第3章 研究開発を進めるべき領域

1.総論

(1)研究開発の前提となる諸条件

技術の多様性について

 地雷埋設場所の地質・地形、気象条件、埋設地雷の種別等、地雷処理の現場の状況は様々であり、これに応じて現場からの技術に対する要請もまた様々である。従って、研究開発に当たっては、一つの技術に拘るのではなく、多様な技術オプションを用意するという観点で臨むことが重要である。

技術の評価軸について

 研究開発領域の絞込みにおける評価軸として、(a)早期に役立つ技術か、(b)安全、スピード、コストの面で既存技術を上回る性能があるか、という点がある。これらを同時に満たす研究開発領域は極めて少なく、また、同時に2つの条件を満たす技術についても既に欧米の先行国が本格的に取り組んでいる可能性が高い。我が国が今後の研究開発領域を設定するに当たり、前述の状況を踏まえつつ、(a),(b)2つの評価の視点からの意義、必要性に十分に配慮し、研究開発領域を設定していくという戦略をとることが適当と考えられる。
 (a)の技術については、民間企業や他国でも幅広く取り組まれている。従って、国としてかかる短期的研究開発に取り組む場合は、民間企業の取組みがなされていなく、実現が期待できない領域であって、かつ我が国に技術的に優位性があるような分野に取り組むことが重要である。
 (b)の技術については、(a)の技術よりもさらに多様なものであり、それぞれの技術における我が国の技術力の水準も同様に様々である。従って、我が国として、こうした先端技術分野で人道的地雷探知・除去支援のための研究開発を中期的に行っていく場合、単に求められている技術全般を研究開発の対象とするのではなく、我が国が得意とする技術を活かした研究開発を行っていくという戦略性が必要と考えられる。政策的にも、得意とする技術分野をさらに発展させ、国際的な技術優位性を加速することにより、その分野での産業の活性化に資するなど、地雷探知・除去以外への波及効果についても期待することには価値があると言える。

技術の基本的要件について

 過酷な作業条件(高温、低温、高地、土埃、不整地等)においても安定して作動すること、専門技術者による日常的なメンテナンスが不要なこと、現地のオペレータが容易に使える技術であること等は、開発すべき技術に共通して求められる最低限の要件である。
 また、現地の各種インフラを勘案し、通信、電源等に頼らない設計(自律型、ガソリン駆動等)とすることは重要である。さらに、現地に容易に運搬できることも重要な要素である。(例えば、道路インフラの関係で大型重機等は現場に持ち込めない可能性がある。)

ハードとソフトのバランスについて

 我が国において研究開発プロジェクトを組織する場合、ハードウェアの開発に偏重してしまい、ソフトウェアの開発が置き去りにされるために、結果として使用に至らないことがあるとよく言われる。従って、研究開発全般に共通して、ハードウェアだけではなく、制御手法、OS、通信などのソフトウェア分野における研究開発も併せて実施し、ハードウェアとソフトウェアのバランスに配慮するべきである。

現地の状況の把握について

 対人地雷の探知・除去技術は、地雷が埋設されている地域の土壌、地形、気候、土地利用状況、地雷埋設状況、埋設地雷の種類等によって必要な技術要件が異なるため、探知・除去技術の開発と平行して、地雷被埋設地域の状況把握のための調査研究を行うことが重要である。

社会科学の側面からの取組みについて

 対人地雷の探知・除去技術は、国際的に多様な社会環境、政治環境の中で利用される技術であるとともに、軍事技術と人道技術との距離が近い技術である。 したがって、単に研究開発を実施するのではなく、その技術のあり方について社会科学の側面からもよく検討を加えることが重要である。

(2)地雷探知・除去の作業プロセスと新技術との対応関係

 地雷処理の現場においては、整地、探知、除去の一連の作業手順が既に確立されている。こうした作業手順の中で、今後開発する技術を具体的にどう位置付けるのか明確に意識しなければ、現実には使われない技術となってしまう恐れがある。地雷処理の全工程を踏まえて、戦略的に研究開発に取り組むことが必要である。(アフガニスタンにおける地雷探知・除去の現状については、参考3を参照。)
 研究開発の対象となる作業としては、次のものが考えられる。

  1. 地雷埋設地域を特定するための広域センシング作業(現状では、戦闘記録・被害の調査やローラー車両などによる走行探索。)
  2. 植生除去作業(現状では、重機による作業が効果的。)
  3. 地雷探知作業(現状では、作業員による探針作業、金属探知機、地雷犬などによる危険物の絞込み作業。)
  4. 地雷除去作業(現状では、手作業による除去や重機による粉砕処理。)
  5. 地雷除去の確認作業(基本的に3と同様の状況。)

 これらの作業に対応してどのような新技術の適用が考えられるかについて、まず以下に概括する。

地雷埋設地域を限定するための広域センシング作業について

 人工衛星や飛行機による上空からのリモートセンシングなどで地雷原を特定できれば、地雷の無い地域を長時間かけて探索する無駄が省け、極めて有効と考えられる。かかる技術については軍事的意義が極めて大きいため、本格的に軍事研究が実施されてきたことが想定されるが、人道的地雷除去に活用されている決定的な技術は無いという状況である。(現実の人道的地雷除去の現場においては、現地での関係者からのヒアリングや、埋設時の記録文書の調査等により地雷原の特定が行われている。)
 以上を踏まえると、今後この分野への新技術の適用を検討する際には、実現可能性について慎重な判断が必要なものと考える。

植生除去作業について

 この作業の重要性については、現地の植生に大きく依存する。東南アジアでは植生の密度が高く不可欠な作業であるが、一方、植生の少ないアフガニスタンを対象にする限りこの作業はあまり重要ではないと思われる。
 この作業への技術の適用という点からは、建設用機械の改造等による灌木除去用の重機開発が、すでに各国において幅広く行われている。(軍事技術も民生技術もある。我が国でも民間企業の主導により作業用の重機の開発が行われており、カンボジアに実際に納入した実績も有している。)
 一方、対戦車地雷が埋設されている可能性がある場合には重機の導入が困難となり、手作業に依存する必要も生じることから、無人で遠隔操作型の小型機械など新技術の適用が有効となる可能性がある。(但し、他国において既に開発例はあり、カンボジアへの導入実績もある。)

