材を育てるかということを明確に定めなければ、GPに申請をするということは到底できませんので、そういう意味においても大学の個性が明確になってきていると考えます。
 それでわれわれ審査に当たった者としては、当然のことではありますけれども、公正な審査に心がけたつもりでございます。公正な審査と言いますと、公正性、透明性、客観性ということが重要な要素だと思いますけれども、公正性に関しては、有識者、専門家等による第三者評価を十分に心がけました。それから透明性に関しては、審査の方法であるとか方針であるとかあるいは審査基準といったようなものを、最初からすべて公表して公募をしたというような意味で、十分透明性を確保したというふうに考えております。客観性については、われわれは十分、客観性の確保に努めたつもりですが、どこが選定され、どこが選定されなかったかということについては、異論もあろうかと思いますが、非常に優れた取組が多くなってまいりまして、特に2年目には大変に優れた取組がたくさん申請され、選定した取組と選定できなかった取組で、紙一重のものがたくさん並んでおりました。そういう意味で、非常に優れていて惜しいなと思いながら選定できなかったものがたくさんありましたけれども、逆に言えばそれだけこういったことに取り組む各大学等のエネルギーが高まっているというふうに考えております。その意味では、このGPに挑戦をしていただくことによって、そのエネルギーが日本の高等教育の発展に着実に結び付けられつつあると考えているところでございます。では最後に、いま申し上げたようなことを1枚のスライドでわかりやすくまとめるとこういうようなことになろうかと思います。これは私がつくったのではなくて、事務局のほうでつくった資料を借用しました。お配りした冊子の中に入っております。私からは以上でございます。

伊藤
 ありがとうございました。開かれた大学づくりに向けて、特に教育に関する評価、それも組織としての教育力、それに向けた取組、こういう部分は、非常にGPで効果が上がっている部分につきまして、大変貴重なキーワードたくさん頂戴しました。それでは続きまして、永田先生から現代GPの共有ということで、公正な審査と積極的な情報提供につきましてご提言を頂戴したいと思います。よろしくお願いいたします。

永田
 それではご報告いたします。荻上委員長のもとでこの選定に携わった者として、特に表題にございます「公正な審査と積極的な情報提供」というところに焦点を当ててお話ししたいと思います。
 GPというのはご承知のとおり、Good Practice、これは優れた取組、実践を意味します。これは、文部科学省の国公私立大学を通じた大学教育改革支援のプログラムの一環で、特色GPと現代GP、この2つがそれに含まれます。この2つの違いについては、必ずしも明確ではないところがございましたけれども、特色GPは、18年度においては、修士課程、学士課程、短期大学士課程、それらの課程に応じた教育内容、方法の高度化と豊かさを内容とするもので、他方、現代GPは、現代的な課題に対応できる人材の養成と大学の多様な機能、展開ということを目指すプログラムです。
 GPの三原則の第1の原則は、大学の「競争環境を整備し促進していく」ということであります。国公私を通じた学生のために、あるいは社会のため求められる、適切な競争的環境をつくろうということです。これは、荻上委員長の話もございましたように、各大学、短大、高等専門学校が、この現代的課題をテーマとするプログラムに積極的な参加するということで、大学の中での大学改革の活性化に寄与するということを期待し、いわば「GP効果」を狙おうとするものです。これまでの大学改革というのは、概して、先生方の集まりの中で教育する側としてよかれと思うような内容の改革でした。それなら、まだよかったのですが、先生方の組織の維持を前提とした「改革」になりがちだったとも言えます。そういう中で、現代GPは、このようなプログラムに参加してみずからを競争的な環境にさらすことによって、改革そのものが客観的なものになり、すなわち、まさに学生のための、社会のための改革に変質していくことを狙いとしているのです。これが第一の原則でございます。
 第二の原則は「公正な審査」です。これは、高等教育機関が共有すべき優れたGPを、公平性、透明性が確保された公正な手続きで審査し選定していく、という原則です。
 第三の原則は、「積極的な情報提供」です。現代GPとして選定されたプロジェクトは、それが実践され、その経過と成果について積極的に情報提供がなされ、その成果を多くの大学等が共有していくということが重要です。
 現代GPの審査の実際についてお話しますと、これはもう公募要領等で強調されておりますのでおわかりだと思います。まず、透明性という点で、事前に審査基準を公表しているということが言えます。そこでは、5つの審査基準が明確にされています。
 まず第一点は、現代的な課題、社会的な要請に基づく6つのテーマが選ばれておるわけですが、各大学から申請されたプロジェクトがこのテーマに適合しているかどうかということです。第二点は、いまお話ししたことと少し混同されやすいのですが、申請されたプロジェクトが、この現代GPというプログラムに適合しているかどうか。すなわち、このプログラムは、学生教育、人材養成、教育機能の多様化ということが目的ですので、その本来の目的にこのプログラムに適合しているかどうかという点が重要です。第三点は、申請されたプロジェクトの実現可能性です。これは、現代GPは、申請されたとおり、これから新しい企画を始める、あるいはこれまでの企画を発展させていくということですから、それを実現していくだけの組織的な整備が十分かどうかというということを問うものです。第四点は、各大学のプロジェクトについて、最後にひとまとめで評価するわけではなく、その進行中にそれぞれ、そのプロジェクトがうまく進行しているかどうか、予定どおり進行しているかどうかというようなことを評価していくという体制がきちっとできているかということです。第五点は、申請されたプロジェクトが、大学等の教育改革への有効性の有無を問うという基準です。それが、他大学への教育改革へ、あるいは学生の主体的な学習あるいは教育参加などへ寄与していくものかどうかという審査の基準です。以上の審査基準は、詳細に公募要領に書かれているところであり、公表されます。それに従うことで、各大学は、申請に際して、ポイントを見逃さず的確に判断して企画できることになります。申請されたプロジェクトは、テーマごとの専門家及び有識者からなる第三者の審査機関で、公平に審査されます。
 書面審査、面接審査の実施は、テーマごとに設けられた6つの部会で行われます。各部会は、部会の委員、ペーパーレフェリーから提出されました審査資料に基づきまして、一定の評価の基礎資料を作成いたします。それを各部会によって書面審査をし、そこから面接審査の対象となるプロジェクトを選んでいきます。そして、面接審査を経て各部会が審査結果の報告を作成し、それに基づいて総合評価部会で選定の原案を作成し、最後に選定委員会で選定するという仕組みになっています。
 この企画はまだ3年目に入ったところであり、教育評価、特にプログラム評価につきましては、まだ十分な経験があったとはいえません。しかし、2年の経験を得て、徐々にその基本的観点とスキルの蓄積が始まっております。今後もさらに工夫して、しっかりした審査要領を作成し、応募される大学等の側の方々にも、ペーパーレフェリー、部会の委員の方々もそれを理解いただいて、的確な審査ができるようにしたいと思っています。
 現代GPの情報提供については、まず、文部科学省として、この現代GPを本日のような形でフォーラムを開催して、その実態、現在を知っていただくということを企画しておるというのがそのひとつです。それから、文部科学省のウェブサイトに選定された取組についての各大学のリンク集が掲載されておりまして、それにあたっていけるような仕組みも準備されています。さらには、特色GP、現代GPに関するイベント等について、すなわち、各大学が学内、あるいは学外で行うフォーラム等について、そのイベントの情報を、予告型と報告型とがありますが、「インフォメーションとレポート」と称してウェブサイトに載せております。それから、皆さんのもとにも届いていると思いますが、昨年の5月に創刊準備号、そのあと翌月6月から第1号で今回22号まで、各月3回ぐらいですが、メールマガジンを配信しております。12月までは登録制でございましたけれども、1月からは一般配信ができるようになって、皆さんが現代GPの現在をそのまま知ることができるという状況になっています。
 これが、文部科学省のプログラム側からの情報提供ですが、選定された各大学の取組の経過や成果を他の大学に情報提供していただくということが重要ですので、その後の進捗状況を公開していただくということをお願いしてきましたが、今回の公募要領では、そのことを選定された大学の責務として掲げています。現実には、選定された当初についての報告はあるにしても、その後の進捗状況は必ずしも展開されていないというものがあります。選定された大学等に積極的に働きかけて実現していっていただきたいと考えます。
 この現代GPについては、学内では、この現代GP申請してよかったという意見、とくに50数パーセントの大学等で教育改革の議論活発化に役立ったというようなデータが出ております。大学等の中ではそういう反応ですが、ユーザーである、あるいはマーケットである高校生やその他、社会に対して現代GPがどう寄与しているかということについては、必ずしも十分に把握できていないと思います。きちっと伝わりやすい用語で、伝わりやすい内容に加工して情報提供していくことが必要ではないかと考えております。荻上先生がおっしゃったように、各大学の個性と特色の明確化のためにこの現代GPの申請をされ、GP効果という形で各大学が新しく社会にさらせるだけの大学改革を進めていかれるということを期待しております。
 茶色い建物の中だけで改革を考えていたものが、この周辺のステイクホルダー、学生諸君を中心としたステイクホルダーを考慮し、そして他大学から吸収し、他大学に発信していけると、こういうような大学改革を、日本全体の高等教育機関の質の向上に寄与するために進めていくべきであろうと思います。以上でございます。

