86.東海・東南海・南海地震の連動性評価研究(拡充)

平成21年度要求額:1,181百万円
(平成20年度予算額:495百万円)

●事業の概要等

1.事業概要

 本事業は、以下の(1)及び(2)のプロジェクトで構成される。

(1)東海・東南海・南海地震の連動性評価研究

 以下の2つのサブプロジェクトについて、有機的に連携を図りながら推進する。

1 東海・東南海・南海地震の連動性評価のための調査観測・研究

 東海・東南海・南海地震の想定震源域において、海底地震計約400台の稠密・広域展開による自然地震観測・地殻変動モニタリング等を行い、南海トラフ全域における精緻な地殻構造イメージングを行い、地下構造モデルを構築するとともに、固着すべり・連動の条件評価、シミュレーションの高度化等により、連動性評価モデル(地震発生予測モデル)の構築等を行う。
 平成21年度は、南海トラフでの調査観測(特に南海地震の想定震源域)や、地震計の長期観測化(チューニング)を本格化させるとともに、切迫度の高い日本海溝・千島海溝周辺における海底モニタリングについて、「日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震に関する調査研究」が平成20年度で終了することを踏まえて強化する。

2 連動を考慮した強震動・津波予測及び地震・津波被害予測研究

 東海・東南海・南海地震の連動に対応した防災・減災対策等の検討に必要な情報を提供するために、連動を考慮した強震動・津波予測、地震及び津波に関する広域被害予測、連動の際の復旧・復興に関する政策研究等を行い、東海・東南海・南海地震が連動して発生した際に被害が想定される地域における、人的被害削減戦略及び復旧・復興戦略を策定する。

(2)地震及び火山噴火発生の連動性評価研究

 富士山周辺における自然地震観測及び地殻構造調査を実施し、フィリピン海プレートと富士山マグマ溜りの位置及び状態を把握するとともに、歴史地震調査等により、富士山噴火履歴を解明し、東海・東南海・南海地震が発生した場合の富士山噴火シナリオを作成する。さらに、これらの調査結果を基にした数値シミュレーションにより、プレート周辺の応力場・ひずみ場を推定し、富士山のマグマ溜りから火道内までの噴火過程シミュレーションを実施する。

2.指標と目標

 効果把握のための指標には、事業の進捗状況を用いることとする。また、調査観測点数及び観測期間等については、活動実績として参考指標に用いる。
 達成年度までに、東海・東南海・南海地震の連動性評価研究サブプロジェクト1では、南海トラフ全域における精緻な地殻構造モデル及び連動を考慮した地震発生予測モデルを構築すること、サブプロジェクト2では、1の成果を踏まえて、地震の連動に対応した地域における防災・減災対策の検討に必要な情報を提供することを目標としている。また、地震及び火山噴火発生の連動性評価研究では、東海・東南海・南海地震発生時の富士山噴火シナリオの作成及び富士山噴火可能性評価の実施を目標としている。
 効果の把握手法としては、委託成果報告書等の内容を用いて、地震本部で策定した各種報告書の内容や、地震本部における議論等を踏まえた上で、事業の進捗を把握する。

●事業の事前評価結果

1.必要性の観点

 地震本部の新総合基本施策においては、これまでの10年の地震調査研究を省みた上で、「これまでに地震本部が実施してきた長期評価や現状評価は、例えば、東南海地震のみが発生した後に南海地震がどのように発生するかというような、地震の詳細な切迫度についての情報を提供できる水準に至っていない。特に、我が国の将来を見通したとき、国難となり得る東海・東南海・南海地震やそれらと前後して発生する可能性の高い地震を対象とした調査観測研究を強力に推進することは、最も重要な課題である。」とされており、基本理念に東海・東南海・南海地震に関する調査研究を推進することが、また、当面10年間取り組むべき基本目標に、海溝型地震の連動発生の可能性評価を含めた地震発生予測の精度向上が掲げられている。さらに、地震活動と火山活動は同じ海洋プレートの沈み込みに起因する自然現象であることから、地震現象を総合的に理解するためには、海溝型地震及び内陸地震の発生、マグマの生成・上昇等を統一的に理解する必要があるとされている。本事業は、平成21年度から開始する「地震及び火山噴火発生の連動性評価研究」も含めて、これらの趣旨に合致したものであることから、上述の事業開始に至る経緯も勘案した上で、その必要性は極めて高いと判断できる。また、本事業は、東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法、及び日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法において、地震観測施設等の整備に努めなければならないとされていることを踏まえたものである。
 なお、地震本部政策委員会や、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会防災分野の研究開発に関する委員会においても、本事業の評価を行い、必要性を確認する。

2.有効性の観点

 地震本部の設立以降、全国稠密な基盤観測網の整備、基礎研究の推進による知見の獲得、全国を概観した地震動予測地図の作成、緊急地震速報の開始等、多くの成果が上がっている。また、地震本部の方針の下、文部科学省が平成15年度からの5ヵ年計画で実施した「東南海・南海地震に関する調査研究」では、本事業開始の裏づけとなった東南海・南海地震の想定震源域境界における不整形構造の存在の確認や、地震サイクル毎の時間間隔や連動パターンを再現できる基礎技術の構築等の成果が上がっている。
 また、平成18年度からの4ヵ年計画で実施している「地震・津波観測監視システム」稼動後は、東南海地震の想定震源域においてリアルタイムに地震・津波データを得ることが可能となる。これに伴い、観測データが増大し、高精度な地震発生予測モデルの構築が可能となるとともに、データ同化技術によるシミュレーションの高度化も可能となる。
 このような我が国のこれまでの地震調査研究に関する研究開発の実績と経験、さらには他の事業の進捗状況等を考慮すると、得ようとする効果は確実に達成されるものと見込まれる。
 なお、地震本部政策委員会や、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会防災分野の研究開発に関する委員会においても、本事業の評価を行い、有効性を確認する。

3.効率性の観点

アウトプット

 南海トラフ全域にわたる精緻な地下構造や、富士山周辺の地下構造を明らかにするとともに、東海・東南海・南海地震の連動性を評価するために必要となる、高精度な地震発生予測モデルを構築する。また、3つの地震と連動した富士山の噴火シナリオや噴火シミュレーションを構築する。さらに、東海・東南海・南海地震発生予測モデルに基づき、連動を考慮した強震動と津波の発生予測、構造物被害予測を実施し、被害が想定される地域における人的被害削減戦略及び復旧・復興戦略を策定する。

事業スキームの効率性

 内閣府によると、東海・東南海・南海地震の同時発生による最大被害想定は、死者2万5千人、経済的被害81兆円との予測がなされており、また、富士山噴火による最大経済的被害は2.5兆円と推定されている。本事業のアウトプットは、地震防災対策の強化に大きく寄与し、上記のような地震・火山噴火による国民の生命・財産への甚大な被害を軽減する上で、その効果は計り知れない。このため、事業スキームの効率性は妥当であるといえる。

代替手段との比較

 本事業は、陸域及び海域の地震調査研究、火山研究、津波研究、シミュレーション研究、被害想定研究等を総合的に実施するものであり、各研究分野で最先端の技術や知見を持つ大学、独立行政法人、民間企業等の能力を結集させて、事業を進めていく必要があることから、独立行政法人の運営費交付金等による自主事業ではなく、国の委託費として、ポテンシャルの高い機関を公募選定した上で実施している。

-- 登録:平成21年以前 --