地雷探知作業について

 この作業においては、現在のところ、最も手軽で安く一定の信頼性がある金属探知器が、多用されている。しかし、プラスチック製等金属をほとんど含有しない対人地雷もあること、地雷埋設地域では戦闘等により金属片が散乱していること等から、金属探知機以外の新たなセンシング技術の適用は重要になってきている。併せて、地雷原にセンサを安全かつ効率的に持ち込むための移動用機材やマニピュレータ制御等に関する新技術の適用も重要であると言える。

地雷除去作業について

 完全な地雷除去を目指す場合、金属探知器等が反応する地点について、人間がpick prod(探針)、mini spade(小型シャベル)、demining brush(刷毛)などで、地雷がありそうな地面を側面から探針しながら削ってゆき、埋設物体を目視できる状態にまで土を排除し、地雷の側面が露出した場合にはその位置に印を立て最後にまとめて爆破する、という作業が行われる。これは、屋外で長時間に亘り指先に神経を集中して実施する危険な作業である。
 この作業の安全性と作業効率性を向上するため、マニピュレータ等新しい作業支援技術を適用することは有効であると考えられる。

(3)開発に取り組むべき技術の柱

 (2)に示した地雷探知・除去の作業プロセスを踏まえた上で、開発に取り組むべき技術を大きく柱立てすると、

  1. 対人地雷を100%探知できるような高度なセンシング技術
  2. 上記1のセンサを地雷原に持ち込み、安全かつ効率的に地雷の探知・除去活動を行うためのアクセス・制御技術

 の2つを挙げることができる。
 ここで、これら2つの研究開発の柱について、地雷探知・除去プロセスに対応した形でどのように取組みを進めていくべきかを改めて概括し、開発すべき技術の姿を明確にしておくこととしたい。

(3‐1)センシング技術

 地雷探知作業は、実際には幾つかの作業ステップに分割して捉えられる。

  1. レベル1サーベイ:地雷原の地域を特定するための粗いサーベイ。
  2. レベル2サーベイ:地雷原の中で埋設された地雷を100%探知し、その位置をマーキングするための詳細なサーベイ。
  3. レベル3サーベイ:レベル2と近い概念であるが、地雷除去作業後に100%地雷が除去されたかことを最終確認するためのサーベイである。

 ここで、それぞれのレベル毎に求められるセンシング技術は異なるという点について留意することが重要である。
 まず、レベル1サーベイについては、人工衛星、飛行機等からのリモートセンシングによる広域探査技術の利用が考えられる。かかる技術は、軍事技術として極めて重要なものであり相当の取組みが既に行われたものと考えられるが、現時点では決定的な技術は見出されていない。また、経済社会の復興のため、地雷除去を早急に行うことが求められている地域はある程度特定されているのが現状である。従って、今後の本分野の研究開発については、開発の優先度が相対的に低い研究開発領域として捉えるべきである。
 一方、レベル2(又はレベル3)サーベイについては、現状で使われている金属探知器に代わるセンサとして、複合センサのような、地雷を的確に探知できる能力を有する高性能な地雷探知センサの開発に対して当面の地雷除去作業上の要望が大きく、かつ今後の研究開発の取組みによる貢献が可能な分野であると考えられる。

(3‐2)アクセス・制御技術

 作業の安全性や効率の向上といった観点から、センサやマニピュレータを地雷原に持ち込むためのアクセス技術が重要であり、遠隔制御・自律制御のアクセス機材及びセンサやマニピュレータを正確かつ効率的に操作するための制御技術が重要である。(以上のようなアクセス・制御技術については、地雷探知作業のみではなく、植生除去・整地作業や地雷除去作業の場面においても、基本的には有効性を発揮するものである。)

アクセス技術

 必要なアクセス技術の水準は、地雷原の地形に依存する。
 平坦な比較的整地された土地であれば重機によるアクセスが可能であるが、傾斜地や整地されていない土地の場合には、軽車両やクローラ(キャタピラ)型ロボット等の小型アクセス機材が必要。さらに、林間地、灌漑水路や山岳道路等においては、歩行型ロボット等による更に機動的なアクセスが求められる。
 アフガニスタン復興等においては、まず、居住地や農地などに利用可能な社会経済的価値の高い地域の地雷除去を行うことが求められるが、こうした地域は、通常比較的平坦な環境であり、植生の密集などのない平滑化された環境であることが想定される。従って、アクセス技術については、それほど高度な移動性を有さない小型車両でも対応可能であると考えられる一方、地雷回避機能等に離散的移動機構(脚による移動等)を利用するという考え方にも注目すべきである。
 重機によるアクセスについては、対戦車地雷を触雷する可能性があることから、小型機械との組合せ使用を検討することが有効である。例えば、地雷原をまず小型機械により探知し、対戦車地雷等の位置を特定した後、重機を入れて除去を実施するという組合せも想定される。また、重機による対人地雷除去作業の終了後に安全性確認のために小型機械による探知を行うというような組合せもあり得る。
 上空からのアクセスについては、人工衛星や飛行機等からのリモートセンシングはレベル1のサーベイのためのアクセス技術として捉えられる一方、地上数十cmないし数mの超低空からの小型無人の飛行船・ヘリからのリモートセンシングによる地雷探査についてはレベル2のサーベイのためのアクセス技術として活用できることが考えられる。

制御技術

 アクセス機材及びこれに搭載するセンサやマニピュレータの制御については、最終的には人間が安全確認できるようなシステムが当面望ましく、遠隔制御・自律制御を適切に組み合わせた制御システムを構築することが適当である。
 このほか、センシングにより外部環境と協調して歩行機械を動作させるための情報制御技術や、複数の歩行機械を小型無線端末により相互通信して協調制御する技術なども重要であると言える。

2.各論

A.センシング技術

 センシング技術については、どのような物理的特性に着目するかにより様々な手法が存在する。それぞれの手法には、長所、短所が存在するため、地雷探知のためのセンシング技術としては多様な技術的オプションを用意することが必要である。また、様々な手法によるセンシング技術を組み合わせる「センサフュージョン」という考え方が重要である。

(A‐1)地雷と土壌との物性値の違いに着目したセンシング技術

(A‐1‐0)電磁誘導法(金属探知機)

