川村高等学校

高校3年生が国連開発計画(UNDP)を訪問

 このたび、「政治・経済」を受講している高校3年生が、持続可能な開発目標(SDGs)を含む国際問題についての理解を深めることを目的として、国連大学内にある国連開発計画(UNDP)を訪問し、近藤哲生UNDP駐日代表からお話を伺い、国連大学内の施設を見学するという校外授業が今回特別に実現したところ、その概要はつぎのとおりであった。

 日時:2019年6月18日(火曜日)午前11時05分より午前11時50分まで
 場所:国連大学・国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
 内容:
  ○近藤代表との質疑応答
  ○国連大学内ウ・タント国際会議場および国連大学ライブラリーの見学 

近藤代表との質疑応答の概要

(1)国際キャリアについて

【生徒】日本の国家公務員と国連の国際公務員を、両方経験されて、それぞれのちがいや良さを教えてください。
【近藤代表】もともと外務省職員として世界中を飛び回っていたが、2001年、ニューヨークの国連本部の窓から同時多発テロを間近で目撃した。その後も血で血を洗う「テロとの戦い」の中で、タリバンの攻撃により「子どもが20人死亡した」「女性の人権が抑圧されている」等の報告が毎日上がってきたが、ニューヨークでできることは安保理決議のみで、実際に現場で寄り添うことはできない、という思いがあった。まさに、「事件は会議室で起きているのではなく、現場で起きている」という思いの下、国連に移り、現場で苦しんでいる人に寄り添うことにした。
外務省での仕事は、あるアジェンダに対して今後どうするかを議論し決定することが中心だが、他方で、国連での仕事は、支援を必要とする現場の人々に寄り添うことができる、という違いがある。どちらも重要な仕事であり、良い経験となった。

【生徒】出身地や価値観も異なるスタッフが集まる多文化の環境で働く難しさなどはありましたか。
【近藤代表】多文化の職場では自分の常識が通用せず、自分で感じ取り、その場で対応を考えなければならない。たとえば、日本では、女子も普通に勉強しているが、途上国では勉強せず結婚、出産ということがあり、それが当然だとさえ思われている。
チャドでは、女性の立場が低く、女性も若いうちから働いている。しかし、アフリカの女子にも教育の機会が与えられれば、知識が倍になり、アフリカ経済も倍になる。そして、アフリカの国々の大統領もこうしたことに気付きはじめている。事実、ルワンダでは、「国会議員の半分以上は女性でないといけない」というルールが成立した。
「ジェンダーの平等」「女性のエンパワーメント」によって、アフリカの開発はさらに進んでいくだろう。

(2)UNDPの取組について

【生徒】UNDPの具体的な取組について教えてください。
【近藤代表】そもそも、国連誕生の背景には、第二次世界大戦でドイツ、イタリア、日本が負け、戦後、2度と戦争が起きないようにするための体制、すなわち、集団安全保障体制が成立したことがある。そして、集団安全保障体制が安定した1960年代に入ると、国連での議論の中心は「平和」から「開発」へと移っていき、そうした中で、1966年に誕生したのが、国連開発計画(UNDP)だった。
UNDP設立には、日本も資金を出しており、現在UNDP正規職員2,500人中85人が日本人である。ただ、資金は全体の10分の1を出しているので、職員も全体の10分の1にあたる250人はいてもいいのではないかとも思う。
UNDPの取組として、パンフレットには6つの活動(貧困の根絶、国家の仕組みの整備、災害・紛争への対応、環境保全、クリーンエネルギーの普及、ジェンダー平等)が紹介されているが、特に大事なのが、貧困の根絶である。そのために、雇用の創出や、正当な選挙で政治家を選ぶという民主的ガバナンスの構築に取り組んでいる。
また、環境問題も忘れてはならない。特に、アフリカで困ることとして、電気がないということがある。電気がなければ料理も作れないので、これも大きな問題である。
さらに、津波・地震・台風などの自然災害からの復興としては、普段からの備えを万全にし、レジリエンスを高めなければならない。その一環として、インドネシアなどアジア太平洋地域で行なっている津波避難訓練がある。そもそも、インドネシアなどでは、「津波は神の考えだから、逃げても無駄なので祈ろう」という意識があり、避難訓練をやっていなかったということに衝撃を受けた。そこで、津波避難訓練では、「逃げれば助かる」という意識改革から始めた。またバリ島には、地元民が普段は入れない高台の高級リゾート地があるが、ここを災害時は避難場所にしたいと頼むと、快く承諾してくれて、積極的に協力してくれた。こうしたいざという時の備えを、日本の指導の下で実践している。

(3)SDGsにおける開発と環境保全の両立について

【生徒】SDGsにおける開発と環境保全というのは、一見両立することが難しい問題だと思いますが、実際これらは両立可能なのでしょうか。また、SDGsの中で特にUNDPが力を入れている取組は何でしょうか。
【近藤代表】開発をすすめると、途上国は発展し豊かになるが、他方でエネルギーを使い、環境には悪影響を及ぼす。開発と環境のどちらが大事なのか、ということは企業も真剣に考え、悩んでいる問題である。そもそもSDGsは、これまで地球では気候変動により、種が絶滅してきたところ、次に絶滅する可能性が高い「人間」を第一に考えている世界全体の目標であると考えている。そのため、気候変動の問題、すなわちCO2の増加による温暖化→海面上昇→島の喪失など様々な影響を何とかしなければならない。そのための対策として、気候変動枠組条約に基づいて、CO2を排出してきた先進国間で資金を出し合い、植林(グリーニング)したり、CO2を出さない技術を開発したりしている。

