資金配分機構の国際的比較分析とその在り方

平成16年6月

平成14~15年度
科学技術政策提言
報告書要旨

研究代表者:平澤 泠(東京大学名誉教授)
中核機関:財団法人政策科学研究所

1. 研究目的

 資金配分機関、組織、制度の在り方は、NIS(national innovation system)を特徴づける重要な機構であり、その合理的設計と効率的運用体制の整備が必要である。我が国では、現在競争的資金への資源配分の強化が意図され、また平成16年度には国立大学や資金配分機関の独立法人化が予定され、さらには、産学連携等を促すイノベーション体制の改善も重要な課題であり、産学間に横たわる「死の谷」を越えるための資金配分制度の強化も必要とされている。
 本調査研究では、これらの動向を踏まえ資金配分機構に関する国内外の比較情報を収集整理し、資金配分機構の在り方についての示唆を得ることを目的に調査研究を実施した。

2. 研究内容

(1)資金配分機関、組織、制度に関する実態的調査

 資金配分に絡む実態をできるだけ詳細に把握するために、我が国を含む主要国(日、米、英、独、仏)の資金配分機関や組織に関する情報収集を、現地インタビュー調査、ウェブ調査、文献調査により行った。着目した点は以下のとおりである。

  • 国全体の科学技術政策システムの概要・特徴と研究開発資金全体の配分構造と資金フロー
  • 公的研究開発資金に関わる省庁、資金配分機関、資金受容機関の位置付けと相互関係、および資金量の全体像
  • 資金配分制度(プログラム)の概要と特徴、内部運用の実態、評価方法、新しい制度の形成メカニズム
  • 研究開発資金配分機関に対する機関評価の概要等

 また、特徴に着目して比較対象を行う国(スウェーデン、オランダ、カナダ、オーストラリア、スイス、EU、韓国、中国)については、それぞれの特徴に関する実態を調査した。

(2)資金配分機関、組織、制度の比較分析

 資金配分機構とその背景に関し得られた情報を比較分析し、その特色の把握を深め、我が国における資金配分制度設計上の知見や視点を得た。すなわち、資金配分機構が担うNISの国毎の特徴や課題を把握し、また他の機構との関係を合わせ分析することを通じて、機構全体の各要素の統合性や合理性の実態を明らかにした。さらに、資金配分機関が資金配分機能の他に併設すべき機能とその意義を分析した。分析のための主な視点は以下のとおりである。

  • 国家全体の科学技術政策システムの特徴と資金配分メカニズムとの関連
  • 資金配分機関の全体的なマネジメント
  • サイエンス・コミュニティのオートノミの確保の仕組み
  • 資金配分機関の資金配分機能以外の付加的機能
  • 資金配分機関、制度、配分対象の評価方法

(3)我が国の資金配分機関、組織、制度の在るべき姿と改善点

 比較機構論による分析を踏まえ、我が国の資金配分機構に関する見直しや制度設計、運用方法・体制についての示唆をまとめた。

3.研究成果

(1)資金配分機関、組織、制度に関する実態的調査

  • アメリカ:省と同格のNSF以外は内部組織ないし内部機関が資金配分を担当。しかしリサーチ・ポリシー・コミュニティによる自律的な運営が目立つ。
  • イギリス:目的別に資金配分機関が整備されている。資金量は省レベルの長期計画により規定されるが(トップダウン、中央集権型)、配分に関しては配分機関や担当組織の運営に委ねられ(UKモデル)、選別のための評価はピアないしエキスパートによる評定に依存する。
  • ドイツ:資金源が連邦政府と州政府に分かれ、連邦政府からの資金は対象研究機関別に整備された資金配分機関の他にプロジェクト・トレーガーと呼ばれる研究機関に付置された資金配分組織による独特の配分形式が発達している。研究実施レベルから見ると多数の資金源が存在している(分散型)。
  • フランス:資金配分機関(中間組織)は発達せず、省レベルから研究実施レベルまでが公施設として一体的に包摂されている(中央集権型)。しかし資金配分等の運営は研究組織内部から選出された代表者(ギャランター)が多数を占める委員会で決定される(ギャランター・モデル)。
  • スウェーデン:政策運営の視点から資金配分機関が再編され、イノベーション政策や成長政策のための資金配分機関が設定された。
  • オランダ:資金配分機関が最も発達し、機関同士の競争を通じた活性化が図られている。研究実施レベルから見ると多数の資金源が存在している(分散型)。
  • カナダ:従来型の資金配分機関の他に、時限で設立した目的限定的な資金配分機関が多数存在し、省が担う機能(政策形成)との分離が進んでいる。
  • オーストラリア:ARCのように独立性の高い基礎研究分野への資金配分機関、CRCのように産学研連携を目的とした独特な資金配分制度、農産物価格に比例した農家からの資金と連邦資金とを基金とする農業研究基金等工夫された制度が多い。
  • スイス:州の独自性が発達し連邦によるメカニズムと二重構造を成している。連邦大学と州立大学、連邦資金配分機関と州立資金配分機関、連邦研究機関と州立研究機関。
  • EU:内部組織で管理されるプログラムに基づく資金配分制度が最も整備されている。資金配分の効率化を目指す欧州全体の実験場でもある。
  • 韓国:各省に資金配分機関が置かれ、民間からの申請も含め、それぞれ一元的に評価される。
  • 中国:自然科学基金以外は省の内部組織が資金配分を担う。