伊藤
 永田先生、ありがとうございました。これまでの大学の改革は、ややもすれば組織を守るための改革になっている部分もあったけれども、これから学生のため、社会のための改革が必要であり、そのために情報提供の重要性も含めまして、ステイクホルダーである、またユーザーである高校生に向けて、どうこの改革を伝えていくか、こういう大変貴重な提言を頂戴をいたしました。続きまして、これからステイクホルダーの関係のほうに話が移っていきますけれども、まず足立様から、学生の目から見た大学教育の、特に授業の内容、方法等に関するいろいろな問題点ですとか、それを通じた現代GPの課題などにつきましてご提言を頂戴したいと思います。よろしくお願いいたします。

足立
 足立でございます。現在、私が勤務しております進研アドは、株式会社ベネッセコーポレーションのグループ企業です。そのような関係もあり、私の話の前半部分は、大学生に対するベネッセコーポレーションの調査結果を中心にいくつか話題をご提供したいと思います。そして後半部分は、進研アドで発刊している「Between」という大学改革関係の専門誌の編集長として、さまざまな大学の取材から得られた教育改革のあり方について思うところを少しお話させていただくとともに、現代GPについてもいくつか問題提起をさせていただこうと考えています。
 最初の資料は、大学生に入学前と入学後でどういうイメージギャップがあったかを聞いた調査結果でございます。実は資料にはお出ししませんでしたが、経年調査もしていまして、割合としては減ってはきているのですが、それでも2004年時点で3割を超える学生が「講義がおもしろくない」と答えております。続いて「施設、設備が不備」、教員との交流が少ない」「学習内容がミスマッチ」「進路指導体制が不十分」「授業に手ごたえがない」、こんな項目が2割以上の割合で並んでまいります。2割を多いと見るか、少ないと見るかということは人によって違いはあるのですけれども、私自身は、結構まだまだ学生の不満は多いと感じています。ちなみに、資料にはありませんが、学部系統別の集計結果を見ると、さまざまな項目に渡って学生の不満の割合がとくに多かったのが経済学部系統でした。おそらく、経済学部系統は、学生とのコミュニケーションがなかなか図りにくい大教室での授業の割合が他学部系統よりも比較的多いと考えられるうえ、そもそも経済に関心が薄いまま入学してくるモラトリアム型の学生も比較的多いからではないかとも思われます。
 次の資料は、授業・教育システムについて学生の満足度を聞いてみたものでございます。これは「とても満足」「まあ満足」を足し合わせた割合がいわば肯定型になります。ご覧いただくと、「専門科目の授業」という項目については、満足度は比較的高いわけですが、「実践的な授業(実験・実習・フィールドワークなど)」については、満足している層は半分程度に減ってしまいます。このあたりについては、まだ課題があるのではと私自身は思っております。
 「教員についての満足度」について調査したものが次の資料でございます。これをご覧いただきますと、「学問分野の専門家としての教員のレベル」についての満足度は、当然高いわけですけれども、「一人ひとりの関心に応じた指導」という項目では、満足している学生は3割にも満たないことがわかります。さらに「授業のわかりやすさ」という項目では、「とても満足」という学生の割合が最も少なく、わずか6パーセント程度にとどまっています。昨今、FDの取組がどの大学でも盛んですが、FDのシンポジウムなどを実施すると、必ず出席する教員がいらっしゃる一方で、学生の授業評価が低くFDが必要な教員はほとんど出てこられないという話をよく耳にします。本当に熱心に取り組む一部の教員とそうでない多くの教員と二極化が進んでいるように感じています。
 次の資料は5年前の調査ではありますが、ベネッセコーポレーションで学長、学部長の方々に大学改革に関するアンケートをとり、その結果を4象限の相関図にしてみたものでございます。縦軸は上半分が「今後の取組」として考えているもの、下半分が「すでに取り組んでいる取組」です。そして横軸は、右側ほど「今後力を入れたい」という割合が多かった取組です。すると右上の第一象限には、「教授法改善」「進路支援」という2つの取組が位置づけられます。ここでの「進路支援」は「キャリア支援・キャリア教育」と同じ意味で考えていただいても結構かと思います。この結果から、5年前から大学トップの方々は、FDやキャリア教育・支援が重要な課題であることをよくご認識なさっていらっしゃったと言えましょう。しかし現状として、それらがどれだけ個々の大学教員のレベルまで浸透しているかと言いますと、最初にご紹介したようなさまざまな調査結果を見る限り、不十分であるといわざるを得ません。
 次の資料は読売新聞社の調査になりますが、大学教員の側でも学生に対して不満をお持ちであることがわかります。「積極的に課題を見つけ解決する意欲がない」「論路的に考え表現する力がない」「読解力や記述能力、日本語能力がない」など、これまでもよく言われてきたことですが、これらをトータルで見た学力低下への不満があることがわかります。
 学生側にもいろいろと課題があることは、次の2005年のベネッセコーポレーションの学生調査でもわかります。これは専門領域に重要とされる能力・態度がどれだけ身についたについて聞いてみたものです。「十分できている」と答えた割合の多い順に項目を並べています。この結果、一番割合が多かった能力・態度は、「他人と協力しながら研究や作業を進めること」でした。次に「道徳心や倫理観を身に付けること」「地道な作業を続けること」「自分の考えを文章で表現すること」と続きます。一方で、「十分できている」「まあできている」を合わせても半分にも満たない能力・態度としては、「リーダーとしてグループをまとめること」「他人が思いつかないアイデアを出すこと」「語学力を身に付けること」の3つが挙がります。これらの能力・態度はこれからのグローバル社会において社会人としてもっとも求められる能力・態度と言えます。大学側もこれらの能力をどのように身に付けさせられるかがそれぞれのコア・コンピタンスにつながってくることになるだろうと思います。
