名古屋国際中学校・高等学校では、「世界と日本の未来を担う国際人の育成」を掲げ、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した取組を、学校設定科目、海外研修、課外学習の3つの側面で実践している。
本校では、社会・経済・環境を探究すべき視点とし、学校設定教科「サステイナビリティ」と、その学校設定科目として「SIA特論1・2」を高校2,3年次の選択科目として開講している。SIAとはSustainability in Action!の略称であり、SDGsの達成と関連する世界規模の社会課題とその解決策を高校生ならではの視点で見出すものである。アクティブ・ラーニング形式の主体的・対話的な学びを目指し、教科横断的な教材を開発している。これまでに、英語科、社会科、理科、保健体育科、技術科の教員が協働して教材作成にあたり、各教科の強みを融合させた授業を展開してきた。
SIA特論では、「多文化共生と減災」「経済活動と貧困」「社会生活と循環」を学習の3分野として設定している。分野の設定にあたっては、外国籍の教員や生徒が多く在籍しているという本校の特性や、災害に関わる地域性、地元で活躍するNGOとの連携など、本校を取り巻く地域性を踏まえ、授業においては、教科教員作成の教材に加えて、世界一大きな授業(教育協力NGOネットワーク)、国連広報センター及びJICA作成の教材・資料を積極的に活用している。SIA特論1(高校2年)では、上記の3分野について調査し、調べた内容を効果的に発表する手法を学び、SIA特論2(高校3年)では、SDGsに関わる社会課題から論題を各自で設定し、レポートや論文として自己の主張をまとめる学習を展開している。
本校では、前述の学習の3分野について国外の事例を学習し、更に理解を深めるべく、高校2年次に国際理解研修を行っている。
シドニー(オーストラリア)のマッコーリー大学において、3週間の多文化共生プログラムを受講する。プログラムでは、オーストラリアを構成する多様な人種、宗教、価値観を学習し、最終的に生徒各自で日豪を比較するテーマを設定して英語でプレゼンテーションを行う。多文化共生についての深い知識を得た後に後半の3週で現地の高校生活を体験する。
名古屋市にある認定NPO法人アイキャンと共同で作成した国際ボランティアプログラムであり、マニラ(フィリピン)において、廃棄物の中から金属を探して生計を立てる子どもたちや、路上で生活する子どもたちとの交流や宿泊行事を行い、現地の貧困と子どもたちの思いを理解する。併せて、JICAフィリピンや現地の日系企業の訪問等を通じて、様々な貧困解決への手法を考える機会を設定している。
マレーシア・シンガポール2カ国を訪問し、シンガポールに存在する水資源の問題について学習する。シンガポールは様々な理由によりマレーシアから水を輸入しているが、その課題の解決策の1つであるNEWater(新生水)の施設を訪問し、「日本の技術がどのように水資源の課題に貢献しているか」について学習する。
貧困を解消する手段の1つとしてのフェアトレードを学習した上で、地域のコーヒー店と連携した独自のフェアトレード商品を製作し、文化祭で販売している。販売後には校内アンケートを実施し、本活動を通じてフェアトレードへの理解がどのように推移したかを調べている。また、校外での活動も積極的に展開しており、毎年5月に名古屋市で行われる世界フェアトレード・デーのイベントにもボランティアとして参加している。本取組のまとめとして、「高校生によるSNSを活用したフェアトレード商品の促進活動について」というテーマで、SGH全国高校生フォーラムにて英語でポスター発表を行うなど、学外の場における成果発表を重視している。
サステイナブルスクールでもある本校では、中学課程を中心に環境学習を行っている。SDGsに基づき活動する有志グループSus‐Teen!(サスティーン)を結成し、名古屋市と連携した電力使用量の校内調査や、河川の保全活動を実施中である。Sus‐Teen! は、「Sustainable」と「Teenager」からなる造語である。持続可能な社会の実現のために、若者らしい発想で、これまでの学習と体験をもとに創造的な活動をしていく組織である。他県のサステイナブルスクールを訪問して活動成果の普及をしたり、ユネスコスクール交流会で発表したりするなど、積極的に外部への発信を試みている。
SIA特論2を履修している生徒を対象に行った授業アンケートでは、「SIA特論の履修により、社会課題について学べる進路選択を意識するようになった」という設問に対して、「とても当てはまる」が21.8%、「やや当てはまる」が50.0%「あまり当てはまらない」が21.8%、「当てはまらない」が6.4%という結果になり、高校生の進路について影響を与えていることがわかった。また、「SIA特論で実施したポスターセッション、プレゼンテーション、アクティブ・ラーニング等の手法が活かせる進路選択を意識するようになった」という設問においても、「とても当てはまる」が15.4%「やや当てはまる」が51.3%「あまり当てはまらない」が26.9%「当てはまらない」が6.4%という結果となった。本校においてSDGsやESDを授業に組み込んでいくことは、持続可能な開発を担う人材を育成することへと繋がっていくと考えている。
本活動を通じた生徒の変化として、校外で活躍する生徒が増えたということも挙げられる。SDGsやESDに積極的に関わりを持つ生徒は、各種大会やNPOが主催するイベント等へ積極的に参加するようになる。最近では、教員の手を離れて活動する生徒も増えてきている。
<2018年度における活動実績(一部)>
本活動を通じて成長するのは生徒だけではなく、指導内容の質を高めるべく、教員も様々な分野で活躍している。
<本取組に関わる教員の活動実績(一部)>
学校設定科目SIA特論では、担当教員が生徒の取組をルーブリック評価している。この評価方法について、その妥当性や適切な評価基準の確立が急務である。本校の系列大学においてアクティブ・ラーニングの教授法を専門とする教員に適宜助言を仰ぎながら進めていく予定である。
ESD実践を行う学校では、しばしば一部の教員による熱意で運営されることがある。本校ではESDの推進に理解のある教員が多く在籍している印象を持っているが、実務運営は一部の教員に偏りがちである。今後も様々な外部組織・機関と連携した有意義なプログラムを構築していく上で、各取組に対する教員の役割の明確化と体系化を行う必要があると考えている。
文部科学省国際統括官付