 地雷と土壌との電磁的特性の違いに着目したセンシング技術として、最もよく知られている技術は、電磁波を地中に向けて発信し、地中物質に渦電流を発生させ、それに誘導される2次磁場の大きさを測定する電磁誘導法である。この方法は、鉄等の金属の電気伝導度が、土壌等の非金属の電気伝導度と大きく異なることに着目したセンシング手法であり、金属を探知するための技術、いわゆる金属探知機として広く用いられている。
 金属探知機については成熟技術分野であり、我が国の産業界においても材料評価、検査等の非破壊検査分野に用いる製品が開発されている。しかし、地雷探知の現場においては、極めて高い感度を有するオーストリア、豪等のメーカーの製品が事実上の世界標準として広く使用されている状況である。
 対人地雷については、プラスチック製で1g以下の金属しか含まないようなものもあり、金属探知機のみにより地雷探知を行うことは極めて困難な状況にある。技術的には、1g以下の金属であっても金属探知機の感度を向上させることにより探知することは現状でも可能であるが、この場合、対人地雷と同時に地上や地中の微小な金属破片にも金属探知機が反応するため、対人地雷のみを探知することが不可能になっている。カンボジア地雷対策センター(CMAC)のデータによれば、地雷1個を発見するまでに平均して1583個の金属破片を誤って探知するという(※)。東南アジア地雷対策協力・技術ワークショップ(平成14年3月)においても、参加した地雷除去に取り組むNGO等からは「金属探知機ではなく、地雷を探知できる技術が必要」という声が強かった。

  • (※) 人道的対人地雷探知・除去技術の研究推進について(平成12年2月28日、日本学術会議自動制御学専門委員会)

 以上の状況を踏まえ、国として今後取り組むべきセンシング技術分野の研究開発領域として電磁誘導法(金属探知機)単独での開発については取り上げないことが適当と考えられる。
 しかしながら、後述するように、他のセンシング手法と電磁誘導法(金属探知機)とを組み合わせるセンサフュージョンによる複合センサ技術の有効性は極めて大きい可能性を有することから、電磁誘導法(金属探知機)については、他のセンサ技術との組合せを行うものとして考えることが適当である。

(A‐1‐1)地中レーダ(GPR)

 電磁誘導法(金属探知機)に次いで、地雷探知用の技術として研究が進められているのが地中レーダ技術である。
 地中レーダ(GPR: Ground Penetrating Radar)は、地中に向けてマイクロ波(通常300MHz~30GHz程度の周波数の電磁波を指す。空気中での波長は1m~1cm)を送信し、反射波を測定することにより、地中に埋設物が存在する事を探知する手法である。地中を伝搬する電磁波は、土壌中に誘電率の異なる物質が存在する場合に反射するため、地雷の材料物質と土壌との誘電率の違いを用いて地雷の存在を探知することが可能となる。
 地中レーダの最大の特徴は、金属のみならず、非金属物質についても探知が可能なことである。現在の多くの対人地雷はプラスチック製であるが、プラスチックの比誘電率(真空中の誘電率との比を指す)が3~5であるのに対し、土壌の比誘電率は5(乾燥状態)~30(湿った状態)程度である。乾燥状態でも反射波は発生するが、比誘電率の差が小さい場合には、反射波の強度も小さくなるため、一般に探知はより困難となる。
 地中レーダについては、地中の金属製パイプやケーブルの探知、路面空洞の探知用の技術は、我が国企業でも商用ベースで製造開発されてきており、国際的に見ても技術水準は十分に高いと考えられる。
 しかし、上記のような金属や空洞を探知するための地中レーダをそのまま地雷原に投入しても対人地雷を探知する事は困難である。これは、地中レーダの性能が地中の状況(対象物の埋設深度、埋設物の大きさや比誘電率、地質、土壌の含水率等)に強く依存するためであり、対人地雷を探知するためには対人地雷に特化した地中レーダを実現する必要がある。
 ここで、対人地雷の探知のための地中レーダに関する研究開発上の困難は次のような点にある。

  1. 対人地雷が小さいことによる技術的困難
      マイクロ波の波長と対象物のサイズとの比が大きいほど反射波の強度が大きく探知が容易となる。市販の埋設管探査用の地中レーダは数MHz~1GHz程度の周波数帯であり、1GHz(波長30cm)程度の周波数でも数cmの大きさのプラスチック製地雷を探査することは技術的には可能ではあるが、より波長の短い高周波のマイクロ波を用いた方が探知は容易となる。但し、電磁波は周波数が高くなるほど地中に浸透しなくなるという性質があり、周波数を高くすることには物理的制約がある。以上を踏まえ、周波数について適切な選択・設定を可能とするよう十分に検討することが必要である。
  2. 土壌とプラスチックの比誘電率が近い場合があることによる技術的困難
      地雷の埋設の状況にもよるが、上述のように乾燥した土壌の場合、反射波の強度が小さくなる場合がある。
  3. 埋設深度が浅いことによる技術的困難
      地中レーダは、空中から地中に向けてマイクロ波を発信して、その反射波を測定する手法であるが、マイクロ波の反射は埋設された地雷の表面で発生すると同時に、地表面においても発生する。対人地雷の埋設深度は地下数cmと浅いため、地表面での反射波と、地雷表面での反射波との識別が課題である。
  4. 地表面が粗いことによる技術的困難
      3の理由のために、地表面での反射波をノイズとして除去することが必要であるが、地表面自体が粗い場合には反射波の特性も複雑となるためノイズとして除去することが困難となる。
  5. 更に埋設された地雷周囲の土壌に礫が多く含まれるなど不均質性が強い場合、電磁波の乱反射が発生し、地雷からの反射波との識別が難しくなる。

 従って、以上1~5のような技術的困難を解決するため、具体的には、次のような技術領域に対する取組みが必要と考える。

(A‐1‐1‐a)周波数可変型レーダ技術、高分解能レーダ技術

 異なる種類の対人地雷や、異なる土壌条件での探知に対して容易に対応できるような地中レーダの開発が期待される。
 このため、数十GHzの高周波領域まで帯域を拡大(通常の配管等を探査するための商用地中レーダでは、高周波側の上限値は1GHz程度)した周波数可変型の地中レーダ技術の開発は有効な方法の一つと考えられる。また、埋設されている地雷の材質、形状がある程度特定されているような場合に、電磁波と地雷との共振現象に着目した固有共振周波数抽出法、地雷形状特有の反射波を捉えるためレーダポーラリメトリ(反射波の振幅だけではなく偏波方向を測定する手法)のような比較的新しい原理を活用するなど、高分解能の地中レーダ技術の開発可能性も追求するべきである。
 なお、近時、埋設される対戦車地雷は一般的に金属製であり対人地雷より深く埋設されるのに対し、対人地雷はプラスチック製で浅く埋設される等、両者では対象物としての特性が大きく異なることから、同時に両者を探知可能な地中レーダを開発することは効率的ではなく、むしろ金属探知機等とのセンサフュージョンによる複合センサ技術として、それぞれの地雷の特性に対応したセンサを開発することが適当である。