 私自身、Betweenで様々な大学の取組を取材させていただいてつねづね感じていることですが、どの大学でもまずは制度を整備したり、導入したりすることから大学教育改革が進められます。それらは、GPA制度であったり、アドバイザー制度であったり、学生による授業評価制度であったりするわけです。しかし、もっとも肝心なことはそれらの制度を活かして、どのように大学の授業の活性化に結び付けられるかなのです。それは個々の教員の方々の意欲や熱意が伴わなければ実現しません。逆説的に言うならば、すべての教員が大学の授業をどのように活性化すべきかを常に真剣に考える風土が整っていれば、GPA制度やアドバイザー制度など導入しなくても、大学の教育改革は推進できます。制度やシステムを作ってそれで安心してしまってはいないか、つねにPDCAサイクルで検証できるようにしておかないといけないのだろうと思います。
 次の資料は、「より良い教育環境を目指す大学の13の特徴」とありますが、Betweenの取材を通して感じた特徴をまとめてみたものです。時間もないので一つずつ読み上げませんけれども、こういったさまざまな取組をそれぞれの大学の中でどのように組み込んで、独自の取組として工夫されるのかということが求められているのです。
 ただ、このような取組をいくら熱心に行っても、そのような大学改革の中身や成果が高校生や高校現場になかなか伝わっていないという事実があり、それはとても問題だと感じています。たとえば次の資料は高校2年生を対象に進研アドで調査した結果ですが、今、大学のパンフレットやホームページを拝見すると、リベラルアーツ、リメディアル、学際的、実学、インターンシップなどという言葉のオンパレードです。しかし、これらの言葉の意味を高校生はどれぐらいわかっているのかというと、実際はほとんどわかっていないということがわかります。こういった言葉だけではありません。近年では、ホームページに現代GPや特色GPで選ばれた取組をバナーで出して、大々的に宣伝している大学も少なくありません。しかし、そこでの掲載内容を拝見すると、文科省や大学基準協会に出した申請書をそのままPDFで載せていたり、多少加工していても文章の中身自体は高校生レベルでは難解な文章のままであったりするケースがほとんどのようです。これでは、いくら現代GPや特色GPですばらしい取組が選ばれたとしても高校生や高校現場になかなか伝わりません。広報の仕方をもっと工夫すべきなのです。
 このように高校生にあまり知られていない現代GPや特色GPではありますが、大学教育に対して果たしてきた役割はとても大きいものであったと思います。なぜなら大学が教育に対してこれほどまでに本気で取り組むようになったのも、全入時代を迎えて、目の前の学生のさまざまな変容に対してなんとか対処していかなければならないという大学教員の真摯な思いがあったことが基本にはありましたが、現代GPや特色GPのようなコンペ形の資金援助のしくみが、旗振り役としての役割を果たしてきたからです。
 ただ、そのような成果を認めた上で、たとえば現代GPに絞って問題提起をさせていただくと、以下のような問題点が挙げられると思います。一つはすでに指摘させていただきましたが、社会の認知を広げ、理解を深める活動がまだまだ十分ではないということです。文部科学省でも、メルマガなどを通じていろいろと情報を配信していらっしゃいますが、もっと積極的に高校現場などに認知を広げ、理解を深めてもらう施策が必要なのではないか。そのためには高等教育局と初中等教育局と連携して広報の仕方を考えるとかして、何かもう一工夫していただく必要があると思います。
 それからテーマの設定ですが、もう少し広い視野で考えられるテーマでないと、大学から見ると細かいテーマ内容に縛られてすぎてしまって、せっかくよい教育的取り組みの計画があるのにテーマに合わないという理由で申請できずにジレンマが起こっているように感じます。ただ、これは常に見直せばすむ問題であって、今度新しいテーマが加わるようですし、これはさほど問題はないと思います。私などは、高大連携とかそういったテーマもどんどん提示されればいいと思います。
 それから3番目の問題は、そもそも設定したテーマ自体が本当に学生や社会の現代的ニーズに合ったものなのかということです。社会のリーダー養成を目指している取組なのか、若者全体の人間的成長を目指す取組なのかでも、テーマ設定はまったく違ってきます。いまや高校生の2人に1人が高等教育機関に進学する時代にあって、後者を目的としたテーマ設定があってもいいように感じます。
 そして4番目は大学内部の問題になりますが、現代GPに選ばれることが目的化してしまって、いかに説得力のある企画が立てられるかどうかということばかりに奔走してしまっているのではないかという危惧を持っています。やはり特色GPにしても現代GPにしても、選ばれた事例を知ることで、うちの大学もこういった取組だったら使えるな、とか、この部分はうちの大学でも実施してみようというのが、実は本来の目的であろうと思うのです。しかし、選ばれたいと思うあまり、どの大学も特色性ばかりを追いかけていくと、本当の目的からどんどん外れていくような気がします。
 以上、さまざまなことを申し上げましたが、最後に大事なことは、個々の教員の方々の教育への熱意と実践だろうと思います。「凡庸な教員はただしゃべる。ちょっと優れたマシな教師は理解させようと努める。より優れた教師は自分からやってみせる。本当に優れた教師は心に火をつける」というイギリスの哲学者であるアーサーウイリアムワードの言葉の通りです。現代GPで申請された取り組みについても、選考の結果如何に関わらず、お一人お一人の教員の方々がどれだけご自身の問題としてご認識いただき、行動に移していただけるかが成功への鍵だと思います。ちょっと時間をオーバーしましたが、私からの話はこれくらいにさせていただきます。

