第2章 研究開発をとりまく状況

1.技術への期待

 人道的な観点からの地雷除去については、現在、現地の熟練作業員による手作業が中心となっているが、作業中の事故の発生も多いことが報告されている。地雷除去活動が、地雷被埋設国において雇用の場を提供しているという現実については直視しつつも、作業員の安全性という観点を考慮するならば、手作業を順次機械化していくための研究開発の取組みについては意義を有するものと考えられる。
 アフガニスタンやカンボジアで活動するNGOにおいても、地雷処理活動を安全かつ効率的に実施していくための技術が重要であることについて、共通の認識を有している。
 例えば、バンコクで3月上旬に開催された「東南アジア地雷対策協力・技術ワークショップ」における主たる話題の一つはセンサであった。関係者の間では、決定的な地雷探知センサが無いというのが最大の問題であると広く認識されていた。特に、タイ、カンボジア、ラオス、韓国など第一線で地雷除去をしている国の地雷対策機関の責任者の間でも、新しい地雷除去法や技術に対する期待が強かったことには注目すべきである。

(参考)東南アジア地雷対策協力・技術ワークショップの資料より抜粋

Future R&D Focus
- Detection will be most significant effort in FY02

  • Wide area detection
  • Improved handheld detection
  • Chemical vapor detection

2.研究開発の国際的動向

欧米の先行事例

 90年代以降、人道目的の地雷処理技術については、欧米各国においてローテクからハイテクまで相当程度の取組みがなされている。こうした技術については、現場に使われている技術もある一方、そうでない技術も多い。先行事例をよく学習しつつ、効率的・効果的に研究開発に取り組むことが重要である。
 ここで、本分野に関する欧米の先進国では、軍事的地雷除去と人道的地雷除去の区別が必ずしも明確ではなく、一体的に研究を推進しているという面がある点には留意すべきである。例えば、カナダ地雷対策技術センター (CCMAT: Canadian Center for Mine Action Technologies) は カナダ陸軍基地の中に対人地雷除去の研究センターを置いており、また、ベルギーの王立軍事アカデミーの地雷除去機材開発センターは、ブリュッセル大学と強い協力関係を保ちながら研究を進めている。これらは我が国の状況とは大きく異なる点である。

独自のアプローチの重視

 現在、地雷探知・除去のための技術のカタログとして発行されている、米国・国防省のHumanitarian Demining - Developmental Technologies 2000-2001と、GICHD(※)のMechanical Demining Equipment Catalogue 2002とを見比べてみると、内容は一見似ているようで異なる面がある。また、精力的に機材の開発を進めているカナダやECの方法論にも、米国とは異なる独自のアプローチが見られる。
 従って、我が国としても、他国の取組みを参考としつつも、地雷探知・除去の安全性・効率性の向上の観点から、日本発の新たな技術があり得ると考える。即ち、我が国が得意とする技術分野の先端科学技術を駆使しながら、1.独自の方法論の提案やそのコンセプトに基づく研究開発を推進すること、2.既存の技術に対して日本独自の改良を施して技術的な付加価値を加えること、といった取組みにより圧倒的に効率的な技術を創出するという方向であれば、我が国独自の有効な貢献策になるものと考えられる。

  • (※)ジュネーブ人道的地雷除去国際センター (Geneva International Center for Humanitarian Demining): 日本を含む世界23カ国の支援を得て設立された国際機関。国連地雷対策機関UNMASとの協力の下、地雷対策の手法、技術の向上のための研究、情報提供を行っている。1998年設立。

国際情報発信

 優れた技術を開発したとしても実際に使われなければ意味がない。例えば上述の2つのカタログには、日本製の機材(例:カンボジアで好評のブラッシュカッター等)は全く登録されていないのが現状である。日本製の技術が使われていくためには、上述のカタログに掲載されるような国際的な評価を得ることが必要である。GICHDのカタログに掲載されるためには、実績や性能評価結果等について公的に証明することが求められており、今後の研究開発においては、かかる技術情報の提供を積極的に行うことが必要と考えられる。

3.我が国におけるこれまでの開発動向

 我が国における対人地雷の探知・除去技術への取組みは、全般的には、欧米諸国と比べて立ち後れていると言わざるを得ないが、個々の取組みとして優れた技術を生み出している事例もある。