(A‐1‐1‐b)地中レーダ信号処理技術

 埋設されている地雷からの微弱な反射波を地表から反射波等のノイズから分離識別して確実に検知するための信号処理手法の研究開発が必要である。反射波形状に含まれる地雷固有の波形を抽出するためのパターン認識法、ニューラルネットワーク(神経回路網を模倣した情報処理機構)等の先端的な信号処理技術等の研究開発が期待される。
 こうした信号処理技術は、既存のシステムに組み込まれた信号処理技術とは求められる要件が大きく異なるため、事実上対人地雷探知のための新たな技術を開発することが必要である。この際、信号処理技術単独で研究開発を進めるのではなく、ハードウェア技術と一体と捉えて研究開発を進めることが効果的である。

 以上述べたような対人地雷の探知のための地中レーダ技術の研究開発については、欧米においても、我が国の大学、企業においても行われており、一部の技術については現地のNGO等からの評価も受けつつあるが、傑出した性能を有する装置は目下存在しないとみなされている。我が国は、前述のように商用の地中レーダについての技術力を有しているほか、関連する電子工学分野の技術水準も高いことから、本分野への取組みは効果的であると考えられる。

(A‐1‐2)比抵抗法

 比抵抗法(Electrical Resistivity Survey)は、地雷と土壌との電気伝導度の違いに着目したセンシング技術で、大地の比抵抗(電気伝導度の逆数を指す用語)を求め、地中の比抵抗異常体を発見する方法である。電気伝導度は金属(導電体)、プラスチック(絶縁体)、土壌(中間)とそれぞれ異なるため、金属、プラスチックともに探知することが可能な手法である。
 比抵抗法は、従来、鉱物等の資源探査や、遺跡の発掘等に利用されてきた物理探査手法であるが、対人地雷の探知への応用可能性について検討されている。特に、電極を地表面に接地しつつ、地雷原中を移動させながら電位を測定することにより、地雷原内部の土壌の比抵抗の二次元分布を測定する水平探査法などは、その簡便な原理のため、技術が実証された場合には、人道的地雷探知・除去の現場において広く活用されることが期待される。
 比抵抗法による対人地雷探知技術については、米軍(陸軍)における研究例があるようであるが、世界的に見ても十分な取組みは進められていない状況といえる。我が国では、大学レベルにおいてフィールド実験がなされており、プラスチック製地雷モデルの探知が可能であることを確認しているなど、他国と比べても研究開発の取組みは遅れていない。

(A‐1‐3)その他(赤外線センサ等)

 地雷と土壌との熱容量の違い(温度差)に着目したセンシング技術として、赤外線センサ等の活用可能性が考えられる。赤外線センサ技術については、産業技術分野で幅広く製品開発がなされており、我が国の研究開発水準は十分に高い。
 ただし、赤外線センサ自体はすでに成熟した技術であることに加え、地雷探知に応用することを考えた場合、外気温の条件によって探知の成功率が大きく左右されること(外気温の変化が激しい朝夕は探知が可能だが、日中は温度分布が一応になり探知困難)、地中深い部分は探知しにくいこと等の理由から、これを単独で研究開発を進めていくよりは、金属探知機、地中レーダ等とのセンサフュージョンによる複合センサ技術の開発を行っていくことが適当である。

 その他、数MHzの超音波を地面に向けて発信しその反射波を分析して地雷を探知するといった方法に関するアイディアも提案されているところである。しかし、超音波探査は、水中における探知(魚雷探知)、大きな地下空洞(遺跡の遺構など)の探知には有効であるが、土壌中の対人地雷を探知しようとすれば、土壌中の波の散乱等のために十分な精度が期待できない。また、超音波により地雷を振動させ、微弱な地表面振動を検知するという方法も提案されているが、現在のところ未知数である。以上のように、超音波を用いた手法については、単独での実用化を前提に研究開発を進めることは適切ではない。

(A‐2)地雷(火薬)自体の物性値に着目したセンシング技術

 特殊な高価なものを除き、地雷に含まれる爆発物は大半の場合、TNT(トリニトロトルエン)等のニトロ化合物である。このため、土壌中に存在するニトロ化合物ないし埋設された地雷から漏れ出す微量なニトロ化合物の蒸気等の化学物質を直接検知することにより、土壌等の環境条件に依存することなく、地雷の埋設位置を推定することが可能であると期待される。

(A‐2‐1)化学センサ

 TNT等の火薬物質中の特定の化学結合に固有な光吸収帯を用いてTNTの微量蒸気の存在を測定する「赤外分光法」、特定の波長のレーザーを照射することにより励起されたTNT分子からの放出エネルギーにより物質を加熱し、その物質の膨張による粗密波を音波として検知する「光音響分析法」等、TNT等の火薬の微量ガスを検出するための化学センサ(Chemical Vapor Sensor)について、様々な開発可能性が存在する。
 化学センサの開発動向は、地雷探知に携わるNGO等からも注目されているが、一方で、感度や装置の大きさの面などにより地雷探知用に利用されている技術はない。我が国においても地雷探知のためのまとまった試みは存在しないが、一般的にガスセンサの我が国の研究開発水準は低くなく、また、広く爆発物探知への応用が可能であり、テロ対策、警備用途での応用可能性も広いことから、中期的観点に立って研究開発を進めることは有効である。

(A‐2‐2)バイオセンサ

 TNTに抗体反応を起こすような(人工)生体膜を水晶振動子の上にコーティングすることにより、TNTの微量蒸気の存在を測定するといった、生体反応を活用したバイオセンサについて開発可能性が注目されている。スウェーデンにおいて先駆的な研究開発の実績があるほか、我が国でも大学レベルで研究が進められている。さらに、TNTへの強い嗅覚を有する動物(ネズミの一種)に関する研究がベルギー等で着手されている。従って、バイオセンサについては、応用可能性が広いこともあり、中期的観点に立って我が国においても取組みを検討すべき分野である。