伊藤
 足立様、ありがとうございました。大変厳しい、今日お集まりの方々にとっても厳しい部分もございました。学生から見た満足度、こういう部分に関してもっと目を向けていかなければいけないし、さらにはその先にいる高校生、これにどうGPが伝わっていくのか。また大学の改革が自己満足で終わらずに、どうシステムとしてうまく定着し、次の改革につながっていくのか。こういうことに関して大変貴重なご提言を頂戴いたしました。さて、最後は滝様から、まさにこれから大学を選ぶ高校生がどう見ているのか。GPが伝わっているのか。こういった点についてご提言を頂戴したいと思います。よろしくお願いいたします。


 河合塾の滝です。どうぞよろしくお願いいたします。まず私としては、大学教育にスポットがあてられた結果、大学が教育について真剣に考えるようになったということは、大変意義があることだと思っています。
 それでは実際、高校生の子たちはどのようにとらえているのでしょうか。河合塾では毎年3月に、河合塾を卒業する浪人生および高校生の人たちに任意でアンケートを実施しています。そのアンケートのなかに、志望大学決定で重視した項目は何かという質問があります。96年度と2005年度という10年間のスパンで比べてみますと、96年度のときはまだ入試が難しかったということもありまして、入試難易度が1位でした。それが2005年度では、入試難易度や入試科目・出題傾向という入試関係の項目が96年度と比べて減少しています。重視した項目の1位は大学の知名度、2位は設置学部・学科・専攻と変わりました。
 その他に96年度に比べて重視されてきている項目は、就職実績、交通の便、取得資格・免許、カリキュラム、学費などが上げられます。特にカリキュラムについては、割合で言えばまだ少ないですが、8.5パーセントから11.5パーセントと3ポイントも増えています。大学に入ってどのようなことが学べるか、どういう教育プログラムやサービスが用意されていて、どういった教育付加価値がつくかというようなことを、気にするようになってきているようです。さらに、国公立型生と私立型生で分けて分析してみますと、私立型生が国公立型生よりも重視している項目は、大学の知名度、就職実績、歴史や伝統、交通の便、学生の雰囲気、カリキュラムでした。カリキュラムについては、14.9パーセントにのぼりました。私立大学の大学選びに関しては、徐々にですが大学の教育内容を重視しはじめています。
 それでは、受験生はそういった大学の情報をどのように集めているのでしょうか。受験生のほとんどは、大学案内・パンフレットあるいはホームページを参考にしています。そこで、「大学案内・パンフレットのどの項目を重視して見ますか?」というアンケートを受験生に実施したところ、「学部・学科の内容、カリキュラム」が72パーセントと断トツに高かったです。次に、入試に関する情報、就職先・卒業後の進路、大学の施設・設備の紹介が40パーセント台で上がっています。このアンケート結果からでも、大学の教育内容について興味・関心が高まっていることがわかります。さらに、「今後、大学案内・パンフレットに関して、充実させてほしい内容、要望は何ですか?」と質問したところ、やはり1位は「学部・学科の内容、カリキュラム」でした。これはどういうことかと言いますと、今の大学案内・パンフレットでは、欲しい情報が得られないということだと思います。先ほど足立さんが言われたように、実は大学案内・パンフレットなどは、大学の先生たちの目線で書かれているために、受験生たちには内容が理解しにくいようです。またいくつかの大学を比べてみても、国際化、情報化、少人数教育など同じようなキーワードが並んでいて、大学の特色・特徴、違いが実はよくわからないのです。そういった意味で、高校生の子たちは学部・学科の内容やカリキュラムなど大学の教育内容に関する情報を知りたいのに、大学から発信される現状の情報では、あまり実態が把握できず、もっと充実させてほしいという声が強くなっているのだと思います。
 それでは、高校の先生はどうでしょうか。河合塾では、隔年で普通高校2,000校に「今年度の大学入試を振りかって」というアンケート調査を実施しています。回収率は50パーセント強なのですが、そのなかの質問に「偏差値をあまり意識しない大学の中で、貴校が評価する大学(学部・学科)はどこですか」という項目があります。2005年度は、1位が最近脚光を浴びている金沢工業大学で83校と圧倒的に多かったです。2位は高知工科大学で18校、3位は名古屋商科大で17校と、3位までが二桁でした。このアンケート結果を見て、意外に思ったのは、潰れる大学の三要素として、以前は「単科大、地方大、女子大」があがっていたような気がします。しかし、今高校の先生に評価されている大学は、学部が少ない単科系の大学が多いということです。本来ならば、総合大学のほうが受験生に魅力があり、いろいろな意味で力が発揮できるように思われるのですが、現実はなかなか調整が難しく、組織的に対応できていないようです。単科系大学のほうが、スピーディに、フレキシブルに、より熱心に対応できていて、そのため成果も現れやすく、高校の先生に評価されてきているというのだと思います。
 評価している主な理由について見ていきますと、例えば金沢工業大学では、「指導体制、指導方針がしっかりしている。指導者が良く大学側の意欲が感じられる。教育内容、講義、研究施設の充実。就職実績、生徒育成の態度に好感が持てる。面度見が良い。卒業生の満足度が高い。」があがっています。私はこの中でいちばん大事だと思うのは、卒業生の満足度が高いということだと思います。高校の先生たちが送った卒業生の人たちが、その大学に入って満足しているかどうか。卒業生の満足度が高ければ、来年からもっと積極的にこの大学を生徒に勧めようということになります。この口コミこそが大学にとって、最高の広報なのではないでしょうか。教育内容に対する大学生の満足度が高いということは、すなわち学生のための大学改革が行われているということだと思います。学生のための大学改革が行われていれば、その成果が大学生を通じて、社会に広まっていきます。
 それでこのフォーラムに合わせて、急遽、河合塾のチューター(進路指導を担当)にアンケートを実施しました。21世紀COEプログラム、特色ある大学教育支援プログラム、現代的教育ニーズ取組支援プログラムなどで、生徒や保護者から話題に出る制度やプログラムはありますかと聞いたところ、ほとんどないという結果でした。マスコミが大々的に取り上げたため、21世紀COEプログラムが唯一1割ぐらいあるだけです。
 それでは、チューターは面談をして、志望校選択の相談にいろいろと応じますが、そのような時に、話題に出す制度・プログラムはありますかと聞きますと、やはりこちらのほうも21世紀COEが23.1パーセントで、特色GPは4.6パーセント、現代GPは0でした。実際、チューター自身がその内容を良く知っているかというと、21世紀COEは4割、特色GPは3割ぐらいのチューターが知っていますが、現代GPですと1割未満という状況でした。それは何故かと言うと、現代GPに選ばれたことが大学にとって重要であり、そういう視点での大学広報になっているからです。大事なことは、特色GPも現代GPも組織としての教育力を問われているわけですから、選ばれた取組の紹介だけではなく、大学・学部全体の教育力がわかるように打ち出すべきだと思います。

