第11回国際教育協力日本フォーラムについて(結果概要)

 平成26年2月25日
                               大臣官房国際課

 本フォーラムは、開発途上国自身による自立的な教育開発の重要性とその自助努力を支援する国際教育協力の在り方について意見交換することを目的に、文部科学省、外務省、広島大学、筑波大学の共催により毎年開催している。このたび、第11回国際教育協力日本フォーラムを以下のとおり開催した。

1. テーマ:グローバリゼーションと途上国の教育課題―我が国の教育協力―
2. 日時:平成26年2月19日(水曜日)
3. 会場:文部科学省講堂
4. 主催等:(主催)文部科学省、外務省、広島大学、筑波大学、(後援)国際協力機構(JICA)、九州大学
5. 参加者:在京大使館を始め、教育開発に携わる行政官、援助機関関係者、NGO、研究者、大学生等など国内外から200名以上。
6. 概要:以下のとおり

主催者代表挨拶

西川京子文部科学副大臣

 国際社会が一致団結して取り組んでいる「万人のための教育(Educaion for All(EFA)」の目標達成年は2015年に迫っており、ポストEFAを見据えた国際教育協力の在り方の検討に当たっては、本フォーラムのテーマであるグローバリゼーションが教育に与える影響と課題について把握することが極めて重要である。
 我が国は、地球規模の課題を解決するため、自ら考え、行動を起こす力を身に付けるための教育として、「持続可能な開発のための教育(ESD)」を推進しており、本年11月には愛知県名古屋市及び岡山市において「ESDに関するユネスコ世界会議」を開催することとしている。今後もグローバルな観点から教育の質を高めていきたい。

主催者代表挨拶をする西川文部科学副大臣
主催者代表挨拶をする西川文部科学副大臣

木原外務大臣政務官

 本年は、国際社会が取り組む「万人のための教育(EFA)」及び「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限である2015年を控える重要な年である。
 我が国はこれまで人間の安全保障と持続可能な開発の観点から2011年から5年間で35億ドルの教育支援を実施してきているが、初等教育の完全普及は2015年までの達成は困難であり、国際社会全体が一層努力しなければならない。
 教育を含めたポスト2015年開発アジェンダの議論が、9月の国連総会を前に進んでおり、グローバリゼーションが途上国の教育に与える影響について議論することは極めて有意義である。

主催者代表挨拶をする木原外務大臣政務官
主催者代表挨拶をする木原外務大臣政務官

基調講演

キレミ・ムウィリア 元ケニア教育省副大臣

 アフリカは天然資源が豊富であるとともに、人口の70%が30歳未満であり、世界の若者の40%がアフリカに居住している。2035年までにはアフリカの労働力は中国、インドを抜くという予測もあり、世界各国はアフリカの労働力を活用することが求められるだろう。
 このため、アフリカの初等・中等教育、高等教育の質と量を高め、スポーツ、科学技術分野も含め、国際交流をアジア諸国等とも推進し、人材の育成をグローバルに展開していく必要がある。

基調講演をするキレミ・ムウィリア 元ケニア教育省副大臣
基調講演をするキレミ・ムウィリア 元ケニア教育省副大臣

アンジェラ・W・リトル ロンドン大学教育研究所名誉教授

 アジアにおいて成功している国々は経済と貿易を自由化し、競争原理を導入し、平等な雇用機会と公平な報酬を与えてきた。教育においても、実力主義と競争原理を導入し、教育費や教育へのアクセスの公平性を維持し、国家の連帯感を高めている。
 持続可能な成長も重要な側面であり、グローバリゼーションを輸出振興と捉えるのみでは必ずしも成功への道にはつながらない。経済成長とともに、公平性と平和を伴う必要性を考慮しつつ教育戦略も十分議論していく必要がある。

基調講演をするアンジェラ・W・リトル ロンドン大学教育研究所名誉教授
基調講演をするアンジェラ・W・リトル ロンドン大学教育研究所名誉教授

パネルセッション(モデレーター:黒田一雄氏)