(A‐2‐3)その他

 その他、米軍等においては、核磁気共鳴法(磁気四極法)(Nuclear Quadrupole Resonance)や中性子法による先進的センシング手法を地雷探知に活用するというアイディアが注目されている。

 核磁気共鳴法は、交流の磁界を地中に発信した際に、目的とする物質(対人地雷探知の場合は火薬として用いられているTNT(トリニトロトルエン)中の窒素14原子)が発生する特有の電磁波を検知する方法である。
 これは、土壌成分中の窒素とは異なる、TNT中の窒素固有の(量子的な)電磁特性に着目し、TNT中の窒素14原子を直接的に検知する手法であり、電気伝導度、誘電率等の物性値に関する土壌とプラスチックとの電磁特性の相対的な違い(土壌によってはこの違いは小さい場合がある)に着目した(A‐1‐1)(A‐1‐2)の手法と比べて、正確に対人地雷を探知できるという原理的な優位性を有する。
 しかしながら、この方法については、大型の装置による強磁場の発生が不可欠であり、人道目的での対人地雷の探知・除去活動の現場において、早期に実用レベルに到達することは困難であると考えられる。

 また、中性子照射による窒素の放射化による探知方法についても米軍等で研究されているところである。この方法も、土壌等の環境条件に依存せず、正確に対人地雷を探知できる潜在的可能性を有する手法であるが、大型の装置の必要性、中性子の取扱いの難しさ等から、人道目的での対人地雷の探知・除去活動の現場において、早期に実用レベルに到達することは困難であると考えられる。

(A‐3)センサフュージョン

 (A‐1)~(A‐2)に掲げた個々のセンシング技術については、それぞれ単独に用いるのではなく、同時に併用することにより、一層正確な探知が出来るようになることや、技術の組合せにより相対的に低コストでの開発を実現できることが期待される。
 例えば、対人地雷を探知するための地中レーダと、赤外線センサからの信号を同時に処理し、総合的に地雷を正確に探知する複合センサ技術の開発が期待される。
 こうした信号処理アルゴリズムのようなセンサフュージョン技術については、我が国の得意とする分野であり、他国に無い独自の貢献が期待できる。

(A‐4)マン・マシン・インタフェース技術

 対人地雷探知のためのセンシング技術全体にわたって重要となることとしては、地雷探知の現場でセンシング技術自体に十分な知識を有さない作業員が使っても確実に性能を発揮できること、及び、現地の過酷な環境の中でも作業員が容易に安定的に作業可能であるような設計となっていること、を挙げることができる。
 このため、新たなセンシング技術の開発に当たっては、複雑なセンサの設定を不要とする機能や、センシングした情報をオペレータに的確に伝える(音の強弱、探知物体の輪郭等)ための技術をはじめ、頑強性(ロバスト)、可搬性、メンテナンスの容易さなど、広い意味でのマン・マシン・インタフェースの開発を同時に行うことが不可欠である。

(A‐5)文部科学省として取り組むべき研究開発領域

 以上を踏まえ、文部科学省として今後取り組むべき研究開発領域を抽出すると次のとおりである。

(A‐5‐1)短期的研究開発領域(3年以内を目途に現地での実証試験を目指す領域)
  • 地雷と土壌の物性値の相対的な違いに着目し、レベル2(又はレベル3)サーベイにおいて対人地雷を確実に探知可能なセンシング技術の開発
(補足説明)

 レベル2(又はレベル3)サーベイにおいて対人地雷を確実に探知可能なセンシング手法としては、地中レーダ技術(A‐1‐1)の開発が重要である。具体的には、数GHzから数十GHzの高帯域に対応可能な周波数可変型のレーダや、固有共振周波数抽出法、レーダポーラメトリなど新たな原理を組み込んだ高分解能レーダ等の研究開発、パターン認識、ニューラルネットワーク等の先端的信号処理のためのアルゴリズムや技術の開発等を行うことが想定される。
 地中レーダ技術の開発に当たっては、地中レーダを金属探知機、赤外線センサ等と融合し、総体として高感度なセンシングを実現するセンサフュージョンのための研究開発(A‐3)や、現場の作業員が容易に複合センサを取り扱えるような優れたマン・マシン・インタフェースの開発(A‐4)を併せて実施することが望ましい。
 以上のセンシング技術の開発については、センサを地雷原に安全に持ち込むためのアクセス・制御技術の開発と連携して実施することが望ましい。さらに、短期的に技術実証のレベルに至ることが期待される技術であることから、産学官のポテンシャルを結集した戦略的、集中的な取組みが有効であると考えられる。
 また、地中レーダ以外のセンシング手法としては、原理が簡便であるという特徴を有する比抵抗法(A‐1‐2)の研究開発も想定されるところであるが、研究開発の実績の不足を踏まえれば、フィールドテスト等によりその有効性を確認した上で、開発の進め方を判断すべきである。

(A‐5‐2)中期的研究開発領域(5年以内を目途に現地での実証試験を目指す領域)
  • 地雷(火薬)自体の物性値に着目し、レベル2(又はレベル3)サーベイにおいて対人地雷を確実、簡易かつ迅速に探知可能なセンシング技術の開発
(補足説明)

 地雷と土壌の物性値の相対的な違いに着目するのではなく、地雷(火薬)自体の物性値に着目することにより、対人地雷を確実、簡易かつ迅速に探知可能なセンシング技術を開発することが中期的に求められる。具体的には、地雷犬が地雷の臭いを嗅ぎ分けるのと同様に、地上に漏れ出すTNTの微量な蒸気を化学的なガス分析や生体反応を利用して検知する化学法(A‐2‐1)、生物法(A‐2‐2)によるセンシング技術の開発に取り組むことが適当である。
 この分野は世界的にも取組みの事例が少ないことから、開発当初から単一の研究開発領域に絞り込むのではなく、複数のアイディアの中から、順次優れたアイディアに集約させていくといった方法も考えられる。
 また、(A‐2‐1)(A‐2‐2)に取り上げなかったセンシング技術についても、極めて有効な方法が存在することはあり得るため、新しいアイディアの目を潰さないような配慮が必要である。
 これらのセンシング技術については、センサ単独での研究開発が基本となるが、一定の成果が出た段階で、アクセス・制御技術の開発と連携、融合させていくことが適当である。