伊藤
 ありがとうございました。最後は大変厳しいというか、今後の大きな課題に向けてのご提言でございました。高校生もまず大学の教育の中身をしっかり見はじめているぞということでございます。そして、やはり学生のための教育改革かどうか、ここの部分が大変重要であるというご提言でした。さらには現代GPについて、この現代GPという事業名が最終的には伝わらなくてもこの取組がしっかり学生に伝わっていけばいいのかなと思っておりますけれども、そういう部分に向けた情報発信の課題というものもご提言いただいたのではないかなと思っております。
 それでは残された30分の時間を使いまして、4先生方の発表をふまえて、GPのこれまでの成果とさらなる飛躍に向けた課題という部分について、少しディスカッションを進めさせていただければと思っております。まずGPに向けた成果について初めの荻上先生からも、まさに申請に向けた学内検討による改革の推進という効果を提示していただいたわけでございますけれども、数多くの取組の審査をされている立場から申請書を見ると、学内の検討具合というのが本気でやっているのか、一部の先生方だけが作文で書いているのか、こういう部分がある程度わかってくるのではないかと思います。今日お集まりの大学関係者の方に、ぜひこういう検討、こういう形でのご努力というのをしてもらいたいということで、お気づきの点があればご発言を頂戴したいのですけれども、いかがでございましょうか。荻上先生、もし何か視点あれば、学内でどういう検討をしていくのか、学長、副学長をどういうふうに巻き込んで、取り組んでいくのかということに関して、審査をして、多くの大学の取組をご覧になられていると思うのですが、こういう大学がうまくいくぞというところがあれば。ちょっと難しいかもしれませんけれども。

荻上
 いまちょっとお話にありましたが、一部の先生何人かで申請書を書いて出してきたというようなものは、そうだろうなということはだいたいわかりますね。特に2年目からはすべてのテーマについてヒアリングを行う、面接審査を行うようにしましたので、そのあたりのところはいっそうはっきりするようになったと思います。大学として、あるいは学部として、真剣に改革に取り組もうとしているのかどうかというあたりは面接をすれば、大変によくわかったと我々は思っています。申請書類では大変よく書けていて、これはよさそうだなと思って面接で学長、あるいは学部長にいろいろお聞きしたところ、組織として取り組もうという姿勢はほとんど見られないというようなものも中にはあったように思います。そのあたりは書面だけではなかなかわからない面も、面接をすることによってずいぶんわかるようになったと思っております。