 黒田一雄 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授・国際教育協力研究所長 

 教育を人の権利と主張した人権宣言、児童の権利条約などの歴史的な背景をめぐる教育政策の変遷があり、EFAとともにMDGsが提唱され、初等教育の完全普及という政策とESDは多くの途上国への教育開発に影響を与えた。国際協力の枠組みによる教育開発の取組も進み、アジア諸国においては高等教育の質の保証や教員・学生の交流が盛んに推進されている。
 また、教育インディケーターの開発が進み、MDGsやEFAの進捗を見る重要な要素となってきた。各国の例を見ると、開発途上国の教育開発に当たっては、グローバルなガバナンスとともに地域的なガバナンスが重要であり、日本においては地域における教育協力とともに、ESDの普及など国際的な教育政策づくりへの関与を適切に行っていく必要がある。

フェルナンド・パラシオ 筑波大学教育開発国際協力研究センター研究員

 グローバリゼーションは特に高等教育に労働市場への人材供給という観点から影響を与えている。国際的な技能を必要とする雇用をめぐる競争は各国のローカルな労働市場にプレッシャーを与え、教育資源の過不足による格差が生じている。知識社会における知識と技能はますます重要となっており、開発途上国の教育政策とこれを求める企業の在り方に変化を与えている。国際協力による教育・研究の発展は高等教育機関と政府にとって重要な課題となっている。

水野敬子 国際協力機構(JICA)国際協力専門員・ラオス国教育省付教育政策アドバイザー

 ラオスの教育セクター開発計画へのJICAの取組として、学校改善に焦点をあてたコミュニティー参加型学校運営とこれを支援する教育行政の能力強化を通じた教育マネジメント支援及び、授業改善に焦点をあてた校内研修の活性化に取り組んでいる。
 現場の実績や成果に関するエビデンスを政策・制度改善に関する議論の流れに着実に結びつけることが肝要である。特に、インドネシアにおける15年にわたる教育大学への協力は、現場と政策・制度への拡大が行われ、アジア、アフリカ諸国に対する南南協力として、そのプロセスや教訓、成果を共有してきた。
 今後も、JICAの実施してきた基礎教育協力の好事例や三角協力を我が国の教育支援計画や技術協力事業の中に明確に位置づけ、SEAMEO等の地域機関との連携も視野に入れて戦略的に取り組んでいきたい。

アンシュール・ソナック インテルコーポレーション アジア太平洋地域教育部長

 世界の緊急を有する課題として、蔓延(まんえん)する貧困と失業、HIV・エイズ、食料安全保障、エネルギー不足、地球温暖化、環境の悪化、医療費の高騰などがあげられ、未来を担う若い世代はこれらの現在と未来の問題に対応できるようになる必要がある。
 また、世界は自然資源経済からグローバル化した知識集約型経済に移行しており、デジタル格差、人口格差、技術格差などの新たな格差社会への対応が求められている。グローバリゼーションや情報技術の出現、知識時代の到来により、「21世紀型スキル」と呼ばれる新たなスキルが現在と将来の労働力にとって必要となっている。このため、教育制度の大きな改革が必要であり、児童生徒の自主的な知識の探求や創造が可能となる学習者中心の指導にシフトしていく必要がある。また、インテルはテクノロジーを授業に取り入れるための教員研修を1000万人以上に実施してきた。

指定討論・質疑応答

 主な質疑応答は、以下のとおり(質問:◆、回答:○)。

「グローバリゼーションの途上国の教育への影響と課題」
◆ ICTによる学習ニーズの変化に伴う教育の提供について、都市と農村の教育格差や途上国の能力について聞きたい。
○ ICTへのアクセスに伴う格差は存在するので、ローコストによる地方の人々のためのアクセスは重要である。また、産学連携も含めた教員の能力向上等、学習するコミュニティーづくりへの努力が必要である。

◆ グローバルとリージョナルなガバナンスが重要との指摘があるが、ESDの普及においては、ナショナルとローカルなガバナンスも重要ではないか。特に教員養成においては給与の決定などナショナルな政策が不可欠である。
○ ESDへの取組についてはそのとおりと考える。ローカルな取組として、非認知的教育の分野においては、分権化政策として自治体、学校ベースでの政策決定も行われている。PPP(官民連携政策)においてもローカル・プライベートセクターの役割が重要である。また、教員養成にとっては現場と政策の連携が重要であることは事実。