B.アクセス・制御技術

 地雷が埋設されている可能性のある場所(地雷原)に地雷を探知するためのセンサやマニピュレータを安全に持ち込み、効率的に探知作業を実施するためのアクセス・制御技術については、どのような地雷原で作業するか、どのような作業を行うか、遠隔制御か自律制御か、等の要因に伴い、様々な技術が必要となる。

(B‐1)アクセス機材に関する技術(ナビゲーション技術を含む)

 地雷原にアクセスするための機材として、現在最も多く実用化されているものは重機技術であり、その技術改良に関しては、地雷除去機材、潅木除去機材等として既に欧米各国において多数の開発事例があり、我が国においても民間企業による有効な取組みが行われてきた。こうした技術改良に対しては現場のニーズも高いところであるが、ここでは、開発要素の多い技術を取り上げることとする。

(B‐1‐1)無人小型車両技術(ハイブリッド方式等含む)
(B‐1‐1‐a)移動技術

 比較的平坦な地雷原に、センサやマニピュレータを安全かつ効率的に持ち込むためのアクセス技術として、最も簡易で速やかに実用化できる技術は、無人小型車両に関する技術であると考えられる。
 重機では対戦車地雷を触雷する可能性がある対戦車地雷・対人地雷混合埋設地帯にアクセスするためには、軽量な小型車両は有効な方法となりうる。また、重機よりも機動性が高いため、道路インフラが不十分な地域や、十分に整地されていないような地雷原へのアクセスも容易である。また、無人化して遠隔制御する際の操作も重機と比べて容易であり、コスト面でも重機と比べて安価となることが利点である。
 こうした無人小型車両に関する研究開発は、欧米においても行われており一部は地雷処理の現場においても利用されているが、重機と比べれば開発事例も少なく、また、我が国が得意とする車両技術、制御技術の水準の高さを十分に生かすことの出来る分野であるため、我が国独自の貢献という観点からも有効なアプローチとなりうる。
 無人小型車両技術としては、車輪による移動技術、クローラ(キャタピラ)による移動技術に関する研究開発が想定される。また、日本独自の技術提案としては、ワイヤ張架型ペアー車両技術なども注目される。これは、一対の車両間にワイヤを張りそれに地雷検査機器等をぶら下げて地表に非接触でアクセスしようとする技術で、地雷撤去作業のために実用性が高いのではないかと我が国で提案されているが、世界的にはほとんど開発事例が無い技術である。
 以上のような無人小型車両技術は、国として研究開発に取り組むことにより早期に技術実証レベルに到達することが期待される短期的研究開発領域として重要である。

(B‐1‐1‐b)制御技術

 (B‐1‐1‐a)の移動の制御のための技術が必要である。無人小型車両単独の移動の制御技術(ナビゲーション技術)については、操作者による遠隔制御が中心となる。
 これに加えて、複数の無人小型車両間で協調しながら作業を行うことができるような協調制御技術(ワイヤ張架型ペアー車両技術が典型例)やこれに必要な通信技術も重要な技術要素である。我が国においては、比較的早い時期から、大学や公的研究機関において協調制御に関する研究開発が進められており、世界的にも高い技術水準を有していると言える。
 以上のように、本制御技術については、我が国の得意な技術を活かすという意味からも、短期的に国として取り組むべき技術の一つであると言える。

(B‐1‐2)自律型歩行機械技術
(B‐1‐2‐a)移動技術

 (B‐1‐1)の無人小型車両技術よりも更に小型で機動性が高く、平坦ではない場所や植生のある場所、狭隘な場所等にも容易にアクセスできる技術として、歩行機械(ロボット)技術の可能性が考えられる。我が国のロボット技術の水準は世界的に見ても最高レベルであり、無人小型車両技術の次世代技術として我が国独自の技術的貢献を行うことが期待される技術である。
 また、平坦な場所においても、車輪、クローラ等の手段による移動を基本としつつ、地雷の回避のような限定された局面において補助的に歩行型移動機構のような離散的移動技術を併用できるような技術を開発することは有効であると考えられる。こうしたハイブリッド方式の移動技術については、我が国の独自性の高い技術であり、オリジナルな成果が期待される重要な分野である。
 この移動技術については、先端的で高度な研究開発を必要とするため、中期的に取り組むことが適切な技術である。

(B‐1‐2‐b)制御技術

 高度な歩行型の移動機構の制御については、その制御の複雑さを勘案すれば、遠隔制御によるのではなく、なるべく完全に自律的に制御可能なシステムを目指すことが適当である。自律制御技術については我が国も得意とする分野であり、研究開発を進めることにより完全自律型の歩行機械技術を生み出せば、防災等幅広いアプリケーション分野に応用されていくことが期待される。
 自律制御技術自体は、歩行型機械技術のみならず無人小型車両の制御技術としても当然活用できるものであり、このような波及効果を有する観点からも重要な技術であると言える。また、地雷回避作業等の特定の作業について自律制御とするような、遠隔制御/自律制御の融合によるスーパーバイザ制御等についても研究開発が求められるが、これは我が国としても高い技術水準を誇るところである。
 センサ情報に基づく自律制御の他にも、例えば、環境へのマーキング(地雷のマーキングと共用可能)を利用した自律制御などは有効性が期待される。即ち、地雷の位置を示すのみならず、移動車両の自律誘導のためのランドマークとしてマーカを設置し、移動のためのインフラとしてそれを利用することにより、確実にかつ正確に無人小型車両を自律移動させることが可能になる。マーキングには、塗料のみならず、データキャリア等の利用が有効である。我が国は、非接触タグ技術(自動改札等に利用されている技術)、無線LAN技術、携帯端末技術などに秀でており、これらを応用した新規な自律制御技術による効率的な100%地雷探知のための研究開発なども、我が国として取り組むべき中期的研究開発領域として挙げられる。