センサ

 金属探知器については、国内の企業による開発例はあるが、世界的には、オーストラリアのMine Lab社やオーストリアのShiebel社の機器が広く地雷除去の現場に普及しており、事実上の世界標準となっている。
 一方で、金属探知器と地中レーダの組合せによる複合センサ技術については、民間企業における取組み事例があり、その一部はカンボジアの地雷対策機関にも評価されるなど、世界レベルに到達していると言える。
 また、自衛隊の装備品等の研究開発を行っている防衛庁では、自衛隊の運用場面(激しい戦闘状況下)における効率性等を追求した地雷の探知を目標として、従来から磁気・電波一体型のセンサ技術を装備品に適用してきているほか、探知効率の大幅な向上を図るため、ニューラルネットワーク(神経回路網を模擬した情報処理機構)等の先端的な信号処理技術に関する研究を実施し、埋設地雷の探知に関して有効であることを実証している。

重機

 植生除去や地雷除去に用いることが可能な重機技術については、民間建機メーカーにおいて改造型重機の開発実績があり、カンボジア、アフガニスタン、ニカラグアへの納入実績も有するなど、世界の技術水準に達していると言える。
 また、地雷原処理ローラー等の地雷除去に関する技術については、防衛庁においても従来から研究開発が行われてきている。

その他

 その他我が国独自のアイディアで進められているものとしては、レーダセンサなどを搭載した地雷探知作業用のロボット技術や小型飛行船等の研究開発が行われている。米国、カナダ、ヨーロッパ等でも独自のアイディアと方法論で研究されているが、いずれも実証試験レベルまでは到達していない模様である。我が国のロボティクス、制御技術の水準の高さを考えれば、今後、研究開発を本格化することにより、世界の最先端レベルとなることは十分に可能と言える。

4.安全性・効率性とコストとの関係

 人道的観点からの地雷の探知・除去作業については、安全性、スピード、コストの3つの要素が重要であると言われている。これらはトレードオフの関係もあるため、正確には、
 (安全性)×(作業の効率性)×(稼働率)×(修繕性)×(搬送性)÷(コスト)
 の最大化を目指すという方向で検討していくことが重要である。
 コストが高くても安全で高効率であれば犠牲者を出さずに済むし、早期に地雷除去が行われれば、その場所が農業やその他の目的のために早期に利用可能となり、長期間での経済効果は大きいものと考えられる。従って、コストについては、単純に「機械のコスト」だけを議論するのではなく、人的被害の軽減や土地利用の観点も含めて考えるべきである。

5.地雷対策に係る国際的な基準との関係

 現在、地雷対策活動の分野においては、国連の地雷対策統括組織であるUNMAS(※1)がGICHDと協力しつつ策定しているIMAS(※2)が国際的な行動基準とみなされている。但し、現地の地雷対策関係者の間でも、国際的な基準とその国の事情にマッチした個別の基準との整合性については、様々な議論があり、必ずしも国際的な基準が地雷対策の現場における絶対的な基準と受け止められているわけではない。
 IMASのうち、技術実証・評価の進め方に関する基準(IMAS03.40)、探知・除去の手続きに関する基準(IMAS08.20, IMAS09.10)は比較的研究開発に関連する部分であり、留意することが必要。また、研究の進め方に関する基準(IMAS03.30)が現在策定途中(目下、ITEP(※3)の場において議論がなされている)であり、今後、フォローしていくことが必要。

  • (※1)国連地雷対策機関 (United Nations Mine Action Service):国連における地雷対策活動の統括組織。1997年設立。
  • (※2)国際地雷対策基準 (International Mine Action Standard):GICHDの協力の下、UNMASが策定した地雷対策活動上の行動基準。2001年改訂。
  • (※3)国際技術試験・評価プログラム International Test and Evaluation Programme):地雷探知・除去技術の実証・評価の共同実施、情報共有のための多国間枠組み。米, EC, 英, 蘭, スウェーデン, ベルギー, カナダにより2000年発足。事務局はEC直轄の研究所内に置かれている。

6.武器輸出三原則等との関係

 地雷の探知・除去のための機材は、武器に該当する場合もあり、その場合には武器輸出三原則等に基づき、我が国においては貿易管理上の規制が実施されている。
 しかし、優れた機械ほど海外に持ち出せないという状況があるとすれば、研究開発のインセンティブは生じない。人道的な対人地雷除去活動に必要なものについては、優れた技術を地雷被埋設国に提供できるよう、移転先国との早急な国際約束の締結への努力、対人地雷問題の重要性、緊急性に対する関係者の理解の増進等環境整備が不可欠である。

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