伊藤
 ありがとうございます。永田先生、いかがですか。

永田
 ひとつ危惧されますのは、先ほど足立さんがおっしゃったところで、この選定の競争の中で勝っていくためにと言いますか、選定されるためにいろいろ工夫をするのですが、かなり新規性とか特色を出そうとして無理をしているところがみられます。自分の大学の力量と言いますか、それに沿ったプロジェクトになっているかどうかというところで大きな問題のあるところは、やはり選定の経過の中でチェックされて選ばれないということになると思うのですが、そのあたり無理をしたところは、本当にその部分が実現できるのかなという、私自身が面接にあたっているわけじゃございませんけども、そういう感じがいたします。現実に選定されたあとの各大学のイベント等を見ましても、自分たちが十分に現代的な課題、社会的要請に合ったものとして選ばれた、その部分がちゃんと伸ばした展開ができているかどうかというところは、若干疑念のあるものもあろうかと思います。
 それから荻上先生がおっしゃったように、やはり選定されるまでに十分に議論して申請した大学はその後の活性化に生きていると思うのですが、たとえば大学の中でコンペをやったりして選んだにしても、それが一部の先生方の議論の中で生まれ、たまたま全学的な、あるいは学長の判断で選ばれたというものでは、あとで先生方も大変だと思いますし、現実にはなかなか伸びにくいのではないかと思います。やはり学長がリーダーシップを握って、きちんととりまとめ、選定された場合はこういう仕組みでやっていくのだということをしっかり準備し、選ばれたら自分たちの成果だということをトップが考えるのではなくて、それを支えていくことが大学の責務だということでないと、活性化にはつながらないと思います。おおむねうまくいっているかと思いますが、若干難しいところが残っているかと思います。以上です。

伊藤
 ありがとうございました。足立様の先ほどのご発言の中で、5年も前から学部長等のアンケートではそういう課題が出ていたけれども、それがいまをもってなかなか教員に伝わっていない部分もあるのではないかというお話もございました。また大学の事業を活性化するために、いろいろな取組が始まってはいるけれども、やっているよというだけでうまくPDCAサイクル的な形で動いていないのではないか、定着していないのではないかというようなお話もございました。数多くの大学を足立さんも目にされていると思うのですけれども、いまの荻上先生、永田先生のご発言もふまえて、ぜひアドバイスというか、こういうシステムを導入すると、そのあたりうまくいくぞ、というようなことがあれば、会場の皆さんの参考になるのではないかと思うのですが、いかがでございましょうか。

足立
  Betweenでは、特色GPや現代GPに選ばれた大学に取材にいくことが結構あります。実際に取材でお聞きすると、オフレコで載せられないような裏話も結構出てきます。そのような取材を通して、申請にあたっての工夫の仕方や体制のあり方などについて、いくつか参考になる事例や特徴をうかがい知ることができます。たとえば、どの取組を申請するかを選ぶために学内コンペをしている大学があります。まず学内で競争原理を持ち込んでいるわけです。各学部からこの取組を大学として出してほしいという申請を受け付け、学内コンペで審査をして、全員が納得するような手順を踏んでいます。
 職員のサポートがしっかりしていることも選ばれるための必要条件です。さまざまな申請関係の専属部署を設置し、そこの職員が申請書の作成を一手に引き受けています。そのようなサポート体制がしっかりしている大学は、どの申請書も内容がきちんとしていて、むらがありません。
 3番目はそのような専門職員の仕事になってくるとは思うのですが、その大学がこのテーマで申請しようと考える際に、同じようなテーマで取り組んでいる他大学の情報をしっかりと収集しています。結局は、審査も同じような取り組みのなかで、どの取り組みが優れているかを見るわけですから、そういった情報収集は常に欠かさないことが肝要です。それができていない大学ほど、自分のところの取組こそが一番と思って自画自賛型の申請書を出されるのですけど、審査する側から見るといろいろな同じような取組をいくつも見ているので、他の取組のほうがもっとすごいとか、本当にそんなにすごいのだろうかとか、いろいろ見えてくるのですね。そういった意味では、取組内容や成果については、なるべく事実だけを正確かつ具体的に書くほうが評価されやすいのではないかと思われます。
 そして最後に求められるのはトップのリーダーシップです。トップのリーダーシップがしっかりしている大学は、組織的なPDCAサイクルがしっかり構築されています。そのような大学は、申請に向けた取組のシーズをいくつもお持ちになっていらっしゃる大学ではないかなと思います。

伊藤
 滝先生、どうぞ。


 私はもうひとつ大事なことがあると思います。他大学の情報を収集するということも大事ですが、やはり自分の大学の学生が満足しているかどうか、大学生からの情報を得ることがいちばん大事だと思います。現代GPに選ばれたことでその大学の教育現場がどのように変わったのか、学生の意識がどう変わったのかなどがほとんど伝わってきていないような気がします。

伊藤
 先ほどのお話にもございました卒業生がこの大学に来てよかったなというものがいちばんの情報ではないかという話でした。もちろん卒業した段階もそうですけれど、まさに授業を受けていく過程で、たとえばGPに選ばれた授業に参加した学生の声、こういう部分で、非常にこの大学に来てよかったという声を、うまく発信をしていくような取組、こういうことも含めて、ぜひ情報発信の充実というのが、これから大きな課題ではないかなというように思っておるのですけれども。ホームページは、各大学でだいたい作られているということなのですけれども、滝さんは、そういう情報をかなり見られていると思うのです。工夫みたいなところで、いま申し上げたようなことも含めて、皆さんのホームページを見るとこの辺がまだまだだなというようなところがあれば、ご指摘いただければありがたいのですけれど。


 そうですね。ホームページをみても、大学の目的、どういう人材を育成するのか、そのためにどういう教育をするのか、自分の大学は何を売りにしていくのかを明確に打ち出している大学は少ないですね。先ほど言ったように、文部科学省の事業に選ばれたということが大事になっていて、その取組みだけを紹介している大学が多いです。その取組みが教育現場でどのように活かされているか、学生がどのように取り組んでいるかなど、具体的にわかる情報が掲載されているといいと思います。

伊藤
 ありがとうございます。足立様はいかがですか。

足立
 確かにいかに広報するかは難しい問題です。高校生にとってわかりやすい言葉といっても、実際、何がわかりやすい言葉なのかと言われると、私も答えに窮するのですけど。たとえば高校生専用のサイトすら、ホームページの中に設定している大学が少ない。「受験生の皆さんへ」、というサイトは設定していても、トップページでは大学院と学部と編入学の入学案内が一緒に掲載されていて、一見して高校生がどこを見ていいのかわからないようなことが、多く見受けられます。特色GPや現代GPの取組にしても高校生に向けて、取組内容をわかりやすく解説して載せている大学も少ないように感じます。解説して載せる場合のポイントは、入学した場合、その取組によってどのような付加価値が4年間で身につくのかが、わかるようにすることが必要で、それをパンフレットにして高校にも配ればいいのです。