(B‐1‐3)超低空飛行体技術

 地雷原を上空からセンシングするための飛行体によるアクセス技術は、地上におけるアクセス技術と並んで重要な技術である。
 飛行体技術としては、人工衛星や航空機を用いて上空から地表面を広域にセンシングして、対戦車地雷等の金属体が密集した地雷原地帯を探知するという技術が、軍事技術の観点から従前より注目されてきた。しかしながら、人道的観点から対人地雷を探知・除去するという観点からは、こうした技術は有効ではない。即ち、人道的観点からの地雷除去活動においては、地雷原の大まかな位置は大まかに特定されており、むしろその地雷原地帯の内部において具体的に地雷がどこに埋設されているかを特定するためのいわゆるレベル2の探知作業が必要されていること、及び、高空からのセンシングでは対人地雷の探知は極めて困難なことに留意しなければならない。
 一方で、上空からのアクセス技術の中でも、上空数十cm~数mの超低空を正確に飛行可能な飛行体技術は、人道的観点からの対人地雷探知・除去活動において、レベル2の探知作業のためのアクセス技術の一つとして考えられる。このための技術としては、無人小型のヘリコプター技術、飛行船技術等が期待される。特に、無人遠隔操作や自律制御により正確に地雷原上の超低空を飛行するための飛行体制御技術(ナビゲーション技術)の開発が求められるところである。

(B‐2)マニピュレーション技術

 地雷センサを地雷埋設位置に近接させてセンシングするためにセンサを装着したマニピュレータとその制御技術が必要である。こうしたマニピュレータ技術は、地雷探知のみならず、地雷周辺の土砂の除去による地雷確認作業や、地雷除去作業等への適用も期待される技術である。また、マニピュレーション技術については、重機技術との組合せによってもその効果を発揮することが期待される。

(B‐2‐1)マニピュレータ技術

 マニピュレータを制御する技術とともにマニピュレータ自体に関する研究開発が重要である。
 マニピュレータは、センサを搭載して地雷の近傍に接近させるためのものをはじめとして、地表の障害物を除去するためのもの、センサが反応した周囲の土砂等を除去するためのもの、地雷をつかんで除去するためのもの等、様々な用途に応じた技術が想定される。また、これらの用途のうち複数を同時にこなすことのできる多目的なマニピュレータの開発も期待できる。
 操作性のよいマニピュレータの開発は、産業用ロボット技術等が応用可能な分野であり、メカトロニクス技術水準の高い我が国が取り組むのに適切な分野である。

(B‐2‐2)アクセス機材とマニピュレータの協調制御技術

 不整地な地表面を移動しながら任意の速度、姿勢をとるアクセス機材に搭載されたマニピュレータの先端を地雷探知のために利用できるよう、小型車両や重機等のアクセス機材の運動に合わせてマニピュレータの位置を制御するための協調制御技術の開発が必要である。

(B‐2‐3)マニピュレータ・センサヘッド制御技術

 センサを搭載したマニピュレータを地雷埋設位置に近接させてセンシングするには、マニピュレータ・センサヘッドの位置、速度、姿勢を正確に制御するための技術が不可欠である。
 この制御技術としては、作業者の介在を前提とする遠隔操作技術、センサからの情報に基づく自律制御技術の2つのアプローチに取り組むことが必要である。例えば、センサが反応するまでは完全自律制御によりマニピュレータの位置、速度を制御し、反応後は遠隔操作でセンサの位置、姿勢を多自由度で正確に制御するという制御手法の開発が考えられる。

(B‐2‐4)バイラテラル(双方向)制御

 特に、地雷探知後に土砂等を除去し、地雷の一部を露出させてその存在を確認する作業を、マニピュレータを用いて遠隔操作で行うことを目指す場合、地面にかかる圧力により地雷が誘爆することがないよう、力制御技術を適切に行う必要がある。このため、作業をしている部位の仮想現実感を伝える制御機構など、バイラテラル(双方向)制御技術の開発が重要となる。将来的には、地雷をつかんで除去する作業にマニピュレータ技術を応用する際に必要な技術であることからも重要な技術である。
 この制御技術は高度な技術であり、地雷処理の分野においては世界的にも取組みが少ない一方で、我が国が得意としている技術であることから我が国独自の貢献が期待できる分野である。

(B‐2‐5)マニピュレータ間協調制御

 複数のマニピュレータによる同時作業は、地雷探知作業の効率化のために重要であることから、マニピュレータ間の協調制御技術(協調制御用ソフトウェア技術、通信技術等)の開発が重要である。

(B‐3)マン・マシン・インタフェース技術

 マニピュレータ・センサヘッドを地表面に近づける際、植生などの障害物が存在する場合に、ビジョンセンサ(小型カメラ)からの画像情報を基に障害物回避作業を遠隔で効率的に実施するため、或いは、地雷探知後に土砂等を除去して地雷の一部を露出させてその存在を画像情報により効率的に確認するため、作業員が容易に視覚情報でマニピュレータ周囲の状況を確認できるようなマン・マシン・インタフェース技術が必要となる。
 ビジョンセンサとマニピュレータとの融合技術については、産業用機械等にも広く用いられている手法であり、我が国の産学官に高いポテンシャルが存在することから、地雷の探知・除去の観点から研究開発に取り組むことにより、我が国独自の貢献が期待できる。

(B‐4)システム・インテグレーション

 個別の研究開発要素について取り組むと同時に、地雷の探知・除去の具体的な作業に使えるような技術に仕上げていくためには、アクセス技術に関する技術、マニピュレーション技術及びセンシングに関する技術について、一つの技術として統合していくことが重要な仕事である。従って、こうしたシステム化技術についても一つの研究開発領域として捉えて、個別研究開発要素の進捗に合わせて研究開発を進めていくことが必要である。

(B‐5)文部科学省として取り組むべき研究開発領域

 以上を踏まえ、文部科学省として今後取り組むべき研究開発領域を抽出すると次のとおりである。

(B‐5‐1)短期的研究開発領域(3年以内を目途に現地での実証試験を目指す領域)
  • 比較的平坦な地雷原に安全かつ効率的にセンサ、マニピュレータ等を持ち込むための遠隔操作可能なアクセス機材の開発
  • 上記アクセス機材に装着するマニピュレータ及びその制御技術の開発
(補足説明)