(2)資金配分機関、組織、制度の比較分析

資金配分機構とその背景に関して得られた情報から比較分析を行った。

  • 強大なサイエンス・コミュニティが取り仕切る資金配分メカニズムからの脱却が長年の課題である欧州各国と、発達したリサーチ・ポリシー・コミュニティの自律的運営に対し楔を打ち込む試みが始まった米国とでは多少の違いがあるが、いずれも資金配分機構に納税者である国民的視点の導入を意図している点に共通性がある。
  • 資金の目的に合わせた多様な配分機構が考案されている。とりわけ意図的な仕掛け無しには進みにくいイノベーションの惹起に関心が向いている。
  • 基礎科学の研究分野に関してはサイエンス・コミュニティによる自律的な運営が行われている国(ドイツ、フランス、スウェーデン)がある一方で、制度設計や運営を資金配分機関の内部職員が担当し評価パネルのみに外部専門家が関与する国(イギリス、オランダ、オーストラリア、カナダ)がある。また、両方式が混在する国(アメリカ)もある。
  • PD、PO、PM等の権限、機能、責任、出身母体等もプログラムの目的に合わせ多様である。
  • 多くの国で資金配分機関の独立性が高く、例えばそもそも省と同格である場合(アメリカNSF)、省組織を通さず財政当局や議会との直接的な折衝により資金配分を受ける場合(イギリス、オーストラリア、カナダ)、配分内容に関して独自性が認められている場合(上記の他、オランダ、ドイツ、スウェーデン)等がある。
  • 政策の構造化(施策モジュール)や政策運営の概念化(政策装置)を通じ、プログラムの設計や運営の改善メカニズムが整備されている。特に欧州諸国の取組みが目覚しい。その動機は「欧州のパラドックス」からの脱却にある。
  • 多様な資金配分制度(プログラム)が考案されている。特にアメリカの資金配分制度に対抗するために、資金の使い勝手の良さに配慮した配分制度の改革に取り組んでいる。フルコスト・ファンディング(イギリス、スウェーデン、韓国、中国)や、チェアー・プログラム(オランダ、カナダ)がその例。
  • サイエンス・コミュニティの自律性に委ねていては進まない分野への資金配分メカニズムの開拓に注力している。パートナーシップ(アメリカ)、コラボレーション(欧州諸国)、インテグレーション(EU)を主題とすることによるイノベーション政策や学際的な新領域の開拓に意図的に取り組んでいる。

(3)我が国の競争的資金配分機関、組織、制度の在るべき姿と改善点

 比較機構論による分析を踏まえ、我が国の資金配分機構に関する組織見直しや制度設計、運用方法・体制についての含意について、関係者のヒアリング調査や中核機関内のプロジェクト・チームおよび推進委員会等での討議によりとりまとめた。得られた知見や問題点(改善点)としては、次のようなものがある。

  • 資金配分機関を一層発達させる。資金や資源の効果的・効率的運用を図るため、政策形成機能と執行機能を分離し、執行機能を資金配分機関ないし独立組織に移譲して、それぞれの専門性を高める契機とする。
  • 資金配分機関が中間組織であることから、独立行政法人に課せられた一律的な資金削減の対象からはずし、効率的なメカニズムにより多くの資金が配布されるように配慮する。
  • 資金配分機関の自律性を高め、資金配分機関としての専門性を磨きその定着を図る。
  • 資金配分の重点的目標(基礎科学やイノベーション)を整備し、資金配分機構全体をその目的に合わせて再編・整備する。シーズ型機構とニーズ型機構。自律的機構と計画的機構。
  • 資金の使用価値を高めるため、プログラムの効果や効率性に着目した設計や運営システムを学ぶ必要がある。使途のフルコスト化、事前評価の質的向上等。
  • 政策のプログラム化を図る。そもそも政策目的とそれに見合った手段とを組み合わせた政策のプログラム化が進んでいない。そのため、政策目的と展開手段が明示されず、また評価や見直しをプロジェクト個別に行わねばならず、そのコストとパフォーマンスの改善が進み難い。

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科学技術・学術政策局調査調整課科学技術振興調整費室

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