伊藤
 ありがとうございました。永田先生はある意味、現役の大学側でもあるわけでございますけれども、いかがでございますか。

永田
 いまのお話でとても参考になることは、ひとつは大学側の広報のしかたです。COEの経験から、「COEで採択されました」というひとつのフレーズ、これは相当な効果があるわけですね、これは相当な大学だなという。これはマスコミがあれだけとり上げてくれた、それでトップ30なんだというようなことまで言ってくれたということで。それとあいまって、何かわからないけどCOEとったら一流の大学じゃないかというところがあります。現代GPは必ずしもそういう形のインパクト、社会的インパクトもなかったのかもしれません。それを大学側が十分に認識せずに現代GPをとりましたと言うだけの、それも申請書をちょっと手直ししたようなもので、何か効果があると考えていたというのがひとつの間違いではないかと思います。もう一回、やはり足立さんが言われるように、きちっと高校生、あるいは一般社会に伝わるような表現をする。社会に伝わる場合は俺たちはこんなことをやっているんだぞということを伝えてもしょうがないので、これが学生にどう還元されてどうなるんだ、どういう学生に変わっていくんだということを示さないと意味がないというご指摘ありました。私はいま、本当にそのとおりだと感じました。そういう形で、これも先ほど申しましたけれども、大学改革が大学の教員のためとは言いませんが、大学の教員の側の視線からの改革という、そういう姿勢がそう変わっていないなというのは私自身も反省いたしました。

伊藤
 ありがとうございました。情報発信について、いま様々なご提言を頂戴いたしました。情報発信は大変重要でございます。ただ、同時に発信できる中身がなければ、それも絵に描いたモチになるわけでございます。内容について、先ほど来、厳しいご意見出ておりますが、どうも選ばれることが目的化しているのではないか、選ばれることに力を使い果たしているのではないかということでございますが、実際にどう、何をやるかということが大変重要なわけでございます。荻上先生は、まずは選ぶところまでの責任者でございますけれども、選ぶ立場として、選ぶことではなくて実は何をやっていただきたいかということが、荻上先生もいちばんお感じのところだと思っております。そういった観点からぜひ大学にメッセージを頂戴したいと思うんですが。

荻上
 先ほど申し上げたことを繰り返すことになるかとは思いますけれども、選ばれるために申請をするのではなくて、まさに学生のためにいい教育をするための議論を学内で真剣にしていただきたい。これがわれわれの期待するところと言っていいと思います。いままで学内で教育に関する真剣な議論を戦わすというようなことはあまりなかったと思います。つい最近までは、もうだいたいカリキュラムなどが決まっていて、それにしたがって毎年、無難に授業をこなしていけばそれですむと、あとはもっぱら研究をしていればいいというような大学が多かったかと思いますけれども、いまはそれでは通用しなくなっているわけですから、学内で横断的に教育について真剣な議論をしていただく。これがいちばん重要なことだと思います。

伊藤
 ありがとうございました。まさにひとつは学長のリーダーシップというのもあると思いますけれども、学部、学科、研究室の壁を越え、先ほど壁がだいぶ低くなってきたけれどもまだあるというご発言もございましたが、これを越えて、どう学内を活性化させていき、議論をしていくのか。そのときの視点としては教員の視点ではなくて、学生の視点で議論をしていただきたいということではないかというふうに思っております。学生の声ということもふまえて、取組の内容の充実に向けて、GPをよりいいものにしていく上での工夫について、足立様から何か頂戴できればと思いますが。

足立
 先ほど、申請にあたっての工夫の仕方や体制のあり方などについて、いくつか参考になる事例や特徴について事例を挙げさせていただきましたが、さきほど滝さんがご指摘されたように、学生の視点に立った取組であるかどうかということがもっとも大事なポイントだと思います。これからの大学教育改革の主役は教員ではなくて、学生自身なのです。ですから、現代GPも企画段階から学生に参加してもらって、シーズから一緒に探すような、そういう仕組みというのがあったらいいなと思います。たとえば岡山大学では、学生たちからの発案で「大学授業改善論」という科目を後期に開設しています。これは前期で受講した教養科目の中で授業運営の仕方などについて教員に改善してほしい授業を選び出し、グループで改善策を考えて、担当教員に対して個別に交渉に行くものです。いわゆる組織的なFDを学生自身が進めているわけです。
 かつて学生紛争の激しかった昭和44年頃は、大学と学生は対立の関係にありました。その後、第二期ベビーブームに向けた昭和の終わりから平成の初期の頃は、大学に入学できるだけで十分で、教育の中身に無関心か、たとえ関心があっても大学側が学生の意見に耳を貸さない、無関心無干渉の時代であったのではないかと思います。そして今は、学生と一緒になって教育改革を進めるべき共創の時代に入ったのだと思います。

伊藤
 ありがとうございます。ステイクホルダー代表として、滝さんからご提言を頂戴できればと思います。


 特色GPは実績のあるところが選ばれているわけですが、現代GPは実績ではなく、これからの政策課題に対応しています。そういう意味では、高校生にわからないというのも当たり前だと思います。大事なことは、大学という組織に一石が投じられたということです。現代GPに選ばれるために、大学で教育内容をどうするかという議論が活性化され、学長のリーダーシップが問われ始めてきています。現代GPというひとつの事象を第1ステップとして、大学全体の教育をどのようにしていくか、組織としての教育力をどうとらえるかということを一緒に考えていくということが非常に大事だと思います。現代GPを発端に、教育改革の具体的な取組みがどんどん広がっていってほしいです。その取組みが学生のためのものであり、具体的に学生に還元されれば、自ずと高校生や高校の先生に伝わっていくと思います。ですから、現代GPはまさしく大学の人たちが育てていくものなのではないかと思います。

伊藤
 大変すばらしい発言を頂戴しました。まさにGPを通じて大学の改革全体を育てていくと、ひとつの石が投じられてそれが大きな波紋となって、大学全体を変えていくんだと。こういうような大きなうねりの中の1点ではないかというご指摘でございます。永田先生は、いま大学にもいらっしゃいますし、また学長という立場でもまさに大学全体を見られていたわけでございまして、このGPをどう生かしていくか。大学経営の中で生かしていくかということも含めて、ご提言を頂戴できればと思います。