 短期的には、比較的平坦な地雷原に安全かつ効率的にセンサ、マニピュレータ等を持ち込むための遠隔操作可能なアクセス機材の開発(B‐1‐1)が求められる。比較的平坦な場所を想定しているためアクセス機材には比較的単純な移動機構を備えていればよいものと考えられるため、車輪、クローラ(キャタピラ)による移動技術、ワイヤ張架型ペアー車両技術等が想定される。こうしたアクセス機材については、地雷原の地形等に応じて必要なスペックが異なるものと考えられるため、複数のタイプの技術を併行して開発することが適当である。
 上記のアクセス機材は、センサを装着したマニピュレータを装着し、地雷原の上から自由な位置、自由な角度で効率的にセンシングを実施することで機能を発揮するものである。このため、マニピュレータ自体やその制御技術(B‐2‐1)、アクセス機材とマニピュレータとの協調制御技術(B‐2‐2)についての研究開発を併せて実施することが適当である。(この技術については、例えば、重機とマニピュレータとの協調制御技術にも応用可能な技術であり適用範囲の広い技術である。)
 この際、センサとマニピュレータとの間の協調制御(B‐2‐3)の研究開発も併せて実施することが望ましい。この研究開発を実施する場合には、センシング技術の開発と連携して行うことが適当である。
 また、以上の研究開発の実施に当たっては、マン・マシン・インタフェース(B‐3)、システム・インテグレーション(B‐4)といった観点に留意して臨むことが求められる。

(B‐5‐2)中期的研究開発領域(5年以内を目途に現地での実証試験を目指す領域)
  • 多様な地形の地雷原に安全かつ効率的にセンサ、マニピュレータ等を持ち込むための高度なアクセス・制御技術の開発
  • 地雷の確認や除去の作業に利用可能なバイラテラル制御等の高度なマニピュレータ技術の開発
(補足説明)

 中期的には、多様な地形の地雷原に対応し、また、地雷の探知作業をさらに効率化していくことが求められる。このため、車輪・クローラと脚のハイブリッド方式を含む歩行機械などのアクセス機材の開発や、アクセス機材とマニピュレータの制御を完全に自律的に行わせるための自律制御技術(B‐1‐2)、非接地で地雷原にアクセスするための超低空飛行体技術(B‐1‐3)、同時並行による作業の効率的実施を可能とするアクセス機材間、マニピュレータ間の協調制御技術(B‐2‐5)のような高度なアクセス・制御技術の開発のうち実現性の高いものに取り組むことが必要である。また、これらの技術開発を実施する場合には、センシング技術の開発と連携して行うことが適当である。
 さらに、地雷探知のみではなく、地雷の確認や除去の作業についてもマニピュレータで行うことができれば極めて有意義であることから、外界からの力覚を考慮に入れた高度な制御技術であるバイラテラル制御(B‐2‐4)の開発に取り組むことも重要な領域の一つと考えられる。
 以上の研究開発の実施に当たっては、マン・マシン・インタフェース(B‐3)、システム・インテグレーション(B‐4)といった観点に留意して臨むことが求められる。
 これら中期的研究開発領域についても、技術的な見通しが得られれば、短期的な取組みに位置付け直すということも柔軟に行い、早期に実証レベルに到達することを目指すことが適当である。

3.現地状況の調査研究

 対人地雷の探知・除去技術に求められる技術的要件は、地雷が埋設されている地域の土壌の性質(土質、含水率等)、地形(地表面の粗さ、斜度等)、気候(温度変化、降水量等)、地雷埋設状況(埋設頻度、埋設深度等)、埋設地雷の種類(材質、形状等)等に依存するものである。従って、研究開発の実施に併せて、地雷被埋設地域の状況把握のための調査研究を行うことが必要である。

4.社会科学的観点からの取組み

 対人地雷の探知・除去技術については、研究開発を行うとともに、その技術のあり方、技術の及ぼす社会的影響等についても検討し、開発した技術が地雷被埋設国において適切に使われ、地雷被埋設国における住民の安全・安心の確保に効果的に役立つような方策を見出すことが重要となっている。即ち、研究開発のみならず、安全保障に関する技術として社会科学的観点からの検討等を同時に実施し、両者の連携を図ることにより、地雷被埋設国におけるガバナンスの再構築に資する新たな社会システムを提案していくという考え方が重要である。

5.科学技術・学術上の意義

 「2.各論」の「A.センシング技術」「B.アクセス・制御技術」において取り上げた研究開発領域については、対人地雷の探知・除去を目的として取り組むべきこのであることは当然であるが、同時に、この研究開発を行うことを通じ、科学技術・学術の観点からも重要な進展が図られることが期待される。
 ここで、このような科学技術・学術上の意義の一端についてとりまとめる。

(1)センサ技術

 本来、地雷探査は工学的・工業的には非破壊検査技術の範疇に入る技術である。従って、地雷探知技術の中から生まれた新技術は、非破壊検査技術にも十分に通用するものであり、多くの民生技術用途(例えば空港、ビル玄関でのSecurity checkや材料内の腐食チェック、その他など)にも適用可能となるため、この点からも積極的に取り組む意義がある。
 超電導SQUIDセンサや人工嗅覚(イオンセンサ、バイオセンサ)などの先端的センシング技術は革新的技術であり、実現すれば応用分野は広く、科学技術上の意義は高い。(但し、3年程度で直ちに成果を問うことは難しい技術である。)
 複合型センサの要素技術としては、最新のコンピュータ技術を駆使したディジタル信号処理技術、3Dパターンマッチングによる物性・形状認識技術、高速処理のためのパラメータ推定理論等、科学技術上意義深い点を内包していると言える。

(2)アクセス・制御技術

 アクセス技術については、車輪、脚、クローラ(キャタピラ)を組み合わせた全方向移動制御など、新しいトレンド、トピックスが多々有り、学術上の意義は大きい。また、レスキューや防災などの分野でも波及効果があり、国内でのニーズも極めて高い。
 センサを搭載したマニピュレータやアクセス用機材の制御技術においては、リアルタイム制御、地表面とのギャップ等に関する精密制御(外界認識制御)、危険回避のための知的制御(障害物回避歩行制御など)等、我が国の技術的優位性を最大限発揮できる先端的な制御技術の活用が期待されるものであり、科学技術の発展への寄与は大きい。
 マニピュレータ技術については、環境へ加えた力とそれからの反力を感じるバイラテラル制御を実現するものが求められる。こうした制御技術については未だ研究開発段階であるものの、遠隔手術等の広範な工学的活用が期待される。この分野について、日本の技術力は世界のトップクラスにあり、技術者の層も厚い。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

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