取組の成果

 以下は生徒の感想であるが、このとおり、SDGsを含めた国際問題に対する理解と認識を深めることができた。

・外務省から国連に移り現場で仕事をしたいと考えるくらい、アメリカでの同時多発テロ事件とそれに伴う中東の動乱がいかに世界に多大な影響を与えたのか、ということがわかりました。私自身、もちろんそうしたテロに直面したことはないし、他国で起こっていてもどこか他人事のように思っていました。しかし、近藤代表の話を聞いて、このままではいけないと感じ、今後はニュースなどで取り上げられるアメリカとイランの緊張関係など国際関係の問題も、自分なりに考えながら見ていこうと思います。(F・Aさん)

・治外法権の場所など滅多にいけないところだろうし、ましてやUNDPに訪問できること自体、この先長い人生でもうないと思います。近藤代表のわかりやすく丁寧な説明のおかげで、遠い存在だと思っていた国連に興味を持つことができました。また環境問題についても、他人事だとは思わず、一人一人が自覚をもってCO2を減らす努力をしなければならないと思いました。私もよく家電や照明をつけっぱなしにしてしまうので、まずは省エネから取り組もうと思います。(N・Iさん)

・今は高校生なので海外でのボランティア活動への参加は難しいと思いますが、大学人や社会人になれば自由な時間が増えるので、実際に現場に行って、何かしらの活動ができればと思いました。(R・Oさん)

・今後は日常でもSDGsや世界で起こっている出来事に注意して、自分でやれることを精一杯やりたいと思います。そして、こうしたことが世界中に広まり、知っていて当たり前のことになれば良いなと思います。(M・Kさん)

・外務省とUNDPの問題解決に対する取り組み方の違いの話が印象的でした。また、SDGsについては大学受験でもよくきかれるともいわれていたので、実際にSDGsに携わっている方のお話を聞けて、大変良い経験となりました。SDGsはどの大学のどの学科にいっても、関わってくることになると思うので、これからも17の目標を意識して物事を考え、行動できるようになりたいです。(S・Kさん)

・SDGsが求める「豊かさ」は、科学技術など人間が便利だと感じるものだけでなく、植物や動物に対する豊かさであるのだと学ぶことができました。今回、UNDPを訪問するにあたり、初めて自分でUNDPやSDGsについて深く調べてみて、世界にはテレビや新聞でよく目にする問題以上に多くの問題がまだあり、それを解決していこうと各国が協力して取り組んでいることを知りました。また近藤代表からは、日本が震災の経験を生かして、避難訓練の指導を行っていることや、正規職員に占める日本人の数がまだまだ少ないことも知りました。私もこれから新聞を読むことと合わせて、自ら調べ、世界の問題に目を向け、その中での日本の取り組みについても注目し、より知識を深めていきたいです。(A・Tさん)

・日本に唯一本部を置く国連の機関で、さらに治外法権でもあるという話を聞いて、そんな場所がこんなに近くにあったのかと大変驚きました。また、UNDPやSDGsの活動、また世界の現状など色々なお話をお聞きして、これまでこうした話題は私たちの生活とは別世界の話だと思っていましたが、私たちも意識していかなければならない問題であることを自覚しました。そして、世界のために尽力されている人々の存在を改めて目の当たりにして、私も頑張らなくてはならないと刺激を受けました。(M・Sさん)

・近藤代表のお話をお聞きして、特に印象に残ったのが「女性の地位の低さ」であった。学校に行くことも許されず、さらには結婚を若いうちに強要されるという国もある中で、日本には私たちの学校のような女子だけの学校も存在し、非常に恵まれていると感じた。今回学んだことを踏まえて、日本という国の恵まれた環境に感謝しながら、将来の自分たちのためにも、世界の人々のためにも、今できる努力をしていこうと思います。(R・Nさん)

・私は将来、海外との関わりのある活動をしたいと思っていますが、そうした中で、今回、UNDPは人々のよりよい生活のために政策提言や技術支援を活発に行っていることを知り、大変感銘をうけました。また、UNDPの取り組みでは「人や国の不平等をなくす」という目標も気になりました。大学ではこういった内容も学んでいけたら良いなと思っていますが、今回の経験も必ず生かされていくものと思います。(R・Tさん)

今後の課題

・前述の生徒の感想にあるとおり、今回のUNDP訪問を通じて、SDGsをはじめとした国際問題の現状と課題を理解し、問題意識をもつことができたが、今後はこれらの問題を一人ひとりが主体的に考え、より実践的な取組として実現することが求められる。

・今回は、UNDPという国連の機関への訪問を通じての取組であったが、今後もこうした取組を継続し、特に、我が国の官公庁や、駐日外国公館、企業など、さまざまな機関を通じて多様な視点から国際問題を捉えることも必要だと考える。

            
写真:近藤UNDP代表との質疑応答の様子

     
写真:ウ・タント国際会議場の見学


写真:国連大学ライブラリーの見学
 

写真:国連大学のエントランスにて
 


写真:訪問を終え、国連大学を後にする生徒たち

お問合せ先

文部科学省国際統括官付