永田
 ひとつ気になることは、選定されること、それ自体が目的になっていないかということです。そういう傾向が若干見られます。それは足立さんからも、一方で、特色GPでそういうことがあるとおっしゃいましたけれども、現代GPは基本的に政策課題、国のひとつの事業ですので、そこから出発しています。もう少し広くこのテーマを考えてはどうかという提案もあり、これから考えていくべきかと思いますけれども、いずれにしても、見ておりますと、取組例と書かれているところに引っ張られて、それに少し付け加えて、自分のところはこれだけ新規性があるぞ、特色があるぞという形で、選定を狙うという傾向が若干あるように思います。
 そうでなくて、基本的なことは、そこにそれぞれのテーマの取組例の下に書いてあるような、その基礎となる答申、提言、あるいはそういう新しいものをつくっていくための新立法、それらにあらわれたニーズに基づいた教育プロジェクトを考えると、もっとアイデアが豊かになるのではないかと思います。その提言などが、自分たちが持っている資産、力量、自分たちの展望とうまく合うものを、そこから編み出すという姿勢によると、かなりオリジナルなアイデアが生まれると思います。取組例に引っ張られて、それの取組例の改善型みたいな提案が概して多いかと思います。改善した部分が必ずしも現実性がなくて無理だと判断されるようなことも多くありますの。そういう意味でもう一度取組例も参考にされながら、何を政策課題としたのかというところに戻りますと、少しアイデアが膨らむのではないかという感じがいたします。
 それから滝さん、足立さんから厳しく指摘されているところでありますが、われわれの大学というのは何度も繰り返しますように、大学の教員の側の視線、場合には教員のいまの状況を守るための視線の改革になりがちだということを申し上げました。教育の改革というのは2つの視点がどうしてもいると思います。やはり専門家として、プロとしてプロダクトアウトと言いますか、これがいいのだというものをしっかりと方針を立ててやっていくということと、もうひとつはマーケットインと言いますか、学生、社会、そういうもののニーズを十分に吸収して、そのプログラム、プロジェクトをつくっていくということ、この二つが大事だと思います。そのあたりが現代GPは性格上、政策課題から、そしてプロとして何ができるかもということを問われておりますので、プロダクトアウト型の視点が強まるかと思います。しかしながら、やはり教育なのですから、どう学生が変わるのかという視点が抜けますと、この文部科学省がつくったプログラムの意味を失うと思いますので、そのあたり十分に、自分たちが自信を持つと同時に、広く学生の十分な視線を向けてつくっていくということが大事かなと、私は議論をしながら学んだところでございます。

伊藤
 ありがとうございました。18年度の申請に向けて、いまお集まりの各大学でも議論がちょうど始まっている真っ最中ではないかというふうに思っております。それでは最後に荻上先生から、ぜひ18年度の申請に向けて、関係者にひとことエールとメッセージというものを頂戴できればありがたいのですけれども。荻上先生、よろしくお願いいたします。

荻上
 もうほとんどお話の中に出てきたと思いますが、いま永田先生からも言われましたが、学生の視点という、これがもっとも重要なキーワードではないかと思います。そもそもこの現代GPというのは、現代的教育ニーズ、まさに教育ニーズに応えるための取組ということで、いままでの審査の過程でも教育という視点がしっかり入っているかどうかということを審査の重要な視点というふうに考えて評価をしてきたつもりです。取組としては非常におもしろい、たとえば地域活性化のようなテーマに関して言えば、地域活性化の取組としてはなかなかおもしろい。しかしどうも教育の視点が希薄であるというようなものについては、このプログラムの趣旨には必ずしも適合しないということで、選定をしないというようなことにしてきたつもりですが、とにかく教育というキーワード。これをいちばん基本に考えていただきたいということ。その教育というものを考えるときには、教育者と言いますか、教員側の視点は、当然入りすぎるぐらい入ると思いますので、学生側の視点を最優先に考えていただくことが必要だと思います。
 現在私は大学評価・学位授与機構というところで大学の認証評価を仕事としておりますが、その中でも教育に関して、学生のニーズを把握しているかという観点を、いくつかある観点の中の重要なものとしてとりあげております。やはり教育というのは学生のニーズというものを決して忘れてはいけない。もちろん何でもかんでも学生が喜ぶことをすればいいということではありませんが、しかし先ほども言いましたけども、教員の側の視点は先生方は十分、あるいは十分すぎるぐらいに意識していらっしゃるはずですので、そちらについてはもう何も言う必要はないと思っております。とにかく学生の視点に立った、あるいは社会を視野に入れた改革を目指して来年度の申請を考えていただければよろしいと思います。決して、奇をてらったものを、われわれは高く評価しようとは思っておりません。あくまでもしっかりと地に足がついた形でこれからの日本の高等教育の改善に結びつき、結果として日本の高等教育が世界で十分通用する水準に高められていく、そういうことを期待してこういう取組を進めているというふうに考えておりますので、そういった視点から改革に取り組んでいただきたいと考えております。

伊藤
 ありがとうございました。ちょうど時間もやってまいりました。最後に荻上委員長から18年度の申請に向けて、力強い審査の視点をお示しいただきました。教育です。やはり、教育、教育、教育です。教育の重要性、そして教育の主体である学生の視点、これをふまえて大いに大学改革を進めていただきたいというふうに思っております。午後の部でこれからそれぞれの部会ごとの、分野ごとのパネルディスカッションもあり、それぞれの特性に応じた課題、方向性、こういう部分に大いにご議論をいただけると思いますけれども、ただいまのパネルディスカッションの視点というものが、すべての改革の基礎になる、普遍のものだと思っております。今日のご議論というものをぜひ大学にお持ち帰りいただいて、学内で、今日の視点で大いにご議論を重ねていただければというふうに思っております。
 最後になりますけれども、本日パネリストをお務めいただきました4先生方に厚く御礼を申し上げ、午前中の部のパネルディスカッションを終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

(了)


-- 登録:平成21年以前 --