「グローバル社会における日本の国際教育協力の在り方」
◆ 企業家精神についての教育や日本で低いと言われる自己肯定感を持たせる教育について伺いたい。
○ 企業家精神の教育は、マイクロソフト、ヤフー、HPなど世界の成功事例を見ることが良い方法である。シリコンバレーにおいてスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校が成功したのは、ビジネスソリューションを目指した結果であり、実際の問題を直視してイノベーション目指すことが重要である。
○ 途上国の事例として、女子の自己肯定感を高めるため、偏見を持つ教員や教科書の是正がまず必要であった。日本の学生の自尊心、肯定感を高めていくためには、海外留学を柔軟性を持って促進することにより、海外の文化を理解することも必要である。多様性を受け入れるという考え方が自己肯定感にもつながるのではないか。

◆ 日本がグローバルガバナンスの一つとして、途上国の政策フレームワークに貢献することは難しいと考えるがどうか。
○ 問題解決能力と調和感は日本や東アジアの得意な分野とされており、OECDのこの分野での指標づくりへの貢献もできるのではないか。

◆ 日本がグローバリゼーションの教育政策として途上国に貢献する前に、日本がグローバル社会に適応した人材の育成を進める必要があり、途上国との教員交流などを中長期的に進めていく必要があるのではないか。
○ 途上国の教員と交流することはすばらしいアイデアであり、実現に向けて探求を続けてほしい。国際社会の構造改革のためには、20年から30年という期間で教育の効果を待つ必要があり、長期的なビジョンが必要である。
○ 日本とアフリカ、アジアとの教員、生徒の交流は望ましい。ビジョンを作ることは大事であり、ケニアには2020年を目標にした政策ビジョンがある。指導者のビジョンをサポートするのが教育の役割でもある。
○ 初等教育の完全達成のためには、数十年かかるという報告があるが、そんなに待っていられない。低開発途上国に公平な教育を実施していくためには我々がすぐに行動を起こしていく必要がある。

左から、パネリスト:フェルナンド・パラシオ筑波大学教育開発国際協力研究センター(CRICED) 研究員、モデレーター:黒田一雄早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授/国際教育協力研究所所長
左から、パネリスト:フェルナンド・パラシオ筑波大学教育開発国際協力研究センター(CRICED) 研究員、モデレーター:黒田一雄早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授/国際教育協力研究所所長

左から、パネリスト:アンシュール・ソナック インテルコーポレーションアジア太平洋地域教育部長、パネリスト:水野敬子国際協力機構国際協力専門員/ラオス国教育省付教育政策アドバイザー
左から、パネリスト:アンシュール・ソナック インテルコーポレーションアジア太平洋地域教育部長、パネリスト:水野敬子国際協力機構国際協力専門員/ラオス国教育省付教育政策アドバイザー 

総括討論

 基調講演者等による、本日の議論を振り返った幾つかの重要な点は次のとおり。

・教育へのアクセスと質の重要性の再確認である。教育へのアクセスは終わりなき課題であり、一方、同時に、教育の内容も考えていかねばならない。その際には、グローバリゼーションの中でどのようなスキル等が必要とされているのかを考えるとともに、これらを先進国のみによって考えるのではなく、途上国においてもそのような議論を行って、2015年以降の国づくり、教育の目標をたてていく必要がある。
・グローバリゼーションに対応するための教育について、いろいろな視点、切り口から取り組まれていることが大切である。異なる分野の人々が、同じ目標を目指して、それぞれの比較優位性をいかして進めていくことが重要である。
・国際社会の中で物事を考えていくためには、常に複眼的視点というものが重要である。
・課題解決手法について、ある特定の解決モデルが取り上げられることがままあるが、それをよく吟味すると、特定の国を対象にした調査結果から導き出された解決モデルである場合もあるので、その解決モデルが、世界の全ての国に対する最適な解決モデルではない場合もあるという認識を有して、物事を考えることが必要である。
・今回のJEFは、グローバリゼーションと途上国の教育課題がテーマであるが、グローバリゼーションという言葉は、もともと経済の分野での現象を表すものとして用いられてきた。「カネ」、「モノ」のつながりというグローバリズムに対して、人間的なつながり、すなわち、文化に対する感受性の育成や言語理解などをとおした他者理解に励むことが大切ではないか。生きた人間同士のつながりこそが、グローバリズムの時代に必要ではないかと考える。2015年を来年に控え、今後の教育協力の在り方を巡っての議論はつきないが、インターネットなどをとおした、様々な形の他者との出会いが可能である現在、このような視点持つことが、必要ではないであろうか。

会場の様子
会場の様子

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大臣官房国際課国際協力企画室

(大臣官房国際課国際協力企画室)

-- 登録:平成26年02月 --