平成13年度科学技術振興調整費による研究実施課題等の評価結果について 2.各論(6)


(6)知的基盤整備

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創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究

(研究期間:第1期  平成11年~平成13年度)
研究代表者 南野直人(厚生労働省国立循環器病センター研究所)
研究課題の概要
生体内に存在する蛋白については欧米を中心にデータベース化が開始されているが、生体内のペプチドは取り扱いが困難等の理由により、データベース化が試みられていない。これらの状況に鑑み、本課題において、生体内のペプチド(分子量約900~1600を中心にして)を存在するままの形で取り出し、一次構造ではなくペプチドの諸性質(物性)により系統的に分類、構造決定し、生物活性、存在量、受容体、立体構造等の情報を総合的に収納したファクトデータベースを構築し、多様なニーズに応える利用価値の高いデータベースを構築することにより、ペプチドの知的情報基盤を確立するだけでなく、ゲノム情報を最大限に活用するという点においても重要な知的基盤の整備を行っていくものである。
(1) 総評
    全体として、研究は順調に進捗しており、知的基盤の整備に資する極めて優れた研究である。また、目標設定・研究体制も適切であると判断され、研究機関間の連携も十分になされており、総合的に考えると非常に優れた研究であるといえる。
  しかしながら、一部においては完全に中間の目標達成がなされていない課題もあり、2期における更なる研究推進を期待する。最終目標の達成のため、中核機関等の十分な支援体制を整え、今後、最重要となるペプチドの知的情報基盤の整備を進めていただきたい。
  従って、今後も研究を継続すべきであると評価される。
(2) 評価結果
1 生体内ペプチドの分離、精製、構造決定に関する研究
    生体内ペプチドをそのままの形で取り出し、分離する方法を確立、普遍化すること、並びに分子量、疎水性、電荷等の物性や構造、存在量、プロセシング、修飾等を系統的に解析し、ファクトデータベースとして構築することが本班の課せられた命題である。
  前者のペプチド抽出・分離方法は目標以上に進展し、方法論としては、ほぼ確立されていると考えられ、今後、世界に先駆け、デファクトスタンダードとなるよう、より一層の手法の洗練化と共に、情報発信を十分に行うことが肝要である。
  後者の物性情報等の入手方法もほぼ確立されていると考えられ、2期においても、この方向性で進むべきであると考えられる。
  ペプチド抽出材料として、原材料を多く得ることが出来るブタ脳を用いることにより、網羅的な解析を行っているが、研究班としても認識しているように、既存のゲノムデータベースや今後の応用展開を考慮に入れた場合、動物の選定についても、2期においてさらなる飛躍をするための、大きなキーポイントとなると考えられる。今までにない基盤整備を初めて行うということ自体大きな困難を伴うものであるが、今後の利用価値の点においても、ユーザーフレンドリーで汎用性なものになるよう、より一層の努力を期待する。
2 生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
    当班は生体内ペプチドの生物活性、受容体等を高感度に検索する方法の開発と共にデータベース構築に必要な情報の収集方法をも開発することを主眼においた研究班である。
  体系的検索方法としての高感度リガンド検索系や、培養細胞系とCa等の細胞内メッセンジャー等を組み合わせた生物活性測定系などの実用的なシステムが構築されており、十分な成果が上がっているものと考える。さらに、遺伝子配列からは推定できない修飾構造等も見つけており、方法の有効性を示すものであるといえる。
  今後の展開として、他班との連携の下、機能を持った新規活性ペプチドの発見も視野に入れた、体系的検索方法の確立と生物活性情報の収集を進め、最終目標のペプチドファクトデータベース構築に資する新規活性ペプチド検索法の研究開発を充実していくことも重要であると考える。
3 機能的データベース構築に関する研究
    1班、2班で得られたファクトデータを中心に、本研究の知的基盤整備制度としての最終出口となるペプチドデータベースを実際に運用していくことが出来るようインターフェイス等の開発を行うことが当班の主な目的である。
  1班、2班の進捗状況に影響されることから、現時点では文献データを対象とした研究も多いように考えられるが、ホームページの立ち上げと利用者サイドに基づくソフトウェアの開発など、徐々に成果が上がってきている。
  当班の研究により、直接的に、科学的重要性のある論文等を成果として創生することは容易ではないが、最終的な完成形としての知的情報基盤の重要性は誰しも認める点であり、本研究全体の要として、2期に向けて十分な措置が必要である。
(3) 2期にあたっての考え方
    中間地点における3年目に、最終目標までの距離を測り、方向性の可否を客観的に評価され、更に自己評価することは十分に意義があり、2期研究の加速を促すものである。当研究班の目的とするペプチドファクトデータベースの整備は、今後のポストゲノム時代の知的情報基盤として、必要不可欠であり、最終目標の達成が日本のライフサイエンスの世界的優位性の確立を支えるものであることは間違いないものであり、現在の方向性を堅持しつつ、展開性のある研究推進を行って欲しい。
  具体的には、昨今次々と解析され、データベースとして、日々アップデートされているゲノム情報が十分に利用できる、生物、組織等を用いることで、より利用価値の上がるデータベースが構築されるものであると考える。目標のその先を見越して、他のデータベースとのコラボレートが出来る資材の活用を期待すると同時に創薬及び生物機能を持つペプチド研究への基盤強化にも、力を注ぐことが望ましい。
  さらに、本研究班の方針として、最初にある程度の受け皿となりうる網羅的データベースの構築を進めることは、知的基盤整備制度の趣旨としても適ったものであると考えるが、ファクトデータの収集先として班内のみならず、世界からの研究者のデータを取り込むためにも、データベースの有用性を知らしめ、世界標準の方法・技術を構築することも十分考慮に入れ、研究を発展させるべきである。

体制移行図


 

-- 登録:平成21年以前 --